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今「ガレージブランド」が面白い!

 「モンクレール」が「アンドワンダー」とコラボするというニュースを聞いて、「そうきたか!」とうなった人は多いのではないでしょうか。「アンドワンダー」は「イッセイミヤケ」出身の山好きの2人が始めたブランド。今でこそ“デザイン×アウトドア”は業界の当たり前になっていますが(ちょうど今、ユニクロと「ホワイトマウンテニアリング」のコラボも話題になっていますね)、デビュー当時の「アンドワンダー」はまだまだ異色の存在感を放っていました。

 今アウトドア市場では、立ち上げ当時の「アンドワンダー」のような(現在の同ブランドはTSIホールディングス傘下です)、“デザイン×アウトドア”のインディペンデントなブランドが続々登場しています。これらは“ガレージブランド”とも呼ばれ、その勢いはファッションでいうところの1970〜80年代のマンションメーカーブームのよう。イベントなどでは長蛇の列もできるといい、正直驚きます。こうした“ガレージブランド”については今まさにリサーチと取材を進めているところですが、モノが飽和してなかなか新しい商品やブランドが生まれにくくなっている中でも、人が集まっているマーケットではちゃんと新しいモノが生まれ、求められているんですね。マーケティングに長けた「モンクレール」は、こういった市場の大きな流れを意識して「アンドワンダー」を指名したんじゃないかと私は推測しています。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

「アンドワンダー」がめざす次の頂 ロンドン出店やキャンプ場も構想

 アウトドアウエアのアンドワンダー(東京、中田浩史社長)が好調だ。2019年にTSIホールディングスの傘下に入って以降、売上高は公表していないものの、2倍の成長を遂げた。この間、TSIの経営資源を活用して直営店の出店を重ねるとともに、海外の卸先も広げてきた。アウトドアの機能性とモードのデザイン性が融合したウエアの評価は高く、伊モンクレール(MONCLER)の協業相手に選ばれるなど話題も豊富だ。デザイナーの池内啓太氏はまだ構想段階としながらも「近い将来、ロンドンに直営店を出したい」と話す。

「モンクレール」からのオファー

 「アンドワンダー(AND WANDER)」はイッセイミヤケのデザインチームで同僚だった池内氏と森美穂子氏が2011年に設立。共通の趣味である登山などのアウトドアスポーツに特化しながらも、高いデザイン性によって街着としても支持を集めてきた。

 TSI入り後、両氏はクリエイションに専念できる体制になり、販路拡大やEC(ネット通販)、生産、財務などの支援を受けることで、成長軌道にのった。直営店はもともと運営していた東京・元代々木町のほか、20年3月に名古屋のラシック、7月に渋谷のミヤシタパーク、10月に丸の内、21年3月に大阪・梅田のグランフロントへと出店を重ねた。欧米での卸売りのアカウント数は約100まで広がり、「コロナ下にもかかわらず、海外の売上高は倍増している」(中田社長)。

 そんな中で舞い込んだのが「モンクレール」との協業だった。コラボレーションプロジェクトの一つである「2モンクレール1952マン(2 MONCLER 1952 MAN)」のセルジオ・ザンボン(Sergio Zambon)氏から昨年夏に依頼を受けた。ザンボン氏は来日した際、売り場で見た「アンドワンダー」に関心を持ったという。欧州での卸先も広がり、ミラノなどの見本市にも積極的に参加していたため、現地の業界人の目に触れる機会も増えていた。

 協業商品についての打ち合わせはコロナ下のためオンラインやメールで行い、「モンクレール」のダウン、「アンドワンダー」の機能性とディテールへのこだわりなど、両者の特徴を掛け合わせたジャケットやバックパックなど10アイテムの協業商品が完成した。森氏は「こちらがリフレクターや止水ファスナーなど細かい部分の要望を出すと、それをさらに膨らませたアイデアが返ってきて、とても充実した仕事になった」と振り返る。協業商品は9月2日から世界で発売された。

 中田社長は「『モンクレール』との協業は特に海外での認知の追い風になった」と言い、欧州での直営店出店を視野に入れる。取扱店舗が最も多い英国が海外1号店の有力候補地になる。米国でも代理店を探す。

直営店は山小屋のような存在

 国内直営店が5店舗に増えたことで、消費者の声がたくさん届くようになった。サイズやフィット感への注文、何を重視して服を選んでいるか、山登りの初心者が何から買いそろえようとするか。卸売りでは見えにくい課題を知り、商品企画の精度アップにつなげる。現在はコロナで規模を縮小しているものの、顧客参加型の登山ツアーや移動販売車による出張販売を通じて、顧客とのコミュニケーションを増やしてきた。元代々木町の直営店はギャラリーを併設しており、アウトドア活動を通じて知り合ったアーティストやフォトグラファーの企画展を開くなど、山や自然の文化発信にも力を入れている。

 札幌や福岡など未進出の主要大都市の直営店出店も模索する。中田社長は「『アンドワンダー』にとって直営店は山小屋のような存在。自然にファンが集まる場であり、ブランドの発信の場として大都市には拠点を持ちたい」考えだ。

 ウエアだけでなく、キャンプ用品などのアイテムも増えているため、ブランドの世界観をトータルで表現する場も必要になってきた。池内氏は「10年前にブランドを作ったときから常に背伸びをしてやってきた。いずれは『アンドワンダー』のキャンプ場を作りたい」と構想を膨らます。

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NEWS 02

家族経営の伊ブティック「ルイーザヴィアローマ」が好調 CEOの“未来への投資”が富裕層に奏功

 イタリア発のファッションリテーラー「ルイーザヴィアローマ(LUISA VIA ROMA)」が好調だ。2020年のイタリアはコロナ禍でロックダウンを敢行したため店舗営業日数が半分だったが、20年度の年間売上高は前年比24%増の2億6000万ユーロ(約340億円)を達成。ECの売り上げが31%増という成長も後押しした。

 同店は1930年代に女性向けハットのブティックをフェレンツェで創業。その後ラグジュアリーブランドを取り扱うセレクトショップに転身し、1999年にECサイトをスタートした。大手ラグジュアリーECサイトとしては唯一、家族経営を継続している。現在は創業者の孫にあたる3代目のアンドレア・パンコネージ(Andrea Panconesi)=ルイーザヴィアローマ最高経営責任者(CEO)が経営理念を引き継いでいる。ラグジュアリーブランドから若手デザイナーズ、スポーツウエア、キッズウエア、香水やコスメなど計700ブランドを取り扱い、従業員は200人以上を抱える。

 企業として、環境保全や途上国の労働環境改善にも熱心に取り組んでいる。2018年からはユニセフ(国連児童基金)と共同でチャリティガライベントを年に1度開き、国際的なシンガーのパフォーマンスとサザビーズ(SOTHEBY’S)によるオークションで資金調達を行ってきた。7月31日にイタリア・カプリ島で開催された今年の同イベントでは、ケイティ・ペリー(Katy Perry)とジョン・レジェンド(John Legend)によるライブパフォーマンスに加え、オークションで1961年のフォーミュラ・ジュニア・レースカーが最高額となる約1億300万円で落札され、合計約6億5000万円の収益をユニセフに寄付した。

 競合ひしめくラグジュアリーEC市場の中で「顧客が納得する十分な透明性と未来への投資」が成長を続ける理由だとパンコネージCEOは語る。コロナ禍でのマーケットの変化や他社との差別化、ルイーザヴィアローマの今後について聞いた。

富裕層で増加する投資感覚の消費行動

——コロナ禍の昨年、売り上げや顧客にどのような変化が見られた?

アンドレア・パンコネージCEO(以下、パンコネージ):実店舗の営業停止は避けられなかったが、その分ECサイトの売り上げが急増した。ECサイトの売り上げ比率は全体の90%から、95%となった。さらに、長年アメリカを最大のマーケットにしていたが、昨年はイタリアでの売り上げがアメリカを上回り、全体の66%をイタリアが占めている。

——イタリアでの売り上げが伸長した要因は?

パンコネージ:実店舗の顧客がECサイトに流れたことと、ロックダウン時でも配送の懸念が少ない自国イタリアのECサイトを利用したこと。加えて、パンデミックという初めての経験は、日常の営みや消費行動について改めて考える機会となり、消費者は洋服がどこで作られていて、どんな企業が売っていて、その企業はどんな社会貢献をしているのかという背景にまで目を向けた。ラグジュアリー商品を購入するとき、物を消費するだけでなく、ブランドや企業に“投資する”という感覚で消費するようになったのだと考えている。特に、富裕層を中心に見られる傾向だ。

——“投資する”感覚とは具体的に?

パンコネージ:大手ラグジュアリーECサイトを見比べてみてほしい。セレクションやサービスは似たり寄ったりで大差はない。もちろん、どこで購入したって届くのは同じ製品だ。配送に関しては、アメリカでに届けるには他の大手よりも1日長く日数がかかるものの、「ルイーザヴィアローマ」を選んでくれる顧客がいる。その理由は、家族経営で独立した企業のオリジナリティーを尊重し、十分な透明性に納得しているからだろう。同じ金額を使うのであれば、サステナビリティやエシカル、社会貢献に取り組んでいる企業を選ぶ方が、地球と社会の未来への投資につながる。4年前に始めたユニセフのためのチャリティガライベントは、「ルイーザヴィアローマ」の企業理念を象徴するものとして大きな反響があった。

——チャリティガライベントを始めたきっかけは?

パンコネージ:アイデアが思いついたのは、娘と孫について話をしていたとき。いつだって子供というのは“未来”であり、次の時代を担っていく存在である。より良い社会を作っていくためには、世界中の子供に必要なケアを届けることが、地球の未来に投資することだと考えついた。これは家族経営だからこそ思いついた考えなのかもしれない。目先の利益ではなく、遠い未来を考えた。結果的には、ソーシャルグッドな取り組みが他大手との差別化を図るきっかけとなり、売り上げの数字にもつながった。ユニセフにも貢献できるため、契約を延長して当初の予定よりも長くイベントを継続している。私は常に、因果応報を信じている。善良な行いをすればそれだけの報いがあり、その信念がビジネスの基盤になっている。

——ECサイトのさらなる成長のための、今後のデジタル戦略は?

パンコネージ:ブランドとのコラボレーションや独自のコンテンツ作りはこれまで通り継続する。特にコンテンツに関しては、ラグジュアリー製品の工芸から文化的要素、歴史にまで触れて、顧客に学びを提供することを大切にしている。私にとってラグジュアリーとは“教養”を意味する。ラグジュアリー製品についての理解を深め、品格を養えるようなコンテンツを発信していきたい。

——今後実店舗はどのような役割を果たす?

パンコネージ:ECが成長しているとはいえ、人々が集い、コミュニティを意識できる実店舗の必要性は高い。パンデミックを通して、多くの人がリアルな体験こそ最も高い価値があると実感したように、実店舗での体験を提供することは企業として欠かせない。そのため、フィレンツェ郊外にカルチャーハブとなるような新店舗をオープンする予定だ。コンセプトストアとしての立ち位置ではなく、アートや音楽といったカルチャーも体験できるスペースとなる。フィレンツェはルネサンス期に最も栄えた都市で、時代の文明を築いた。最先端のカルチャーを発信するだけでなく、この地の歴史と文化に触れて、顧客やローカルの人々の学びとなるような実店舗にしたいと思っている。フィレンツェの姉妹都市である京都には、教養を身に付けられる素晴らしいショップや施設がたくさんあり、インスピレーションを受けた。近日中にオープン予定の新店舗に日本からの渡航者を迎え入れて、フィレンツェやラグジュアリーについて学んでもらいたい。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。