ファッション

中京地区最強モール「mozoワンダーシティ」が館直結のECモールを作ったワケ

 中京エリア随一の巨大ショッピングモールである「mozoワンダーシティ」は8月15日から、館内の商品を販売するネット通販サイト「モゾプラス(mozoPLUS)」をスタートする。大型ショッピングモール「ららぽーと」などを運営する三井不動産の「アンドモール」、ファッションビル「ルミネ」を運営するルミネの「アイルミネ」を筆頭に、大型ショッピングモールやファッションビルが運営するネット通販サイトは少なくないが、「モゾプラス」が出色なのは完全に館内商品販売に特化していることだ。

 「mozoワンダーシティ」は、総合商社である三菱商事(51%)と金融大手のUBSの合弁会社である三菱商事UBSリアルティが所有・運用している。同社は日本最大級の総合型REIT(不動産投資信託)である日本都市ファンド投資法人の資産運用会社であり、都市を中心に約100カ所の商業施設を手掛ける、日本では異色のデベロッパーだ。日本初の本格的なリアル店舗連動型のネット通販オールはどのようにして生まれたのか。ショッピングモールの今後をどう見るのか。同社の商業施設運用部門を率いる大島英樹・三菱商事UBSリアルティ都市事業本部 運用一部長に聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):緊急事態宣言など、コロナ禍で、規模の大小にかかわらず、商業施設は厳しい運営を迫られた。

大島英樹(以下、大島):当社は、表参道のジャイル、キュートキューブ原宿など全国の都市部を中心に約100の商業施設の運用を手掛けていると同時に、海外投資家を中心に構成される資産の運用会社で、全国の都市部を中心に約100の商業施設を保有・運用している。われわれの投資家、特に海外投資家が注目しているのは、コロナ禍よりも大型モールを取り巻く厳しい環境だ。米国ではネット通販の台頭などで、多くのテナントが退去した“デッドモール”の存在がクローズアップされるなど、小売りセクターに対してややアゲンストな状況が続いている。ただ、日本の場合は状況は大きく異なる、というのがわれわれの見方であり、投資家には日本のモールは公共交通機関から比較的アクセスがいいこと、入館者数などはそこまで減っていないことなどを丁寧に説明してきた。

WWD:ECの急成長による、SCへの影響は日米にかかわらず共通の課題だ。

大島:その通りだ。商業施設の運用に携わる当社にとって、この数年、ECにどう対抗するのかは大きな課題だった。コロナ禍に突入し休業を余儀なくされる中ではあったが、行き着いた結論の一つが、ECに対抗するのではなく、共存・共栄を図ることだった。

WWD:「モゾプラス」の導入の背景は?

大島:名古屋地区及び中京地区にはこの数年で「ららぽーと」を筆頭に相次いで競合となる大型モールが開業してきたが、2009年に開業した「mozo」はコロナ禍に見舞われる前の2019年まではずっと前年を超える売上高を記録しており、実際には影響はかなり限定的だった。継続的なリニューアルなどで得てきた約20万人の会員基盤は強固で、現在でも中京地区屈指の大型モールであることは間違いない。

大島:開業10周年を迎える前の2018年ごろから、「mozo」の今後10年について徹底的に議論してきた。最大の危機感の一つは、“茹でガエル”になることであり、そこで直面したことの一つがECとの共存だった。そうした前提があったことがコロナ禍でのECの導入スピードをアップさせた。「モゾプラス」は、スタートアップ企業のハブ&スポーク、ECモール「ショップリスト」を運営するクルーズ傘下のクルーズECパートナーズ、不動産コンサルティングのトリニティーズとの共同プロジェクトで、昨年8月ごろから本格的な導入検討を始めた。構想段階から決めていたのは、オンラインのプラットフォームを、リアルな売り場の活性化に活用しつつ、「mozo」の顧客との接点を強化すること。それが「モゾプラス」の最大の特徴であるテナントの店頭在庫を活用するという結論につながった。

WWD:大型モールのECなのに、スタートアップ企業との協働は意外だった。

大島:それこそがわれわれの強みとも言える。100の施設を保有しているが、チェーン展開をしているわけではないから、導入に関してもまずは単館での導入が可能だ。スタートアップ企業と組んだ理由もそこにある。柔軟にこちらがわの要望を汲み取ってもらえるし、導入のスピードも早い。店舗在庫を活用する上で、最も重要なのは現場のオペレーション、つまりはテナントの販売スタッフの負担をできるだけ軽減することだが、実際のオペレーションに関しても細部に渡ってもきめ細かく設計できた。

WWD:ポストコロナの商業施設運営をどう見る?

大島:実はそれほど悲観してはいない。数年前から都市型、かつ小売業のボーダレス化をキーワードに資産ポートフォリオの入れ替えを進めてきた。小売業のボーダレス化とはすなわち、複合型の商業施設開発だ。商業施設だけでなく、ホテルやオフィスの単独運用を進めつつ、さらにはそれらを併設した複合商業施設の開発にも進出している。コロナ禍の中でも、インバウンドが強いエリアは厳しいものの、国内旅行需要のあるエリアでは少しずつ客足も戻っており、表参道や原宿、渋谷といった都心部のリースアップ(引き渡し)は比較的順調に進んでいる。当社の場合、資金力には余裕があり、むしろ攻め時とも考えている。

大島:「モゾプラス」を筆頭に、保有施設でカメラやAIなどを駆使した最新のツールやテクノロジーの試験導入も行っており、リテールテックという意味でも蓄積が進みつつある。こうした面でも大小様々で、かつバリエーション豊富な施設を保有するわれわれの強みも生きる。購買行動やデータを連携させるなどエリア単位でつなげるところはつなげ、逆に最新テクノロジーを商業施設の規模や性格に応じて導入する、といったことを今は行っている。標準型のリテールテックが登場するのはもうしばらくかかるかもしれないが、“リテール”の進化については一定の成果も見えてきたし、方向性も定まってきた。その意味で、今はある種の好機だと考えている。

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