「ニューバランス(NEW BALANCE)」が今年発表したライフスタイルの新モデル“327”が早くも話題を集めている。パリで注目を集める気鋭メンズブランド「カサブランカ(CASABLANCA)」とのコラボレーションモデルで、4月に初披露すると発売日当日に即完売。さらに5月に販売したインラインも瞬く間に売り切れるなど、予想以上のヒットとなっている。今後も新色やコラボレーション、サステナビリティを盛り込んだ無染色モデルも登場し、ますます勢いに乗る“327”。その魅力を歴史、デザイン、スタイルの3つのポイントから探る。
ヒットの理由1
3モデルの歴史が随所に息づく
“327”のデザインには、「ニューバランス」が1970年代に発表した3つのモデル“320”“355”“スーパーコンプ(SUPER COMP)”のレガシーが込められている。爪先やかかと部分の巻き上がったソールをはじめ、ビッグサイズの“Nロゴ”などのデザインが目を引くものの、キャッチーさの背景には数々の歴史を刻んできた名作へのオマージュが捧げられている。新時代を切り開く“327”を語るうえで欠かせない、3つのランニングシューズを振り返る。
“320”は「ニューバランス」のシグネチャーである“Nロゴ”を最初に採用した76年発売のモデルだ。発売された同年にはアメリカのランナー向け情報誌「ランナーズワールド(RUNNER’S WORLD)」で1位に選ばれ、最先端のシューズとして評価された。ヒール部分の安定性に加え、前足部の優れたクッション性や女性専用の靴型を初めて採用するなど、ランニング界でのブランドの存在感を飛躍的に高めた一足だ。爪先部分のディテールや“Nロゴ”を際立たせたデザインが“327”に受け継がれているのが分かる。
“355”は77年に発売したトレイルランニングのファーストモデル。“327”でも採用されているハードなアウトソールをかかとまで巻き上げたデザインで、トラック以外のタフな道でも走れる高いグリップ力を実現させた。また耐摩耗性にも優れており、「ニューバランス」の元祖オフロードシューズとして語り継がれている。
ロードレース用として77年に発売したレーシングシューズが“スーパー コンプ”だ。軽さにこだわりながらもクッション性やグリップ力は優れており、ブランドを代表するモデルとして今なお愛されている。高い機能性に加え、個性的なソールの構造や鮮やかな色使いがさまざまなランナーを魅了し、“327”にもそのDNAは受け継がれている。
次世代デザイナーの軽やかなセンス
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3つの名作ランシューズを巧みなセンスで“327”へと生まれ変わらせたのには、英国人フットウエアデザイナーのシャーロット・リー(Charlotte Lee)の貢献が大きい。彼女は老舗シューズメーカーでの勤務を経て、2014年から「ニューバランス」のフットウエアデザインチームに加わるなどシューズ一筋の人。アーカイブに最大限の敬意を払いながら、大胆ながら軽やかなアップデートのセンスによって“327”が誕生した。完成に至るまでの苦労や、独特なデザインへのこだわりを、本人に聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):新鮮なデザインの“327”で「ニューバランス」らしさを表現したポイントは?
シャーロット・リー(以下、リー):大きく3つあって、大きな“Nロゴ”、牙のような爪先、アウトソールのパターンです。“327”で特にこだわったのは、新鮮で分かりやすいデザインでした。そのため「ニューバランス」の膨大なアーカイブの中から1970年代のランニングシューズに着想し、現代の美しいデザイン要素を加えることで“327”は誕生しました。確かに新鮮な見た目ではありますが、核となる3つのデザインディテールはアーカイブを継承したものなので、とても「ニューバランス」らしいとも言えます。
WWD: “327”で最大の挑戦だったアイデアは?
リー: “327”は愛され続けたヘリテージモデルにインスパイアされたデザインなので、古くからのファンから「オリジナルを台なしにされた」という声が届くことも覚悟していたんです。でも実際にはそんなことはなく、ポジティブに受け入れてもらえました。過去に歴史に新しさを加えることで、結果的にアーカイブが再び脚光を浴びることになりました。
WWD:大きな“Nロゴ”の意図は?
リー:大きくして足元に注目を集めることで、ブランディングの新しい手法に挑みたかったという背景があります。“Nロゴ”は1976年に発表された“320”で初めて登場し、その後は「ニューバランス」のアイコンになりました。その象徴である“N”を私なりに今の時代に合わせて解釈しました。
WWD:さまざまなシューズを手掛けているが、ほかに比べて苦労した点は?
リー:最初にコラボレーションした「カサブランカ」から、2020年1月に開く20-21年秋冬コレクションのランウエイショーで使用したいとリクエストがあったので、製作期間はタイトでしたね。でも、“327”自体が完成するまでの期間はほかのモデルとほぼ同じでした。ただ製作期間をあらためて振り返ると18年12月に初めてデザインに取り掛かっていたことが分かり、夢中になっているうちに相当な時間が経っていたのだなと自分でも驚いています(笑)。
WWD:シューズをデザインするうえで大切にしていることは?
リー:「ニューバランス」のような歴史あるブランドのデザイナーは、過去の成果やその背景を十分理解する必要があります。それと同時に、さらに進化させる方法を考えなければなりません。豊かな財産が身の回りにあるので、出発点は身近な貴重なアーカイブです。これは決して制約があるという意味ではありません。新しいモデルをデザインするには、ブランドやアーカイブのルーツを理解して関連づけることが重要です。しかしそれよりも大切なのが、既存モデルをはるかに超える美しさをつくり出すという意志なのです。
あらゆるスタイルに
フィットする汎用性
独特のフォルムと大きな“Nロゴ”、豊富なカラーリングでさまざまなファッションスタイルになじむ“327”は、その汎用性の高さから、ファッション・カルチャー業界ですでに多くのファンを獲得している。ここでは、感度の高い着こなしが人気の6人が、“327”を用いたオリジナルコーディネートを披露。エッジの効いたハイエンドな着こなしから、Tシャツにデニムといったカジュアルな装いまで、六人六様のスタイルをコメント付きで紹介する。
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三好良/「1LDK」ディレクター
ウチの女性スタッフが履いていて「かわいいな」と思い、ずっと注目していました。大きな“Nロゴ”がアクセントになったキャッチーなデザインが好みですね。このカラーはブルーとイエローのカラーがレトロなランニングシューズを思わせるので、スエットパンツを合わせてクラシックなスポーツムードを押し出しました。カチッとした服装の外しとしても重宝しそうです。
haru./「ハイアーマガジン(HIGH(er)magazine)」編集長、アーティスト
「ニューバランス」はポテッとしたかわいいフォルムが多いですが、“327”はソールの形が独特でほかにない存在感があります。履き心地もいいから、いろんなシーンで着用できそうです。オレンジと黄色は昔から大好きな組み合わせ。Tシャツにジーンズといういつものスタイルも、いっそうアクティブに見せてくれます。
アリサ/「アント(ANT)」ディレクター
きちんと感のあるブラックのセットアップスーツに“327”を合わせてカジュアルダウンさせました。淡いブルーのカラーリングも、モノトーンのコーディネートに軽やかさを加えています。カジュアルにもシックな装いにも合わせられるデザイン性の高さはもちろん、厚いソールでスタイルアップできるのもうれしいですね。
高島涼/ファッションディレクター
今までの「ニューバランス」にはなかった新鮮なデザインに惹かれました。レトロな雰囲気と大きい“Nロゴ”、ボリュームあるミッドソールなど、モダンな要素が組み込まれた素敵な一足です。個人的にはクラシックなセットアップやワントーンコーデのハズしとして合わせるのが好み。ほかにも、さまざまなテイストとシーンにハマるのでかなり愛用しています。
正田啓介/THE BLUE BOY代表取締役、アーティスト
「カサブランカ」とのコラボモデルを愛用しています。普段から多くの色は取り入れず、だいたい3色くらいでまとめているので、アイテムによっては寂しく見えてしまうことも。そんなときこそこのモデルの出番。グリーンのスエードと白いレザーのコンビネーションが着こなしのいいアクセントになってくれます。この日もオーバーサイズのシャツにチノパンを合わせたシンプルな着こなしを、“327“が今っぽく仕上げてくれました。
小木“POGGY”基史/ファッションキュレーター
“327”はクラシックさを保ちながら、現代的なデザインを併せ持っているところが好きです。今回はネイビーブレザーに「リーバイス(LEVI'S)」“501”というトラッドなアイテムのスタイリングですが、実はジーンズにはアーティストの空山基さんによるカスタマイズが施されているなど、今っぽいヒネリも加わっています。そんなコーディネートにこそ“327”がよく合うと思うんです。
ニューバランス ジャパンお客様相談室
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