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西川美和 × 小八重葵美 「子供がギリギリ観られる戦争映画を作りたかった」 映画「わたしの知らない子どもたち」インタビュー

PROFILE: 左:小八重葵美/俳優 右:西川美和/映画監督

PROFILE: 右:(にしかわ・みわ)1974年、広島県出身。早稲田大学第一文学部卒。2002年に平凡な一家の転覆劇を描いた「蛇イチゴ」でオリジナル脚本・監督デビュー。06年、対照的な性格の兄弟の関係性の反転を描いた長編第2作「ゆれる」を発表し、第59回カンヌ国際映画祭監督週間に出品。09年に「ディア・ドクター」、12年に「夢売るふたり」を発表。15年、小説「永い言い訳」を上梓後、16年、映画「永い言い訳」を発表。21年、「すばらしき世界」が、シカゴ国際映画祭外国語映画部門観客賞、第76回毎日映画コンクール日本映画優秀賞ほか。本作の原案小説「わたしの知らない子どもたち」を8月に上梓。 左:(こやえ・あみ)2013年5月28日生まれ、千葉県出身。25年公開の映画「#真相をお話しします」(監督:豊島圭介)で俳優デビュー。重要な役どころである凛子役を演じ注目を集め、 同年、短編映画「Happy End of the World」(監督:千原徹也)に出演。「わたしの知らない子どもたち」でキャリア初となる主演に抜擢された。

10月16日に公開された映画「わたしの知らない子どもたち」は戦争で親を失った子供たちの物語だ。第二次世界大戦の終戦後、疎開先から東京に帰ってきた12歳の少女、琴子(小八重葵美)は両親や兄を失い焼け跡をさまよううちに、戦災孤児のグループと共同生活を送るようになる。身を守るために髪を切って少年として生きる琴子。一方、かつて琴子の担任の教師だったの曽根(二階堂ふみ)は、生まれたばかりの子供を育てながら琴子の行方を捜す。本作の監督を務めたのは「ディア・ドクター」「すばらしき世界」の西川美和。子供とシングルマザーという社会的弱者の立場から、戦争が人々にもたらす苦しみを描き出していく。西川監督は戦争を題材にすることの重みに躊躇しながらも全力で映画に取り組み、琴子を演じた小八重葵美は本作の出演を通じて戦争について学んだ。この不穏な世の中で子供たちが見られる戦争映画として制作された本作は、どのような想いから生まれたのか。西川監督と小八重の2人に話を訊いた。

「覚悟をするのに3~4年かかった」

——「わたしの知らない子どもたち」は戦争映画としての重みがありつつ、少女の冒険物語としての面白さもある作品でした。なぜ、戦災孤児の物語を描こうと思われたのでしょうか。

西川美和(以下、西川):前作の「すばらしき世界」の主人公は幼少期に母親に捨てられて、戦争孤児たちと街で生きたという設定だったんです。その後裏社会の構成員になるんですけど、そういう方も多かったのかもしれないと思って、それで戦争孤児に興味をもったんです。そして、かれらが戦後に徒党を組んで冒険をする物語、というのを考えて、戦争孤児だった人に体験を聞いているうちに、どんどん彼らの人生の重さが肩にのしかかってきて。これは商業映画としての題材選びのを間違ってしまったかもしれない。もうやめようかな、と何度も思ったんです。そもそも戦争を描くこと自体、大変重いことで自分にとってハードルが高かったんです。

——それでも、企画を諦めなかったのはどうしてですか?

西川:2022年にロシアがウクライナに侵攻しました。民間人や子どものいる場所も多く攻撃されました。そんなおかしなことはすぐ終わるだろうと思っていたら、そこから各地でいろんな紛争が広がって、戦争をしているのが普通な状態になった。その様子を見ていて、今生きている作り手が、この現状にブレーキをかけるような映画を作っていかないといけないんじゃないかと思うようになったんです。その覚悟をするのに3~4年かかりました。

——じっくりと時間をかけて脚本を作り上げていったんですね。小八重さんは脚本を読んでどう思われました?

小八重葵美(以下、小八重):最初は戦争のことはよくわからなかったし、難しい話だと思いました。でも、みんなでご飯を食べたり、遊んだりする楽しそうなシーンもあったし、読み終わった時は感動しました。

撮影前に子供たちと戦争について話す

小八重葵美(左)と西川美和

——小八重さんだけではなく、映画に出演した子供達にとって戦争と言われても実感がわかなかったと思います。撮影に入る前に子供たちと戦争について話をしたりしたのでしょうか。

西川:オーディションの時に「戦争のことってどれくらい知ってる?」って子供達に聞いてみたんです。ほとんどが関東近郊の子供達でしたが、みんな「ほとんど知らない」って言うんですよ。学校で習うのは小学校6年の3学期になってからで、広島と長崎に原爆が落とされたのは知っているけど、東京大空襲についていてもほとんど習わない。広島出身の私としては驚きでした。

——広島は原爆が落とされた土地だけに戦争の恐ろしさが語り継がれている。戦争に対する意識に地域差があるんですね。

西川:全然違いますね。オーディションに広島から来た子がいて話をしてみると、平和教育は、当たり前にある、と。こんなに違うのかと驚きました。葵美ちゃんは脚本を読むまで「疎開」を知らなかったそうですが、それが一般的な小学生なんです。そういう状態でセリフだけ言えればいいということでもないな、と思って、まず、子供が見やすい戦争を描いたアニメを一緒に観ることから始めました。そして、空襲のことがわかる資料館を見学したり、映画の舞台になった上野の町を歩いたり、戦争孤児だった女性の話を聞いたりしたんです。戦争経験がない私たちが話をするより、やはり当事者に話をしてもらう方がより伝わる雰囲気も感じました。改めて、戦争を知らない世代が次の世代に戦争を伝えることの難しさを痛感しましたね。

小八重:昔の写真と見比べながら上野の町を歩くことで、脚本に書かれたことを身近に感じました。いちばん勉強になったのは広島の資料館です。原爆が落ちた後を再現した絵とかがあって、それを見るのはつらかったけど、目をそらしていたら戦争のことをずっと遠い存在で知らないままになってしまうんじゃないかと思って。みんなが考えているよりも多くの人が戦争で辛い思いをしたことがわかったので、戦争についての勉強をもっと学校でやったほうがいいんじゃないかなって思いました。

——小八重さんは映画を通じて戦争について学んだんですね。戦災孤児の暮らしぶりをこの映画で初めて知る観客も多いかもしれませんね。映画では彼らの辛さだけではなく、厳しい生活の中で身につけたタフさも描いていました。

西川:戦争孤児について調べていて、子供たちが生きるのにあらゆる工夫をしているのが面白かったんです。例えば駅で寝ると寒いから、夜行列車に乗って新聞を売る。そうすれば空いた座席に寝られますからね。そして、ついでに座席のシートを切り取って靴磨きの布として売るんです。そういう生きるための知恵を彼らはいっぱい持っている。大変な環境にいるけど、サバイバルしている姿がとても魅力的に見えたんです。どんな環境でも楽しめる子供達の才能も映画でしっかりと描きたいと思いました。

初主演と二階堂ふみとの共演

——小八重さんは映画初主演ですね。琴子を演じてみていかがでした?

小八重:怒っている時とか悔しい時とか、自分の中では気持ちが表情に出ているつもりでいるけど、画面で見たらそこまで顔に出てないことがわかりました。お芝居をする時は、強く出していく意識でやろうと勉強になりました。

——見られる、ということを意識しないといけないのは大変ですね。男の子のふりをする演技は難しくはなかったですか?

小八重:よく弟と喧嘩してるんです。そういう時って口が悪くなってしまうので、その時の感じを思い出しながらやりました。あぐらをかいたり、姿勢を悪くして大股で歩くとか、そういうのは最初は難しかったけど、時間が経つにつれてそういう風にするのが当たり前みたいになりました。

——小八重さんは目に力があって少年姿も違和感がなかったですよ。今回、子供達の世界と並行して大人の世界も描かれます。大人の世界をさまようのは教師の曽根文美子を演じた二階堂ふみさん。監督は二階堂さんとはどんな話をされたのでしょうか。

西川:この映画の製作が始まる前に二階堂さんとお食事をしたんです。その時にお互いの次の作品の話になって。この映画のことを話すと、「今作られるべき作品ですね。楽しみにしています」と言ってくれました。二階堂さんは沖縄出身ということもあって沖縄戦については幼い頃から触れられてきたはずだし、社会や政治についても関心の高い方だと私は思います。撮影に入ると私は子供達にかかりっきりになると思うので、この映画を目指すところをしっかり理解してくれている人に曽根の役をお願いしたいと思っていたのですが、二階堂さんなら大丈夫なんじゃないかと思ったんです。脚本を読んで現場にこられた時は、しっかりと内容を理解されているようでしたので細かいことは何も言わずにお任せしました。

——大人の苦しみを一身に背負ったような役でしたね。

西川:本当に大変な役だったと思います。映画の最後の方で琴子が「先生はもう一回、先生になるんですか?」という質問をするのですが、そのリアクションが難しい、と二階堂さんはおっしゃっていて。曽根は教師という仕事を通じて戦争に加担してしまった。そのことを反省している曽根が、教え子の質問に対してどんな表情をしたらいいのか難しいとおっしゃって。それを難しい、と感じる感性を持っていることが、この役を演じる人として重要なんだと思いました。

——小八重さんは二階堂さんと共演していかがでした?

小八重:目だけで感情が伝わってきてすごいと思いました。再会した時に、先生は琴子のことをずっと探していたことを話してくれるんですけど、二階堂さんの表情を見ているだけで琴子を探すために大変な思いをしたことや、再会できて本当に嬉しいことが伝わってきて、琴子は泣くシーンではなかったのですが、気がついたら涙が出てしまいました。すごい役者さんだな、と思いましたし憧れます。

——二階堂さんみたいな演技ができるようになりたい?

小八重:(大きく頷いて)はい!

音楽好きの小八重

——琴子は戦争で大好きな音楽ができなくなってしまいます。戦争は自由や好きなものを奪ってしまいますが、小八重さんは「これがなくなったら嫌だ」というものはありますか?

小八重:音楽がなくなったら生きていけないです。

——琴子と同じですね。そんなに音楽が好き?

小八重:大好きで暇さえあれば聴いてます。勉強する時も静かすぎると集中できないから聴いてるし、寝る前はいつも聴いてます。

——どんな音楽が好きですか?

小八重:大森靖子さんとか神聖かまってちゃんとか。最近では超☆社会的サンダルにハマってます。

——そうなんですか! 意外な名前が出てきましたが、友達で聴いている人はいますか?

小八重:いないです。

西川:じゃあ、誰の影響で聴くようになったの?

小八重:もともと大森靖子さんが好きで、大森さんが神聖かまってちゃんとコラボした時に、「この人たち誰だろう?」と思って聴いてみたら良かったのでフォローしたんです。

——琴子はピアノを弾くシーンもありますが、小八重さんが音楽が好きというのはキャスティングで重要なところだったのでしょうか。

西川:ピアノをやってる子が来てくれるといいなと思ったんですけど、葵美ちゃんはピアノの経験がなかったんです。ただ、「音楽が好きだ」っていうのは最初から言ってて、オーディションの時に映画で歌う子守歌を歌ってもらったら見事だったんですよ。この音感があればピアノを弾いたことがなくても大丈夫だろうって思いました。ピアノの先生について練習してもらったんですけど、レッスンを嫌がったりせず、少しずつ学んで弾けるようになって撮影に挑むことができたのは、音楽が好きだからでしょうね。

——小八重さんは歌うのも好きなんですか?

小八重:好きです。オーディションの前に子守唄の練習を何度もしました。ママの夢が歌手になることで、「葵美は歌がうまいから歌手になってほしいな」って言っていたので、いつかそういうお仕事もできたらいいなって思います。

——夢が叶うといいですね。ちなみに監督は小八重さんくらいの年齢の時はどんな子供でした?

西川:いやあ、性格がねじ曲がってましたね(笑)。大人を斜めから見てました。「それ、本当?」って感じで。今から考えると嫌な子だったと思います。

——大人を信じていなかった?

西川:信じていなかったわけではなかったけど、大人の嘘には敏感でした。中1って多感な時期ですからね。

——小八重さんは大人の嘘に気づいてます?

小八重:(にっこり笑って)気づいてます。

西川:子供の方が上手なんですよ(笑)

子供たちの変化

——映画でも子供たちは立派に大人と渡りあっていましたね。戦争は大人の嘘の積み重ねみたいなところがありますが、小八重さんはこの映画に参加したことを通じて戦争に対する考え方は変わりました?

小八重:変わりました。この映画で戦争について学ぶ前は、もし攻撃をされてしまったら、戦うことは仕方ないのかなと思っていました。でも、今では戦争は絶対に良くないと強く思うようになりました。大切な人がいなくなってしまったり、食べるものも、帰る家もなくなってしまう。それがどんなに大変で辛いことだったのか、体験された方の話を通じて知ることができました。「戦争は良くない」って簡単に言うんじゃなく、「戦争」という言葉が出たらどうして戦争が起きたのか、そして戦争によってどんなことが起こるのか、深く考えるようになりました。

——誰かに言われたから良くないのではなく、自分でしっかり考えるというのは大切ですね。

西川:撮影直後の葵美ちゃんと今では、戦争に対する考え方は変化しているんだろうなって思います。完成した作品を観て、その後、映画を観た人の感想をこうやって聞いているわけですよね。「大人の人はこういうふうに感じるんだ」って思いながら、日々解釈が深まっていると思うんですよ。だから、子供たちも大人たちも「戦争が良くないのはわかってる」じゃなく、「戦争とは何か」とか「どうやったら戦争を防げるのか」とか、日々いろんな情報に触れてアップデートを重ねながら戦争について考え続けていくことが大切だと思います。

ーーこの映画は大人の視線と子供の視線の両方で描かれているので、親子で一緒に観て感想を話し合うのも良いかもしれませんね。

西川:本当にそうですね。今回の私の第一の目標が「子供がギリギリ観られる戦争映画を作りたい」ということでした。今までの私の映画は家族で見たら冷え冷えしそうな映画ばっかりだったので(笑)、一度でいいから「お子さんと一緒に」って言える映画を作りたかったんです。この映画は親子でいろいろと話しやすい作品だと思うので、ぜひ一緒に観て頂きたいですね。

PHOTO:RIE AMANO

映画「わたしの知らない子どもたち」

◾️映画「わたしの知らない子どもたち」
10月16日から全国公開中
原案・脚本・監督:西川美和
出演:小八重葵美 二階堂ふみ
坂東龍汰 櫻井海音 北村有起哉 吉田羊 竹野内豊
岡田准一/田中裕子 役所広司
撮影:笠松則通
音楽:原摩利彦
共同製作:AOI Pro.
企画:分福
制作プロダクション:AOI Pro.
製作・配給:K2 Pictures
©2026 K2 Pictures・AOI Pro.
https://k2pic.com/film/wsk

小説「わたしの知らない子どもたち」

◾️小説「わたしの知らない子どもたち」
映画「わたしの知らない子どもたち」の原案小説にして、映画では語りえなかった、いくつもの物語が、情景が、心象が……「生きる」ことにどこまでも真摯なその姿が、胸にのこって離れない、戦渦を生きたひとたちが奏でる長篇。
著者:西川美和
価格:2200円
出版社:palmbooks
46判・ソフトカバー/ 352ぺージ
https://palmbooks.jp/books/07/

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