電通「2014年(平成26年)日本の広告費」から
広告費とは、企業やブランドのその媒体に対する期待値あるいは信頼度である。そうした観点から、上表に掲げた5マス媒体への広告費のここ10年の推移を見ると、あらためてこの10年間がインターネット=デジタル時代への移行期だったことが分かる。
雑誌広告費はこの10年間で4800億円から2500億円へほぼ半減した。ここ4年ばかりは2500億円前後で推移しているが拡大する兆しはあまり感じられない。特に大きな落ち込みを見せたのは2009年。08年9月のリーマン・ショックの影響を受けたわけだが、それ以降はその影響から抜け出せず低迷を続けている。同様にリーマン・ショックでしばらく低迷したテレビが、ここに来て復調しているのとは対照的だ。一方、「時代の寵児」であるインターネット広告に関しては、リーマン・ショックで減ることもなく、順調に金額を増やし14年には1兆円の大台に乗った。テレビとの2強時代も射程に入っている。出版社にとっては、このインターネット広告の1兆円からどうやって雑誌広告の減った分を持ってくるかがポイントになっている。雑誌広告とインターネット広告は本来背反するものではないはずだが、実際には「雑誌広告を削って、インターネット広告の方へ移してください」というような動きが見られる。
しかし、ブランドサイドは90年代に確立した雑誌広告のスタイルがあまりにも見事な成果を生み出したために、インターネット広告にいまひとつシックリした手応えを得られないというのも事実だ。広告効果が簡単に測定できるというデジタル広告が、ファッション広告なかんずくラグジュアリー・ブランド広告にフィットするかどうかについては首をかしげる向きがある。アナログな欲望喚起装置として、雑誌の優秀性は捨てたものではない。少なくとも、デジタル出版が本格的に軌道に乗るまで、まだまだ果たすべき役割は残っている。ファッション流通の世界ではリアル店舗とネット上のバーチャル店舗がそれぞれ補完し合って売り上げを最大化するオムニチャネルの考え方が一般的になっている。出版業界でも紙の雑誌とデジタル出版が相互補完する新しい手法が生み出されないものだろうか。
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昨年9月に行われた「ティー・ジャパン・ザ・ニューヨーク・タイムズ・スタイル・マガジン」の創刊記者会見
新聞社との共同事業も注目されている。新聞社の富裕層を選別できる配達システムに着目している。「マリ・クレールスタイル(marie claire style)」(中央公論新社)と読売新聞が先鞭をつけた(12年)が、これに続いて今年に入ってからは集英社と朝日新聞社&ニューヨークタイムズによる「ティー・ジャパン・ザ・ニューヨーク・タイムズ・スタイル・マガジン(T JAPAN The New York Times Style Magazine)」、そして講談社と日本経済新聞社による「ザ・ニッケイ・マガジン・スタイル・アイ」がそれぞれ3月に創刊された。とにかく収益になりそうな事業は貪欲に手掛けられている。一昨年に「グラツィア(Grazia)」「グラマラス(GLAMORLOUS)」の同時休刊に踏み切った講談社は昨年も「ヒュージ(HUgE)」を休刊した。一方で今年「ミモレ(mi-mollet)」「フォルツァスタイル(FORZA STYLE)」の2誌をデジタル版で新創刊した。デジタル出版は紙での出版に比べてコストが格段に安く、その動向を見て、雑誌化するようなこともありそうだ。巨額の費用を使って紙媒体を創刊し、その「サンクコスト」のためになかなか紙媒体をやめられなくなるような従来の旧弊を改めたいという意図がありそうだ。
出版社と一口にいっても、講談社、集英社、小学館に代表される大手総合出版社、光文社、マガジンハウスに代表される雑誌主力の出版社、コンデナスト・ジャパン、ハースト婦人画報社などの外資出版社という分類ができるが、注目されるのは、これだけ雑誌広告が厳しい状況にありながら、雑誌系の光文社、マガジンハウスの雑誌が健闘していることだ。
光文社は「ヴェリィ(VERY)」がママ雑誌として快走を続けている。古くは「ママの公園デビューはモンクレールで」など、ママのライフスタイルに斬新な提案を行う編集方針が読者の共感を得ている。読者と共に誌面を作り上げるという雑誌作りの基本がまだ通用することを証明している。マガジンハウスでは好調を続ける「ギンザ(Ginza)」が注目される存在だ。編集、デザインともにアート感覚に溢れ、その手の読者の強い支持を集めている。いわゆる「デザイン好き」と紙媒体の親和性は強く、同社の「カーサ ブルータス(Casa BRUTUS)」や「ペン(Pen)」(CCCメディアハウス)などは根強いファンを獲得している。
この雑誌系出版社2社に共通しているのは、早期退職者を募集したり(光文社)、役員報酬や社員年俸の少なからぬ減額を行っている点。それなりの出血はしており、それが危機感を強めたとも言える。大手総合出版社とは異なり、雑誌は両社にとってまさに命綱であり、常に背水の陣で臨んでいるということであろう。1円の赤字も出せないという気概を持って読者との絆を信じた雑誌作りにまい進するのは、一見時代遅れに見えるが、そうした意地がないと雑誌は生き残れなくなってきている。
※文中の肩書き・事実関係・為替レートなどは2015年5月25日時点のものです