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「場所よりも人が大事」という考え
“ももち”こと牛江桃子さんが起業し、次世代タレントエージェンシーのM-YOU(エムユー)を設立した経緯を読んで、何度も深くうなずきました。中でも特に印象的だったのは、「場所よりも人が大事」という言葉。ユーチューバーやライブコマーサーとして活動する上で、視聴数などの数字とは常に向き合わなければいけません。ましてやそれが可視化されるとなると、その重圧を個人で背負うのは相当なはずです。だからこそ、数字だけではなく人に向き合うマネジメントにたどり着いたという経緯は、いろいろな人が共感するのではないでしょうか。
“ももち”さんを以前取材したとき、ファンのことを本当に大事にする人だなと思った記憶があります。ライブ配信でも、まるで画面の向こうにいる大切な友人たちと会話しているような親しみやすさでした。デジタルで何もかもが効率化し、高速化するのはとてもエキサイティングです。だからこそ、取材でもマネジメントでも、全ては人と人であるというのを忘れないようにしたいと改めて感じた素敵なインタビューでした。
アパレル販売員からライブコマーサー、そして起業 「ももち」こと牛江桃子が社長になるまで
PROFILE:1996年4月1日生まれ、26歳。地下アイドルからニート時代、「カスタネ」の販売員を経てライブコマーサー・ユーチューバーに転身。ユーチューブチャンネルは登録者数41万人超。フォロワー数17万人超えのインスタグラムでは、毎週生配信を行うファッションライバーでもある。フォロワー層の9割が女性で、Z世代の女子を中心に支持されている。PHOTO:YUKIE SUGANO
SNSの総フォロワー67万超えのももち(牛江桃子)が5月、次世代タレントエージェンシー、M-YOU(エムユー)を設立した。主力はタレントマネジメント事業だが、その他にもD2Cブランド、コンテンツプロデュース、Z世代マーケティング事業など幅広くトレンドに関連した事業を手掛ける。既に社員は7人在籍し、新卒から35歳までの女性で働く。
販売員をキャリアの出発点に、ユーチューバー、ライブコマーサー、アパレルブランド「リル アンビション(Lil Ambition)」プロデューサーとして活躍してきたが、特に自身が名前をつけた“ライブコマーサー”としての活動には思い入れが深く、エムユーでも注力する分野だ。ライブコマーサーとはライブコマースに出演する販売員で、一般的なインフルエンサーやユーチューバーとは異なるアプローチで商品やブランドの魅力を伝える役割を担う。起業によって何を成し遂げようとしているのか。起業の経緯や思い、目標に掲げるライブコマーサーの育成について話を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):なぜエムユーを起業?
牛江桃子(以下、牛江):心を大切にする、タレントのパートナーのような会社を作りたかったのと、ライブコマーサーを育成したいと考えたことが理由。周りのインフルエンサーから「頑張りたいのに頑張れる環境がない」「人間不信になる部分がある」という相談を受けることが多く、私自身も活動する中で、場所よりも人が大事だと感じることが多かった。そこで自分の経験を生かし、心に寄り添える、一緒に人生のブランディングまでもしていけるような会社を作りたいと考えた。
WWD:頑張れる場所がない、というのは具体的にいうと?
牛江:仕事を取ってきて振る、というやり方でマネジメントは効率化できる。けどタレントやクリエイターはとても繊細で、(SNS上の)数字や人からの意見で気分の浮き沈みも激しくなることもあるので、メンタルケアが本当は大事なはず。数字を分析して「はい、こうやって」というだけのマネジメントでは疲れてしまう。私は今のパートナーの浜内に出会い、クリエイターではなく一人の人間として真摯に向き合ってもらえた経験があった。お互い中立な立場だからこそ仕事が円滑に回り、生き生きと活動できる。M-YOUにはこの人にマネジメントして欲しい、この人なら一緒に歩んでいきたいと思ってもらえるような人が集まった。
WWD:元々起業したいという思いがあった?
牛江:全く(笑)。けれど活動する中でどんどん見える景色が変わってきて、クリエイター仲間の悩みの声を聞いたり、SNSで活動したいけど一歩踏み出せないという子の声を聞いたりする中で、自分だけじゃなくみんなが楽しい世界にしたいと感じたのが起業につながった。また一緒に創業した浜内や佐久間とミッションが一致し、事業を絶対大きくできると感じた。最初は会社としてではなく一つの事業としてやることも検討したが、一番いい手段として起業を選んだ。もちろん、これまでの活動も続けます。自分がタレントとして居続けることで、タレントの痛みもわかるようになりたい。
WWD:この3人で起業したのはどういった経緯?
牛江:元々、浜内と佐久間は別会社のRooMooNでともに仕事をしていて、私は浜内にマネジメントをお願いしている関係だった。それぞれ元の会社から資金を出し合い、資金調達や借り入れをせず立ち上げた。それぞれの仕事を集めているので、M-YOUは事業の幅が広い。ただ集めたわけではなく、相互作用で事業が大きくなると考えている。それぞれの強みを活かしたい。
WWD:それぞれの強みとは?
牛江:タレントマネジメント部 部長の浜内は、心に寄り添いながら長期的にマネジメントできる人。通常マネージャーは1人あたり複数人のタレントを抱える場合があり、タレント側は不安を覚えることも。M-YOUではチームでタレント1人にフルコミットする体制を取り、その主軸が浜内だ。コンテンツプロデュース部 部長の佐久間はテレビ業界出身で、コンテンツ企画のノウハウがある。また数字分析に強いだけでなく、クリエイターの個性に寄り添って企画提案をできるというところが強み。
私はD2Cブランド部の部長で、販売師の資格を持ち、アパレル店員で接客をしてきた経験やライブコマーサーの経験がある。その経験をもとにライブコマーサーを育て、ブランド事業を展開する。6月からは2人のユーチューバー、えみ姉とpicaruの所属も決まっていて、2人の意向を最大限尊重しながらではあるが、D2Cブランドの立ち上げも考えている。
WWD:タレントマネジメントではライブコマーサーの育成も行う。
牛江:起業した大きな理由の一つ。これまでの経験の中で、世の中の動きがある一方でEC化率がなかなか上がらないのは(オンラインでの商品購入に対する)不安要素を解消して、背中を押してあげられる人がいないからだと気がついた。そこでM-YOUでは“第2のももち”じゃないですけれど、ライブコマーサーを育てて社会貢献したいと考えた。
WWD:日本ではライブコマースも広がらないが、課題は何だと考える?
牛江:第一にファッションや美容分野の本格的なライブコマーサーがまだまだ少ないこと。また大きなライブコマースプラットフォームがないことも課題だ。ライブコマース先進国の中国では大勢が見るプラットフォームでライブ中にパッと購入できる機能がある。一方、日本ではZ世代が服を買う時の参考にするインスタグラムやTikTokなど主要なSNSにライブ配信からの購入機能がついていない。インスタグラムで他プラットフォームのライブコマースの告知をしても、コアなファンしか流入しにくいのが現状だ。日本でも3年後にはインスタグラムやTikTokにライブコマース機能がついていると考えているので、それに向けてライブコマーサーを育てていく。
WWD:ライブコマースを依頼する企業側にも課題はある?
牛江:フォロワー数など数字で判断することが多いが、エンゲージメントを重視した依頼が大事。ライブコマースはコアなファンの方が心が動いて購入に至る。1000人のライトなファンより100人のコアなファンだ。またライブコマースは後から編集でテロップが入れられず、声や表情に全ての感情が出てしまうので、何かを言わせるのはあまり適していない。ライブコマーサー自身がいいと思った点を伝えることで視聴者の心が動く。企業側がクリエイターに寄り添ってもらえると、よりリアルなコマースができる。
WWD:どんな人が心を動かすライブコマーサーになれる?
牛江:何かに精通した“オタク”がいい。好きだからこそ情報を追うし、細かいことまで調べる。商材がライブコマーサー自身に適していないと意味がないので、ライブコマーサーは自分が何が好きか分析することが大事。またライブ配信は想像している5倍のテンションでやらないと伝わらない。その点ではインスタグラムなどの写真で伝えるインフルエンサーとはタイプが違うかもしれない。さらに普段のSNS運用やコミュニケーションから信頼を作っていくことが大事。M-YOUでは夏にタレント所属オーディションを開催するが、こういった素質がある子を5〜10人程度見つけられたらいいなと思っている。また自社で抱えるタレントだけでなく、他社と提携してライブコマーサーになりたい人に向けた講演会をしたりして、100人を目標にライブコマーサーを育成したい。
WWD:会社として、個人として今後の目標は?
牛江:日本ではライブコマーサー事業での成功例はまだないので、その成功例になりたい。「ライブコマースといえばM-YOUだよね」と言われるようになれれば。個人としては2年前からライブコマーサーと名乗ってやってきたので、ライブコマーサーとしても、プロデュースする側としても、ライブコマースの第一人者になりたい。
プーチ、「バイレード」の過半数株式を取得 ゴーラム創業者はチーフ・クリエイティブ・オフィサーを続投
ラグジュアリーファッション・フレグランス企業のプーチ(PUIG)は、「バイレード(BYREDO)」の過半数株式を取得した。取引額などの詳細は明らかにされていない。創業者のベン・ゴーラム(Ben Gorham)は、引き続きチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして同ブランドを率いるという。
スウェーデン・ストックホルム発のフレグランスブランド「バイレード」は、プロのバスケットボール選手だったゴーラム創業者が2006年に立ち上げた。ミニマリスティックなパッケージとシンプルながらもユニークな香りが人気で、ファッショニスタの愛用者も多い。13年に、同じくフレグランスの「ディプティック(DYPTIQUE)」や、ニューヨークのスキンケアブランド「マリン&ゴッツ(MALIN+GOETZ)」などを保有する投資会社マンザニータ・キャピタル(MANZANITA CAPITAL以下、マンザニータ)の傘下となり、近年はカラーコスメ、レザーグッズ、アイウエアとカテゴリーを拡大していた。マンザニータは、21年9月頃から「バイレード」の売却を検討しており、22年5月中旬にはロレアル(L’OREAL)が買収するのではないかとの憶測が広まっていた。なお、今回の取引後もマンザニータは少数株主として残る。
プーチの21年度の売上高は25億8000万ユーロ(約3534億円)で、「バイレード」の売り上げは1億ドル(約127億円)を突破していると見られている。
マーク・プーチ(Marc Puig)=プーチ会長兼最高経営責任者(CEO)は、「『バイレード』を迎えることができ、大変うれしく思っている。同ブランドは、人々の自己表現力をエンパワーし、ESG(環境、社会、ガバナンス)アジェンダに強くコミットするという当社のパーパスをさらに強化してくれると確信している。当社の経験やリソースを活用し、モダン・ラグジュアリーを体現するこのユニークなブランドをさらに発展させていきたい」と語った。
ウィリアム・フィッシャー(William Fisher)=マンザニータCEOは、「当社は一族経営の会社で、『バイレード』は10年近くファミリーの一員だった。今後は、(プーチという)私たちと同じく素晴らしいブランドを育むことに情熱的な一族経営の会社と共に、「バイレード」の次章を作り上げていけることを誇らしく思っている」と述べた。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。