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「D2C」のその先に見えるもの

 “D2C”というワードがバズってからはや2年あまり。2020年の2月に、「D2C 『世界観』と『テクノロジー』で勝つブランド戦略」の著者である佐々木康裕Takramディレクターに取材した際、「D2Cはあくまでステージの名前。日本ならEC専業で20億〜30億円規模のブランドに育ったら、直営店出店なども進めて次なるステージに移る」と話されていたのが印象的でした。

 ウィメンズブランドの「アメリ」は、まさにそういったタイミングにあります。「立ち上げた時は、それ以外に手段がなかったから結果的にD2Cだった」という同ブランドも今や売上高38億円、店舗は国内外に6店。「アメリ」成長の秘けつやヒット商品を作り出す仕組みを全3回で連載していきますので、是非お読みください。本日ご紹介している1本目の記事が連載の初回になります。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

「D2Cとは呼ばれたくない」 売上高38億円に育った「アメリ」に聞く、ファンに刺さるモノ作り【前編】

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 ビーストーン(黒石奈央子CEO)のウィメンズブランド「アメリ(AMERI)」は、2014年の立ち上げ以来順調に成長を続け、21年7月期の売上高は38億円となった。今では国内外に6店を構えているが、ECに強く、“D2C(ECを主販路にする顧客直販型)ブランドの代表格”と見られることも多い。実際、「アメリ」が強みとしているSNSやユーチューブでの発信力の高さやSNSの反応をもとにした需要予測などは、非常にD2C的だ。ただし、取材をしているとそういったD2C的なテクニックは、「アメリ」にとって実は副次的なものだと気づく。ファンをつかんで離さないのは、同質化する市場の中でほかにないデザインを追求しているから、という部分の方が大きい。ウィメンズのリアルクローズ市場で圧倒的な人気を誇る「アメリ」のデザインのプロセスを取材した。

 「周りからD2Cブランドだとカテゴライズされることは非常に多いが、私はそうは呼ばれたくない」と黒石CEO。ここ数年でモノ作りのプラットフォームが個人にも開放され、ファッションビジネスの経験やノウハウのないインフルエンサーがD2Cブランドを立ち上げる事例が増えている。SNSで抜群の知名度を誇る彼らは、立ち上げ早々から大ヒットを生むケースも少なくない。しかし、実際は韓国の卸売市場から売れそうなものを買ってきているだけだったり、OEMメーカーが提案するデザインの中から気に入るものをピックアップしているだけだったりということも多い。それゆえ商品が同質化し、“パクリ”で炎上することもある。「うちはそういう作り方は全くしていない。(D2Cブランドという呼び名でくくられることで)軽く作っているんだと思われたくない」と黒石CEOは続ける。

 では具体的に、「アメリ」ではどのように商品企画を進めているのか。象徴的な商品が、2022年春夏のチュールメッシュのタイダイ柄ドレスやトップスだ。タイダイ柄は今季のトレンドでもあり、他社でも企画はしている。ただし、「アメリ」のタイダイは、アトリエ内で氷染めと呼ばれる技法のワークショップを行い、それをデータ化した唯一のもの。ワークショップは松崎仁美デザイナーが主導した。松崎デザイナーはペイントやアルコールインクアートなど、毎シーズン何かしらのワークショップを他のスタッフを巻き込んで行い、オリジナリティーを追求している。20年12月に発売したアルコールインクアートのワークショップから生まれたプリント柄のドレスは、2700枚を売るヒット商品になった。

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NEWS 02

ヘラルボニーが「ハイアット セントリック 銀座」の客室をデザイン 知的障がいを持つ作家13人のアート作品を活用

 ヘラルボニーは、東京・銀座のライフスタイルホテル「ハイアット セントリック 銀座 東京(HYATT CENTRIC GINZA TOKYO)」と協業し、期間限定のコンセプトルームを開発した。客室はスイート(税込6万1600円〜)とスタンダード(税込2万3100円〜)の2種類。それぞれコラボドリンクを楽しめる通常プランと、Tシャツなどのオリジナルグッズが手に入る特別プランを用意する。宿泊期間は5月2日〜7月31日で、現在予約を受け付け中だ。

 客室のテーマは“アートの力を体験する空間”だ。ヘラルボニーと契約する13人の作家にフォーカスし、彼らの作品を壁や床、鏡、ハンガーなどに落とし込んだ。水性ペンによる独特な色彩と、丸と四角を無数につなげる作風のフミエ・シマオカや、ブラシマーカーを使った大胆な色使いと構成が特徴の土屋康一らの作品を採用した。自社ブランド「ヘラルボニー(HERALBONY)」のソファやクッション、カップ、ハンカチなども内装に取り入れており、いくつかのアイテムはECなどで購入することができる。

 ヘラルボニーは障がいを“異彩”と捉え、知的障がいのある作家の作品を自社ブランドやライセンスに活用し、社会イメージのアップデートに挑んでいる。これまでも工事現場の仮囲いに同社のアートを活用するなど、公共空間の演出はいくつも手掛けてきたが、飲食や宿泊を伴う空間を手掛けるのは初めてだ。ヘラルボニーの松田崇弥代表は「いろいろな人と価値観、ライフスタイルが混じり合う空間を、“異彩”のアートが彩る。これは、われわれがずっと実現したかった景色だ」と語る。

 内山渡教「ハイアット セントリック 銀座 東京」総支配人は、「内装まで作り込むコンセプトルームの開発は今回が初めて。ヘラルボニーとともに、われわれが重んじる個性・多様性の大切さを届けたい。お客さまにとっては、新しい価値観と視野をもたらす空間になればうれしい」とコメントする。

 空間デザインと施工を担当した乃村工藝社の吉村峰人デザイナーは「ヘラルボニーと契約するアーティストの作品には、豊かな色彩と形の連続から、キャンバスを飛び出して拡張するような力を感じる。その“広がり”を体感できる空間に仕上げた。スカーフを使った棚の装飾など、日常で取り入れられるものもある。宿泊後もアートを楽しんでもらえたら」と話す。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。