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アートが楽しめる百貨店
バンクシー、草間彌生、バスキア、KAWS……ここまで集められれば、もうアート展として十分成立していますよね。普通に観に行きたくなりました、「ART SHINSAIBASHI」。コシノヒロコ先生や杉田陽平といった幅広いアーティストに加え、今後期待の若手作家まで、ちょっとした“お祭り”という感じではないでしょうか?
買わなくても十分楽しめるでしょうし、若手作家の作品との出合いもありそう。売り物として値段を見るのも一つのエンタメだし、「売約済み」にどんな人が買ったんだろうを想像するのも楽しそうです。美術館では誰かとワイワイ話しながら作品を見るのははばかられますが、カジュアルに無料で楽しめるいい機会です。
12月の売り上げが前年の2倍!会場が複数あるので回遊性も高まりそう。コロナ下で逆風を浴びる百貨店のいい集客装置かつ商機になりますね。
大丸心斎橋で現代アート展 コロナで高まる「美術需要」
大丸心斎橋店は、現代アート作品約300点を展示即売するイベント「ART SHINSAIBASHI」を15日に開幕した。昨年、試験的に実施したところ好評だったことから、今回は規模を拡大した。隣接する心斎橋パルコ14階の「スペース14」をメイン会場に、大丸心斎橋本館1階・御堂筋側イベントスペース、本館8階・アールグロリューの3会場で展示する。期間は22日まで。
コシノヒロコも画家として出品
出品作品は「ディオール」「ユニクロ」とのコラボでも有名なKAWSをはじめ、バンクシー、ジャン=ミシェル・バスキア、草間彌生、村上隆といった現代アート界の巨匠や人気アーティストの作品から美大を卒業したばかりの気鋭の若手作家の作品まで。さらに、手塚治虫やスタジオジブリなどアニメの希少なオリジナルセル画もお目見えする。
2021年に兵庫県立美術館で「コシノヒロコ展」を開催し、画家の顔も持つファッションデザイナー、コシノヒロコ氏の作品も見どころの一つ。自身のブランドのテキスタイルデザインを思わせるカラフルな作品と、対照的な水墨調の作品を約25点出品した。14日には外商顧客を対象としたトークショーを開催。祖父の影響で3歳から絵を描き始めて85歳になる今日までアートワークを続けてきたいきさつと、アートの価値と向き合い方などについて話した。
「絵は私にとってインテリアの一部なので額縁まで含めてデザインしている。アートは生活を豊かにするし、自分で環境を作り出すおもしろさがある。ファッションデザインの原点もアートにある」。さらに作品を購入する際のアドバイスとして「アートは生きるうえで力になるもので、精神の根底にあるものを引き出してくれる。特にアフターコロナの時代にはアートが必要になってくるので、ますます要求が強まると思う。資産価値を見て購入する人を否定しないが、アートのコレクションは所有者の生き方や人間性などを映し出す鑑。自分を表現する手立ての一つとして購入するのもおすすめ。ただし、責任をもって選ぶ感性を持たないと購入する資格はないと思う。固定観念にとらわれず、アートと向かい合うことが大事で、アートと共に成長していく関係であるべき」と力説した。
作品は10万円から8800万円まで
現代アート市場で“完売作家”の異名をとり、作品が入手困難なアーティスト、杉田陽平氏は、会期中、ライブペインティングを行った。完成作品を含めて6点を抽選販売する。杉田氏は、恋愛リアリティ番組「バチェラージャパン」への出演を機に知名度が高まり、SNSやブログでも発信。絵の具の皮をコラージュしたり、歯科技工士の使う溶剤で立体成型したり、画材の特徴を生かした意表をつく作品を制作している。
今後の活躍が期待される若手作家では、日本画の技術を活かし、色鮮やかなカメレオンを点描画で描く樋口新氏や、日常の身近なものからヒントを得た温かみのある色彩で描かれた作品が人気の多田知史氏らの作品が並ぶ。
作品の価格帯は10万円~8800万円。近年増えている20代後半~40代の若年富裕層を中心ターゲットに、従来からのシニア層やファミリー層の集客も狙う。
現代アート市場の現状について、同店美術担当バイヤーの阪東広文氏はこう語る。
「コロナ禍の中でアートマーケットが非常に活況を呈しており、12月の美術売り場の売り上げは前年の2倍になった。現代アートが伸びており、これまではついで買いの商材だったが、今は売り上げの半分を超える。外商客だけでなく一般客にとってもアートが身近になりつつあることを実感している」
アートは従来、ステイタスシンボルや資産性を期待して購入されることが多かった。しかし、近年はコロナ禍の影響もあり、インテリアやファッションの一環として楽しみ、対話と共感から購入につながる傾向にある。SNSで発信する作家も多く、双方向でコミュニケーションがとれて特別な体験を提供してくれる存在になりつつあるという。
「今回、心斎橋店で開催する催事として独自性を出すために、心斎橋とのかかわりが強い大阪出身のコシノヒロコさんに打診して快く受けていただいた。百貨店としては、連結しているパルコとの相乗効果で次世代顧客の育成にもつなげていきたい」と阪東氏。
顧客の利便性を高めるため、デジタルを駆使した取り組みも強化。専用のECサイトを開設したほか、インスタグラムの公式アカウントで杉田氏のライブペインティングを配信した。
次回は今年6月の開催を予定している。
アーティストの加藤泉がファッションと初の協業を決めた理由 「ディーベック」「オールモストブラック」との異色コラボ
釣り用品の「ダイワ(DAIWA)」を運営するグローブライドのアパレルブランド「ディーベック(D-VEC)」は、中嶋峻太が手掛けるメンズブランド「オールモストブラック(ALMOSTBLACK)」と協業したカプセルコレクションを1月27日に発売する。2月2〜8日には阪急メンズ東京と大阪でポップアップストアを開催する。アイテムはユニセックスの全8型で、防水透湿性素材「ゴアテックス(GORE-TEX)」を使った機能的なジャケット(税込4万6200〜8万5800円)やベスト(同4万1800円)、パンツ(同3万800〜3万5200円)、Tシャツ(同1万3200〜1万6500円)、ハット(同1万1000円)をそろえる。グローブライドが釣り用品の開発で培った技術を生かしながら、「オールモストブラック」が得意とするミリタリーを大胆に解釈したデザインを融合。黒でミニマルなムードに統一したコレクションで、激戦の機能服市場に新風を吹き込む。そして、両者のコラボレーションを象徴するアイコンを製作したのが芸術家の加藤泉だ。世界で活躍する同氏がファッション分野で協業するのは今回が初めて。異色のトリプルコラボレーションに至った背景や意外な製作過程、アートとファッションの関係性についてを、駒込にある加藤のアトリエで聞いた。
依頼されて「なんで俺?」
WWD:まず「ディーベック」と「オールモストブラック」のコラボレーションの経緯は?
中嶋峻太「オールモストブラック」デザイナー(以下、中嶋):知人に新しいコラボレーションをしたいと相談をしていたら、グローブライドを紹介してもらった。自分が釣りをするわけではなかったが、日本を代表するメーカーの技術にとても興味があったのですぐに協業が決まった。「ディーベック」と「オールモストブラック」はブランドを立ち上げた時期が近いのでこれまでのコレクションは見ていたし、その高い技術を自分なりの表現でデザインしてみたかったので。
WWD:そのコラボレーションに加藤泉さんが加わった理由は?
中嶋:単純なコラボレーションでは物足りないと思ったから。「オールモストブラック」らしく、アートからインスピレーションを得たクリエイションを今回の協業でもチャレンジしたかった。それをうちの顧問弁護士の小松隼也さんに相談した後、東京都庭園美術館で開催していた展覧会に参加していた加藤さんを紹介してもらい、会場で作品やバンドで演奏をする姿を見て、純粋にかっこよかった。それに釣りが好きだというのも大きな理由の一つ。依頼を受けてくれるかどうか分からなかったが、絶対にお願いしたかった。
WWD:協業の依頼が届いたときはどう思った?
加藤泉(以下、加藤):え?なんで俺?という感じ。ファッションだとコム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)と展覧会を一緒に開いたぐらいで、作品で協業したことはなかった。僕はマニアックな作家なので、アートが好きな人は知っているけれど、普通の人にはあまり知られていない。だからそもそも依頼自体がほとんどこないし、僕でいいの?と。
WWD:了承した決め手は?
加藤:釣りが好きので、「ダイワ」と聞いてまず入れ食い。でもファッションはチャラいイメージがあるから、調子がいい奴や、お金儲け優先で目がドルになっている奴だったらやめようと思っていた。アート界にも怪しい人はたくさんいて、そういうのはすぐに分かるから。でも中嶋さんに会って話すと誠実さが伝わってきた。理由がないと協業はしないけれど、釣りと人、それで十分だった。
WWD:入れ食いするほど釣りは昔から好きだった?
加藤:もう4、5歳からやっているはず。島根の港町で育ち、祖父が漁師だったので英才教育だった。今でも出張先に道具を持って行き、朝と夕方の2時間釣りをしている。だから道具も服も、出張基準で選ぶことが多い。例えば洗濯してすぐ乾く、天候の変化に対応できる、帽子に紐が付いているとか。今日着ているセーターも釣具屋で買ったもの。
たった10分で完成したアイコン
WWD:アイコンが仕上がるまではどういったやりとりがあった?
中嶋:協業が正式に決まってから加藤さんの作品をいろいろ見るうちに、雑誌の企画で針付きのルアーを実際に作ったことがあると知った。アーティストがルアーを自作して釣りをする大会で、加藤さんはダントツで釣ったんですよね?
加藤:もちろん。そのルアーをもとに、アイコンでは針を3つにするアイデアを提案した。
WWD:アイコンでルアーの針を3つにすることで、釣りの背景や、三者のコラボレーションであることが表現されていた。最終的にそのアイデアを絵として完成させるまでに、どのぐらいの期間を要した?
加藤:ぶっちゃけ10分ぐらい(笑)。
中嶋:本当に早かった。2、3日で納品されたので。「ゴアテックス」のロゴをプリントしているので、それとは違う表現として刺しゅうを選び、加藤さんにも確認してもらいながら何度も試作を重ねた。
WWD:加藤さんの作風は独特だが、制作するときは感覚で進めていく?それとも完成形を想像して仕上げる?
加藤:絵でも彫刻でも、その両方がないとだめ。ただ、分からないまま進めていく。制作中に、この作品をなぜ自分が作っていて、これはどうなっていくのかという答えが出た時点でその枝葉は終わり。だから分からない方にどんどん進んでいく。でも、一つ終わるとまた別のところが開く現象が起こるので、その繰り返し。
WWD:念願のコラボなのに、アイコンは服と同じ黒で大きさも控えめにしたのは?
中嶋:加藤さんの作品を前面に打ち出しすぎても違うし、シンボルは大きくない方がかっこいい。だから服の色に合わせた刺しゅうにし、大きさも全て統一させている。完成するまではほぼ全て任せてもらってはいたものの、それはそれでまあまあなプレッシャーだった。
加藤:完成するまでは特に心配はしていなかったけれど、もし全面に使われていたらヤバいなという思いも正直あった。だから完成品を見て、よく見るとシンボルがあるというちょうどいい具合に仕上げてくれた。
WWD:自分が作った作品が服になって販売されるのはどういう感覚?
加藤:そういう仕事ではないから、ちょっと恥ずかしいかも。作品を展示するのとは全然違う感覚。ただ絵は提供したけど控えめだし、刺しゅうや加工は中嶋さんやほかの人がやってくれたので、自分の手に負えないものという感じ。
アート×ファッションの良し悪し
WWD:アートとファッションの協業が増え、アートの間口が広がった一方で商業的になったという見方もあることについてはどう思う?
加藤:まあ、流行っているのかなという感覚。僕は専門職でやっていることもマニアックだから、見る人が勉強しないと作品について理解できないと思う。それは間口が広がっても同じこと。例えば、釣り人口が増えて安い1000円のリールがたくさん売れても、10万円の高価なリールを買う層は変わらない。僕はアート界ではその変わらない方にいるので、特にそういう商業的な流れは気にしていないかな。アーティストが何のためにアートをやっているかの話で、多くの人に自分を知ってほしいなら手段としてやればいいし、興味ないならやらない。それだけ。
WWD:ファッションと初めてコラボレーションしてみて、自身ではどう考えた?
加藤:都合がよければやろうかなと(笑)。でも一つだけ明確なのは、人によるということ。お金や知名度には興味ないから。
中嶋:アートとファッションの協業は、人と人が対話して生み出すからこそ価値があると信じたい。「オールモストブラック」としていつも目指していることだし、今回のコラボレーションでもそこにこだわった。たくさん売りたいだけなら、ただ作品をプリントしただけのような手法が正解なのかもしれないけれど。
加藤:それだったら俺に頼む必要ないもんね。もっと分かりやすい作家に頼んだ方が売れるだろうし。
WWD:協業の手応えと今後の予定は?
中嶋:今回発売する春夏シーズンに続き、秋冬シーズンも同じアイコンを使ってアイテムを作る。春夏はいろいろなバイヤーに評価してもらったし、加藤さんとの協業がきっかけで、東京やパリ、ニューヨーク、香港、上海、ソウルに構えるギャラリー ペロタンでも2月9日に販売することになった。本当に光栄なことだし、「ディーベック」の知名度を多方面に広げるチャンスでもある。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。