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トップショップ買収劇の裏で

 トップショップの買い手が取り沙汰されていますが、驚いたのは同時期に破たんしたデベナムズを買収する企業が現れたこと。ブランドやサイトなど知的財産に近いものばかりですが、「デベナムズ」ブランドを買う人、そんなにいるのでしょうか?直近の店舗を知っている自分は、正直78億円で買おうだなんて思いません。生意気だし不謹慎かもしれませんが、「売れそうにないモノを作って再生を謳い、ゴミを出さないで欲しい」なんて思ってしまったのです。

「WWDJAPAN」編集長
村上 要
NEWS 01

英ECエイソスが「トップショップ」買収に意欲 ブーフーは百貨店デベナムズを獲得

 英アパレルECを運営するエイソス(ASOS)は、2020年11月に経営破綻した英アルカディア・グループ(ARCADIA GROUP以下、アルカディア)傘下の「トップショップ(TOPSHOP)」や「トップマン(TOPMAN)」など4ブランドの買収に向けて交渉中であることを明らかにした。

 同社は、「当社の顧客ベースと親和性の高い、強力なブランドを獲得する魅力的な機会だと考えている」とコメント。しかし他社も関心を示しているため、買収が成立するかどうかは未知数だとの見方を示した。

 ほかの買い手候補としては、20年に「バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)」や「フォーエバー21(FOREVER 21)」、米「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」を傘下に収めた米ブランドマネジメント会社のオーセンティック・ブランズ・グループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP以下、ABG)、英スーパーマーケットチェーンのアズダ(ASDA)を買収した実業家のモーシン・イッサ(Mohsin Issa)とズーバー・イッサ(Zuber Issa)兄弟、中国のアパレルEC企業シェイン(SHEIN)、そして破綻した英百貨店デベナムズ(DEBENHAMS)を買収したばかりの英ECアパレル企業ブーフー(BOOHOO)などが有力視されている。

 英調査会社グローバルデータ(GLOBALDATA)のクロエ・コリンズ(Chloe Collins)=リテール部門シニア・リテール・アナリストは、「エイソスは『トップショップ』と客層が似ている上に、グローバルな事業展開をしている点が有利だ。中国企業のシェインは英国市場に慣れておらず、イッサ兄弟はアズダなどファミリー層がメインのブランドを得意としている。ブーフーはデベナムズを買収したばかりであることを考えると、エイソスとABGの一騎打ちになるのではないか」と分析した。

 エイソスは今回の買収が実現した場合には手元資金でまかなうとしており、業績が安定していることがうかがえる。実際、同社の20年9~12月期の売上高は前年同期比23.3%増の13億2580万ポンド(約1882億円)と好調だった。コロナ禍でオケージョン用のドレスなどの売り上げは減少したものの、アクティブユーザー数が110万増の2450万となったことによって全体としては増収となっている。

 アルカディアは英国内で400以上、海外で20以上の売り場を展開。従業員は全体で1万3000人ほど抱えている。同社は以前から経営破綻の危機に陥っており、19年6月には同社を所有する大富豪のフィリップ・グリーン(Philip Green)卿の妻が私財を投じて救済した。しかし年金も赤字となっており、およそ3億5000万ポンド(約497億円)の不足があると見られている。

 海外メディアの報道によれば、EC事業のみを展開しているエイソスは「トップショップ」などの実店舗には関心がなく、買収が成立した際には従業員の多くが失職する可能性が高いという。アルカディアが所有する不動産は別途売却されることになっており、今回の買収には含まれていない。

 ブーフーは1月25日、デベナムズを5500万ポンド(約78億円)で買収した。しかしこれはデベナムズのブランド、デベナムズが運営するブランド、ウェブサイトなどの事業資産が対象であり、やはり実店舗は含まれていない。従って在庫処理のために行われている閉店セールが終わり次第、全店が閉じられ、従業員のほとんどが解雇される。

 デベナムズはECへの参入が遅れたことなどが影響して業績が悪化し、19年4月に事実上の経営破綻に陥った。その後も店舗の営業を続け、債権者所有の新会社の下で再建を図っていたものの、20年4月に2回目の破綻となった。なおアルカディアは、デベナムズに「トップショップ」をはじめとする傘下ブランドを多数出店していた、最大のテナント会社だった。

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NEWS 02

ネット通販のアパレルは3割も 「返品が当たり前」のアメリカ 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。米国と日本の消費文化の違いはたくさんあるが、代表的なものが返品に対する考え方だろう。デジタル化で変化する米国の返品事情を報告する。

 小売業界団体のNRF(全米小売業連盟)によると2020年の年末商戦の売り上げは、前年の同じ時期に比べて8.3%増と予想を超えて大きな伸びに終わったという。過去5年間の平均値は3.5%増、19年末は4%増だった。NRFの予想では3.6~5.2%増だったので、例年と予想を大きく上回った。パンデミックが始まって以来、大手小売企業は異常ともいえる増収増益を続けており、歳末もその延長で終わったことになる。

 失業率が急増し消費は冷え込むかと思いきや逆に振れているわけだが、原因はいくつかある。

 1つ目は規制がかかった外食やレジャーといった分野の支出がモノに流れたこと。2つ目は中小のローカル小売店は壊滅的となったが、チェーンストアはデジタルシフトなど息を継ぐために必要な資金力があり営業を継続できたこと。3つ目は株高に代表される資産バブルが起きて給料は減ったが金融資産は増えたという人が増えて財布の紐が緩んだこと。

 そしてこの8.3%という高い成長率を支えているのがネット通販だった。NRFによると、ネット通販の売り上げは24%増。別の調査機関によると32.2%増(Adobe Analytics)、45.2%増(Digital Commerce 360)。ECは調査機関によってバラツキがあり複数の数値が出てくるのだが、非常に高い成長率で終わったことは間違いない。

膨大な返品が頭痛のタネ

 アメリカでは例年の恒例行事といえるのが、年末商戦後の年明けにやってくる返品の山である。日本人には返品は失礼だという倫理観があるので大問題とはなりづらい。だが、アメリカ人には返品に対する罪悪感のようなものは皆無なので、小売企業にとって返品は大きな頭痛の種になる。

 返品政策は企業戦略や競合状況に左右される。百貨店のノードストローム(NORDSTROM)が無条件返品を謳っているのは有名だが、これは顧客に対する高いサービスの一貫である。一方を競合が激しいと返品政策が緩くなる傾向がある。ウォルマート(WALMART)が急成長している時期にノードスロームと同じ無条件返品としていたことがあるが、これは競合企業に対抗するためである。

 NRFによると20年の返品総額は全体の10.6%にあたる4280億ドルと試算されている。この10%前後という数値はおおよそ業界の標準数値と思って良いのだが、記事にあるようにオートパーツの19.4%、アパレル12.2%、そしてハウスウエアの11.5%と商材の特性によってバラツキがある。

 これがネット通販(EC)になるとまた様相が異なってくる。昨年は大きなECシフトが起きたため売り上げが爆増しているのだが、ECの返品率はリアルのおよそ2倍の20%前後が業界標準なので、年末商戦後の返品ボリュームはさらに急増していると推定できる。さらにギフトが中心となる歳末は普段よりも返品率が高くなるので(およそ30%前後と言われる)、おそらく莫大な商品が返品フローへと逆流していることだろう。

 20年末の年末商戦返品額が700億ドルを超えると予測する調査会社があり、これは日本円にすると7兆円超という巨額な数字である。

 そしてこれもまたカテゴリーによって異なるのだが、EC市場における返品率は、アパレルが29%、家電16%、ホーム関連商品11%などで、アパレルがダントツで返品率が高い。届いた商品を試着して合わないから返品するという“買い方”に起因する理由だけではなくて、アマゾン(AMAZON)のプライムワードローブのように複数の商品を送り不必要なものを返品してもらうという“売り方”に起因する理由もあり、返品が増える要素が他のカテゴリーに比して多いのである。

 またECでは売りづらかった靴というカテゴリーで無料返品をうたい文句にして急成長したのがザッポス(ZAPPOS)で、この企業がパイオニアとなって業界標準を作ってしまったと考えている。消費者はもはや無料返品ポリシーを持っていないEC企業では買わなくなってしまっているのである。(次回に続く。2月掲載予定)

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最新号の読みどころ

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。