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イタリアのサステナ事情のぞき見

モードの国フランスに対し、イタリアはモノ作りの国というイメージが強く、イタリアのブランドは飛び道具的なアイデアの妙よりも、上質な素材や精緻な手仕事が魅力というケースが多いです。それは実直なモノ作りを強みとしてきた日本のファッション産業とも通じます。そんなイタリアのファッション産業が行っているサステナビリティのイベント、日本も参考にできる部分ありそうです。本日紹介する記事1本目をお読みください。

ローマ時代の遺構が舞台というのはなんともイタリアらしく(日本だったら京都のお寺で行うような感じでしょうか?)、規模も大きくやはり欧州は政治的な側面もありサステナビリティ政策が進んでいるんだな、などと圧倒されますが、記事の最後にある藪野通信員の所感を読むと実情がつかみやすいです。どこの国も模索中であるということですね。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

古代ローマ時代の市場でサステナビリティを考えるイベント開催 「ボッテガ・ヴェネタ」CEOなど100人のゲストスピーカーが登壇

伊NPOのサステイナブル・ファッション・イノベーション・ソサエティー(SUSTAINABLE FASHION INNOVATION SOCIETY、以下SFIS)は6月4日と5日の2日間、欧州議会と欧州委員会との提携によるフィジタル・サステナビリティ・エクスポ(PHYGITAL SUSTAINABILITY EXPO、以下PSE)をローマで開催した。PSEはファッション&デザインのサステナビリティに特化したイタリア初のイベントとして2019年にスタート。技術革新による“メード・イン・イタリー”の持続可能な産業への移行促進を目指している。

多彩なパネルトークからユニークなファッションショーまで

会場は、コロッセオやフォロ・ロマーノと同じエリアにある古代ローマ時代の市場跡地「トラヤヌスの市場」。世界遺産や歴史的建造物が至るところにある街ならではのロケーションと言える。そんなユニークな会場にステージや約15企業や団体の展示ブースを設けた。

5回目を迎えた今回は、ポリシーメーカーである政治家からファッションや素材、サステナビリティ関連企業のトップ、学者、NPOまで、イタリア国内を中心に17カ国から約100人のゲストスピーカーがステージに登壇。終日ひっきりなしにパネルトークやプレゼンテーション、レクチャー、公開インタビューなどが行われた。テーマやトピックは、EUやイタリアにおけるサステナビリティ関連の政策やイニシアチブをはじめ、素材や生産、小売、ESG投資、EPR(拡大生産者責任)、ダイバーシティー&インクルージョン、エネルギーまで多彩。大半はイタリア語で行われたが全て英語で同時通訳され、オンラインでも2言語でライブ配信された。

PSEがハイライトの一つに据えているのは、初日夜のナレーション付きファッションショーだ。披露したのは、出展者をはじめとする9ブランドが制作したアイテム。サステナビリティに対する意識を高めることを目的としており、モデルがランウエイに登場すると、その服の生産に用いられた技術革新やサステナブル素材の詳細、生産にかかる温室効果ガス排出量についてのナレーションが流れるという演出が特徴になっている。同イベントは一般客も無料で参加でき、ショーには若者を中心に地元の人も数多く集まった。

「ボッテガ・ヴェネタ」や「フェラガモ」など優れた“メード・イン・イタリー”を表彰

2日目の午前中には、“メード・イン・イタリー”の優れた取り組みを表彰する「サステイナブル・メード・イン・イタリー賞」の授賞式とトークセッションを開催した。クリエイティビティー&クラフツマンシップ部門は「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」、イタリアン・ヘリテージ部門は「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」、職人の知恵部門は「フェラガモ(FERRAGAMO)」が受賞。さらに、ファッションのデジタル化部門には「ユークス(YOOX)」の創業者でもあり、現在は英国のチャールズ国王が立ち上げた「ファッションタスクフォース(FASHION TASKFORCE)」の会長を務めるフェデリコ・マルケッティ(Federico Marchetti)、そして、メード・イン・イタリーの若手女性イノベーター部門にはイタリア製のオーガニックコットン繊維を手掛けるソーファイン(SOFINE)のアリアイ・ヴェントゥーリ・クアットリーニ(Aliai Venturi Quattrini)=マネジング・ディレクターが選ばれた。

ステージに登壇したバルトロメオ・ロンゴーネ(Bartolomeo Rongone)=ボッテガ・ヴェネタ最高経営責任者(CEO)は、同ブランドのモノづくりに欠かせない職人たちにフォーカスした短編映像「クラフト・イン・モーション」を流し、「まずサステナビリティなしに卓越性を実現することはできない。サステナビリティは、環境だけでなく、文化的な伝統や人においても言えることだ」とコメント。そして「『ボッテガ・ヴェネタ』は、クオリティーに対する厳格なアプローチで、丈夫かつ世代を超えて受け継げるような製品を作っている。また、常にクラフツマンシップの伝統を守ることにこだわり、責任を伴った成長にフォーカスしてきた。職人の手仕事はブランドの本質であり、従業員に適切な賃金を支払うことやベストな労働環境を保証することに取り組んでいる。企業は、自分たちが拠点とする地域そして国全体を守るために、コミュニティーに価値を還元し、良い環境を生み出していくことが必要だ」と続けた。

現在ミラノで大規模な展覧会も開催している「ドルチェ&ガッバーナ」のフェデーレ・ウザイ(Fedele Usai)=ジェネラル・ディレクターは、「展覧会でもイタリアのさまざまな地域のクラフツマンシップへの愛を感じられるだろう」とし、「イタリアには、国内にモノづくりの現場をたくさん有するという豊かさがある。(変化のためには、)自社の社員だけでなく、そのモノづくりに関わる全てのサプライチェーンを教育していくことが重要だ」と主張。「新たな世代はサプライチェーンの管理や説明責任を重視している。私たちが若かった頃と今の若者では何を信じるかという点で違う考えや視点があり、新世代を未来の消費者として捉えるだけでなく、その声に耳を傾けることも大切だと思う」と話した。

そして、ジェームス・フェラガモ(James Ferragamo)=フェラガモ グローバル・チーフ・トランスフォーメーション&サステナビリティ・オフィサーは、「ファッションブランドには今、継続的な成長と同時にサステナブルなビジネスモデルへの移行という目標に向かっていくことが求められる。このジレンマに対する解決策をサプライチェーン全体で考えていかなければならない。祖父のサルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)は戦時中、レザーやメタル、ラバーが使えない中、コルクやセロファンなどで靴を作り、クリエイティブであることを諦めずに成長を続けてきた。『フェラガモ』には、今でもそういった革新のDNAがある。私たちが目指しているのは、革新的かつサステナブルであることだ」と述べた。

主催者が語るイベントを続ける大切さ

ヴァレリア・マンガーニ(Valeria Mangani)SFISプレジデントは、PSE立ち上げのきっかけについて「イタリアの現状に危機感を覚え、ファッション業界のサステナビリティに対する認識を高める必要性を感じた。EUは2050年までに気候中立達成を目指しているが、EPRなどのさまざまな政策を打ち出すことよりも、(イタリアでは)まず生産者や消費者に自分たちが作ったり、買ったりするものについて考えてもらうことが重要だった」と振り返る。そして、「イタリアには世界的なビッグブランドもあるが、中小企業が多い。そのため、サステナビリティ実現のためのノウハウや資金、労力をもっていない企業も多く、適切な説明や支援が必要だ」と説明する。

現在抱える最も大きな課題について尋ねると、「二つあるが、一つはファッションにおけるサステナビリティ実現に向けた行政からの金銭的支援。そのため、経済発展省が設立した会合『テーブル・フォー・ファッション』の一員でもあるSFISは、ポリシーメーカーへのロビー活動を積極的に行なっている。もう一つは、人々のマインドセットを変えること。一朝一夕にはいかないが、特に中小企業における変化が急務だ」と語った。

現地で感じた意義と課題

イタリアの大手ファッション企業ではよりサステナブルなビジネスモデルへの変化や取り組みが進み、ミラノ・ファッション・ウイークを主催するイタリアファッション協会や「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」や「リネアペッレ(LINEA PELLE)」といった素材見本市でもサステナビリティへのフォーカスが見られる。しかし、国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が世界各国のSDGs達成度を評価した「サステナブル・デベロップメント・リポート」の23年版によると、イタリアは24位(ちなみに日本は21位)。北欧諸国やドイツ、フランスなどサステナビリティ先進国の多いヨーロッパでは遅れをとっているのが現状だ。そんな中、ファッション業界にとって重要な生産国、そして輸出国の一つでもあるイタリアでサステナビリティに対する意識を高めていくために、このようなイベントを継続して行う意義は大きい。

一方、実際に訪れてみて、イベントとしての課題が見えたのも事実だ。一つは、ゲストスピーカーの数は充実しているものの、各セッションや登壇者に与えられた時間が短かったこと。活発な意見交換や具体的なソリューション提案というよりも、それぞれの取り組みの紹介や意見表明というレベルにとどまり、結果的に深く掘り下げられていないことも多々ある印象を受けた。また、初日夜のファッションショーにはたくさんの来場者が見られたものの、日中はイベントの関係者やメディア以外の来場者はさほど多くなかった。ファッション業界やモノづくりに携わる人を対象にするにしても、一般消費者を対象にするにしても、「人々のマインドセットを変える」にはまずより多くの人を呼び込み、関心を持ってもらったり、考えるきっかけを与えたりすることが重要。専門用語や新たな技術が多く難しいと捉えられがちなサステナビリティのイベントにとって、当事者として身近に感じられるようなテーマや登壇者の選定、そしてより多くのワークショップのような参加型企画も大切だと感じた。ブラッシュアップの余地は大きく、今後の発展に期待したい。

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NEWS 02

ビーチクリーン体験で実感する「マイクロプラスチック回収の難しさ」

5月末の週末に茅ヶ崎へビーチクリーンの体験取材に行ってきました。主催は海洋汚染・水質汚染を軽減できるプラスチック代替素材の開発や消費財の企画、製造販売を行うサキュレアクト。同社は海洋汚染を少しでも減らせるようにとチーム530を組織し、2023年からビーチクリーン活動に取り組んでいます。

8ホテルで環境について学ぶ

集合場所は茅ヶ崎の8ホテル(8HOTEL)。9回目の今回は、家族や友人同士、1人で参加する人など約20人が集まりました。ホテル内にあるサウナ後の“ととのえ部屋”で塩原祥子サキュレアクト代表取締役が環境汚染の現状を語り、その後クイズ形式で地球環境の現在地を理解していきます。例えば、「南極の氷が全部溶けたら海面上昇はどの程度か?」の質問に、1.約60m、2.約30m、3.約90mの選択肢が出ます(正解は1です)。塩原代表は回答と共に「茅ヶ崎の海岸も侵食が進んでいるため、毎年砂を撒いている」など身近で起きていることも加えて伝えていました。

講義の最後は、今日からできることとして、
・燃えるゴミを分別して資源へ(雑ゴミに出す)
・買い物は必要なものだけを購入する
・過剰包装の物は買わない
・洗濯するときマイクロプラスチックを流さない洗濯ネットを使用する
・節電した生活を
・街中でゴミを見たら拾って、ゴミ箱へ
とリデュース、リユース、リサイクルの重要性を伝えます。

30分ほどの講義の後、ランチタイムに。地域のオーガニック野菜を使ったスープとメイン(ホットドックorチリコンカーンドック)、ドリンクを楽しみます。塩原代表は各テーブルを回り、参加者に講義で感じたことなどを聞いたり、談笑したりしていました。

無限に広がるマイクロプラスチック

ランチ後は20分程度歩き茅ヶ崎の海岸へ。海岸に着くとスタッフからトングとゴミ袋、手袋が配られ、ビーチクリーンを開始します。それぞれが思い思いの場所で、海岸に寄せられたゴミを拾っていきます。鎌倉在住の女性は「幼少時から鎌倉の海を見ていますが、年々汚染されているのが分かるんです。何か行動を起こさないと思っていたところ、インスタでビーチクリーンの参加者募集を見て応募しました」。彼女は「友人に鎌倉に観光に来てと誘えますけど、ビーチクリーン活動を一緒にやろうと誘いにくいんですよね」とも。男女問わず1人で参加する人が多かった理由は、そういう心理的ハードルの高さがあるのかもしれません。

「エレミニスト(ELEMINIST)」の営業担当者は、仕事で一度体験したそうですが、今回はプライベートで参加。前回必要に感じたことから使わなくなったステンレス製のメッシュザルを持参していました。そうなんです。海洋ゴミといえば、ペットボトルや空き缶などを思い浮かべがちですが、プラスチック製の商品が紫外線で細かくなり、砂と大差ない大きさになっているものが多いのです。マイクロプラスチックと言葉では理解していましたが、実際に無限に広がるマイクロプラスチックを目にすることで回収の難しさを痛感しました。砂と同じような大きさのものを選別して取るのは難しく、なおかつ風が吹いているとせっかくとっても飛んでしまうという状況に苦戦しました。

30分ほどのクリーン活動を終えると、回収した成果を発表します。大物自慢(笑)として、木片や魚網、マスク、洗濯バサミなどが集まりました。ちなみに前回(3月開催)は、ドラム缶やスニーカーなどがあったそうです。時期や天候によりゴミの種類が変わるとのこと。成果発表を終えた際、参加者の一人であるロシア人女性が、「食用油はトイレに流しますか?」と投げかけざわつきが。もちろん、誰一人して流す人はいませんでしたが、ロシアでは約半数がトイレに流しているという驚愕の事実を知りました。

環境問題の情報発信が少なすぎる

塩原代表は「日本は環境問題の情報発信が少なすぎます。共感する人を増やさないと状況は変わりません。自分たちができることから始めたんです」とチーム530を立ち上げました。インスタグラムで情報発信やビーチクリーン活動などを定期的に行っています。また8人のアンバサダーを起用し、それぞれが環境問題について発信しています。今後は滋賀や長野、愛知、神奈川、東京にいるアンバサダーと連携し、クリーン活動などの拠点を拡大したいそう。「茅ヶ崎と琵琶湖のクリーン活動を同時間に実施し、オンラインでつなげて作業することも視野に入れています」とのこと。

海洋汚染や地球環境の悪化は加速しています。近年は、九州の日本海側に生息するブリが北海道でも多く獲れるようになるなど、地球温暖化の影響は私たちの食生活にも直結しています。今ある生活を大きく変えなくとも、まずは自分でできる範囲で行動することから始めてみませんか。レクリエーション感覚でも楽しめるビーチクリーン活動、おすすめです。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。