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スマホで世界旅行

コレクションはパリやミラノだけではありません。世界各国のファッション・ウイークを取材するライターの井上エリ(ELIE INOUE)さんの現地リポートを編集していると、主要都市以外のローカルなファッション事情がよく分かり、パソコンやスマートフォンの画面上で世界旅行をしている気分になれます。

1本目の記事のウズベキスタンでは、普段着は自分で縫う習慣がまだ根強いという文化に驚きました。だからこそ初のファッション・ウイークではクチュールライクで豪華絢爛なピースがたくさん登場するのも納得です。一方で2本目のモルドバは、旧ソ連の構成国だった時代のカルチャーが残っており、わが道を堂々と進む参加者のスタイルが強い。両都市共に、ファッション・ウイークの4大都市で起こっているトレンドはほぼ存在せず、独自に育んできた文化へのプライドを感じました。現在はポルトガルの記事を編集中で、これもまた面白い。近日中に公開予定なので、お楽しみに。

大塚 千践
NEWS 01

謎多きウズベキスタンのファッション・ウイークを解き明かす5つの真実

ウズベキスタン・タシケントで初めて開催されたファッション・ウイークを取材してきました。初夏に行った「ビザ・ファッション・ウィーク・タシケント(Visa Fashion Week Tashkent以下、FWT)」は、インターコンチネンタル・タシケント・ホテル(InterContinental Tashkent Hotel)のメイン会場で8ブランドがショーを実施し、スケジュールにはトークイベントとディナーも組み込んでいます。「FWT」は一般参加型のファッションの祭典で、ゲスト数は約200人ほど。自国で初めてファッション・ウイークが開催されるとあって、地元の人たちは結婚式に出席するかのように豪華な一張羅をまとい、会場には華やかな光景が広がっていました。ファッション的にはまだまだ知らないことが多いウズベキスタンの姿に迫る、5つのトピックを紹介します。

1.ウズベキスタンのスタイル

さまざまな要素が混在する独特な雰囲気
日常着と民族衣装を融合した服装

ウズベキスタンは中央アジア5カ国の中で最も人口が多く、シルクロードに関連する史跡があることでも知られています。東西を結ぶ要所として栄えた歴史的背景は、多様な要素が混在するファッションのスタイルにも現れていました。西洋らしいボディーラインを強調した立体裁断のドレスに、中東の雰囲気を醸し出すイスラム教ならではのキリムの幾何学模様を多く用いて、着物の羽織りのようなウズベキスタンの民族衣装“チャパン”もランウエイにたくさん登場しました。“チャパン”をドレッシーでモダンな洋服へと昇華させているのが、ウズベキスタンで最も影響力のあるブランド「ディルドラ カシモヴァ(DILDORA KASIMOVA)」です。婚礼道具などの用途で盛んに作られる、色鮮やかな手刺しゅうの伝統的織物“スザニ”と、ビーズと刺しゅうで装飾した民族帽子“ツベテイカ”を組み合わせたスタイリングで、他国にはない独特なフォークロアのムードです。

2.ウズベキスタンのブランド

日常着を自作する文化が根付く
イベントで豪華絢爛なドレス登場

これら伝統的な織物と衣装を、ストリートスタイルと掛け合わせた「ニゴラ ハシモヴァ(NIGORA HASHIMOVA)」は若者からの支持が高く、リアルクローズを意識したデザインが好感です。ウズベキスタンのようにファッション市場が小規模な国では小売業は発展しておらず受注生産が基本で、日常着は自作する文化が未だ根付いてるため、「ズルフィヤ スルターン(ZULFIYA SULTON)」や「ディー ウスマノヴァ(DEE USMANOVA)」、隣国カザフスタンから参加した「ズサケン(ZHSAKEN)」もイブニングウエア中心のコレクションでした。オートクチュール・ファッション・ウイークのような、伝統的な職人技術を生かした百花繚乱なドレスに眼福でした。

3.ウズベキスタンのマーケット

柄と柄を合わせたにぎやかな街並み
“モア・イズ・モア”の美意識根付く

タシケントは冬の気温がマイナスまで下がる一方で、夏には45度以上になるという典型的な内陸性気候。「FWT」の時期も30度を超える厳しい暑さでした。それでもウズベキスタンの文化に触れるべく、地元の人が集うという最大の屋外マーケットとモスク、美術館を訪れることにしました。マーケットは広大すぎて周りきることができませんでしたが、日用品からアパレル、食材、さらには家畜用のニワトリまで売買されており、何でもそろいそうでした。テーブルウエアも洋服も、ランウエイで見た色彩豊かな幾何学模様だらけで、モスクや美術館、カフェの装飾も柄と柄を組み合わせる“モア・イズ・モア”な美意識が反映されていました。人口の約90%がイスラム教を信仰しているため街中にはモスクが点在し、ヒジャブを着用する女性も多く見かけます。

滞在中に私のパーソナルガイドをしてくれたタシケント育ちの20歳の女性によると、ウズベキスタンは伝統を重んじる保守派の勢力が強く、女性は16歳になるとお見合い結婚で嫁入りし、専業主婦になるのが一般的。女性の社会進出は未だ進んでおらず、またそれが問題視されることもなく、彼女のように大学へと進学し、社会的自立を目指す女性はかなり少数派とのこと。女性は声をあげられないのか、完全に受け入れているのか、異なる文化で育った私には想像できませんが、違った価値観を持つ人々と触れ合うことができるのは旅の醍醐味だと改めて感じました。

4.ウズベキスタンの食事

主食は米と麺でキムチも人気
代表料理“オシュ”は驚きの味

今回の旅が充実していたのは、食事が舌に合ったことも関係しています。米と麺料理が主食で、スパイスを効かせたトルコ料理に近い食文化という印象でした。代表的なウズベキスタン料理“オシュ”は、肉と野菜、米を一緒に炊き上げるピラフのようなレシピで、あまりにおいしくてレシピを聞いて自宅でも作ってみたほどでした。イスラム教なので豚肉は使用しませんが、牛肉や羊肉、中央アジアでよく食べられる馬肉の料理も豊富です。あとは、パイ生地の中にひき肉や季節の野菜を詰めたミートパイのような“サモサ”もハマってしまうおいしさでした。また、ウズベキスタンには第二次大戦直前に朝鮮半島から強制移住させられた、高麗人(コリョサラム)と呼ばれる朝鮮系の人々が長らく住んでおり、惣菜売り場ではキムチをよく見かけました。

5.ウズベキスタンのイチ押し

高麗人が手掛ける「J.キム」に期待
伝統と多国籍カルチャーをミックス

今回出合ったブランドの中で最も興味を引かれたのは、高麗人としてのルーツを持つウズベキスタン生まれロシア育ちのジェニア・キム(Jenia Kim)による「ジェイ キム(J.KIM)」でした。キムはタシケントを拠点に2014年にブランドを設立し、ウズベキスタンと韓国の民族衣装や建築、ライフスタイルを、多文化的な背景を持つ彼女の視点を通してリアルクローズで表現します。ウズベキスタンで見つけたデッドストックの生地や地元職人による伝統的な織物を、韓国を起源とするシェイプに織り交ぜたミックスカルチャーが魅力です。

シグネチャーは、カットアウトで施すフラワーモチーフ。西洋の大胆な肌見せによる色気と、東洋のにじみ出る官能性といった異なるフェミニニティーが融合している点に、彼女らしさを感じます。私は彼女のドレスをお土産に持ち帰り、異国情緒溢れるウズベキスタンの旅を締めくくりました。

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NEWS 02

【スナップ】東欧モルドバの“度が過ぎる”個性 若者はアングラムードで自由を謳歌

東欧に位置するモルドバの首都キシナウで、ファッションの祭典「モルドバン・ブランズ・ランウエイ(Moldovan Brands Runway)」が9月に開催された。同イベントではメイン会場でトークショーとランウエイショーが2日間にわたって行われ、一般参加可能だったため地元の美術大学学生も多く参加した。

会場で見かけたのは、旧ソビエト連邦各国で見られる、エッジの効いたアンダーグラウンドなスタイルだ。テーラリング主軸のモルドバ発ブランド「ストローパ(STOROPA)」のジャケットや、隣国ルーマニアに拠点を置くゴシック調な世界観の「アレクサンドリュ フロアレア(ALEXANDRU FLOAREA)」のコルセットを着用する来場者もいた。

ただ、多くの若者は古着を自ら解体し、再構築した独自性の高い洋服をまとっていた。ツヤ感のあるハードなレザーと相反する繊細なレース、ランジェリーによる大胆な露出。そして、ボディーラインを強調する古典的なコルセットがあれば、SF映画さながらのビッグフレームのサングラスもあり、時代もカテゴリーも異なるアイテムを自由自在にミックスさせて、個性を表現する独自のスタイルが印象的だった。

ウィメンズ

全然“クワイエット”じゃない
大胆主張の派手スタイル

メンズ

ストリート派は王道寄り
モード系はクセ者ぞろい

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最新号の読みどころ

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。