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記憶も受け継ぐ服
「コーチ」の“古いものを愛で更新・継承していくことがラグジュアリー”という価値観は、第3子となる娘をもうけたばかりのスチュアート・ヴィヴァースにとって、より実感をともなった、温かみのある言葉になったようです。
長女から次女へと受け継ぐ服は、残るシミやほつれも含めて、豊かな記憶と共に共有されていく。「それはまるで、姉から妹へのラブレターのようだ」というヴィヴァースの言葉が印象的でした。共有される記憶がさらに新しいものへとつながっていく、その姿勢がコレクションにも通底していました。
リサイクルとは次の持ち主へのラブレター 「コーチ」はアメリカンクラシックを横断して文化と記憶を共有
「コーチ(COACH)」の2026-27年秋冬コレクションは、ニューヨークという街を飛び出し、世代や時代、地理といった境界を越えて紡がれる「アメリカンファッション」にフォーカスした。クリエイティブ・ディレクターのスチュアート・ヴィヴァース(Stuart Vevers)は、アメリカのクラシックな要素を横断的に継承し、現代的な視点で更新。その先には「コーチ」が見据える新世代の未来像が描かれている。
コレクション発表の9日前に第3子となる娘を迎えたヴィヴァースは、喜びに満ちていた。ビンテージウエアに魅了され、「コーチ」においても実験を重ねるかのように技術的側面を追求し、素材や加工でその風合いを表現してきた。実際にリパーパスやリサイクル素材を積極的に取り入れている。環境へのコミットメントを掲げるとともに、古いものを愛で更新・継承していくことがラグジュアリーという価値観を提示し続けてきた。今季も例に漏れず、ビンテージ感を宿すディテールは健在だが、子どもを迎える過程では新たな気づきがあったという。
「長女の服を取り出し、次女のために準備をしていたとき、そこに残るシミやほつれの意味に思いを巡らせた。それはまるで、姉から妹へのラブレターのようだ。二人が同じ女性になることはないけれど、人生のはじまりから触れ合う何かを、確かに共有している。サステナビリティやリパーパスの技術的側面を学んだからこそ、いま私たちは、その背後にある感情の言語を受け取ることができる。リサイクルとは、共有することだ。共有した衣服は、私たちを静かに結びつける。他者の人生によってかたちづくられたものを、私たちは日々、自らの人生へと取り込みながら、少しずつ適応させていく」とヴィヴァースは語っている。
アメリカの象徴を纏ったピース
共有される記憶は進化し、今に続く
ファーストルックはインサイドアウト仕様のテーラードジャケットにレザーブルゾン、ダメージ加工を施したデニムスカートのコーディネート。構築的なショルダーラインが印象的な1940年代のテーラリングジャケットや、フットボールTシャツを想起させる70年代スポーツウェアの要素を融合する。前半はモノトーンで統一し、静かな緊張感を漂わせた。フレアシルエットやショートデニムにはウォッシュやダメージ加工を施し、使い込まれたようなビンテージのムードを醸し出している。ショーが進むにつれて差し込んだ赤や青には、「不穏なフィルム・ノワールのセピア調から、『オズ(の魔法使い)』を思わせる鮮やかなカラーへと移ろう視覚表現を通して、新しい世代が次なる冒険へ踏み出す姿を描き出した。そこには、世代を越えて共有される楽観主義を重ねている。歴史を感じさせるクラフトを礎にしながら、数十年にわたる若者たちのカウンターカルチャーをつなぐ対話をいまも静かに続けている」との意味を込めた。
色を取り入れたコーディネートも、ほのかなレトロ感を漂わせる。アウターやテーラードジャケットの裾はほつれ、クラシックなドレスのレースにもダメージ加工をプラスした。そうしたディテールを重ねることでグランジの要素を忍ばせ、反骨のメッセージを静かに投げかける。モデルが小脇に抱えるバッグは使い古された野球のグローブをかたどり、スニーカーやソックスにもダメージ加工を施した。
ショーでは、1940年代のバーシティジャケット、90年代のスケートショーツ、フェアアイルやイーグルモチーフのニットなど、アメリカンファッションを形づくってきたアイコニックなピースが随所に登場。素材や加工、シルエットは現代的に更新し、過去を参照しながら、その価値を再編成して次世代へと接続しようと試みた。ヴィヴァースが語る「リサイクルとは共有すること」という言葉は、物理的な再利用を超え、文化や記憶を共有する姿勢を指している。過去は現在と結び直され、未来へと引き渡されていく。
虎の子「オニツカ」 あえて成長減速
「ブランドを守ることが非常に重要なカテゴリーだ。売り上げを求めすぎて価値が毀損するのは避けなければいけない」――。アシックスのは廣田康人会長は、2025年12月期の決算説明会でそう語った。ブランドとは急成長中の「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」を指す。
2026年12月期(26年度)の業績予想で「オニツカ」の売上高を前期比11%増の1520億円とした。2ケタ増収ではあるが、23年度の40%増630億円、24年度の58%増954億円、25年度の43%増1365億円といった高成長を踏まえると、一服感が否めない。26年度の成長ドライバーの役割は、「オニツカ」と同じくファッションスニーカーとして人気の「スポーツスタイル」(“ゲルカヤノ14”など)に譲る。「スポーツスタイル」は45%増の2050億円を計画する。
「オニツカ」の売上高の半分を占める日本市場では、26年度の伸び率を8%増に抑える。25年度は64%増だった。
拡販に慎重なのは、同社にとって「オニツカ」が虎の子ともいえる優良事業だからだ。主力のランニングシューズに売り上げ規模こそ及ばないが、25年度のカテゴリー利益率(営業利益率に相当)は37.7%と極めて高い。
創業精神とDNAを引き継ぐ「オニツカ」は、「日本発のラグジュアリー・ライフスタイル・ブランド」を標榜し、高付加価値を追求してきた。今年1月には創業者・鬼塚喜八郎の故郷、鳥取県に専用工場オニツカイノベーティブファクトリーを開所したばかり。今後もブランド価値を高めるため、供給量は緻密にコントロールする必要がある。
販売は直営店および直営ECのみで、国内の直営店は43店舗。ブランドの性格上、出店先も厳選し、むやみには増やさない。人気沸騰によって東京や大阪の繁華街の店舗は常に大勢の訪日客でごった返しており、当面の課題は混雑の緩和にある。大型店を増やすなどして、少しでも落ち着いた売り場環境を作る考えだ。
「オニツカ」のけん引役が訪日客であることは間違いない。アシックスの日本における25年度のインバウンド売上高は474億円(うち「オニツカ」415億円)だった。内訳は中国116億円(前年比52%増)、米国76億円(同180%増)、フィリピン43億円(同43%増)、台湾34億円(同135%増)、韓国30億円(同2%増)、その他175億円(同117%増)で、中国に集中することなく分散している。昨年末からの中国人客減少によるダメージも吸収できると見る。