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退任もドリスらしく
ドリス退任の報に寂しさを感じている人は非常に多いでしょうが、2018年にプーチに株の過半を売却した時には既に、ブランドの承継が頭にあったんでしょうね。大切な大切なブランドを、ちゃんと段取りをつけて、無理のないように次に託していく。それもまた、非常にドリスのイメージと合致していると感じました。
本人の書簡を読むと充実感にあふれていて、ブランドに関わった全ての人(インドの刺しゅう職人など)への感謝を欠かさないところも、非常にドリスっぽいです。ただ一方で、彼の退任は一つの時代の終わりを象徴しているようにも感じます。ファッションショーが、新しい美しさや時代性の表現を世に問う場ではなく、壮大なマーケティング・プロモーションの場所に変わり、コロナ後は目に見えてその傾向が加速しています。ドリスはその流れに抗する数少ないデザイナーの1人でしたから。でも、これからもブランドは事前準備の甲斐あって盤石な形で続いていくわけですし、感傷的になり過ぎるのもよくないですね。
ドリス・ヴァン・ノッテンが退任 6月の2025年春夏メンズを最後に
「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」の創業者であり、40年近くクリエイションを率いてきたベルギー人ファッションデザイナーのドリス・ヴァン・ノッテンは、米「WWD」の取材に対し、6月に退任することを認めた。現役としての最後のショーは、6月のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク中に予定されている2025年春夏メンズ・コレクションになる。ドリスは、米WWDに独占公開した声明の中で、「そのうちにブランドのストーリーを引き継ぐデザイナーを発表する」とし、「私はこの瞬間のためにしばらく準備をしてきた。新しい世代の才能がブランドにビジョンをもたらすために、彼らに余地を残すべき時だと感じている」とコメント。関係者によると、後継者探しはここ数カ月のうちに、静かに始まったという。
独創的でありながら美しい色使いやプリント、エキゾチックなディテールで彩られたスタイルで多くの人に愛されてきた現在65歳のデザイナーは、18年にメゾンの株式の過半数をスペインのプーチグループに売却した時から後継者への継承のロードマップを築いていた。プーチは買収当時、ドリスが少数ではあるが株式を長期間保有し、「チーフ・クリエイティブ・オフィサー兼会長として取締役会にも参加する」としていた。同社は明言していなかったが、ドリスは最低5年はクリエイションの最前線に立ち続ける想定だったようだ。
後継については、彼の右腕が最有力だが、一方でヨーロッパのデザイナーとの交渉は始まっているとの話もある。秋に開くウィメンズ・コレクションについて、ドリスは「仕事を共にしてきたデザインチームが手がけるだろう。彼らは、素晴らしいコレクションを生み出すはず。私には、その自信がある」と話しつつ、「一方で、後継デザイナーについては、追ってアナウンスしたい。ただ、宝物のように大事なブランドには、これからも何らかの形で関わるつもりだ」としている。
プーチのマーク・プーチ(Marc Puig)会長兼最高経営責任者は、「ドリスが38年のキャリアに区切りをつけ、第一線を退く決断をしたことに敬意を表したい。プーチは、彼のレガシーを未来へとつなげる。まずはドリスと我々にとって、刺激的な新章をスタートしたい」としている。
ドリスは、1958年ベルギー・アントワープ生まれ。テーラー家系の3世代目として生まれた彼は、若い頃からファッションに触れて育ち、18歳からアントワープ王立芸術アカデミー(Royal Academy of Fine Arts Antwerp)でファッションデザインを学んだ。卒業後、フリーランスとして活動した後、86年に自身の名を冠したブランドを設立し、アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)やウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)、マリナ・イー(Marina Yee)らと共に「アントワープの6人(The Antwerp Six)」としてロンドンでコレクションを発表。89年にはアントワープに旗艦店を開いた。91年からパリ・メンズ・ファッション・ウイークでメンズを発表。93年からはパリ・ウィメンズ・ファッション・ウィークにも参加し、シーズンごとにメンズ・ウィメンズそれぞれのショーを開催。2007年にパリのセーヌ川沿いに旗艦店を構え、09年には東京にも旗艦店をオープンした。18年にメゾンの株式の過半数をプーチに売却し、21年12月には「バレンシアガ」や「メゾン マルジェラ」「ジル サンダー」で要職を務めたアクセル・ケラー(Axel Keller)CEOが就任。22年には、フレグランスやリップスティックから成るビューティラインをローンチした。現在は米ロサンゼルス、中国では上海、深圳など複数都市にもショップを構え、23年7月にはセーヌ川沿いにあるウィメンズとメンズの旗艦店の間にビューティとアクセサリーに特化した新店を開いた。
ドリスは多くのベルギー人デザイナー同様、プレ・コレクションや広告、セレブリティの着せ込み、ハンドバッグビジネスの拡大などを避け、一般的にブランド発展のために用いれらる道筋の多くに抵抗してきた。そんな彼の生み出すコレクションには服をこよなく愛する姿勢が感じられ、それが服好きの共感を呼んでいる。14年にパリ装飾美術館で開催した大規模展覧会「ドリス・ヴァン・ノッテン インスピレーションズ(Dries Van Noten Inspirations)」では、コレクションの着想源やそこから生まれた服を並べ、クリエイションの過程を惜しげもなく披露。その翌年には、アントワープのモード博物館(MoMu)でも開催されたが、ドリスの頭の中を覗き込むよう展示は大きな話題を集めた。またショー演出へのこだわりも強く、設立初期から演出家のエティエンヌ・ルッソ(Etienne Russo)と共に、数々の記憶に残るショーを作り上げてきた。17年3月には通算100回目のショーを開催。同年、その回顧録となる2冊の本「ドリス ヴァン ノッテン 1-100(Dries Van Noten 1-100)」が発行されたほか、ドキュメンタリー映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」も公開された。
退任を決めたドリス・ヴァン・ノッテンからの公式レターを公開

ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)は、自身が1986年に創業したブランド「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のクリエイティブ・ディレクターを6月で退くことを発表した。一報を出した後の反響の大きさからは、ドリスがどれだけファッション業界や服好きから愛されてきたが伺える。そして、退任にショックを受ける人々が知りたいのは、何よりもドリス自身の言葉だろう。ここでは、ドリス本人からのレターを公開する。
1980年代初頭、アントワープ出身の若者だった私が描いた夢は、ファッションの中に何かを伝える声をもつことでした。ロンドン、パリ、さらにその先へ私を導いたこの旅を通して、そして数え切れないほどの人々の協力や支えによって、その夢は実現しました。
そしてこれからは、これまで時間を割くことのできなかったすべてのことに焦点を移したいと思っています。このように6月末をもって退任することをお知らせするのは悲しくもあり、同時に嬉しくもあります。私はこの時に備え、しばらくの間準備をしてきました。そして、新しい世代の才能がブランドに新たなビジョンをもたらす余地を残す時期が来たと感じています。
次の2025年春夏メンズ・コレクションが、私の「ドリス ヴァン ノッテン」での現在の役割における最後のショーとなります。
25年春夏ウィメンズ・コレクションについては、長年にわたり非常に緊密に協力してきた私のスタジオ・チームが制作します。彼らは、必ず素晴らしい仕事をしてくれるでしょう。
今後適切な時期に、「ドリス ヴァン ノッテン」のメンズとウィメンズのストーリーを引き継ぐデザイナーを発表する予定です。
しかしながら、私は自分がとても大切にしているこのメゾンに引き続き関わることになります。
マーク・プーチ(Marc Puig)、マヌエル・プーチ(Manuel Puig)、ホセ・マヌエル・アルベサ(Jose Manuel Albesa)、アナ・トリアス(Ana Trias)をはじめ、私たちを信じ続け、さらに強力な会社の構築に協力してくれたプーチ(Puig)の関係者に感謝します。
また、ファブリックやアクセサリーのサプライヤー、アトリエ、メーカー、インドの刺しゅうに携わる人々、そしてたくさんの美しいアイデアを実現するために協力してくれたすべての人に感謝の意を表します。
「ドリス ヴァン ノッテン」チームの全員にも感謝の気持ちでいっぱいです。この数年間、正確に言えば38年間、あなたたちは私にショーを開催し、ショップをオープンし、年に4つのコレクションを制作し、「ドリス ヴァン ノッテン」というブランドを今日の成功に導く機会とエネルギーを与えてくれました。
プーチが私たちのビジネスの一部となって以来、私たちが望むとおりに成長を続けることができました。ビューティと香水のラインが加わり、アクセサリーを拡張し、eコマースをスタートし、エキサイティングで革新的なショップをオープンしました。このブランドには今、たくさんの花が咲き誇っている。庭と同じように、ここに何を植えるかを決めるのはあなたたちです。やがてそれは育ち、ある時が来れば花は咲き続けるのです。
そして言うまでもなく、私とともに全てのコレクション制作に関わり、一番初めからこのメゾンを築くためにサポートし続けてくれたパトリック・ファンヘルーヴェ(Patrick Vangheluwe)に深く感謝します。
最後になりましたが、私たちの活動を愛してくださっているすべての人に、心からの感謝をお伝えしたいと思います。私たちの服が世に出るのを目にし、着る人の人生の中に、その服の居場所があることを知る...。そのことに、私は言葉では言い表せないほどの充実感を感じています。
そして今、私は確信しています。
「ドリス ヴァン ノッテン」の未来は、これからも明るく輝き続けることを。
LOVE,
DRIES
「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。