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35歳が作る「マックイーン」
90年代後半のリー・アレキサンダー・マックイーンによるコレクションにときめいていたアラフィフとしては、35歳のショーン・マクギアーが「アレキサンダー・マックイーン」について、一体どんな解釈をするのか大変興味深いです。
ショーの後半にエンヤの「オリノコ・フロウ」(1988年)が流れて、「おぉ〜」と思いつつも、フェティッシュでスペクタクルな演出が魅力だった鬼才のファンには、正直ちょっと物足りない……。
でも、90年代後半に活躍したデザイナーで、後継者が引き継いで、なお続いているブランドは本当に一握りです(現役のデザイナーも多数いるからではありますが)。リーの美意識を直接引き継いだサラ・バートンから受け取ったバトン(レガシー)を、どう発展させていくのか。個人的にはシューズに個性を感じました。
新生「アレキサンダー・マックイーン」初披露 35歳のマクギアーが考えるアウトサイダー

「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」は3月1日夜(現地時間)、ショーン・マクギアー(Sean McGirr)新クリエイティブ・ディレクターによるデビューショーを開いた。会場は、パリ南東部の中華街にある食品卸売市場跡。コンクリートの殺風景な空間には風に揺れる白いパラシュートクロスの幕を垂らし、工業資材のスポンジをチューブ状にした客席はアシッドイエローのブランケットで覆った。そして、ショーはマクギアーの故郷であるアイルランドを代表する歌手エンヤ(Enya)の「ボーディシア(Boadicea)」で幕を開けた。
強烈な個性を持つキャラクターを表現
昨年12月に着任した現在35歳のマクギアーが初めて手掛ける2024-25年秋冬コレクションの出発点は、創業者のリー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)がアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)監督の映画作品「鳥」に着想を得て制作した1995年春夏の“ザ・バーズ(The Birds)”コレクション。具体的には、透明なフィルムで作られたタイトなドレスからイメージをふくらませた。ファーストルックは、その圧縮されたようなシルエットをビニールのように光沢のある黒のラミネートジャージーで再解釈。鋭い眼差しのモデルは両手をドレスの中に突っ込み、つま先が鋭く尖ったハイヒールのショートブーツで足早にランウエイを闊歩する。
今回、彼が表現したのは、「自分がストリートで出会いたくなるような強烈な個性を放つ特異なキャラクター。(ロンドンの)イーストエンドの荒々しいグラマーやボロボロの華やかさに強い関心を抱いている」という。そして、「リーが世に送り出したメッセージは、かつてないほど重要になっている。彼はある意味、メーンストリームのファッションで起こっていることの正反対に取り組んでいたし、ショーのモデルたちはアウトサイダーのようだった。今は極めて礼儀正しい世の中だからこそ、私はそんな“アンチ・ポライトネス(礼儀に反する)”という考えに引かれる」と説明する。モデルたちの猫背でポケットに手を突っ込みながら歩く姿や威嚇するような態度は、それを映し出しているようだ。
「アーカイブが別の場所に移設されていることもあり、本格的に掘り下げる時間はなかった」とマクギアーは明かしたが、「アレキサンダー・マックイーン」らしさは随所に見られる。ブランドに欠かせない強いショルダーラインのテーラリングは健在。着用者にもストイックさが求められたこれまでより少し柔らかでルーズなシルエットもあり、ロープ状のベルトを巻いてウエストやアームを絞ったり、全体に黒のストーンをちりばめたりしたデザインが目を引く。また、ウィメンズのスリムなロングチェスターコートは、水平に飛び出した肩からフレアの袖までの有機的なラインが特徴。メンズはスーツに鮮やかな色の開襟シャツを合わせたり、レザーコートに同素材のフェドーラハットを合わせたりして、ギャングスターのようなイメージを醸し出す。テーラリングのアクセントとして背中にあしらわれたのは、小さなメタルバー付きのチェーン。これはリーが手掛けたスカートから引用したもので、サイズを拡大してアクセサリーのデザインにも生かされている。
そして、リーのクリエイションに見られた“動物性”は、コンパクトなジャケットから飛び出すボリュームたっぷりのシアリングベストやジーンズの前面にシアリングのラインをあしらったデニム、馬蹄や尻尾のついたショートブーツで垣間見せる。英国の伝統的なニットの表現では、ケーブル編みとハニカム編みを組み合わせ、端をラフに仕上げたジャケット、ブラトップ、スカートのセットアップなどを提案。ハンマーで叩いたスパンコールをびっしりあしらったり、砕いたシャンデリアと自転車のリフレクターの破片を縫い付けたりしたドレスは、破壊的なエレガンスの彼ならではの解釈ととれる。
コレクションには、極端なボリュームでデフォルメしたローゲージニットや、整備士である父との子供の頃の会話にちなんで“ランボルギーニ・イエロー”や“アストンマーティン・ブルー”で彩ったモールド成形のメタルドレス、長い袖がつながって垂れるフルイドなドレスなど、コンセプチュアルなアイデアも多く見られた。これまでの経歴(「ユニクロ(UNIQLO)」のクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)のチームや「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」そして「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」など)を考えると、彼にはリアリティーのあるデザインとのバランスを取る力もあるはずで、ショーピースのアイデアをどのようにコマーシャルピースで打ち出していくかも気になるところだ。
メゾンにもたらす若々しいエネルギー
「自分の役割は、すでにボキャブラリーのあるブランドに新たなエネルギーを持ち込むこと」と話したマクギアーのデビューショーは、間違いなくブランドに若々しさをもたらした。しかし、やや既視感のあるデザインも含め、コラージュのように彼の頭の中にあるさまざまなアイデアを混ざり合ったことにより、一貫性のあるストーリーを感じることができなかったのも事実だ。
ブランドが誕生してから22年。2001年にはケリング傘下に入り、10年にリーがこの世を去った後は彼の右腕だったサラ・バートン(Sarah Burton)がその遺産を守りながら、ラグジュアリーブランドへの発展を率いてきた。そんな「アレキサンダー・マックイーン」は、今なお創業者が確立した美学や世界観の印象が強いブランド。その後継というのは、誰にとっても高いハードルだ。ましてラグジュアリーメゾンでの経験も浅く、アーカイブもまだ掘り下げられていないマクギアーの実力を知るには、もう少し時間がかかるだろう。すぐに目に見える結果を求められる昨今のラグジュアリーファッション業界だが、外部から起用されたクリエイティブ・ディレクターが1、2シーズンで真価を発揮するのは至難の業。少し長い目で見る姿勢が必要だ。
「ルルレモン」、環境団体からグリーン・ウォッシュの指摘を受ける
環境保護団体のスタンドアース(Stand.earth)はこのほど、カナダ・バンクーバー発のルルレモン(LULULEMON)が見せかけの環境配慮を主張する「グリーンウォッシング」をしているとしてカナダの規制当局に提訴した。
39ページにおよぶ訴状では、ルルレモンはコロナ禍でサプライチェーンが混乱した2022年の上半期において航空輸送の利用を「大幅に増加」し、「環境への影響を軽視している」と指摘した。またマイクロプラスチック汚染を引き起こしながら、「些細な」環境への取り組みを過度に強調して事実と異なる印象を与えていること、「健やかな地球環境の回復」という非現実的な「ビジョン」や「ゴール」を掲げ、そのような「驚くべき変革」を達成するための具体的な言及がないことなどを非難した。スタンドアースの顧問弁護士はルルレモンの「Be Planet」のメッセージを掲げたキャンペーンは、「虚偽または誤解を招く表現の疑い」があるとし、調査を求めている。調査の結果上記の主張が適切であると判断された場合には、その主張に影響を受けたすべての人々に通知することを求める命令や、全世界の年間総収入の3%を上限とする罰金などが考えられるという。
年間50万台の車が道路を走るのに匹敵する二酸化炭素を排出
スタンドアースのメンバーのツェポラ・バーマン(Tzeporah Berman)は記者会見で、「カナダで最も影響力のある企業の1つであるルルレモンは、環境負荷低減の目標を設定しているが、環境に配慮した企業であるという主張には矛盾がある」と話す。ルルレモンは事業における二酸化炭素の間接的排出を指すスコープ3において、30年までに60%の削減を目標値としていたが、同社が発表した最新の報告書では、18年〜22年の間に排出量は128.6%増加していることがわかった。
「ルルレモンの年間の排出量は、50万台の車が道路を走るのに匹敵する。多くのバンクーバー市民がそうであるように、私もファッション産業におけるウエルネスカルチャーの火付け役であるルルレモンを誇りに感じていた。だからこそ、私が同ブランドで購入したレギンスがグローバルサウスで大気汚染を引き起こし、気候変動に加担していると知った時は非常にがっかりした」とバーマン。
ルルレモンは具体策を持って取り組んでいると主張
ルルレモン側は、30年を達成年度とする気候目標に向け具体策を持って取り組んでおり、50年までにネットゼロを目指していると主張する。米ソーシング・ジャーナルの取材に対し、同社の広報担当者は「22年はスコープ3において製品単位での削減を計測した。他社と同様に、より精緻な数値を得るため計測方法の改善にも取り組んでいきたい」と話した。そして、「再生可能エネルギーへの完全な切り替えと、自社および運営施設において温室効果ガスの絶対排出量を60%削減する目標をクリアしたことを誇りに思う」と付け加えた。
スタンドアースはこれまでにもルルレモンの取り組みを批判している。過去2年間ではカンボジアや中国、ベトナムの石炭火力発電所に強く依存していることを非難。また「H&M」や「ナイキ(NIKE)」などが、インフラが不足する地域での再生可能エネルギーの利用拡大に向け政府や産業に働きかけているのに対して、非協力的であるとも指摘した。スタンドアースは繰り返しルルレモンの経営陣に警告してきたにもかかわらず行動を起こさず、自分たちを環境問題に取り組む先駆的企業と位置付けている点が問題だという。
ルルレモンは、非営利団体「アパレル・インパクト・インスティチュート(Apparel Impact Institute)」の気候変動対策の資金に1000万ドル(約15億円)を出資したり、25年までに少なくとも75%の素材をリサイクルや再生素材に切り替えると公約し、植物由来原料の素材開発などを進めたりしている。また、「ニュー・クライメート・インスティテュート(NewClimate Institute)」の分析では、自社の事業におけるエネルギー使用や排出量について詳細な情報開示を行っていると高評価を得ている。
しかし、スタンドアースはルルレモンはさらに高い目標を掲げるべきだと話す。同団体が化石燃料に依存しないファッション企業を評価する指標では、ルルレモンの評価はC-で気候目標が競合よりも遅れをとっているとコメントした。
バーマンは「ルルレモンは、地球をより健康的な場所にするというメッセージを掲げるべきではない。サプライチェーン全体から化石燃料を排除するための、意味のあるコミットメントと透明性のある計画の発表を求めたい」と話した。
「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。