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在庫とテクノロジーのダブル出費が重かった?

ファーフェッチが苦境に立つ中、デジタル百貨店の「246セレクト」はLVMHグループのブランドの支持を得てスタートしました。無論規模感は大きく異なりますが、プラットフォームとしての明暗が分かれた格好でしょうか?

ファーフェッチにおいては、買収したニューガーズグループに関する負担が重くのしかかった印象があります。そもそも在庫を持たないプラットフォームビジネスだったはずが、ニューガーズ傘下のラグジュアリー・ストリート・ブランドを手掛けることで在庫を持ち、テクノロジーのアップデート同様、大きな負担になったのではないか?ラグジュアリー・ストリートの潮目が変わったことも影響したことでしょう。

「WWDJAPAN」編集長
村上 要
NEWS 01

ファーフェッチ、経営破綻まで秒読みか 事業売却が成立しなければ管財人の管理下に

高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)が、経営破綻の瀬戸際にあることが明らかになった。現時点で少なくとも2社の買い手候補がいるものの、近日中に取引が成立しない場合に備え、本拠地の英国ですでに管財人の選定を進めているという。なお、買い手候補の一人は大手ファッションECサイト「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」の共同設立者である起業家兼投資家のカルメン・バスケッツ(Carmen Busquets)で、もう1社は個人投資家ではなく企業と見られている。

バスケッツ「ネッタポルテ」共同設立者は、ファーフェッチやモーダ・オペランディ(MODA OPERANDI)のほか、ファッションECの検索プラットフォーム、リスト(LYST)など、ラグジュアリーファッション分野におけるEC関連企業の可能性に早くから着目し、投資してきた実績を持つ。今回は、ファーフェッチ救済のため5億〜10億ドル(約725億〜1450億円)を調達する予定であることや、同社を5年で成長軌道に戻す再建計画などを提示したという。同氏は、「私はファッションとテクノロジーを融合したマーケットプレイスの可能性を信じており、ファーフェッチは現在でも業界のリーディングカンパニーだと確信している。同社は複数の企業取引を抱えているため、ただでさえ経済環境が複雑化する中でさらに難しい舵取りを強いられているが、その戦略的な資産価値の高さは損なわれておらず、戦略的な提携や統合の機会はまだ数多くあるだろう」と語った。

ファーフェッチの最近の動向

ファーフェッチの最近の動向は、さまざまな波紋を呼んでいた。11月28日には、同社の非公開化を創業者のジョゼ・ネヴェス(Jose Neves)会長兼最高経営責任者(CEO)が検討していると英テレグラフ(The Telegraph)紙が報道。同日、ファーフェッチは29日に予定していた2023年7~9月期(第3四半期)決算の発表を取りやめ、これまでの業績見込み(ガイダンス)も撤回するとの声明を発表した。

ファーフェッチは8月、「カルティエ(CARTIER)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」「クロエ(CHLOE)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)が擁するラグジュアリーEC大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の株式の47.5%を取得することに合意。この取引には、ファーフェッチの企業向けECプラットフォームであるファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューション(Farfetch Platform Solutions)をリシュモンとYNAPが導入する契約なども含まれている。取引は23年度中に完了する見込みで、10月には欧州委員会(European Commission)からの承認も得たが、リシュモンは取引の完了には「当社とファーフェッチの間で協議しているその他の要件に関する合意」が必要であり、詳細は追って発表するとしていた。

また、ファーフェッチは、中国のラグジュアリーEC市場における戦略的パートナーシップのため、20年に中国最大手EC企業のアリババ・グループ(ALIBABA GROUP以下、アリババ)およびリシュモンと提携している。こうしたことを背景に、テレグラフ紙は「ファーフェッチは、非公開化に関してアリババやリシュモンなどから一時的な支援を受けると見られている」と報じた。

一方、リシュモンは11月29日、「当社はファーフェッチに対する金銭的な義務はなく、融資や投資も考えていない。8月に発表したファーフェッチとの取引を含め、状況を注意深く見守っている。現時点で、当社の傘下ブランドやYNAPはファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューションを導入しておらず、それぞれのプラットフォーム上で運営している。必要があれば、またアナウンスする」と声明を発表した。このことから、「リシュモンはファーフェッチと距離を置いた」との見方が市場に広がっている。

12月5日には、情報筋の話として、ファーフェッチが傘下の英セレクトショップ、ブラウンズ(BROWNS)の売却を検討していると複数の海外メディアが報じた。また、同日に世界最大手の格付け機関S&Pグローバル・レーティング(S&P GLOBAL RATINGS)がファーフェッチの発行体格付けを“Bマイナス”から“CCCプラス”に引き下げたことに続き、12日には格付け会社ムーディーズ(MOODY'S)も同じく“B3”から“Caa2”に格下げした。

6日には、アリババのジョン・マイケル・エヴァンズ(John Michael Evans)=ディレクター兼社長が、ファーフェッチの取締役を辞任したと海外メディアが報じた。これはファーフェッチが規制当局に提出した書類から明らかになったもので、イギリスのファッションメディア「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」によれば、同氏はファーフェッチが非公開化を検討していると報じられた2日後の11月30日付で同社の取締役を辞任したという。同氏は、前述の通り、20年にファーフェッチがリシュモンおよびアリババと提携した際にファーフェッチの取締役に就任している。

今回の事業売却が成立しなかった場合は?

買い手候補との取引が成立せず、ファーフェッチが管財人の管理下となった場合、主に機関投資家である債権者への支払いのため、さまざまな資産が売却される見込みだ。その中には、前述のブラウンズのほか、故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」などを擁するニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP)、スニーカーのリセールサイト「スタジアム・グッズ(STADIUM GOODS)」、米百貨店ニーマン マーカス グループ(NEIMAN MARCUS GROUP)における2億ドル(約290億円)相当のファーフェッチの持ち分や、ファーフェッチの企業向けECプラットフォームであるファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューション(Farfetch Platform Solutions)の知的財産などが含まれる。また、情報筋によれば、管財人の管理下となった場合にはYNAPの取引もなくなる可能性が高いものの、今回の事業売却が成立した場合は、新たなオーナーとリシュモンが再交渉して取引が継続することもあり得るという。

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NEWS 02

リステア創業者の高下氏が新会社 世界中のいいものを集めた「高級デジタル百貨店」

ラグジュアリーセレクトショップ「リステア(RESTIR)」元社長の高下浩明氏がファッションビジネスで再始動している。2021年8月に246inc.を設立し、2年の準備期間を経て、デジタル百貨店「246セレクト(246select.com)」をソフトオープンしたもの。リステアで培った“セレクト力”やハイブランドとのネットワーク、高感度や富裕層などの顧客ニーズをつかむ力などを活かして、ブランドの公式サイトとユーザーとをダイレクトで結ぶ、在庫を持ったないセレクト&キュレーション型メディア事業を行っていく。高下246inc.CEOにその狙いと勝算を聞いた。

――リステアをトゥモローランドに2015年に売却し、2019年に社長を辞した。充電期間を経て、デジタル百貨店「246セレクト」を立ち上げようと考えた理由は?

高下浩明246inc.CEO(以下、高下):「246セレクト」は、自分たちが良いと思って選んだ商品やブランドをキュレーションして紹介する、デジタル版セレクトショップ、デジタル版百貨店だ。ただし、ECではなく、在庫も持たない。ブランドビジネスには、リアルでもデジタルでも高いクリエイティビティが必要だが、オフィシャルサイト以外にイメージを維持できる場所がないと悩むブランドが多い。しかも、ECの売上げ拡大は急務だが、他社サイトへの出店は販売手数料も高額で、在庫移動などの業務も発生する。そこでブランド側の課題を解決するために、最適な露出機会を提供し、ユーザーとブランドの直営ECをダイレクトに結ぶキュレーションメディア、かつ、プラットフォームを目指すものだ。

また、32年間売る側の立場だったが、2019年に前職を辞任してお客さまの側になって多くのことに気付いた。コロナ禍や鎌倉を拠点にした生活をする中で、買い物はネット中心になったが、便利な反面、情報が膨大すぎて、何がイケてるいるのか、何が本当に良いのかを探そうとしても見つけにくく不便を感じた。これは同じような悩みを持つ方がかなりいらっしゃると感じた。また、前職からの流れで、知り合いの経営者クラスや著名人、VIP層などから、奥さんや彼女へのギフトや新築祝いなどについて相談を多く受けていた。本当にセンスが良くて信頼できるものをセレクトし、キュレーションし提案してくれるサイトや店があったらという切実な声もあり、全てが心地よいコンフォートショッピングの場を作りたいと考えた。

デジタルを駆使、新業態は「セレクトショップ」と「百貨店」、そして「メディア」を横断

実は次のステップに進む中で、小売りコンサルタントのダグ・スティーブンスが10年前に書き、5年前に翻訳本が出た「小売再生―リアル店舗はメディアになる」を何度も読み、何かファッション業界に役に立つ新しいことができないかと考えた。前職でもブランドのプロモーションイベントにリステアのお客さまを招いたり、パーソナルスタイリングを行ったり、コンシェルジュ的な仕事も担っていた。リアルがデジタルに変わっただけで、やろうとしていることは前職のセレクトショップビジネスと変わっていない。それを少し時代に合わせて、デジタルやAIを活用して、寄り良い購買体験やサービスを実現しようとしている。

――「246セレクト」や“デジタル百貨店”というネーミングの由来は?

高下:ラグジュアリーブランドなどが多く店を構える表参道や青山を通る、日本を代表する国道246号線から名付けた。その界隈に店を作るとしたらどんなものを作ろうか、あるいは、そのまま一つの商業施設やモールのようにも見える街なので、それをデジタルで表現したらどうなるかなどを考えた。

インバウンドなどで少し活気が戻りつつあるものの、百貨店は斜陽と言われたりもしている。けれどもかつては、新しいものや本物、信頼感のあるものなどを豊富に取り扱い素晴らしい魅力を持っていた。今回は前職時代から培ったセレクト力、キュレーション力を生かして、自分たちが良いと信じたものを紹介していく。

キュレーションした商品画像を介してユーザーとブランド公式サイトをつなぐ媒介・プラットフォームに

――サイトの構成や取扱商品については?

高下:まさに百貨店のようなフロアガイドを設け、1階を中心にショーウインドーを配し、カテゴリーごとにフロアを分けて展開している。とくに店の顔であるショーウインドーには力を入れている。30分~1時間にひとつ、新商品が自動でアップされて見るたびに発見があったり、GIFや動画などを使って感覚的な心地よい刺激も与えるようなデザインを心掛けている。気になる商品をタップすると、商品の詳細ページに飛び、ブランドの公式ECの商品ページにダイレクトに遷移できるボタンを配している。また、その商品ページの下部には、類似商品や推奨商品などをAIのアルゴリズムでレコメンドできるような仕組みにしている

自分たちがセレクトしたブランドのアイテムに加えて、PRプロモーション枠を設けて、出稿してもらったブランドには、商品画像をクリックすると直営サイトに遷移するとともに、上層階にワンブランドを専用に扱うフロアを開設する。仮想の世界なので、実質的に∞(無限大)でフロアや商材を増やしていくことができるのもデジタル百貨店の特徴だ。

取り扱うブランドはラグジュアリーブランドから、ストリートブランド、コスメやジュエリー、ガジェットやインテリア、車やアート、さらには旅まで幅広い。プライスも数百円から数千万円までハイ&ローをミックスしている。現在は約80ブランドだが、共感していただけるブランドとの取り組みをどんどん強めながら、カテゴリーやサービス・体験などにまで広げていきたい。とくにギフトは強化したいし、ホテルやトラベル、スーパーカーからエコカーまで新しい車なども訴求していきたい。

多忙な経営者やその秘書、VIP層にも好適、ギフトコンシェルジュサービスでタイパとセンスを向上

――サービスのカギの一つであるコンシェルジュサービスとはどのようなものなのか?

高下:一つは、ユーザーが友達や家族を登録できるギフトボックスサービスを用意している。いいね、を押したものを保存しておくだけでなく、想定プライスや、モード、ナチュラル、セクシー、コンサバなどファッションのテイストを入力しておくと、誕生日や記念日が近いことをリマインドしてもらえたり、クリスマス向けのギフトプランを提案してもらえたりするものだ。

経営者層やその秘書、著名人、ファッションに興味がある方々などの利用を想定しているが、忙しくて時間がないけれども、相手を喜ばせて自分の評価にもつながるセンスのいいものを贈りたいという気持ちに応えるものになるし、頼まれて困っている秘書の方々の力強い味方になれる。もちろんファッションの提案や相談承りなどもできる。AIなども活用しながら、究極のスタイリング&コンシェルジュサービスとして役割を果たしたい。

――マネタイズの方法が気になるが、出店料・出稿料なのか、アフィリエイトなのか?

高下:現在はプロモーションの出稿料をいただいている。すでに、いくつかの有力グローバルブランドが可能性を感じてプロモーション枠を活用してくれている。また、現在は商品中心だが、キュレーションマガジンとして読み物などを増やしていくこともできる。こうなるとリテールメディア化が進むことになる。ただし、広告という概念はなくて、紹介しているものすべてを心地よいものにしたいので、扱うもののフィルターについてはこれからも大切にしたいし、そこはセレクトショップの知見も生きてくる。あとは、コンシェルジュサービスは現在は無料だが、将来的にはSpotifyのようなサブスク型のサービスとして進化させていきたい。

――百貨店の外商やホテルのコンシェルジュのように、良いユーザー層が集まれば、ブランド同士の相乗効果も生まれそうだ。

高下:今まで知らなかったブランドや商品とのマッチングが生まれることを期待している。実は創業に当たり、若くデザイナーやクリエイター、アーティストから集客方法やビジネス展開などの相談を受けることも多く、彼らの渾身の商品や作品を良い客層の人々に紹介し、彼らが世に羽ばたく支援をしていきたいということも、このプラットフォームを作る原動力の一つになっている。厳選されたブランドやその公式ECサイトにダイレクトにつながるサイトを作って、ブランドの活性化を図ることをビジョンに、新しい才能ある人々を世界に出す役割をミッションとして、成長させていきたい。

――どんなチームがこの「246セレクト」を支えているのか?

高下:2021年に僕とエンジニアだけでスタートした。今までになかった新しい挑戦にワクワクしてくれている20~30代を中心に、優秀な方々と一緒に、よりクリエイティブでかっこいいことを世界に向けて発信していこうとしている。今はまだベータ版の状態。1962年生まれで年が明けたら62歳になるし、スピードを上げ、本番であるアプリのオープンや、開発やサービスの拡充をしていきたい。どんどん進化させていくので、まずはユーザー登録をして、一度使ってみてほしい。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。