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「シュプリーム」の買収費用が足かせに

「シュプリーム」の買収以降、VFコーポレーションがイマイチ冴えません。ついに“物言う株主”に、傘下のブランドの見直しを求められてしまいました。

「ザ・ノース・フェイス」に「ティンバーランド」「イーストパック」など、日本では好調なブランドも多いので、手持ちのカードは悪くないハズです。最大の懸案事項は、「ヴァンズ」。VFにとって最大のブランドはテコ入れが欠かせない状況ですが、「シュプリーム」の買収と減損処理費用が足かせとなり、資金が注入しきれないようです。

「WWDJAPAN」編集長
村上 要
NEWS 01

オンワードの販路構成が様変わり ECが急増、百貨店は3分の1に

「ほぼ3分の1ずつのバランス良い形になった。偏りがなく、(マーケットの)変化に柔軟に対応できる」――。

そう語るのはオンワードホールディングスの保元道宣社長だ。2023年3〜8月期(上期)の決算説明会で示されたグループ国内9社の販路別売上高構成の円グラフは、百貨店32%、SC(ショッピングセンター)他38%、EC(ネット通販)30%に3分割されていた。

最も変化したのが、中核会社のオンワード樫山である。業界では長年「百貨店アパレル」と言われてきた同社だが、上期は百貨店39%、SC他33%、EC28%となった。百貨店の割合は自社EC「オンワードクローゼット」を始める前の08年度で75%、コロナ前の18年度で66%だったことを踏まえれば、確かに「偏り」はなくなった。

コロナ禍にECの利用が増えたのは他社と同じだが、オンワードグループの場合は19年から20年にかけて国内外で約1700店舗を減らす大規模な事業構造改革を断行し、OMO(オフラインとオンラインの融合)に舵を切ったことが大きい。連結売上高は18年度の2406億円に対し、23年度は1892億円になる見通しだが、営業利益は11年ぶりに100億円を超える予想だ。「売上高は圧縮されたが、筋肉質になった」。

EC売上高に占める自社ECの割合がグループで約9割。自社ECが強いからこそ、ネットで関心を持った服を最寄りの店舗に取り寄せる「クリック&トライ」もうまく回る。取り寄せた服だけでなく、店頭でコーディネート提案を受けた服も購入する相乗効果を生んだ。

保元社長は「販路構成を意図的に変えていくつもりはない。リアルとデジタルの長所を生かして、今後は円グラフ自体を大きくすることに注力したい」と売り上げ拡大を宣言する。

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NEWS 02

「シュプリーム」買収が重しに? 親会社のVFC、“物言う株主”から傘下ブランドの見直しを迫られる

米投資会社エンゲージド・キャピタル(ENGAGED CAPITAL)は、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ヴァンズ(VANS)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「シュプリーム(SUPREME)」などを擁するVFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VFC)の株式を取得し、傘下ブランドの戦略的見直しなどを要求したと複数の海外メディアが報じた。

エンゲージド・キャピタルは“物言う株主”として知られており、これまでにニューヨーク発のハンバーガーレストラン「シェイクシャック(SHAKE SHACK)」や、オーガニック食品メーカーのヘイン・セレスティアル・グループ(HAIN CELESTIAL GROUP)などのアクティビスト株主としてさまざまな提言をしている。今回は、VFCに対し、「ヴァンズ」と「ザ・ノース・フェイス」以外の傘下ブランドの見直しに加えて、3億ドル(約447億円)以上の経費削減、「ヴァンズ」と「ザ・ノース・フェイス」に対するテコ入れ策として1億ドル(約149億円)程度の投資、経営陣の刷新などを要求。これらが報じられると、VFCの株価は10月17日、前日終値比14.0%高の18.45ドル(約2749円)を付けた。なお、エンゲージド・キャピタルは、提言を段階的に実行していけば、VFCの株価は3年以内に40ドル(約5960円)台半ばまで上昇するとしている。

一連の報道を受けて、VFCは、「エンゲージド・キャピタルが当社の株主となったことや、その発言について認識している。株主の意見を尊重しつつ、今後も投資コミュニティーとのオープンな対話を続けていきたい。当社は世界的に知られているアイコニックなブランドと、多数の優秀な社員を抱えている。7月に就任したブラッケン・ダレル(Bracken Darrell)社長兼最高経営責任者(CEO)をはじめとする取締役会と経営陣は、全ての株主の利益のため、VFCのポジションを強化し、力強く持続的に成長する収益性の高い企業へと復活させるべく、直ちに断固たるアクションを取っていく」と声明を発表した。

VFCの2023年4~6月期(第1四半期)決算は、売上高が前年同期比7.7%減の20億8633万ドル(約3108億円)、営業損益は前年同期の6336万ドル(約94億円)の黒字から899万ドル(約13億円)の赤字に、純損失は5596万ドル(約83億円)から5742万ドル(約85億円)へと赤字が拡大している。

ブランド別に見ると、「ザ・ノース・フェイス」は同11.8%増の5億3820万ドル(約801億円)と好調だったものの、主力の「ヴァンズ」は南北アメリカでの卸の不調が響いて同22.1%減の7億3750万ドル(約1098億円)と苦戦している。また、20年11月に21億ドル(約3129億円)で買収した「シュプリーム」はその他のブランド部門に属しており、単体での売上高は発表していないが、コロナ禍の影響によるサプライチェーンの混乱などのため売り上げが鈍化。22年度に、VFCは「シュプリーム」の日本市場におけるビジネスなどに関して、「金利の上昇や為替レートなど営業外要因のため」に7億3500万ドル(約1095億円)相当の減損費用を計上した。

なお、エンゲージド・キャピタルは今回、ほかの投資家に向けたプレゼンテーションで、「VFCによる『シュプリーム』の買収は、リスクマネジメントが崩壊したとしか思えない案件だ。ハイファッションのブランドを高いマルチプル(財務指標や企業価値などに基づいて算出した評価倍率)で取得し、その債務のために財務上の柔軟性を低下させてしまった」と説明している。

VFCにおよそ25年在籍し、約5年にわたってトップとして同社を率いたスティーブ・レンドル(Steve Rendle)前会長兼社長兼CEOは、22年12月に退任。その理由は明らかにされていないが、最大のブランドである「ヴァンズ」の低迷がその背景にあることは想像に難くない。事業全体も伸び悩んでおり、配当金のカットや、「キプリング(KIPLING)」「イーストパック(EASTPAK)」「ジャンスポーツ(JANSPORT)」を擁するバックパック事業の売却を検討していると2月に報じられている。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。