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今元気があるブランドはここ
「ウィメンズで今元気なブランドってどこですか?」。取材先で頻繁に聞かれますが、今ならサザビーリーグ傘下の「メゾンスペシャル」と答えます。攻めたデザインと凝ったビジュアル、地道な顧客商売でコロナ禍に成長し、大手SPAブランドの会議などでも「うちも『メゾンスペシャル』みたいに……」といった話が出ているとか。
「メゾンスペシャル」の展示会でいつも感心するのは、商品量が多いのに、その1点1点に覇気があるということ。“置きに行った”無難な商品が本当にないんです。もちろん、ブランドによってMDの考え方はさまざまですが、ああいった、攻めて挑戦しているブランドがしっかり支持される市場であるということは業界全体にとってもいいことだなと感じます。
ウィメンズをけん引する「メゾンスペシャル」 次のステップは海外市場開拓
ウィメンズマーケットで今人気のブランドという話になると必ず名前が上がるのが、サザビーリーグ傘下のプレイプロダクトスタジオ(2月にメゾンスペシャルから社名変更、菅井隆行社長)が手掛ける、「メゾンスペシャル(MAISON SPECIAL)」だ。2019年3月にブランドを立ち上げ、振り切ったデザインやビジュアルでコロナ禍以降大きく伸長。ここ2〜3年、「既存店売り上げが30〜40%増といったペースが続いてきた」(菅井社長)。安定成長期に入り、「今春夏は前年実績を少し超えるペース」とやや落ち着いているが、今後は既存店の増床や海外出店に注力し、次の成長をめざす。
目の覚めるようなビビッドカラーや、絞り加工などユニークな素材使い、それでいて抑えた価格で20〜30代を中心にファンをつかんできた。「類似商品を作る後追いブランドが増えているからこそ、今秋冬は改めて他社がまねできない服作りを追求する」と渡邊倫子クリエイティブディレクター・チーフデザイナー。ワクワクを誘う多品種小ロット生産が基本で、展示会では毎回その物量と“置きに行った”ような無難な商品が一切ないことに驚くが、今秋物はウィメンズのみで200型超を企画し、さらに気合いが入っている。これまで通り、顧客向け受注会で好評なアイテムは追加をかけて需給の精度も高める。冬物はウィメンズで120型前後を企画予定だ。
30〜40代以上の大人客にも
改めてアピール
今年2月に、「メゾンスペシャル」からさらにモードテイストに振ったウィメンズの「プランクプロジェクト(PRANK PROJECT)」を立ち上げたこともあり、「『メゾンスペシャル』は若い世代向けのポップなカジュアルといったイメージが広がっている。30〜40代以上の大人のお客さまにも引き続き着ていただきたい」として、23年秋物のビジュアル撮影にはスタイリストの山本マナを起用。従来は社内でスタイリングを組んでいたが、スタイリストの起用でブランドとして一皮むけることを目指す。得意とする原色だけでなく、ベージュ、ブラウンなどのニュートラルカラーを増やし、スパイスのきいたアイテムとの組み合わせでファッション好きな大人層も取り込む。
秋物は“ニューロマンチック”がテーマ。推しているのはデニムやレザー素材だ。「デニムアイテムはここ数シーズン、出せば必ず売れるほど勢いがある。一方でレザーはトレンドとして光が当たるのは久々で新鮮」と渡邊ディレクター。デニムはジーンズ、Gジャンといった定番に加え、ボウタイブラウス、コクーンコートなどバリエーション豊富に企画。一度脱色してからピンクやブルーの色を入れたり、クラッシュさせたりと、凝った加工がそろう。価格はクラッシュ加工のビッグシルエットGジャンで2万6000円(税別)。レザーはビンテージ加工をほどこしたフェイクレザーでミドル丈コート(2万7000円)やテーラードジャケットなどを販売するほか、本革でライダースジャケット(ベーシック、ビッグシルエット共に3万8000円)なども企画する。
暖冬傾向から、デニムやレザー以外の中間アウターにも注力している。特に期待しているのが「昨秋冬に好調で1000枚を販売し、欠品がなければさらに売れた」というMA -1ブルゾンだ。実績のあるミドル丈を据え置きの2万6000円で販売するほか、今季はクロップド丈(2万5000円)、ロング丈(2万7000円)もそろえる。
「プランクプロジェクト」は既に黒字化
現在の実店舗数は、同じ施設内でウィメンズ、メンズ別店舗で出店しているケースを含めて計10。うち、一番店である新宿ルミネ2の2階の店舗は今秋増床リニューアルを予定する。「国内の実店舗をここから積極的に増やそうという考えはないが、アジア圏からの訪日客の反応が非常によいこともあり、海外出店には本腰を入れる」(菅井社長)という。全社売上高は前期(23年3月期)が約36億円、今期は「45億〜50億円の見込み」だ。
「プランクプロジェクト」は2月の立ち上げからの累計で、予算比35%増ペースという。「特に5、6月は好調で、同50%増で着地した。既に5月時点で事業として黒字化した」。現在、実店舗は青山と福岡の常設路面店のほか、新宿ルミネ1の1階で長期ポップアップを開催中。今秋は大阪・心斎橋などにも出店を予定する。「『メゾンスペシャル』と『プランクプロジェクト』の差別化を心配する声もあったが、約半年運営してみて、社内では差別化に手応えを得ている。『プランクプロジェクト』はスタイリストやモデルなどからの支持も高く、先日もあるインフルエンサーが私物のデニムサロペットをSNSにアップしたところ、1日で同商品が400万円ECで売れるなどいい流れができている」と渡邊ディレクター。
「ディオール」が描く現代の控えめな女神 2023-24年秋冬クチュール詳報Vol.1
7月3日から6日まで、2023-24年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークがパリで開催された。パリ郊外や市内のレアールなどで起きていた暴動の影響を受けて、開幕前夜に予定されていた「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」のショーに加え、期間中もいくつかのイベントが中止されたが、大きな混乱はなく4日間の会期は終了。問題が絶えず不安も多い時代の中で、贅を尽くしたファッションを通して、この上ない美や夢を見せてくれたキーブランドのショーをリポートする。
「ディオール(DIOR)」は、おなじみのロダン美術館の中庭に建てた箱型のスペースを会場に、2023-24年秋冬オートクチュール・コレクションを発表した。会場内の壁面に飾られたのは、イタリア人アーティストのマルタ・ロベルティ(Marta Roberti)が今回のために描いた神話の女神や動物たちの絵を忠実に再現した刺しゅう作品。彼女は、「絵画史において女神たちがどのように描かれてきたかを研究した」とし、「常にと言っていいほど、女神と動物は結びついている。最初は女神たちのポーズや動きを自分の体で模倣し、その特徴を具現化し、自分自身の女神像を完成させた」と説明する。そんなロベルティの言葉やアプローチにインスピレーションを得たマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=クリエイティブ・ディレクターは、強さと儚さを併せ持つ現代の女神のようなスタイルを描いた。
オールホワイトのルック群からスタートしたコレクションの軸になったのは、サルトリア技術とハイウエストからセミフレアに広がるロングシルエット。ウールクレープで仕立てたダブルフェースのケープにロングドレスを合わせたファーストルックのように、ミニマルなケープやオペラコート、アイコニックな“バー”ジャケットにとフロアレングスのドレスやスカートを合わせたスタイルは、ピュアで神秘的なムードを漂わせる。また、アームホールの広いケープライクなチュニックやジャケットには、腰上にタックを取ることでペプラムをプラス。メゾンにとって大切なデザイン要素の一つであるプリーツも、柔らかなドレスやスカートからシャツ、ジャケットの袖にまで施している。足元に合わせるのは、グラディエーターのようなフラットサンダル。それは、着想源となった古代ギリシャや古代ローマのイメージにつながる。
終盤に向かうにつれて、コレクションは輝きを増し、パールとメタリックカラーの糸やパーツでアンティークライクな柄やモチーフを描いた細やかな手仕事が光る。しかし、それはレッドカーペットやパーティーで華やかさを競い合うためのものではなく、さりげなく気品を感じさせるもの。圧倒的な技術に裏付けられた贅沢な装飾を軽やかに取り入れているのが印象的だ。
マリア・グラツィアは、この数年のクチュールにおいて、アトリエの力を生かしながらも落ち着いた色使いとクリーンなシルエットで、着る人に寄り添い、その美しさを引き立てる服作りを追求している。そこに観るものをアッと驚かせるような要素はあまりなく、控えめとも言えるかもしれない。ただ、今季もその安定感のある優美なコレクションが、多くの顧客の期待に応えたことは間違いないだろう。
「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。