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快挙の先に描く未来
2020年設立のCFCLが、日本のアパレルでは初となる「Bコーポレーション(Bコープ)認証」を取得するという素晴らしいニュースが届きました。設立時から目標の一つとして掲げていたので、有言実行です。そして「Bコープ」取得がゴールではなく、取得した先の将来までビジョンを明確に描いているのがインタビューで分かります。一方で、CFCLが今後勝負しようとしているのは、クリエイションに常に変化が求められる舞台でもあります。変わらない部分とのバランスをどうとっていくのか、期待したいです。
「CFCL」がBコープ認証を取得 日本のアパレル初 「世界規模のコミュニティーの中で挑戦してゆく」
PROFILE
岡田康介/CFCLチーフ・ストラテジー&サステナビリティ・オフィサー(CSO)
1978年神奈川生まれ。2002年京セラ入社。海外事業の経営管理·事業統合を行う。2007年より6年間ドイツ駐在。ヨーロッパ全域での再生可能エネルギー事業を軸に、企画·財務·SCM·システム開発など9事業の経営基盤を構築。帰国後、ベンチャー企業にて生分解性や脱プラ素材等の海外事業を統括。20年からCFCLにてCSOを務める。並行して株式会社SISON’S設立、経営コンサルティングを行う。
高橋悠介/CFCL代表兼クリエイティブ・ディレクター
1985年東京生まれ。2010年に文化ファッション大学院大学ファッションデザインコース修了後、同年三宅デザイン事務所に入社。13年に27歳の若さで「イッセイ ミヤケ メン」のデザイナーに就任し、14年から6年間にわたりデザインを手がけた。2020年に同社を退社し、CFCL設立。21年には第39回毎日ファッション大賞「新人賞・資生堂奨励賞」並びに「ファッション プライズ オブ トウキョウ2020」を受賞。22年にパリ・ファッションウィークに参加
CFCLは日本のアパレルブランドとして初めて、「Bコーポレーション(以下、Bコープ)認証」を取得した。Bコープは、社会や環境への配慮、透明性、説明責任、持続可能性において企業のパフォーマンスを評価した国際的な認証制度で、84カ国の5391社が取得(22年8月3日時点)している。申請する企業が増えている注目の認証だが、取得のハードルが高いことでも知られる。CFCLは、1年以上の審査・評価期間を経て、認証取得の条件となる80点(200点満点)を大きく上回る128点を取得した。自らに高いハードルを課す認証取得の意義はどこにあるのか?同社の高橋悠介代表兼クリエイティブ・ディレクターと、岡田康介チーフ・ストラテジー&サステナビリティ・オフィサーに聞いた。
WWDJAPAN:Bコープ取得に向けて動き始めた決め手は?
岡田康介チーフ・ストラテジー&サステナビリティ・オフィサー(以下、岡田):私は2010年頃、欧州で再生エネルギーの仕事に携わっていた時にBコープの存在やその評価が高まっていることは知ったが、自分事化したのは高橋と出会ってから。CFCLに大きな可能性を見たのでBコープ取得を提案した。
高橋悠介CFCL代表兼クリエイティブ・ディレクター(以下、高橋):CFCLの創業を構想していた頃、例えば“石油由来のフェイクファーは果たして本当に地球や動物に優しいのか?”といった正解のない議論を見る中で、自ら“サステナビリティに配慮したブランドです、エコです”と言うのはいかがなものか、というのが感覚的にあった。ただCFCLの事業プランでは再生ポリエステルをメーンに使い、ホールガーメントにより生産過程で極力ごみを出さない、といった方針は決めていた。ブランドのフィロソフィーをどう伝えるか、悩んでいた時に岡田からBコープの話を聞き、第3者機関による認証が取得できれば一つの形として表現できると考えた。
岡田:素材や品質、エネルギーなど個別の認証は色々存在するが、企業活動全体を網羅するのは、SDGsの観点においてもBコープだけ。会社が成長し人や資金のリソースが充実した上で取得に取り組むのではなく、創業時からチャレンジする姿勢を取引先などすべてのステークホルダーに見せることで信用を構築してゆけると考えた。
WWD:高橋代表は2020年の創業当時に「でき上がった組織を変えるのは大変。最初からBコープ前提で会社を作ることはチャンスでもある」と話していた。
高橋:就業規則やカンパニーポリシーを作る段階からBコープの評価をベースにすることは理想への近道になる。もちろんBコープだけが正解ではなく、地域やコミュニティー、事業規模にフィットしない部分もある。
WWD:Bコープは「絶対正解」ではなく、一つのきっかけである?
岡田:Bコープの審査は“マルバツ”ではない。今回、認証を受けるまでにBコープから受けた質問数は約300。選択肢が用意されている質問もあるが、自分たちで自由記述するケースが非常に多い。さらにそれを「数値的に証明せよ」とも問われる。問われることで自分たちになかった視座に気がつくことも多い。Bコープのもう一つの大きなメリットは、指標や視点を無数に提供してくれること。創業間もない我々にはリソースがないのは事実だから、回答をしながら成長していくようなところがある。
WWD:企業が成長するためのガイドラインみたいなものだと。自分たちから“バツ”を選択することもある?
高橋:分かりやすい例を2つあげると、一つは社員の評価制度。Bコープ的には規定が整っている方がもちろん良いけれど、スタートアップ企業における働くモチベーションは熱量だったりするから、物差しを作るのはまだ早い。そういった判断に至ることもあった。物作りについては、Bコープ的には当然、再生素材の使用率が高いほうが評価されるが我々は再生素材を使うこと以前に、「洗練された現代の服を作る」ことに重きを置いており、それに満たなければ再生素材を選ばないこともある。
岡田:質問が300ある中で、人事評価制度に関する点数は数点。それを獲得できなくても、自分たちで勉強会を開いて、学ぶ場を作ることもできる。実際、毎月勉強会を開いて高橋のクリエーションについて、再生エネルギーについて、社会保障についてなど学ぶ機会を設けることで従業員とのエンゲージメントを高めている。それは点数には繋がらないが、最終的に128という点数を獲得することができた。
128点の高得点の理由は「インパクトビジネスモデル」
WWD:200点満点で、認証取得の条件が80点。それを大きく上回る128点を獲得できた理由は?
高橋:既存のアパレルとは違う事業形態により社会へ良い影響を与える “インパクトビジネスモデル”として認められた点は大きい。弊社が採用しているコンピュータープログラミングニットに集約したものづくりがステークホルダーにインパクトを与えた、と。ただそれを証明するのが大変だった。自由記述で提出したものに対して、「布帛の生産ではどのくらいごみが出ているのか証明を」とか「横編ニットはマイノリティーなのかマジョリティーなのか説明を」などと返ってくる。さまざまな人たちに協力してもらいデーターを集めたり、実際に同じ形をニットと布帛で作って比較したりして、ラリーを繰り返し証明をした。
岡田:我々の“ポッタリー”シリーズは、デザインを基本的にほとんど変えない。これにより、生産工場は失敗が減り、ロス率が下がる。それらを一つ一つ数字を取り証明してゆく。
高橋:“ポッタリー”を主軸とすることで、毎シーズン発注量が増え、原料であるペットボトルの再利用率も確実に上がる。あと意外だったのが、“ポッタリー”を東京都で作っていることが評価された点だ。本社との距離が近いことがポイントだった。BコープはSDGsの1番、貧困の問題に対して非常に強い危機感を持っていて、人件費が安い国で生産した商品を先進国で販売するビジネスモデルは、賃金格差や貧富の差を利用したビジネスを助長する可能性を否定できないため、慎重で厳密な審査が行われる。
WWD:それらの判断は、Bコープを目指す以前から高橋代表が持っていた感覚からくるのか。
高橋:言語化は難しいが、前職から日本で日本人と作るビジネスだったから自然に行き着いた答えだとは思う。
300の質問に答える中で国際的な視点を得た
WWD:ビジネス形態は企業の成長とともに変化する。CFCLがニットではなく布帛に力を入れたくなる日がくるかもしれない。
高橋:Bコープは3年に1度、アップデートが必要だ。ビジネスモデルが変われば評価を失う可能性はあるが、ニットのブランドとしてスタートした「CFCL」ブランドのコアは変わらないと思う。
WWD:企業の財務的な成長とBコープの関係をどう捉えているか。
岡田:設問の多くは財務的な数値と併せた回答が求められるから、切っても切り離せない。例えば“ポッタリー”ドレスがどれくらいの再生繊維を使っているかは、商品がどれだけ売れたかに直結する。ちなみにBコープの対象はあくまで営利団体で、NPOなどは対象外。それだけ財務と密接というわけだ。
WWD:取得を通じて企業として得たことは他にあるか。
岡田:2つある。300の質問に答える中で国際的な視点を得たこと。これは非常に大きい。もう一つは、Bコープのコミュニティーに参画すること。現時点で、業界も国境も超えた5000社以上の認証Bコープがある。彼らとのコミュニケーションを通じてビジネスをどうやってSDGsで実現するのか、具体的なケーススタディを得てわれわれなりにトランスフォームすることもできるだろう。SDGsは1社では成し得ないパートナーシップの世界なので、世界的なスケールのコミュニティーの中でチャレンジすることで企業の成長にもつながることは間違いない。
WWD:従来なら国外に出て経験して得るほかなかった国際的視点を日本にいながら得られるのは大きい。
高橋:世界的な信頼を獲得していることは間違いない。6月にパリで展示会を行ったが、特にラグジュアリー関係者はBコープを知っており、認証申請中の話をすれば「弊社はSDGsに関してこういった取り組みをしています」といった説明も不要で、話が早い。
WWD:パスポートみたいだ。
高橋:洋服は結局、社会との接点だから、トレーサビリティーが取れている服なのか、は今後特にラグジュアリーにおいては非常に重要だと思う。
“信用”は漢字2文字だけど、それを構築するのは非常に難しい
WWD:CFCLがBコープを取得したというニュースはある意味、CFCLに関わるサプライチェーンの評価にもつながる。
岡田:アパレルビジネスのサプライチェーンは長い。その中でアパレルブランドはデザインを決めるディシジョンファクターでもある。認証は糸、ニット工場、染色工場、物流などとの細かなやりとりの結晶であり、128という数字はCFCLに関する全ての企業の集大成だと思う。
WWD:関連企業へはどのように共有したのか。
高橋:岡田が作った資料「パフォーマンスインデックス」を持って説明してまわった。外資と仕事をしている工場は労働条件や廃棄問題に対してすでに取り組んでいるところが多い。一方、全くノータッチの工場もあるが「ならば取り引きをしない」ではなく、先方の社員向けに勉強会を開くなど伝えることに尽力した。
岡田:300の設問の中で、我々のオフィスに関することについて考えるのは比較的容易だが、サプライチェーンのコミュニティーの中のことを調べて実践することは莫大な時間と胆力が必要だ。「パフォーマンスインデックス」は環境省が策定した環境マネジメントシステム「エコアクション21」をベースに、Bコープの設問を加え、中小企業が取り組める内容とした。151の項目からなる。いきなりその量を送りつけられた側は相当面食らうから、まずは信用を構築し、時間をかけて説明をした。 “信用”は漢字2文字だけど、それを構築するのは非常に難しい。その構築に一番集中し気を配ったとは思う。
高橋:岡田がグイグイ行くから焦ったこともあるけれど、「サステナビリティーに取り組みたいが、何から手をつけていいかわからなかった」という工場も多いことがわかったりした。岡田の熱量が共感を呼んだところもあると思う。
WWD:日本のアパレルで初の取得となり、今思うことは?
高橋:Bコープは取って当たり前の世界がこれから来るだろう。仕掛ける側か仕掛けられる側かに分かれるなら、仕掛ける側に回らない限り、その企業自体の存続が危うくなってくるとも思う。同時に生活者のリテラシーも確実に上がっているから改めて襟を正したい。「ニット以外の方が儲かる」「他国で作った方が断然安い」といったことに直面したとき、どうするか。カフェで「今日はタンブラー忘れたからプラカップください」と同じで、時にはそれもいいけど、小さいことの積み重ねで気がつけば「あれ、この会社こんな風だったっけ?」となる。全社員の意識が低下していないかは常に自覚してゆきたい。
輸入商社の三崎商事が破たん 小売り機能の有無が海外ブランドの信頼につながる時代
ニットの「マロ(MALO)」や「チヴィディーニ(CIVIDINI)」、ジャケットの「ボリオリ(BOGLIOLI)」、バッグの「ゲラルディーニ(GHERARDINI)」など、イタリアンブランドを中心とする輸入商社の三崎商事(大阪、三崎勝弘社長)が1日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。東京商工リサーチによると、負債総額は46億円だった。
1963年創立の三崎商事は「ゲラルディーニ」を皮切りに、80年代には「ビブロス(BYBLOS)」、90年代には「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」と「D&G」、その後は「ディースクエアード(DSQUARED)」などを日本に持ち込んで普及させた輸入商社の代表的存在。だが同社を含む輸入商社が、見出し、持ち込み、育んできたブランドは、日本でのビジネスが軌道に乗るとジャパン社を設立することが多く、昔から輸入商社は、育てるほどに「関係性消滅」というリスクが増大するというジレンマを抱えている。このため同じ輸入商社のアオイは「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」や「ヘルノ(HERNO)」、八木通商は「モンクレール(MONCLER)」など、見出し、持ち込み、育んだのちに生まれたジャパン社の株式を最大半分保有してビジネスに参画し続けている。一方三崎商事は、ブランドを完全に手放さざるを得なかったケースが多く、近年は手放したブランドの代替ブランドや、他の輸入商社がビジネスを軌道に乗せられず関係性を解消したブランドなどの輸入販売権を取得して注力したが、「ドルチェ&ガッバーナ」や「ディースクエアード」のような規模感に育てるのは難しかった。インポーター業界への逆風が顕著なものとなってきた2015年、当時社長だった三崎龍哉氏が54歳の若さで急逝したことも悔やまれる。
輸入商社を取り巻く、マクロな環境は厳しさを増していた。近年は輸入商社の主要クライアントだった、「専門店」と呼ばれる地方のセレクトショップが淘汰され、全国展開するセレクトショップでもプライベートブランドが増えてインポートの割合は減少していた。また、「ファーフェッチ(FARFETCH)」や「エッセンス(SSENSE)」「マッチズ・ファッション(MATCHES FASHION)」「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」など、海外から直接ブランド品を購入できる環境が整い、輸入商社の役割は変化を迫られている。
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