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広がるフェムテックの輪

 フェムテックという言葉はすっかり市民権を得ましたね。本日の記事1本目でご紹介しているのは、スマホアプリと連動し温度調節ができるカイロのようなデバイス付きの“フェムテック 温活スーツ”です。生理期間など、冷えを辛いと思っている女性は多いと思います。私自身、毎月使い捨てカイロを使用していますが、このデバイスなら繰り返し使えそうな点がいいですね。

 女性向けの温活商品って、インナーメーカーなどはかなり昔からさまざまなアイテムを企画していましたが、フェムテックという概念が定着したことで、この記事のユニフォームメーカーのように、インナーメーカー以外の企業にもそうした考え方が広がって、何か商品が作れないかと考えてくれているのはとても嬉しいこと。おしゃれなアウターブランドなどからも、アイデアを凝らしたすてきな温活アイテムがもっと出てきたら、冷えに苦しみつつもおしゃれ心も忘れたくない女性たちに支持されるんじゃないでしょうか。期待しています!

「WWDJAPAN」副編集長
五十君 花実
NEWS 01

腰や背中を温める“フェムテック 温活 スーツ”が「マクアケ」で発売

 ユニフォームの企画・製造を手がけるカーシーカシマは、“フェムテック温活スーツ”(5〜21号、税込1万9140円〜)をクラウドファンディングサイト「マクアケ(MAKUAKE)」で5月30日〜6月29日まで販売する。SDGsが掲げられ、女性の社会進出が増える昨今、仕事を頑張る女性に向けたスーツを提案。働く上で女性が抱える代表的な健康の悩みである生理痛や冷えをテクノロジーによって解決を目指す。

 “フェムテック温活スーツ”は、ヒートモジュールと呼ばれる温かくなるデバイスをジャケットやベストに入れることで腰や背中を温かくすることができる。Bluetoothでスマートフォンの専用アプリと連動し、温度調節が可能だ。温かくなる機能に加え、スーツを着た時に感じる窮屈感や肩こりを軽減するための機能、自宅で簡単にお手入れができる素材の採用など、ストレスフリーに着用できるように細部にまでこだわった。

 カーシーカシマは、ユニフォームアパレルメーカーとして未来のために何ができるのかを考え、サーキュラーエコノミーの実現に向けて人と人をつなぎ幸せの輪を循環できる集団を目指すべく、2020年から「Think Lab 0 プロジェクト」をスタート。そのプロジェクトの一環として、女性の社会進出を応援すべく“フェムテック 温活 スーツ”を開発した。長らく働く女性に向けた仕事服を作る中で培ってきたノウハウと技術を組み合わせ、企業理念「more beautiful」をかなえるべく、働く人や企業、全ての思いに寄り添ったユニフォームを提案する。

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NEWS 02

経済産業省係長に聞く 「ファッション未来研究会」報告書の背景

 経済産業省は「これからのファッションを考える研究会 ~ファッション未来研究会~」をテーマに、2021年11〜12月に34人の有識者を集めて議論をし、このほど報告書としてホームページ上に公開した。ファッション産業の現状のデーターやインタビューなどを交え、雑誌のようにデザインされた報告書は100ページに近く、“卒論級”のボリュームと濃度だ。企画を舵取りしたのは経済産業省の若き担当者。「これは未来へ向かうための地図」と話す彼女にその背景を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):行政が開く有識者会議には正直、何か政策を行うための、極端に言うと「予算確保準備」のための会議というイメージもありますが、今回は「結論ありき」の答え合わせではなかった。その分議論が壮大でしたね。

井上彩花経済産業省商務サービスグループクールジャパン政策課ファッション政策室係長(以下、井上):持っていきたかった筋書きがあったわけではもちろん、なく。ファッションの未来って何なのか?を、有識者としっかり議論をする中で導き出すことが非常に重要でした。ファッションを考えることは、人がどういう風に生活するのか、どんな生き方をするのかと全く同じなんだと思います。私は今6年目ですが、こんなプロジェクトは初めてで楽しかったです。

WWD:そもそも経済産業省はなぜこのプロジェクトを立ち上げたのでしょうか。

井上:前提としてファッション政策室ではファッションを衣服ではなく、文化やライフスタイル、時代ごとの人々の価値観や創造性を表す媒体だととらえています。生活文化に関連するモノ全体ですね。そう考えた時、ファッションには経済産業の視点でさまざまな意義があります。

WWD:意義とは?

井上:経済産業省なので外貨・外需をいかに獲得していくか?を常に考えていますが、ファッションはその重要な分野の一つです。例えばテキスタイルをはじめとする、各地に存在する伝統工芸や伝統技術が海外から需要され、金継ぎや襤褸(ぼろ)といった、昔からの生活の工夫が海外から改めて注目されています。少子高齢社会の日本にとって、ファッションは海外需要を獲得していくために高いポテンシャルのある領域だと思います。

 また、感性によるビジネス領域は、クリエイターがグローバル市場に一気にリーチできる可能性があり、グローバルで競争力を持つために長期的視点で重要な分野です。さらに研究会でも取り上げたバイオマテリアルやデジタルファッションなど、従来のファッションビジネスとは異なるスキルが求められていることを踏まえると、今後ファッションが新しい成長産業に変化する可能性も秘めています。

WWD:なるほど。サステナビリティも一つのポイントですね。

井上:サステナブルは不可欠です。ただ今回はその先、サステナブルを達成したその先に日本企業がどのように価値を創造し、外需をとっていくことかを議論する点がポイントでした。今起きている変化を整理した上で、世界に乗り遅れることなくむしろ日本企業がリードする “望ましいファッションの未来”を考えることを目的にしました。

WWD:34人の委員はどのような基準で選びましたか。

井上:未来を議論するために、専門分野、ジャンル、世代、国籍を越えた各領域のトップランナーの方々に集まり、議論をしていただきました。デジタル、バイオ・素材、デザイン、アート、ラグジュアリー、教育、評論、編集、経営、投資、研究など幅広い専門性からそれぞれファッションに向き合っている有識者です。

議論は白熱。得た答えの中から3つのポイント

WWD:会議は全てオンラインで全5回。チャットや共有ファイルを並行して活用し、誰かの発表と同タイミングでオンライン上で意見が飛び交うという、非常に活発な会議でした。どのような結論を得られましたか?

井上:具体的には大きく3つの方向性が議論されました。一つ目は人と自然に調和的で持続可能である状態です。サステナビリティの対応を行うことは一層不可欠なものとなるでしょう。障がいの有無や年齢、身体的差異やジェンダーなどに制限されることなく、自由にファッションを楽しむことが肯定されるようになっています。廃棄物が出ない、循環型システムの構築していくために、バイオマテリアルなどの素材開発も重要なポイントの一つです。

 これからは、消費を刺激して稼ぐのではなく、商品寿命を延ばして消費頻度を抑制してもビジネスが成立し、持続的に成長できるビジネスモデルへの転換が必要だと考えています。一つの方法が、ブロックチェーンなどのテクノロジーの活用です。製造工程から二次流通市場での取り引きも含めたトレーサビリティを担保し、二次流通の収益の一部をクリエイターに還元する新しい取引ルールを社会に提案し、根付かせていくことを考えています。

WWD:デジタルは大きな柱でしたね。議論ではクリエイターの新しい収益源との話題も出ています。

井上:はい。議論の二つ目の方向性がゲームを始めとする、デジタルファッション市場です。コミュニケーションの場が現実世界から仮想空間にも接続・拡張しつつあることで、自分自身のアバターを着飾ったり、表現するためのファッションが拡大したりしています。そこではこれまでのファッション産業とは異なるスキルが求められるため、世界を見ると、既存のファッション企業がデジタル産業との結びつきを進める動きが見られます。日本のゲーム産業は国際的にも存在感があリますから、連携をより深めることも重要です。

 デジタルファッション空間は、ファッションの楽しさをより多くの人が享受することのできる「平等な場」だという声もありました。デジタルツールの発展は単なる効率化だけではなくクリエイターの想像力を解放し、新しい創造が生まれるとしたら、それはとても楽しみな世界です。

 例えば、YouTubeの登場が映像作品の制作を一般の方にも解放したように、ファッションの分野でも、デジタルツールの発展によって、より多くの人が創造活動を行えるようになるのではないでしょうか。今後、クリエイターの新しい収益源として期待できる中、デジタルファッション市場への参入時に留意すべき論点、ファッションローなどをとりまとめるなど、国としても環境整備を行っていきます。

これは未来へ向かうための地図。官民で盛り上げたい

WWD:ラグジュアリーというキーワードもたびたび登場しました。

井上:三つ目のポイントは、突き抜けた個を支援し、経済・地域全体の成長に繋げること。その中で、「新しいラグジュアリーの概念」について議論しました。日本には長い歴史に積み重ねてきた伝統があります。各地域に存在するこうした伝統工芸や伝統技術が生み出すクオリティこそが、国際競争力の源泉であり、他国には真似することのできない独自性でしょう。

 また、日本は、これまで多くのクリエイターやアーティストが海外に挑戦し、海外の市場からも一定の評価を獲得しつつあります。とはいえ、こうしたクリエイターの中には、磐石な経営体制を伴わないままに海外市場にリーチしている、できてしまっているような場合もあり、まだまだ支援が必要だという指摘もあります。突き抜けた「個」を経済社会の発展に戦略的に取り込み、ローカルの持つ素晴らしい資源を世界の市場にリーチさせ、文化を次世代に向けてアップデートしていく仕組みを作っていくということにつなげる好循環を作りたい。

WWD:この取り組みをどう生かしますか?

井上:議論の内容をとりまとめた報告書を経済産業省のホームページ上に公開しました。ファッション業界に携わる方だけでなく業界の方や学生にもご覧いただき、目指す未来に向けて一緒に進んでいきたい。また、すでにいくつかのプロジェクトを進めているところですが、国としても、この未来に向かうための地図をもとに、必要な取り組みを行いたいと思います。報告書を読んだ方が自分の取り組みと結びつけて、さらに意見を寄せてくれると嬉しい。メールアドレスは表紙に書いてありますのでぜひ。官民で連携して、日本のファッションをますます盛り上げていくことができたら嬉しいです。

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最新号の読みどころ

3月25日発売号の「WWDJAPAN」は、2024-25年秋冬シーズンの「楽天ファッション・ウィーク東京(RAKUTEN FASHION WEEK TOKYO以下、東コレ)」特集です。3月11日〜16日の6日間で、全43ブランドが参加しました。今季のハイライトの1つは、今まで以上にウィメンズブランドが、ジェンダーの固定観念を吹っ切ったことでした。