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在庫活用でもイーブンな関係性

 スタイリストの小沢宏さんが、地元の長野県上田市にアウトレットとはちょっと違うセレクトショップをオープンしました。スタイリストの審美眼で、余剰在庫から商品をセレクト。それをまたスタイリストらしくディスプレイして、もちろん定価よりも安い価格で販売します。

 「良いな」と思うのは、「在庫なら、なんでもいい」ワケじゃないってところです。同じく余剰在庫のコスメをシングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に贈る「コスメバンクプロジェクト」も、「『廃棄するなら届けます』ではなく、私たちも多くのみなさんが喜び、日常生活で使っていただけそうな商品を、ご提示頂いたリストから選別しています」と話します。その関係性がイーブンで良いな、こうしたスキームなら対等な関係性が成立するなと思うのです。

「WWDJAPAN」編集長
村上 要
NEWS 01

「焦り」を感じていたスタイリスト小沢宏が、地元で審美眼を生かして在庫活用のセレクトショップ

 スタイリストの小沢宏は5月1日、地元の長野県上田市にセレクトショップ「エディストリアル ストア」をオープンする。取り扱うのは、「サイ(SCYE)」や「ミスター・ジェントルマン(MISTER GENTLEMAN.今春、ブランド名をソフトハイフン(SOFTHYPHEN)に改称」「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」のほか、ビームスやネペンテス、エストネーション、ベイクルーズ 、デイトナインターナショナルなどが手掛けるセレクトショップの眠った在庫。シーズン落ちした商品をスタイリストならではの審美眼で買い付け、もちろん定価より安い値段で販売。古里での新たなビジネスのきっかけは、これまでの仕事が縮小していくことに対する「焦燥感」と、だからこその「新しい挑戦への意欲」だった。ゴールデンウイークのオープンを目指す小沢に話を聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):地元での新たな挑戦に駆り立てたものは?

小沢宏(以下、小沢):スタイリストとして業界に飛び込んで、21歳で「ポパイ(POPEYE)」のアシスタントになって、今は57歳。正直最近は「ボールを投げる距離が短くなってきた」と悶々とするようになった。プロ野球選手のトライアウトなどの“悲喜こもごも”が、自分にとって身近になった。焦燥感があった。

WWD:焦りの理由は?

小沢:「ヌメロ ウーノ(NUNERO UNO)」や「コーヒー アンド ミルク(COFFEE AND MILK)」など、手がけていたブランドが縮小した。かつての事務所を引き払ったとき、サンプルなど、大量の洋服が出てきて驚いた。自分のブランドは決して大規模じゃないし、廃棄が生まれないよう気を使ってもいた。「それでも、行き場のない洋服がこんなにあるのか?」「俺でこんななら、世の中、どうなっているのか?」と考えた。みんな、好きで洋服を作っている。だから「残っちゃいました」「捨てなければなりません」は、すごく悲しい。業界人の多くが同様に悲しい思いをしているなら、「何かできないか?」と考えた。

WWD:そこで、各ブランドの在庫をスタイリストの自分が選び、コーディネートし直して販売するショップを思いつく。

小沢:スタイリストは、いろんなブランドの洋服をディグって、1つのアイテム、1つのスタイルを見つけるような仕事。今、若い世代が夢中な古着屋のようなショップは、自分のこれまでの仕事に近く、今までにない価値を提供できるかもしれないと考えた。企画をまとめて業界の先輩や友人にぶつけてみたら、「成立しないよね」と否定“してくれた”。皆、思った以上に「自分ごと」として捉えてくれたからこその返答だった。それぞれ会社の事情があるから「ユニークなこと、やろうとしてますね」という反応も多かった。「必要とされているのかも?」と現実味が増した。

「広がらないと腹落ちしない」だろう
でも、続ければ「大きな渦になる」手応え

WWD:「ユニークなこと、やろうとしてますね」は、個人的には共感するけれど、会社の事情もあるから距離を置きたいという答え。交渉は、大変だったのでは?

小沢:正直、ラグジュアリーやインポートは、全滅(笑)。でも、親身になって話を聞いてくれるブランドも多かった。不安は、とてもよくわかる。外部の人間が倉庫に入って、商品をピックアップして、直営店とは異なる店頭で売るスキームが受け入れられるのか?という不安は大きく、本音で話して、意向を聞いて、修正を繰り返した。特にアウトレットを持つブランドは「なぜ、ここで?」と考えるし、セレクトは卸売りをしていない。ハードルは高かった。実店舗できて、ECがオープンして、広がらないと腹落ちできないこともあると思う。一方、続けば理解してもらえて、大きな渦になることもあるだろうという手応えを感じた。

WWD:各ブランドの倉庫を周り、一点一点商品をピックアップする過程も大変そうだ。

小沢:基本的にはエクセルの在庫リストとにらめっこしながら個々の倉庫に赴き、在庫の山からお目当てを探し出し、購入するカンジ。倉庫の一角にキレイな段ボールを広げて、洋服を床に置いて吟味している。地道な作業だが、かつて経験したアメリカでの古着の買い付けのようで、とても楽しい。自分で試着して、自撮りして、ピックアップするサンプルを決めるスタイリストの仕事にも通じる。ただ今の僕が目指すのは、「デッドストック」を「ライブストック」にすること。古着業界の「デッドストック」は、未使用のヴィンテージ品。一方の「ライブストック」=「生きた在庫」で、本来なら処分される在庫を新たな流通で新しい価値と共に甦らせたい。

WWD:ショップでは、洋服以外も扱う?ECは?

小沢:実店舗もECも、フルラインアップ。帽子では「キジマタカユキ(KIJIMATAKAYUKI)」、シューズでは「パラブーツ(PARABOOT)」に賛同していただいた。商品の他、残反も買い取った。2、3mの残反は洋服にもできないから業者にお金を払って回収してもらっていたようだが、大手のシャツメーカーのフレックスジャパン(百貨店や専門店、郊外のロードサイドの量販店などで販売するシャツの製造メーカーで、長野県千曲市に拠点を構える)でショッピングバッグにしてもらった。大と小、シューズ用の3種類を用意している。縫製を依頼したフレックスジャパンからは、シャツの端切れを頂いた。細長く切り裂いて三つ編みにして、フーディのドローコードなどにしている。

WWD:ショッピングバッグもフーディもカワイイ。

小沢:さまざまなブランドやスタイルを組み合わせてきた僕の得意技は、「マッシュアップ」。ブランドとシャツメーカーのマッシュアップで生まれたショッピングバッグや、そのメーカーと僕のマッシュアップによるドローコードは、そんなにお金や時間をかけなくても売れるのでは?と思う。最初から最後までを自己完結する形のアップサイクルは、ツラくて続けられない気がする。違うものを組み合わせ、単純に「あ、いいね」と思えるものにしたい。地元に帰り、自分の想いがブランドやシャツメーカーとつながり、彼らの想いがまた別の形につながっている。「ファッションのカラクリ」を知っていて、安易には「いいですね」と言い切れないことが多いと自覚している中、この取り組みは「いいことしかない」と言い切れる。信州大学の繊維学部がある上田市の、元気のない商店街にオープンする「エディストリアル ストア」は、きっとまた、次の想いにつながるだろう。想いの裏にある課題を知りながら、地方と東京、社会と業界をシェイク、ミックス、マッシュアップする架け橋になりたい。

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NEWS 02

アダストリア子会社の好調エレメントルール 初のメンズブランド「ヒューベント」を立ち上げ

 アダストリアの子会社で、「カオス(CHAOS)」「カレンソロジー(CURENSOLOGY)」などのウィメンズブランドを運営するエレメントルールが、初のメンズブランド「ヒューベント(HUM VENT)」を立ち上げた。ディレクションは、櫛部美佐子「カオス」ディレクター兼デザイナーが手がける。自社ECサイトで7月から予約販売すると共に、セレクトショップなどへの卸やポップアップショップで認知拡大を目指す。

 SCに出店するカジュアルブランドを主力とするアダストリアの中で、エレメントルールはファッション好きに向けてより高価格帯の商品を品ぞろえしている。ECの予約販売やライブ配信などのデジタル施策と、店頭での顧客接客力の掛け合わせで売り上げを伸ばしており、2022年2月期の「カオス」売り上げは前期比92%増、「カレンソロジー」は同41%増(どちらもアダストリア決算会見から)だったという。

 満を持して立ち上げるメンズの「ヒューベント」は40〜50代男性が主対象。コートで10万円超えと、価格帯は「カオス」「カレンソロジー」よりもさらに上だ。「エレメントルールとしてメンズブランドをやる以上は、アダストリアの既存ブランドにはない価値を提供したい」と坂本貴之ヒューベント事業部長。まずは自社ECが主販路になるが、アダストリアのブランド横断型モール「ドットエスティ(.ST)」の中には組み込まず、「ヒューベント」単独でECを立ち上げる。7月に予約を開始し、本格販売は8月から。

 櫛部ディレクターはもともと古着好きといい、古着のワークウエアや軍モノから着想を得たデザインを、上質な素材で仕立てている。例えばPコート(12万円)には、カシミヤ混ウールのメルトンにはっ水加工をかけた生地を使用。梳毛ウールのダブルフェース生地は、張りのある素材感を生かして袖がカーブした量感シルエットを描くコートに仕立てた。厚みのあるスエットには高級綿として知られるシーアイランドコットンを使用。これらの生地は全てオリジナル。ダッフルコート(18万円)に使った英の老舗生地メーカー「ジョシュア エリス(JOSHUA ELLIS)」の生地以外は、「ほぼ作り込んでいる」という。

 バリエーション豊富なニットも注目アイテムだ。カシミヤ・セーブルのニットガウン(20万円)やカシミヤ100%のあぜ編みセーターなど、大人のリラックススタイルにマッチする上質なアイテムをそろえた。「男性のファッションというと、どうしても“うんちく”が重視されがち。“うんちく”ではなく、触った時の質感や、羽織った時のシルエットの美しさなど、もっと感覚的な部分でファッションを楽しんでほしい」と櫛部ディレクター。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。