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期待大の新ファッションプログラム

 中里唯馬「ユイマ ナカザト」デザイナーとスパイバー、ユニステップスが、とっても興味深いファッションアワード&教育プログラム「ファッション フロンティア プログラム」を立ち上げました。社会的課題に向き合うファッションデザイナーを発掘するのが目的で、応募対象は年齢や職業を問わない、というのが何だか面白そう。超豪華なスポンサーやパートナー陣からも、こういった人材への期待の高さが分かりますね。

 海外のいくつかの有力アワードでは、社会的課題への意識の高さがすでに選考基準に含まれています。とはいえ、それらの受賞デザイナーは、「ファッション フロンティア プログラム」の評価ポイントである、ソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)とクリエイティビティ(創造性)のバランスが良いとは言い切れないのが正直なところ。社会問題への意識が高くても、結局は素敵な服じゃなければメッセージは伝わりませんから。だからこそ、この日本発の新しい試みには期待が一層ふくらみます。

 

「WWDJAPAN」副編集長
大塚 千践
NEWS 01

社会的課題に向き合うデザイナーを育成&支援するプログラム 環境省が後援

 ファッションデザイナーの中里唯馬と、エシカルファッションを発信する一般社団法人ユニステップス(unisteps)は7月5日、未来のデザイナーを育成・支援する「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」を立ち上げた。環境省も後援する珍しいファッションアワードと教育プログラムとなり、第1期生を8月5日まで募集する。
 
 応募対象は年齢や職業を問わず、社会的課題に向き合うファッションデザイナーで、審査ではソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)とクリエイティビティ(創造性)を併せ持つ衣服のデザインを評価する。8月下旬に第一審査で8人を選出し、素材や機材の提供、サポーターやアドバイザーからの学びの機会などのサポートを開始。11月末に作品撮影、最終審査を実施した後、12月に3人の受賞者を発表する。従来のアワードのように賞金などは用意していないが、受賞者は2022年1月から「ファッション フロンティア プログラム」のラボに参加し、育成と上記の素材提供やメンターシップによる支援を中長期的に受けることができる。

 スポンサーはバイオベンチャー企業のスパイバー(SPIBER)をはじめ、下着のワコール、繊維専門商社の豊島、みんな電力、後援に環境省、協力企業にグーグル(Google)、メディアパートナーに「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」などが名を連ねる。

 審査員は、発起人の一人である中里唯馬デザイナーのほか、渡辺三津子「ヴォーグ ジャパン」編集長、建築家の妹島和世、国立環境研究所の生物学者である五箇公一、慶應義塾大学の宮田裕章・医学部教授らが務める予定だ。

 中里デザイナーは「気候変動、人種差別、経済格差など、私たちは多くの深刻な社会的課題に直面しています。 そんな中、多くの環境負荷をもたらすとされるファッション業界は今、変革の時を迎えているのではないでしょうか。『ファッション フロンティア プログラム』はそんな状況に立ち向かう、 勇気と志を持った未来のファッションデザイナーを発掘し、称え、そして育む事が、業界だけでなく社会全体が良い方向へ変化していく原動力となると考え、創設いたしました」とコメントする。

  7月21日にはプログラムの立ち上げを記念したトークイベントをYouTube上で配信する。「開拓者精神を持つ未来のファッションデザイナーへ」と題し、小泉進次郎・環境大臣や、渡辺三津子 「ヴォーグ ジャパン」編集長、中里デザイナーの鼎談動画を予定する。

■FASHION FRONTIER PROGRAMのスケジュール
募集期間:7月5日〜8月5日
第一審査通過者へのサポート期間:8月下旬〜11月
作品撮影&最終審査:11月末
受賞者発表:12月中
受賞者のラボへの参加:2022年1月〜
主催:一般社団法人ユニステップス
後援:環境省
「ファッション フロンティア プログラム」実行委員会:ユニステップス、ユイマ ナカザト、スパイバー

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NEWS 02

デムナを見出した欧州最大級のファッションコンテスト「ITS」が若手デザイナーに伝えたいこと 過去受賞者の作品も公開

 「ITS(INTERNATIONAL TALENT SUPPORT CONTEST以下、ITS)」は、イタリア・トリエステから、これからに期待がかかるデザイナーを発掘するヨーロッパ最大級のファッションコンテストだ。これまでの受賞者は「バレンシアガ(BALENCIAGA)」で活躍するデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)やリチャード・クイン(Richard Quinn)、セシリー・バンセン(Cecilie Bahnsen)ら。日本からも中里唯馬をはじめ数々のファイナリストや受賞者が生まれてきた。今年は、ビデオシリーズや日々のクリエイションや過去の作品を公開するデジタルプラットフォーム「ITSアーケドミー(ITS Arcadomy)」を設立。若手デザイナーに勇気を与え、学習環境を整えることに一層力を注いでいる。同コンテストの創業者、バーバラ・フランキン(Barbara Franchin)ITSディレクターに未来のデザイナーに期待することなどを聞いた。

WWD:若い才能を発掘する際に、設立から変わらず大切にしている基準はあるか?

フランキンITS創業者兼ディレクター(以下、フランキン):本能的に惹かれるかどうかは重要だ。鳥肌が立つかどうかといった、言葉では説明できない感じるままの反応を大切にしている。新たな視点で物事を捉え、これまでのしきたりに挑戦する人材に注目している。ファイナリストを目指す上で、ゼロからモノを作る技術は必須。ポートフォリオで提出する素材は、全て自らの手で作れることが大前提となる。

WWD:日本の受賞者で特に印象に残っているデザイナーと、その理由は?

フランキン:とても選びきれないがそれでも挙げるとするなら、2008年と09年ITS受賞者の中里唯馬。テクノロジーと職人技を融合した新しい繊維の開発や、先進的な考えでファッションの民主化に挑戦し続けている。04年の受賞者、山縣良和はトレンドやマーケット動向に左右されることなく自身の夢を詰めこんだコレクションを手掛ける。16&19年受賞者の片貝葉月は、非現実的なアイデアを実行に移す力を持っている。西山高士もまた10年にITSを受賞した際のコレクションが印象深い。

WWD:デムナ・ヴァザリアは、何が秀でていたのか?彼の今日の活躍を見てどう思うか?

フランキン:デムナは非常にユニークな存在だ。受賞した04年当時はまだベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーの2年生だったが、彼が作るものには洗練された雰囲気と、新しい視点があった。彼が考える業界に足りないものは明確で、随所にその考えが落とし込まれていた。今やファッションを通して対話を投げかけるクリエイションは多く見られるようになったが、デムナは当初から社会にメッセージを投げかけていた。「バレンシアガ」のレガシーに敬意を評しながら、ブランドを新たな局面まで成長させた彼に感銘を受けている。

WWD:ITSのアーカイブを日本の次世代デザイナーにどうに活用してほしいか?

フランキン:「ITSアーケドミー」には、過去20年のアイデアや提案を全て格納する。若手デザイナーによるプロジェクトや素材を世界に公開することで、遊び心溢れる作品の閲覧や交流、学びを提供する。クリエイティブが盛んなイタリアのトリエステから、ファッションやアート、デザイン、カルチャーについて発信するので、日本の若手デザイナーがこれを機に世界の作品に触れ、創造性の新たな刺激として活用することを願っている。

WWD:次世代のデザイナーに期待することは?

フランキン:より良く、より少なく生産すること。長持ちするものをデザインしてほしい。今のファッション業界には、語られなければいけないことがたくさんある。その中で、若手が今日の“ラグジュアリー”の意義をどう捉え、デザイナーの前に一人の人間としてサステナビリティと向き合うか、あらゆる立場の市民を社会の一員として支え合うソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)をどう扱うかに期待する。私自身答えが見つけられないからこそ、これからのデザイナーの提案を心待ちにしている。

WWD:今後求められるデザイナーの素質とは?

フランキン:自分の意思を持っていること。自分なりの視点を持って、これまでフォーカスが当たっていなかった事柄に目を向けること。服作りやデザインにとことん向き合って、息を吸ったり吐いたりするのと同じくらい自分の一部にするべきだ。これらは当たり前でなくてはならない。現代を独自の視点で解釈し、心の境界線を引き直す力を持つべき。社会から切り離してデザインだけすることはできない。ココ・シャネル(Coco Chanel)は、コルセットのように身体を拘束するファッションから女性を開放し、力を与えた。それまでは考えられなかったより快適なファッションを生み出した。80年代にはジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)もスーツを通して同様の革命を起こした。クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)は新しい“型”からアプローチした。若い世代には新感覚の市場があり、ジェンダーに対しても今まで“普通”とされてきたこととは異なる見方を持っている。現代のデザイナーには、この新しい消費者層に向き合っていく力が必要だ。

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