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魅力的な「人」に会える店

 皆さん、「好きなことして生きていますか?」。……なんて、まるでユーチューブの宣伝文句みたいな問いかけをしてしまいましたが、先日取材した福岡の古着店オーナー兼美容師兼バンドマンは、まさに好きなことを仕事にして生きていました。東京や大阪のファッション業界人も注目している古着店です。どんな店か、是非1本目の記事をお読みください。

 「好きなことして生きる」ことだけがすばらしいといった、青いことは言いません。でもやっぱり、「コレが好き!」「コレが楽しいからやっている!」という人は魅力的。今週は「販売員特集」と連動したスゴ腕販売員のインタビュー記事もウェブに多数掲載していますが、輝いている販売員も、やはり「販売が楽しい!」「好きだから突き詰めたい!」という情熱にあふれていて、「この人から買いたい」という気持ちにさせますよね。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

東京のファッション業界人も通う福岡の個性派古着店 元美容師のオーナーが店を開いたワケ

 先日、出張で福岡に行く機会がありました。前回同地に赴いたのは2019年春のこと。コロナ禍によって3年強も間が空いてしまったので、事前情報がスッカラカンです。というわけで、現地のファッションコミュニティーにご友人や知人が多く、リアルな福岡事情を熟知した奥村展子さんに事前リサーチ。奥村さんは福岡発の雑貨ブランド「イントキシック(INTOXIC.)」やファッションブランド「トーマス マグパイ(THOMAS MAGPIE)」を手掛けるデザイナーで、6年ほど前の福岡出張で出会いました。

 頼りになる奥村さんが、福岡で勢いのあるお店として教えてくださった1つが「アー ユー ディファレント(Are You Different)」という大名地区の古着店でした。天神地区のお隣である大名は好きなショップも多く、福岡に行く度に訪れていますが、19年夏にオープンしたという「アー ユー ディファレント」は未チェック。取材アポを入れて訪れてみると、対応してくださったのは荻野友彰オーナー。冒頭の写真を見てもお感じいただけると思いますが、お店も荻野オーナー自身も非常に濃く、「あの店に行くために福岡に行きたい!」と思わせる“デストネーションストア”だったのでたっぷりご紹介させてください。

 現在46歳の荻野さんは元々美容師で、今も「アーユー ディファレント」そばで「ロックンロールゲームズ(Rock’ n’ Roll Games)」というヘアサロンを運営しています。また、「アー ユー ディファレント」以外にも系統の異なる古着店2店(うち1店は共同経営)を運営しており、計4店のオーナーです。今はヘアサロンは経営のみで美容師としての活動はしていませんが、最初に自身の“城”としてオープンしたのはヘアサロン。30代前半でサロンを持ち、その数年後に1店目の古着店「ザ マンデーズ(THE MONDAYS)」を開いています。それが今から11年ほど前のこと。「ザ マンデーズ」は今も経営している4店のうちの1店です。

始まりは美容室でのアンティーク雑貨販売

 今でこそ美容師がサロン内で服や雑貨を売ったり、サロンに併設する形でショップを持ったりすることもよく見聞きするようになりましたが、11年前というとまだまだそういった事例も少なかったころ。なぜ古着店を開くことになったのかというと、「福岡で古着店をしている友人についてアメリカの田舎町に買い付けに行くようになり、集めた絵や皿などの雑貨を自身のヘアサロンで売ってみたらすごく反応がよかったから」と荻野さん。「当時は福岡に目立ったウィメンズの古着屋もあまりなかった」と振り返ります。

 「ザ マンデーズ」はガーリーな世界観が10〜20代女性客を中心に支持され、「福岡の古着屋○選」といったウェブ記事などでも名前が挙がります。一方で荻野さんが「本当に自分がやりたいこと、好きなものを集めてスタートした」というのが「アー ユー ディファレント」。同店店舗は以前は飲食店とそのオーナーの住居だったというコンパクトな3層の建物で、赤い鉄骨の梁が剥き出しになったかなり無機質な空間です。その中に、「私を買うべき!」という強烈なオーラを放つピースから、ちょっとヘンテコリンなものまで、宝物のような古着がたくさん詰まっていました。

 「シャネル(CHANEL)」や「サンローラン(SAINT LAURENT)」「エルメス(HERMES)」などの分かりやすいデザイナーズビンテージを集めている古着店ではありません。そういった商品もないわけではないですが、主役は荻野さんのフィルターを通して集められた、洋の東西や年代、ジャンルを問わないノーブランドの服たち。ネイティブアメリカン由来のアイテムもあればブートもののバンドTシャツもあり、スカジャンもあり、古い日本の半纏(はんてん)もあり、元の持ち主がDIYでアップリケを付けまくったであろう、思わず笑ってしまうアイテムもあり。ただ、1点1点じっくり見ていると「こういったデザインの古着が、あの有力ブランドのあのシーズンの着想源だったのでは?」だなんて感じるものもある。ラグジュアリーメゾンからドメスティックブランドまで、あらゆるデザイナーがリファレンスとして古着を掘りまくっているわけですから、さもありなんですよね。

 古着のほかに、リメーク商品も店頭に並びます。取材当日に荻野オーナーが着ていたジャケットも古着のリメーク。テーラードジャケットの裏地としてビンテージドレスのレースをドッキングし、それをインサイドアウトにして着こなしていました。足元に合わせていたのは新品で買ったという「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」のヒールパンプスですが、こちらも印象的。店頭ではほかに、「ザ レター(THE LETTER)」と「アー ユー ディファレント」との協業のレザーシューズなども品ぞろえしていました。

「古着には想像を超えるものがある」

 「美容師時代から、古着も新品も垣根なくファッションがずっと好き」と荻野オーナー。その中でも特に古着にひかれるのは、「古着を買い付けに行くと想像を超えるものが出てくる」から。「古着は生地もいいものを使っていることが多く、とてもぜいたく。今の服はなかなかこんな凝ったことはしないなとハッとする。もちろん、新品の服にハッとすることもあるけど、古着の方がそういう瞬間は多い」と言います。「毎シーズン、店のテーストが固定してしまわないように買い付けでは頭をなるべく柔らかくしている。買い付けは、何が売れるかよりもその時の自分の気持ち優先。自分はかなりガラっと気分が変わるタイプで、品ぞろえもその時々で大きく変わる。新品も含めかなり多くの服を見ている中でそんなふうに気分が変わるわけだから、それが世の中全体の気分でもあるんだと思う」と続けます。

 そんな荻野オーナーの買い付けには業界玄人のファンも多く、「東京の古着店の人や、デザイナーが来店するケースも少なくない」。店頭とECでの売り上げ比率はおよそ半々。ECでは「関東圏や関西圏からの購入が非常に多い」というのもうなずけます。客層は男女半々、20〜40代が中心。取材時、店頭には1950年代のスカジャンで10万円台という商品もありましたが、1万円台の商品もあり、平均すると商品単価は3万円台とのこと。

 荻野オーナーは「アー ユー ディファレント」の出店を考えていた際に東京の物件も探していましたが、たまたま現在の物件が見つかって福岡での出店を決めました。「東京には古着屋もたくさんある。福岡でやっていて良かったのかも」。ただ、やはり「福岡以外でも古着屋はやってみたい。でも、まずはヘアサロンの拡大が先かな」と話していました。品ぞろえが自由で面白く、荻野オーナー自身もキャリアをキャラも非常にユニーク。そして価格も良心的。他地域から訪れるファンが後を絶たないという理由がよく分かる店でした。皆さんも福岡を訪れる際にはぜひ「アー ユー ディファレント」に行ってみてください。

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NEWS 02

ファンデーションを最も売る「M・A・C」美容部員に聞く、「欲しい!」を途切れさせない接客術

 メイクアップブランド「M・A・C」は、全国に約500人のM・A・Cアーティスト(美容部員)を抱える。イピラン俊也ジョンさんは2020年、日々の活動や店頭での実績、SNSに投稿する作品など総合的な評価によりブランドに17人しかいないM・A・Cクリエーターに昇格した。得意なのは肌の質感作りや骨格の見え方を変えるメイクで、ブランド内で実施している販売コンテストでは、ファンデーション・下地部門で1位を獲得した。イピランさんの販売力の源とは。(この記事は「WWDJAPAN」2022年11月7日号販売員特集からの抜粋に加筆し、特別に無料公開しています)

 メイクアップアーティストを志す前はパティシエになりたかったというイピランさんは、盛り付けたりデザインしたり美に関わることに元々興味があった。進路を決める高校2年生のころ、SNSの影響で自分や人をメイクできれいにする楽しさに引き込まれ、美容の専門学校への入学を決める。入学と同時に「M・A・C」を展開するELCジャパンに入社。働きながらスクールに通えるワーキングスチューデントとして2年間、学びながら店頭でもスキルを磨いた。「M・A・C」を希望した理由をイピランさんは、「ルーツであるフィリピンではショーや舞台に立つ人など派手なメイクを好む人が多く、『M・A・C』は誰もが知っている人気ブランド。『M・A・C』で働けて家族と自分の夢がかなった」と話す。

入社直後に16人在籍の大型店に配属

 通常は小規模店舗から徐々にステップアップしていくことが多い中、最初の配属で大型店の伊勢丹新宿本店に配属される。同店には当時、16人のM・A・Cアーティストが在籍しており、「大物スタッフが多かったから怖かったけど、学べる技術は全て吸収しようとひたすら観察してメイクテクニックや接客スタイルを身につけた」。入店から半年ほどでのメイクスキルのテストに合格し、実習生から客の顔に実際にメイクできる立場になる。「伊勢丹新宿本店は他店と比べてマチュア世代の顧客が多く、レッスン形式でのロングタッチアップがメインだった。お客さまがお帰りになるときにはご自身でメイクができるようになるように応対する。そこで提案力や接客術を鍛えられた」と振り返る。

 イピランさんはM・A・Cクリエーターに昇格後、現在のルミネエスト新宿店に異動する。「SNSに“イピラン流メイク”を投稿し始めて半年ぐらいでフォロワーが急に増えて、M・A・Cクリエーターに昇格できた。M・A・Cクリエーターはファッションショーのバックステージなども手掛けられて、店頭とは違うメイクができて楽しい」と話す。

プロ、外国人、若年層、それぞれのニーズに対応

 ルミネエスト新宿店は世界でも数少ないM・A・Cプロストア。舞台用などプロフェショナル向け製品も扱う店舗で求められる接客の幅は広い。プロのメイクアップアーティストのほか、ファンデーションのカラーバリエーションが多いため、外国人客も多く来店する。「こうしたお客さまの必要なものは少し複雑なので想像力が必要。また、ルミネは若いお客さまも多くトレンドに敏感。駅直結で急いでいる人も多いので、求められている商品を素早く的確に提案することを心掛けている」と店舗の特徴に合わせて工夫を重ねる。

 リピーター客は、毎日使うファンデーションやアイブロウなどの購入が多いので、欲しいものが途切れないようにカラーコスメなどといろいろな組み合わせを提案できるよう知識とテクニックを駆使する。「ファンデーションの質感でもスルッとしたマシュマロみたいなマットやお風呂上がりのようなツヤなどバリエーションはたくさんあるので、季節に合わせて新しい提案をすると興味を持ってまた来店してもらえる」と話す。

インスタに“変身動画”を投稿し華やかなメイクを発信

 店頭ではベースメイクの提案に自信を持っているというが、インスタグラムでは映えやすいカラーメイクを中心に投稿している。直感でかわいいと思ったカラーを組み合わせたり、海外ではやっているメイクを取り入れたり、投稿を見ると本人が何よりもメイクアップを楽しんでいるのが伝わる。最近では、アメリカではやっている1990年代のクリースメイク(まぶたのくぼみにダブルラインのように影を入れるメイク)を発信している。「仲良くなったお客さまにはインスタではやりのものや新製品の情報も投稿しているのでよかったら見てみてくださいと声掛けしています。親近感を持ってもらえて、新規のお客さまがリピーターになってくれたり、このメイクを教えて!と来店のきっかけになったりすることも」と話す。

 販売力アップのために心掛けていることを聞くと、「美容部員は黒づくめで『店舗に入りづらい』と言われることもあるので、いつもハッピーでいること。お客さまをいい意味で満足させない、好奇心を刺激し続けられる存在でいたい」と語った。


EDITOR’S VIEW
 イピランさんの魅力をブランドのPRチーム、水野園子M・A・Cコーシューマーマーケティングエグゼクティブは「天性のハッピーオーラ」と称する。人を安心させる優しい物腰が販売力に寄与しているのは間違いないが、「喜んでもらうのが心底楽しい」という熱意、引き出しを増やす地道な努力が結果につながっていると感じた。メイクの質問をすると顔がパッと明るくなり嬉しそうに教えてくれたのが印象的だ。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。