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「そこに、愛はあるのかい?」

 「ダブレット」も「オーラリー」も、そして「メゾン ミハラ ヤスヒロ」も。今回ほど「別件」でショー取材が出来ず、悔しい思いをしているシーズンはありません(笑)。それぞれが自分たちらしく、東京でできることで、ファッションはオミクロンにも負けていないことを教えてくれています。いずれも、1、2ヵ月前に決断した「プランB」のはずですが、そんな経緯を思わせないクリエイティビティです。

 こうした記事については最近、「愛がある」とSNSでお褒めいただく機会が増えました。私も、そう思います。振り返ればヴァージル・アブローの訃報を聞いて書いた私のコラムも、同じように褒めていただきました。そう、私たちは、ファッションへの愛に溢れている人たちを、愛し続け見つめ続けているからこそ、愛ある記事を書くことができるのです。

 ここには、ビジネス的に誰かの参考になるような情報はないかもしれません。けれど、こうした「愛」の存在を可視化して発信すること、私たちの「愛」ものせて増幅することもまた、「WWDJAPAN」が業界のためにできることだと考えています。それは、業界のエンパワーメントにつながるでしょう。

 最近、「そこに、愛はあるのかい?」を考えてさまざまを判断している自分の背中を押してくれた記事に、私も愛を贈りたいと思います。
 

「WWDJAPAN」編集長
村上 要
NEWS 01

もう「ダブレット」では簡単に驚かないと思っていたのに 22-23年秋冬は“最驚”の手作りメタバース

 「『ダブレット(DOUBLET)』がパリ・メンズ・ファッション・ウイーク参加にともない、1月21日にフィジカルショーを行います。今回は会場までのバス移動があるため“拘束時間が大変長くなってしまいます”」――1月11日に届いたメールには、こう綴られていました。丁寧に、拘束時間の箇所は文字の色が変わっています。詳細を見ると、13時45分に代々木公園集合、16時30分に会場到着、20時代々木公園到着後解散だそうです。さらに、ブランドの意向で行き先は教えられないと。

 でも、もう驚きません。だって、「ダブレット」には今までさんざん驚かされてきましたから。パリメンズに初参加しファミレス風演出のショー、東京・南青山ではゾンビのお化け屋敷ショー、横浜では逆再生ショー、三鷹の農園では爆音パンクのショーと、シーズンごとにサプライズと笑いを届けてくれました。だから、拘束時間ぐらいでは「はい、きたきた」と感じたぐらいでしたし、並大抵のことでは驚かない自信があります。

13:45 代々木公園に集合

 ショー当日、集合時間ぴったりに代々木公園に到着しました。PRから前日に「まあ、バスの中でテレワークもできる時代になりましたしね」とさらっと言われたのでその気になり、酔い止め薬を購入してバスに乗り込みます。果たしてこの半日コースには、どんな人が来ているだろうとバス内を見渡すと、まあまあ忙しいであろう業界人が30人以上乗り込んでいます。みなさま、お仕事は大丈夫なのでしょうか。心の中でふとPRの「まあ、バスの中でテレワークもできる時代になりましたしね」が響きます。観光バスで仕事はできるのか。

15:30 パサール羽生で休憩

 しばらくすると、バスが事故渋滞に巻き込まれました。ゆっくりゆっくり進み、ようやく休憩スポットのパサール 羽生に到着です。きっと予定より遅れているのでしょうが、タイムスケジュールも知らされていないので、とりあえずどら焼きを購入してホッとひと息。あれ?自分は今何をしているんだっけ?と目的を一瞬見失いそうになりましたが、仕事です。コレクション取材です。iPhoneをチェックすると、メールが30通ほどたまっています。危うく遠足気分になりかけました。

16:15 渡良瀬川を渡る

 再び渋滞を抜けたあたりで地図アプリを見ると、どうやら群馬か栃木に向かっているのだと予想できました。群馬は「ダブレット」の井野将之デザイナーの地元です。まさかこのタイミングで凱旋ショーなんて企画しているのかと胸が躍ります。いや、ちょっと待て。バスは栃木の方に向かっているようです。どこに連れていかれるのだろう。

17:00 ショー会場到着

 高速道路を出て街中をしばらく走ると、目的地が見えました。3時間の移動の末にたどり着いたのは、足利スクランブルシティスタジオです。ここは渋谷スクランブル交差点を再現した撮影スタジオで、さまざまな映画やドラマの撮影に使われています。バスの中からは「ここ私が毎日通ってるとこなんだけど」「改札までちゃんとあるじゃん」と驚きの声。そして、渋谷っぽいファッションの人たちがすでに外にたくさんいます。見た目は渋谷、でも気温は栃木。めちゃくちゃ寒いです。バスを降りると、すぐにショーがスタートしました。渋滞での到着遅れで、日没は間近。きっと裏ではヒヤヒヤだったのかもしれません。

異様な光景に困惑

 爆音BGMが鳴り響くと、渋谷っぽい人たちはすぐにエキストラだと分かりました。交差点の信号が青になった瞬間、約70人の若者たちが入り乱れます。そして“ハチ公口改札”から、ピンクヘアのモデルが登場しました。遠くからこちらに徐々に近寄ってくると、どこかで見覚えのある顔です。誰かが言いました。「あれ、immaちゃんだよね?」――そう、バーチャルモデルのimmaが渋谷スクランブル交差点のセットを歩いているんです。immaって実在する設定だっけ?これが中の人?どういうこと?と頭が混乱します。そして次のモデルが歩いてくると、これもまたimma、次もimma、最後までずーっとimmaなんです。さらに体格のいいimma、車椅子のimma、義足のimmaなど、さまざまな個性のimmaが登場します。すみません、コレクション取材を約5年続けていますが、こんな状況では服どころではありません。こういうときはただ見届けるのみ。

 コレクションはショッキングピンクをキーカラーに、渋谷を意識した“コギャル”風のスクールガールからストリート仕様のダボダボスーツまで、多彩なスタイルが交差します。環境に配慮した素材使いは、独自の視点で継続。毛皮工場に眠っていた何十ものファーをつなぎ合わせた巨大なジャケット、リアルファーとリサイクルウール、リサイクルナイロンを混ぜたフェイクファーや縮絨メルトンのコート、キノコレザーとリサイクルカシミアのボアで作ったボンバージャケットが登場しました。さらにダウンの代わりにフェイクファーを入れてオーガンジーで包んだジャケットや、生分解性が高いサトウキビ由来のポリ乳酸100%で作ったアンダーウエアには、“Made for Disposal(捨てるために作った)”というメッセージをあしらいます。

 スタイルはまるで本当の渋谷のようにバラバラですが、一つだけ共通していることがありました。それは、サイズ感がアンバランスなこと。例えば肩が大きく張り出したテーラードジャケットは丈が極端に短かかったり、逆にチェスターコートは過剰なほど巨大だったり。“アイ ラブ ストレッチ”と描かれたTシャツは縦にビローンと伸び、“アイ ラブ シュリンク”と描かれたTシャツは腹出しするほど縮んだようなサイズ感です。ほかにも、300cmもあるルーズソックス風のタイツや、火山岩から作った糸で織る生地を用いたMA-1は、キッズサイズのようにコンパクト。有松絞りの応用で作ったという伸縮性のあるポップコーンニットのウエアは、デニムや迷彩柄が登場するなど、サイズ感に何かしらのメッセージを込めているのが分かりました。

 25人のimmaが交差点を横断し終えると、フィナーレには全員集合。次の瞬間、全員がいっせいにマスクを脱いで素顔があらわになりました。そこにはメイクアップアーティストで僧侶の西村宏堂さんや、車椅子に乗るファッションジャーナリストの徳永啓太さんの姿も見えます。素顔の25人がハッピーな雰囲気で通り過ぎていくと、immaのマスクを被った井野デザイナーが登場し、ショーは幕を閉じました。その規模に圧倒されっぱなしで、コレクションについてメモする余裕がゼロ。浅草のすしや通りをジャックした「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」のショーに続き、今シーズン2回目の取材用ノート真っ白です。

手作りメタバースで多様性を表現

 ショー終了後に“ハチ公口改札前”で井野デザイナーが取材に応じました。「昨年の東京2020パラリンピック競技大会に感動して、自分なりに多様性について考えたんです。それで、多種多様なアバターがいるメタバースの世界こそ、多様性を体現しているんじゃないかという考えにたどり着きました。だから今回のショーでは、アナログなメタバースを作りたかったんです」。なるほど、それでアウ(Aww)と協業しバーチャルヒューマンのimmaをリアルに歩かせる演出だったのか。

 12月上旬まではパリでのショーを予定したものの、パンデミックにより渡航を諦め、このスタジオを使うアイデアに切り替えたそうです。そして、サイズ感についてはこう説明します。「例えば、ファッション業界で“Mサイズ”と当たり前のように使っていますよね。でも、そもそもMの基準って何なのだろう、人によってMの基準は違うんじゃないのか。そういうひねくれた考えをもとに、服を再構築しました。伸縮性のあるデニムやフーディーは、同じサイズで誰でも着られるようにしています」。そうか、ショーを見てサイズがアンバランスだと感じた視点も、固定観念なのかもしれません。そしてサイズ感だけではなく、車椅子の徳永さんが肩にかけていたピンクのライダースジャケットは、肩がけしても落ちづらい仕様になっているのだとか。

 先ほどまでのお祭り騒ぎは何だったのでしょう。井野デザイナーのめちゃくちゃ真面目でまっすぐなメッセージに感動してしまいました。この日出演したエキストラ約70人は、東京モード学園やバンタンの専門学生だそうです。さらに、井野デザイナーが愛する奥さまもパンダ風のダウンジャケットでこっそり登場しており、奇抜な演出の裏側には「ダブレット」チームの優しさがさまざまな角度からにじみます。行きのバスでは遠足ムードで賑やかだった車内が、帰りはみなさんぐっすりでした。それだけ笑って、感動して、驚いて、感情が縦横無尽に揺さぶられた、あっという間の6時間。今回も予想のはるか斜め上をいく「ダブレット」劇場に、過去最高に驚かされてしまいました。

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NEWS 02

「オーラリー」はなぜ“伝わりづらい服”でパリコレに挑み続けるのか 22-23年秋冬ショーに密着

 「オーラリー(AURALEE)」は、2022-23年秋冬コレクションをパリ・メンズ・ファッション・ウイークの公式スケジュールで22日に発表した。パリ・メンズで発表した映像は、東京で20日に開催したショーの様子を収めたもの。19年3月以降はパリコレのスケジュールに合わせて発表を続けており、リアルとデジタルを合わせて今回で7回目の参加となる。パリコレといえば、メジャー級のメゾンやビジネスの飛躍を狙う中堅が集うビジネスの場であり、鼻息の荒い新人が目指す夢の舞台でもある。だから、クリエイションは総じて暑苦しくて強い。そんな場所に、シンプルでベーシックな「オーラリー」はなぜ参加し続けるのか。ショー開始まで密着し、その理由を探った。

パリコレ参加後の効果は

 ショー当日は本番5時間前の朝7時に集合だった。この日の東京は雲ひとつない晴天で、早朝は日差しの暖かさと風の冷たさが入り混じる心地良い空気が会場周辺を包む。場所は東京・南青山のビルで、同ブランドのアトリエのすぐ近く。岩井デザイナーは日常の通勤と同様に自転車で到着し、リラックスした表情で小走りしながらバックステージに現れた。「会社からすぐ近くでいつもの光景だし、ショーは小規模だからほとんど知り合いしか来ない。昨日から楽しみにしていたんですよ」とナーバスな様子は一切ない。会場の席数は約50で、ショーはメディアや知人向けと、バイヤー向けの2回を行う予定だ。岩井デザイナーはスタッフへの挨拶をひと通り丁寧に済ませると、ステージチェックに向かう合間に本音を口にした。「実は、パリコレに参加する意味について最近考えることも多かったんです。うちの服は伝わりづらいから、ああいう舞台で発表し続ける意味はあるのだろうかって。今回も参加するかギリギリまで悩んでました」。しかし、パリのファッション・ウイークに参加してから海外の取引先が3倍近く増え、現在は約60アカウントで販売している。それでも「取引先からじわじわ広がったのだと思います。あとは『ニューバランス(NEW BALANCE)』とのコラボ。パリコレに参加した手応えという感じではないんですよ」。最終的にはチームメンバーの思いも汲み取って、今シーズンも継続する決意を固めたという。

 モデル17人が会場入りすると、リラックスしていたショースタッフたちにも徐々に緊張感が漂う。今日披露するルックは合計40体で、ブランドのスタッフもフィッターとしてバックステージに加勢。リハーサルまでの間にルック撮影も同時に行い、ほぼ定刻通りにリハーサルがスタートした。会場は、木材を壁面と座席に使用したクリーンな空間。ライトの明るさの微調整により、目に見える色のニュアンスを確認する。ここまでで想像していたバックステージの慌ただしさはほとんどなく、全てがスムーズに進行していった。

 タイムスケジュール通り、11時ぴったりに客入れがスタート。ついさっきまで無機質だった空間が、いよいよショー会場らしくなってきた。終始リラックスしていた岩井デザイナーも、さすがに本番前は緊張しているはず。そう思って眺めていると「やることないな。どうしよ」とつぶやきながら行ったり来たりしている。全く変わっていなかった。ファッションショーなのでそれなりの緊張感やドタバタ感ももちろんあるのだが、「オーラリー」のコレクションをまとったモデルやチームの和やかさ、そして岩井デザイナーの“普通の人”感によって柔らかい雰囲気を残したまま、ショーが始まった。

伝えたかったのは空気感

 コレクションは、ニュートラルカラーのスタイルで始まった。「オーラリー」では定番のカラーリングではあるものの、素材の主張がいつもよりやや強く、レイヤードや袖をたくし上げるスタイリングでそれをさらに強調させる。岩井デザイナーのコレクションには、テーマが存在しない。今シーズンの出発点は「ツイードのような凹凸感のある素材が作りたかった」と説明する通り、種類が異なる複数のツイードが連続。見た目こそ重厚ではあるものの、ツイードはどれもなめらかで軽い。起毛感たっぷりなヘリンボーンのコートはふんわりと膨らみ、岩手・花巻市の日本ホームスパンと作ったホームスパンのセットアップやワンピースの肌触りはホームウエアのように優しい。ほかにも縮絨ウールや透けるほど繊細なニット、前シーズンから試みている環境に配慮した素材ではオーガニックコットンや生分解性ナイロンを用いるなど、生地問屋が背景の強みを生かした個性豊かな上質素材がそろう。コレクションは素材のアイデアを起点に、1990年代のリッチで少し違和感のあるムードを加えていったという。また重厚な素材感を軽やかに見せるため、得意とするイージーフィットのシルエットにアウトドアウエアのフォームをミックスした。ブランド史上最も薄いナイロン素材は、リップストップにして強度を保ち、中綿を入れたブルーのセットアップは、鮮やかなスキーウエアのようだ。2019年から協業している「ニューバランス」とのコラボレーションも継続。今シーズンは“XC 72”をベースに、「オーラリー」らしいベージュやブラウン、スモーキーなブルーのスニーカーが登場した。発売時にはホワイトも加わり、計4色がそろう予定だ。ほかにも「フット ザ コーチャー(FOOT THE COACHER)」とのブーツや「ブレディ(BRADY)」とのバッグ、岩井デザイナーの地元である神戸の靴職人と製作したウエスタンブーツも存在感を放っていた。BGMに使ったロージー・ロー&デュヴァル・ティモシー(ROSIE LOWE & DUVAL TIMOTHY)とムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)のスローテンポな楽曲や、フィナーレでモデルたちが談笑しながら帰っていく演出など、会場にはこの日の天気のような心地良い空気が流れていた。

3年前から一貫している思い

 「ショーでうちのルックを1体見ても、たぶん何も分からないと思うんです。でも例え1体で伝わらなくても、3体、4体と続くうちに少しづつ空気感が生まれる。それを何となくでも感じてもらえたら、こんなうれしいことはありません」――岩井デザイナーの「空気感を伝えたい」という思いは、同ブランドが初めてパリコレに挑んだ19年から一貫しており、ショーにこだわる理由もここにある。多くの人が「オーラリー」に抱く“シンプルでベーシック”というイメージは、時に“真面目で普通”と誤解されることもある。確かに、派手なデザインや柄はほとんど登場しないし、あっと驚く仕掛けもない。でも、ブランドがまとう清涼感の内側には、“普通の人”に見えて、実は職人肌で頑固者の岩井良太が毎日深夜まで練りに練ったこだわりが過剰なほど詰まっている。明らかに普通ではない。手に取れば良さが分かる、という考えは瞬間勝負のショーでは通用しないため、「オーラリー」はこれからもさまざまな手段で空気感を伝える表現に挑み続けるのだろう。最後に、パンデミックが終息したらまたパリでショーをやりたいか聞いてみた。「やりたくないけど、やりたいです」。

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最新号の読みどころ

記録的な熱波に見舞われた今季のメンズ・ファッション・ウイークは、価値観をアップデートする2つの意味での「解放」がキーワードになりました。1つは、堅苦しいイメージも強い伝統的なテーラードスタイルからの解放。もう1つは、「男はこうあるべき」という固定観念からの解放です。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」に象徴される、繊細さや脆さを併せ持つしなやかなマスキュリニティー(男性性)の表現を起点に、メンズファッションの現在地を総括します。