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リサイクル素材は物欲を刺激するのか

 リサイクル素材を使ったアイテムが続々と登場しています。フランスの「ロンシャン」も、人気バッグ“ル プリアージュ”のデザイン性を生かしたまま、素材をリサイクルナイロンや、レザーワーキンググループの認証を受けたレザーに切り替えた“ル プリアージュ グリーン”を開発しました。このバッグでは素材のほかにもさまざまな環境保護のチャレンジをしているのですが、商品を起点にするとちょっと難しいサステナビリティのキーワードも比較的すんなりと頭に入ってきました。

 人気アイテムの素材の切り替えといえば、「アディダス オリジナルス」も“スタンスミス”をリサイクル素材に変更しましたね。最近の展示会では「リサイクル素材を何%使っています」というのを、デザインの説明よりも先に聞くことが多くなりました。いくらサステナブルを主張しても、商品を作る以上は人の手に届かないと意味がありません。だから、「ロンシャン」や「アディダス オリジナルス」のように、定番品の素材を切り替えるアイデアは個人的に賛成です。

大塚 千践
NEWS 01

「ロンシャン」がリサイクル素材の新バッグでサステナビリティを加速 CEOが掲げる3つの指針

 「ロンシャン(LONGCHAMP)」は、サステナビリティに関する新たなCSRの取り組みを今夏から始動させた。2023年までに使用する全ナイロンを100%リサイクルナイロンに、レザーをレザーワーキンググループ(以下、LWG)のゴールド認証レザーに切り替える。また風力エネルギーによる脱炭素海上輸送サービスを提供する仏ベンチャー企業ネオライン社(Neoline)と提携し、輸送時のCO2排出量削減にも取り組む。ジャン・キャスグラン(Jean Cassegrain)最高経営責任者(CEO)に、ブランドが目指すサステナブル施策やリサイクル素材を使用した新コレクション“ル プリアージュ グリーン(Le Pliage Green)”について聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):新たなCSR指針で、リサイクルナイロンとLWG認証レザーへの100%シフトを発表した。2023年までという短期間での切り替えを決めた理由は?

ジャン・キャスグランCEO(以下、キャスグランCEO):チャレンジングに思うかもしれないが、サステナブルな取り組みはここ最近始めたことではない。ファッションブランドの多くが製造を外部に委託する中、われわれは家族経営で、職人を自社に抱えるメゾンとしてのルーツを持ち、フランス西部にある自社工場と工房で全商品を製造している。それにより、他社とは異なる“アルチザン(職人)のマインドセット(考え方)”がある。優秀な職人は、材料を無駄なく使うことにプライドを持ち、原材料と環境に敬意を払いながらモノづくりに励む。昔はそれを“サステナビリティ”や“エコ”と呼んでいなかっただけで、「ロンシャン」には創業時から根底にあり、大切にしてきた価値観だ。

WWD:リサイクルナイロンを採用した“ル プリアージュ グリーン”開発のきっかけは?

キャスグランCEO:人気シリーズ“ル プリアージュ”は、誕生して28年が経つ。このバッグは、ナイロン1枚とレザー数切れ、ファスナー、ボタンだけで作られたミニマルなバッグだ。われわれはこのミニマリズムをさらに進化させるべく、デザイン性を損なうことなく、カーボンフットプリント(商品のライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス排出量)を減らす方法を模索し、“ル プリアージュ グリーン”が誕生した。

WWD:実際にカーボンフットプリントをどれくらい削減できた?

キャスグランCEO:リサイクルナイロンとLWG認証レザーに切り替えることで、カーボンフットプリントを20%削減できた。バッグのサイズによるが、カーボンフットプリントの排出量は1個につき2.5〜5kg、平均して4kgで、ガソリン車で15〜20km走行分に相当する。われわれは“ル プリアージュ”シリーズのほか、ラゲージコレクションやレザーバッグの裏地に用いる全てのバッグの生地を、2023年までにリサイクルナイロンに切り替える目標を掲げている。 “ル プリアージュ”シリーズの素材の切り替えは22年末までに完了する予定だ。

WWD:全体の何%にナイロンが使われている?

キャスグランCEO:ナイロンのパーセンテージは非公開だが、ご存知の通りコレクション全体のかなりのボリュームを占めているので、相当なインパクトがあるはずだ。テキスタイルを切り替えることは大規模なプロジェクトであり、本気の証でもある。

WWD:“ル プリアージュ グリーン”の各素材を詳しく教えてほしい。

キャスグランCEO:サプライヤーの詳細は公表していない。“ル プリアージュ”のような人気商品は必ず複数のサプライヤーと契約している。“ル プリアージュ グリーン”の場合は2社。100%リサイクルナイロンと70%リサイクルナイロンを扱うサプライヤーと取引しており、それぞれリサイクル製品の国際認証であるGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証を取得している。ハンドルとフラップはLWGのゴールド認証レザーを採用している。そのほかのパーツも、ファスナーと”ロンシャン・ホース”の刺しゅう糸は90%リサイクルポリエステル、スナップボタンなどの金具は30%リサイクルメタルを使用している。

WWD:素材を切り替える上で大変だった点は?

キャスグランCEO:リサイクル素材を用いながら、従来の“ル プリアージュ”と同じデザインや品質、強度、耐久性を可能にすること。われわれの顧客は、“ル プリアージュ”に長年親しんでおり、異なる製品を求めていない。ずっと愛してきた“ル プリアージュ”がほしいのだ。だからこそ、見た目も使い心地も耐久性も従来の“ル プリアージュ”と同じにすることが重要だった。アップデートは、レザーをグリーンで縁取ったり、メゾンの象徴である馬のマークを少し大きくしたりしたくらいだ。

WWD:バッグのリペアを積極的に行っているが、今後はバッグを回収してリサイクルする可能性もある?

キャスグランCEO:リサイクルの新たな方法を常に模索しているが、現在はリペアに注力している。フランスのスグレに修理工場を構え、フランス国内では年間6万点以上を無償でリペアしており、そのうち3万点が“ルプリアージュ”シリーズだ(日本は有料)。それが今できるベストだと思っている。古いバッグを回収して新しいものに生まれ変わらせるのは簡単ではない。シンプルな“ル プリアージュ”のバッグでも、レザーやファスナーを一つ一つ手作業で外す必要があり、手間暇がかかる。まだ効率的な方法を見つけられていないのが現状だ。

WWD:新たなCSR指針のひとつに「製造と輸送時に発生するCO2排出量を削減」も掲げている。これはサプライチェーンの協力なしに実現は難しいのでは?

キャスグランCEO:われわれは、サプライチェーンを全てコントロールしている。ときに製造パートナーに依頼することもあるが、彼らとは必ず独自のガイドラインと基準を設けて運営している。ほかにも、国内6つと国外5つの工房で、自然光を最大限取り入れた施設を運営している。LEDに切り替えるなど、電気や熱をはじめ、工場や店舗を含む全施設のエネルギー消費量を削減している。工房付近には1万2500本の植樹も行い、CO2排出量の軽減に貢献した。

WWD:再生可能エネルギーへの切り替えも検討している?

キャスグランCEO:再生可能エネルギーについては、フランスではまだ明確なシステムが整っていない。再生可能エネルギーをうたう企業もあるが、真実を知るすべがないのが現状だ。だから、われわれはまずエネルギーの消費量を抑えることを優先している。

WWD:輸送時のCO2削減の取り組みについては?

キャスグランCEO:輸送時のCO2排出に関しては、主力製品の“ル プリアージュ”が軽量かつ折りたためるアイテムであることに助けられている。おかげで一度にたくさん輸送することができる。また最近は空輸ではなく、よりCO2排出量の少ない船便にこだわっている。風力エネルギーによる脱炭素海上輸送サービスを提供するネオライン社と提携し、今後仏サン=ナゼールと米ボルチモア間の輸送はネオライン社の貨物船で行う。これにより80~90%のCO2排出量削減が可能となる見込みだ。

WWD:ネオライン社と提携した経緯を教えてほしい。

キャスグランCEO:二つのメリットが考えられた。一つ目は、ネオライン社が風力エネルギーを使用しているため、環境負荷が少ないこと。二つ目は、ネオライン社がわれわれと同じフランス西部で創業した企業で、港が「ロンシャン」の主要工場とロジスティクスセンターに近く、輸送時のCO2排出量を抑えられることだ。ネオライン社のプロジェクトには、私たち以外にもミシュランやクラランス(CLARINS)など、複数の仏企業がサポートしている。

WWD:開通はいつ?ネオライン社の船便による輸送エリアの拡大予定は?

キャスグランCEO:仏サン=ナゼールと米ボルチモア間は、2024年に開通予定だ。船は工事中で、さらなる資金調達が必要だ。将来的にはフランスからアジアへの運航も可能かもしれないが、通常輸送より倍の時間がかかるため(通常の船便で5週間程度)、現時点では残念ながら現実的ではない。でも、きっとほかの解決法が見つかるだろう。

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NEWS 02

カインズが「東急ハンズ」買収 都市部のDIY市場を取り込む

 ホームセンター大手のカインズは22日、東急不動産ホールディングス傘下の東急ハンズを買収すると発表した。カインズは郊外を主戦場にしてきたが、大都市に強い東急ハンズの店舗網を取り込む。譲渡予定日は2022年3月31日で、譲渡額は非公表。

 1976年創業の東急ハンズは国内外86店舗を営業する。DIYや生活雑貨を中心に幅広い商材を扱うが、EC(ネット通販)などとの競合激化もあって収益性は悪化していた。コロナ下の21年3月期の売上高は前期比35%減の619億円で、営業赤字に転落した。

 89年設立のカインズは、1万平方メートル規模のホームセンターを28都道府県に227店舗運営する。親会社は売上高1兆円企業のベイシアグループ(群馬県前橋市)で、作業服のワークマンは兄弟会社になる。21年3月期の売上高は前期比10%増の4854億円だった。

 22日夜に記者会見したカインズの高家正行社長は「当社の基盤を東急ハンズに使ってもらい、磨きをかけたい。両社で新しいDIY文化を作る」と話した。カインズが持つオリジナル商品の開発基盤、ECやシステムなどのデジタル基盤、国内外の物流基盤を共有することで、カインズと東急ハンズの特色を維持しながら相乗効果を出していく。

 屋号については当面は「東急ハンズ」を継続するが、適切なタイミングで新しい名前に変える見通し。

 ベイシアグループはショッピングセンターのベイシア、ホームセンターのカインズ、作業服のワークマンなど、いずれも地方・郊外を主戦場にしてきた。だが、ワークマンがカジュアルウエア拡充によって都市部での出店を始めたのに続き、カインズも東急ハンズを取得して都心マーケットの攻略に乗り出すことになる。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。