フォーカス

「スリーワン フィリップ リム」の今とこれから

 フィリップ・リム「スリーワン フィリップ リム」クリエイティブ・ディレクターとウェン・ゾウ最高経営責任者(CEO)が2005年にブランドを立ち上げたとき、2人はともに31歳だった。それがブランド名の由来になった。鋭い感性を持つ“右脳派”リムとビジネス感覚に長けた“左脳派”ゾウCEOのコンビが、10周年を迎えたブランドの理念と未来について語った。

 約10年前は、ちょうどトリー・バーチ(04年〜)、アレキサンダー・ワン(05年〜)、オルセン姉妹による「ザ ロウ(THE ROW)」(06年〜)等々、スタイリッシュで時代を読む目に長けた若手が、“エブリデー・ラグジュアリー”をコンセプトにブランドを立ち上げた時期だった。彼らは、カジュアルラインなどをブランドのポートフォリオに加えたり、投資会社と手を組んだりと、それぞれに違う方法でブランドを成長させた。

全世界に路面店14店舗、卸の拠点は450以上

 一方、リムとゾウCEOはそれらのステップのほとんどを避け、奇をてらわないクリエイションで堅実に歩みを進めて、ビジネスを見事に成長させた。現在、全世界に路面店14店舗(10月には16店舗になる)を構え、卸の拠点は450以上を数える。ウィメンズビジネスでは、アパレルが60%を占め、アクセサリーは40%。成長株はフットウエアだ。10周年を機にeコマースもリローンチする。

 現在、ブランドの中心価格帯は、300〜700ドル(約3万6000〜8万4000円)。コンテンポラリーというカテゴリーにおいてトップクラスの地位を占めている。売上高は明かさなかったものの、数年前に発表された数字では年間売上高は6000万ドル(約72億円)で、業界関係者は現在の売り上げはそれよりもはるかに多いはずだという。

 “コンテンポラリー”は今でこそ確立されたカテゴリーとして認知されているが、10年前には存在すらしておらず、そこをリムはパイオニアとして切り開いてきたのだ。クールで独特のテイストを持ち、しかも手の届く価格の服。今や彼らのブランドは有名百貨店のコンテンポラリー・ゾーンの顔といえるようになった。だが、リムとゾウCEOは、その区分けを好んでいないようだ。

 「単なる業界用語でしょう?」とゾウCEOは言う。「私たちはブランドであり、一つの美学よ。価格だけのお金を払う価値のあるものでもある。でも、それもちょっと違うかもしれない。フィリップと私、そして私たちの顧客にとって心地よい“ライフスタイル”といえるんじゃないかしら」。

クリエイティビティーとビジネスの関係性

 リムとゾウCEOは、ビジネス的にまさに“私たち”だ。彼らはゾウCEOの資金で一緒にブランドをスタートした。彼女は、21歳の時に立ち上げたテキスタイル会社イージスの成功によって得た資金を、リムの美学を信じて提供したのだ。コンビのうちでは“夢想家役”を務めるリムだが、しっかりとビジネスの現実を直視しており、ブランドの“精神”を、「ビジネスという箱の中で行われる、クリエイティブな探究」と表現する。ゾウCEOが着ている、薄いアイボリーカラーのスタイルを指して彼は、「このブラウスを見てよ。どうしたらこういう風にフィットするか?どうしたら風に吹かれてこういうふうに揺れるか?あれこれすべてを考え、工夫したうえで、ちゃんとお手頃価格に収めているんだよ」。ビジネスを成長させて前進するために必要な管理業務にも大いに関心を持っている。「組織、経験、有能な人材の起用、不動産。ビジネスなしにはクリエイティビティーを発揮する場が得られない。しかし、そもそもクリエイティビティーなしにはビジネスが成り立たない。どちらが欠けてもダメで、実に微妙なバランスの上に成り立っているんだ」。

次ページ:あえて客足の少ない場所に新店舗をオープンした理由とは? ▶