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変革者のDNA

先日死去された鈴木敏文さん(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)は、とにかく現状に満足することを嫌う経営者でした。コンビニ市場で圧倒的な収益を誇りながら、常識にとらわれず、どこよりも貪欲に新しいことに挑んできた。だから社会のインフラと呼ばれる存在になったのでしょう。

アパレル業界で現状維持に危機感を抱くDNAを持つのが、「グローバルワーク」「ニコアンド」などを運営するアンドエスティHD(旧アダストリア)です。時代の先を読んで事業モデルの変革を繰り返し、現在は「5回目のチェンジ」に挑戦中。3月から新社長として変革を指揮することになった福田泰生さんの「人となり」が分かるインタビュー記事をお読みください。

「WWDJAPAN」副編集長
林 芳樹
NEWS 01

国内アパレル3位 アンドエスティHD福田新社長はどんなリーダーなのか

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PROFILE: 福田泰生/アンドエスティHD社長

福田泰生/アンドエスティHD社長
PROFILE: (ふくだ・たいき)1978年4月11日生まれ。大学院卒業後、内装施工会社を経て、2005年にポイント(現アンドエスティHD)入社。「グローバルワーク」ららぽーと豊洲店長、海外事業本部長、経営企画本部長を経て、17年に取締役に就任。26年3月から現職 PHOTO:SHUHEI SHINE

「グローバルワーク」「ニコアンド」などを運営するアンドエスティHD(旧アダストリア)の新社長に、3月1日付で福田泰生氏が就任した。福田氏は創業家の3代目。「アパレル小売業からプラットフォーマーへの進化」を掲げ、創業以来“5回目のチェンジ”を進める中でのトップ交代となった。ファーストリテイリング、しまむらに次ぐ国内3位(連結売上高3043億円)のファッション企業を率いる福田泰生氏とはどんな人物なのか。

WWD:福田さんの名前は、有価証券報告書や人事リリースでは「泰生」ですが、名刺では「泰己」なんですね。

福田泰生社長(以下、福田):戸籍上は「泰生」です。代々、福田家は字画にこだわる家で、私も15年前に長女が生まれる際、本格的に勉強しました。長女の名前の候補を吟味しながら、「あれ、自分の名前は悪くはないけどイマイチかもしれないな」と気づいたのです。字画には苗字と名前で5つの構成要素がある。それらが必ずしもうまくハマっているわけではありませんでした。

あるとき、同僚とサウナに入っていたら「そういえば会長(父の福田三千男氏)が『長男だけ名前をつけ間違えた』と言っていたよ」という話が出て、「やっぱり、そうか!」となったんです。

WWD:ちょっとショックですね(笑)。

福田:「生」は5画。「たいき」の読み仮名を変えずに、「生」の部分を3画に変えたかったので「己」を選びました。当時、私が担当していた海外事業が苦戦していて、シンガポールや中国の店舗整理など大規模なリストラに踏み切りました。とにかく赤字を出し切って、翌年は黒字必達だった。大晦日の夜、関係社員に再建を約束するメッセージを一斉メールで送信しました。海外事業の再出発とともに自分の名前を変えることを決意し、元旦から「泰己」を使うことにしたのです。

(法律上)代表取締役は戸籍の本名を使う必要があるため、オフィシャルなものは「泰生」とし、私の裁量で比較的自由が許されるものは「泰己」を使っています。

WWD:福田三千男会長も一時期「三千雄」を使っていましたね。

福田:よくご存知ですね。父は戸籍上「三千男」ですが、むかし「三千雄」に改名して、結局は元に戻しました。私調べでは、やっぱり「福田三千男」の方が字画はいいんですよ。

WWD:会社名も創業時の福田屋洋服店から1990年代にポイント、2010年代にアダストリアホールディングス、アダストリア、そして昨年9月からアンドエスティHDと変更しています。

福田:実はこれも字画を調べました。通常なら「アンドエスティホールディングス」でしょうけど「アンドエスティHD」の方が字画は良いのです。アルファベットにも字画があるんですよ。

会社を良くしたい欲は誰にも負けない

WWD:社長就任はいつ打診されたのですか。

福田:1年くらい前から紆余曲折の議論がありました。きっかけは会長です。80歳のタイミングで「自分は退き、新しい世代にバトンを渡す」と決めていたようです。これが全ての起点でした。もちろん上場企業なので、会長の一存でトップ人事は決められません。社外取締役を交えた指名報酬指名委員会での審議、取締役会での決議を経て、最終的に代表取締役社長に私、営業全般を見る専務取締役に北村嘉輝(アダストリア社長)、管理部門を担当する取締役に林正武が就任する役員人事が決まりました。最初から私に決まっていたというよりも、そうしたプロセスを経て落ち着いた感じです。

WWD:とはいえ、福田さんは創業家出身のため後継者は既定路線にも思えます。想像よりも早かったですか。遅かったですか。

福田:表現が難しいけれど、トップに就く予感はあるようで、ないというか……。そもそも決めるのは自分ではない。でも役職に関わらず、この会社を社会にとってなくてはならない企業する努力をしてきました。取締役に就任(17年)した頃から、社長になったつもりで仕事に挑んできました。その意味では心持ちは変わりません。

ご質問の早いか否かでいえば、個人的には早かったかもしれない。(前社長の)木村治さんが(2030年2月期を最終年度とする)中期経営計画をやり切った後にバトンを受け取るくらいが私としては良かった。中計は福田三千男会長、木村社長らと一緒に練り上げてきたものです。中計2年目での交代は想定外でしたが、2030年以降を見据えての新体制だと捉えています。

WWD:心の準備は出来ていたと?

福田:そうですね。むしろ入社時の方が覚悟が必要だったし、緊張もしていました。

WWD:入社は2005年でしたね。

福田:大学院を出た後、別の会社で働いていたため26歳でした。最初の1年間は内部監査部。当時(社名はポイント)は200〜300店舗くらいなので、全店舗を回りながら店舗のオペレーションを学びました。現場への思いが強くなったので、「グローバルワーク」のラクーア店(東京都文京区)、亀有店(同葛飾区)に勤務し、そしてららぽーと豊洲(同江東区)で初めて店長になりました。豊洲は立ち上げの店長なので思い出深いですね。その後、エリアマネージャーもやりました。

30歳過ぎで本部に戻り、社長室で経営企画業務を担当し、その後、香港駐在となって香港、台湾、中国、シンガポールといった海外事業の責任者になりました。当時は「コレクトポイント」などを見ていました。海外事業は充実した4年間でしたが、国内に戻ってマーケティング部門やEC部門を管轄しました。田中順一さんがリーダーとしてECを成長させていた時代です。その後、管理本部長として財務を担当し、17年に取締役に就任しました。

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NEWS 02

テクスチャーの時代が到来——ILLIT、KiiiKiii、cosmosyに見るビジュアル表現の最前線 連載:ポップスター・トレンド考察

文筆家・つやちゃんがポップスターからファッション&ビューティのトレンドを紐解いていく本連載。第8回は「テクスチャー=質感」に注目し、ビジュアル表現の今を探っていく。

近年、あらゆる文化圏の表現において、「テクスチャー=質感」がかつてないほど重要視されるようになっている。音楽では、サウンドを包み込む音色設計が作品の世界観を決定づけるようになった。ファッションでは、素材の触感や色温度が重視されている。ビューティの領域でも、肌やパーツの質感そのものが価値を持ちはじめている。音楽、ファッション、ビジュアル、ビューティ、さらにインターネットトレンドを高速で横断しながら統合しているK-POPは、それらの変化が最も先鋭的に現れている領域だろう。本記事では、K-POPのビジュアル表現を中心に、韓国を拠点に活動する日本人グループcosmosy(コスモシー)の事例も補助線として参照しながら、最前線の動向を観察していきたい。

2020年代に突入して以降、美学(aesthetic)による表現が拡大していったのは周知の通りだが、現在のK-POPビジュアルで起きている変化は、その先へと歩みを進めている。昨今は、「異なる美学をどう同居させるか」というテーマが前景化しているのだ。例えば、お姫様っぽさとストリート感、ローファイとAIっぽさのような、本来なら噛み合わない感覚をどう成立させるか、という問いである。

かつてのK-POPは、「このグループは何者なのか」「この曲はどういうコンセプトなのか」という設定を軸に、ビジュアル全体を統一する傾向が強かった。例えば、学園、ヒップホップ、サイバー、ヴァンパイア、王国といった明快な世界観を先に提示し、その設定に合わせて衣装やメイクなどが揃えられていた。つまり「同じ世界の住人に見えること」が重要視されており、ストーリーや衣装による意味の一貫性が、作品全体を支える大きな軸になっていた。もちろん、当時から空気感や質感の作り込みが存在しなかったわけではない。Red Velvet(レッドベルベット)の「Peek-A-Boo」(2017年)では、不穏な少女神話的ムードが全体を覆っている。しかしその空気感も、「危険な少女たち」という物語設定を補強する方向で機能していたと言えよう。

コンセプトからテクスチャーへ
ILLITとKiiiKiii

コンセプト/世界観重視の傾向は現在にも受け継がれているものの、NewJeans(ニュージーンズ)の出現以降、その表現においては美学が前景化し、さらに最近は美学同士が混線してきている状況だ。コケットコア(Coquette core、フリル、リボン、パフスリーブなどを取り入れた、少女のようなあどけなさと色っぽさをミックスしたガーリースタイル)とストリート、フェアリーグランジとY2Kのように、本来なら別々に存在していた感覚が同時に混在するようになった。「今日はバレエコアで、明日はスポーティー」といったSNS投稿も珍しくない。その結果、いま重要になっているのは「何系か」という分類以上に、「異なる要素がどんな空気の中で共存しているか」という点。ゆえに最近のK-POPは、明快な世界観設定だけで全体を統一するのではなく、色温度や光、粒子感、湿度といった“テクスチャー”によって、複数の美学をひとつの感覚へとまとめ上げるようになっている。

ILLIT

ILLIT(アイリット)は、その代表例だろう。先日公開され、その高い表現力で話題を呼んだビジュアルについて分析してみよう。


このビジュアルには、コケットコア、フェアリーグランジ、Y2Kストリート、European girl的ムードなど、方向性の異なる美学が高精度で折衷されている。さらに、レース、チュール、デニム、レザー、スニーカー、石畳、鉄柵など、素材レベルでも多くの情報が混在しており、本来なら散漫に見えてしまいそうな組み合わせだ。しかしこの世界観においては、それらが“青みがかった冷気”によって統合されている。色温度はかなり低く、暖色はほぼ排除され、ブルーグレー〜ラベンダー寄りで全体が統一されているのだ。その結果、生々しい現実感やヘルシーさ、商業的なツヤ感は抑制され、代わりに湿度や冷気、夢と現実の中間感覚、消えそうな存在感といったムードが前面に出ている。特に面白いのは、「ウェディング」と「ストリート」の衝突だろう。ベールや純白のドレスは、本来なら神聖さを想起させる。しかしそこに、デニム、ごついブーツ、スニーカーを混ぜることで、「理想化された少女像」を意図的に崩す。この不完全さが、実に2026年的だ。

ロケーションも重要で、石畳や鉄柵が並ぶヨーロッパ的な街並みは、いわゆる観光地的な豪華さを退けている。少し曇っていて、わずかな日常感が漂うからこそ、“SNSで偶然見つけた異国の少女たち”のような中途半端なリアリティが生まれている。ファッションエディトリアルとスナップの中間のような空気感、と言ってもよいだろう。ここで重要なのは、ILLITがそれらを“青みがかった空気の質感”というテクスチャーで一貫してまとめあげている点だ。

KiiiKiii

一方、「404 (New Era)」がヒットし話題になったKiiiKiii(キキ)は、別方向から同じ変化を示している。「404 (New Era)」のMVから公開されたビハインドショットのうち、メンバーのハウムを捉えたビジュアルは、アメリカの「Teen Vogue」で言及されるなど注目を集めた。

ブリーチした超ロングヘアの人工的シルキー感、ストレッチ素材の“第二の皮膚”感、フラッシュ撮影の硬質な光、ヘッドホンのプラスチック感、サテン寄りの肌処理——。ここでは、徹底して「表面を触覚的に感じさせる」ことが重視されている。

しかもその表面の触覚を作り上げるための人工っぽさは、2000年代のTumblr、「アメリカンアパレル」、パリス・ヒルトン時代のような、少し古い未来感を参照している。全体は白やベージュ、ブロンドで統一されているが、足元だけ急にチープ寄りの赤ヒールが差し込まれるのも重要で、そこにドール感や玩具っぽい印象を生んでいる。この“少し安っぽい人工物感”をあえて高級に処理しないところが、2026年的だ。

ILLITとKiiiKiiiに共通しているのは、説明可能なコンセプトではなく、触覚的ムードで記憶に残ること。「意味を理解する」より先に、「冷たい」「湿ってる」「ザラつく」「柔らかい」「シルキー」「プラスチックっぽい」といった触覚変換を起こすのが、最近のK-POPビジュアルなのだ。その際、極めて重要なのが、粒子感の調整だろう。

現在のK-POPでは、単純に高精細へ振り切るのではなく、異なる素材の質感をどう馴染ませるかが重要になっている。シャープネスやコントラストを過度に強調すると、素材ごとの情報が分離し、広告的な硬さが前に出てしまうからだ。だからこそ近年は、フィルムグレインや光の滲み、白っぽい空気感、グレーディングなどを用いながら、異なる素材を“同じ空気”の中に存在させる方向へ向かっている。例えばILLITのビジュアルも、単に青くしただけでは成立しない。肌だけ極端にシャープで、背景だけザラつき、服だけ質感が浮いていたとしたら、あの独特の冷気は壊れてしまう。重要なのは、すべての素材が同じ空気密度の中に存在していることだ。つまり今のK-POPにおける粒子感とは、「異物同士を同じ空気に馴染ませる技術」なのである。

cosmosyのMVでは
矛盾する感覚が共存

この感覚は、韓国を拠点に活動する日本人グループ・cosmosyになるとさらに先鋭化する。

cosmosyの「Princess=Kiss」のMVでは、奥行きが曖昧で、光源位置も不自然。従来のローファイ表現はアナログ感や人間味と結びついていたが、cosmosyは、ノイズやドリームコア的な曖昧さを残す一方で、肌処理は均一で光にはCG的な滑らかさがある。つまりそこでは、懐かしさとAI的人工感が同時に存在している。だからこそ、完成された未来都市ではなく、「生成途中の夢」のような感覚が生まれている。輪郭が未確定で、光が溶け、情報が崩れ、被写体が背景化していく。それは完成された画像というよりも、生成中の画像に近い。

かつてのK-POPサイバー感が、高精細でメタリックな完成された未来都市だったとすれば、cosmosyの感覚はむしろ逆。グリッチやレンダリングエラーといった、不安定なデジタル感の方が魅力化されている。ここでは、「生成途中の夢」のような質感によって、懐かしさと人工性、ローファイとデジタル感といった、矛盾する感覚が同じ空気の中に共存しているのだ。

コンセプト競争から、質感競争へ――。K-POPを中心とした近年のガールズグループ・ビジュアルの最前線で起きているのは、異なる美学をどのような質感で同じ空気の中に存在させるか、という試行錯誤の勝負なのだ。

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