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服は引き算、世界観は足し算

「ポスト アーカイブ ファクション」は不思議な魅力のあるブランドです。特に去年から今年にかけて、伊勢丹新宿本店メンズ館や有力セレクト店のバイヤーからも売れているという声を耳にしました。確かに、色使いや程よいテックの要素、削ぎ落とし系のミニマルなデザインで着やすいのは分かります。ただ、価格帯は決して安くありません。なぜここまで支持を集めているかの確信をつかめていなかったため、インタビューを興味深く読み進めました。結果、なんて“普通”の好青年なのだろうという印象が残りました。もちろん、いい意味でです。

テック要素をデザインになじませながら品良く仕上げたストリートウエアは、少し前にメンズで流行しました。例えば「キコ コスタディノフ」「ア コールド ウォール」なども当時の代表格でしょう。「ポスト アーカイブ ファクション」もその系譜は確実に継ぎながら、前述したブランドよりも表面的なクセがなく、服は引き算、世界観は足し算のバランスが巧みです。この消費者の心をつかむバランスは、“普通”の視点が軸にあるからこそなのでしょう。“普通”を忘れないのは、どの職業にも大切なことです。

大塚 千践
NEWS 01

世界が注目する韓国発のブランド「ポスト アーカイブ ファクション」とは? デザイナーのドンジュン・リムに聞く

PROFILE: ドンジュン・リム(Dongjoon Lim)/「ポスト アーカイブ ファクション」クリエイティブ・ディレクター

PROFILE: 1992年生まれ。大学で工業デザインを学び、2018年にスキョ・ジョンと共に「ポスト アーカイブ ファクション」をスタート。21年にはLVMH プライズのファイナリストにノミネート。22年には「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」や、24年にはスイスのスポーツブランドである「オン」とコラボレーションを実現した。韓国で注目を集めるファッションデザイナーの一人。「2024 HYPEBEAST 100」にも選出された。

2018年にスタートした韓国発のアパレルブランド「ポスト アーカイブ ファクション(POST ARCHIVE FACTION)」。アシンメトリーな構造、シワ加工技術、重厚なパネリングなど、機能的かつデザイン性の高い服が話題となり、21年にLVMH プライズのファイナリストにノミネートされると、世界から注目される存在となった。

22年にはヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」と、24年にはスイスのスポーツブランド「オン(ON)」とコラボし、日本でも人気が高まっている。先日発表された「2024 HYPEBEAST 100」にも選出された。

「ポスト アーカイブ ファクション」がいかにして誕生したのか。11月に渋谷パルコでポップアップを行ったタイミングで来日した同ブランドのクリエイティブ・ディレクター、ドンジュン・リムが、現在勉強中だという日本語でインタビューに答えてくれた。

「最初は自分のための服作りだった」

WWD:ドンジュンさんは大学で工業デザインと空間デザインを学んで、その後、IT企業でUXデザイナーとして働き、そこから独学でデザイナーとしてスタートしたそうですね。

ドンジュン・リム(以下、ドンジュン):大学はソウルにある弘益(ホンイク)大学で、そこで工業デザインと空間デザインを学びました。でもそこでの授業が自分が思い描いていたものとは違い、3年生のときに大学を中退しました。その後兵役を経てUXデザイナーとして働きながら、独学でファッションを勉強し始めました。

WWD:ファッションスクールに通おうとは考えなかった?

ドンジュン:服を作り始めたときは「ファッションブランドを作る」という意識ではなく、まずは自分が着たい服を作ることが目的だったので、そこまでは考えていませんでした。

基本的に「ポスト アーカイブ ファクション」の服は「ユニホーム」のようなものです。韓国では小学校から高校、兵役まで約10年間ユニホームを着る文化があります。私もそのように育ち、兵役後はどんな服を着たらよいか分からなくなりました。それで自分が着たい「ユニホーム」を作ろうと思い、ネットで調べながら服作りを始めました。当初はそれでお金を稼ぎ、海外でアートを勉強するつもりでした。

しかし、服作りを続けるうちに独学に限界を感じ、服をちゃんと勉強した人が必要だと思い、18年に共同創業者のスキョ・ジョン(Sookyo Jeong)を誘って「ポスト アーカイブ ファクション」を立ち上げました。ブランドの運営を続ける中で人気が高まり、大きなブランドともコラボレーションができるようになり、今では仕事が楽しいです。

WWD:ドンジュンさんとスキョさんとの役割はどのように分担している?

ドンジュン:自分がデザインやクリエイティブディレクション、あとマネジメントも担当しています。肩書きとしてはCEOです。スキョは実際にプロダクトの品質や生産管理を担当しており、CPO(=Chief Product Officer、最高プロダクト責任者)としての役割を担っています。

「造形的に美しく、機能的に優れた服」を目指す

WWD:「ポスト アーカイブ ファクション」のブランド名の由来は?

ドンジュン:僕の世代は、前の世代が作り上げた膨大なアーカイブにアクセスできる環境にあります。その一方で、今から自分たちが一生懸命、服を作り続ければ、将来「ポストアーカイブ」として新しいアーカイブを築けるのではないかと考えました。そして、同じ志を持つ仲間たちを表す「ファクション」という言葉を組み合わせ、ブランド名にしました。

WWD:「ポスト アーカイブ ファクション」のデザイン哲学は?

ドンジュン:「造形的に美しく、機能的に優れた服を作る」のが一番の目標です。でも、これを実現するのは簡単ではありません。常に試行錯誤を重ねています。

WWD:「ポスト アーカイブ ファクション」は“ライト(RIGHT)” “センター(CENTER)”“レフト(LEFT)”という3つのラインに分かれています。それぞれの特徴は?

ドンジュン:“ライト”は日常的に着やすいシンプルなデザインが特徴です。一方、“レフト”は装飾的で実験的なデザインを追求したラインです。“センター”はその中間に位置し、両方の特徴をバランスよく取り入れたラインだと考えています。この3つのラインをバランスよく作ることがブランドとして重要だと考えています。

WWD:それぞれのラインの割合は?

ドンジュン:“センター”と“ライト”が各40%ぐらいで、レフトが20%ほどです。

WWD:「ポスト アーカイブ ファクション」は機能性を重視しているが、「洋服」の役割についてはどう考えている? 

ドンジュン:洋服の役割は2つあると思います。1つ目は「プロテクション(保護)」、つまり寒さや雨から肌を守ることです。2つ目は文化的な役割で、個人の性格や趣味・嗜好を表現することです。洋服は人間の延長線上にある存在だと考えています。

WWD:カラーはブラック、グレー、ホワイトなどモノトーンが多いが、色に関してのこだわりは?

ドンジュン:僕がデザインを勉強したときはミニマルなものはトレンドで、個人的にもそういうものが好きです。だからブランドロゴもないし、色もモノトーンや優しい色が好きなんです。

WWD:2024年春夏、秋冬のようにシーズンで名はなく、6.0、7.0など「バージョン」として発表している理由は?

ドンジュン:最初に服を作ったときに、自分ではあまり満足ができなくて、もっと上手になりたいなと思ったんです。それは正直今も思っていることですけど。だからシーズンではなく、常にアップデートを目指す「バージョン」という表記にしています。

WWD:「オン」や「オフ-ホワイト」とのコラボに関して、「ポスト アーカイブ ファクション」として、どういうことを心がけた?

ドンジュン:一番大事にしたのは、良いプロダクト、かっこいいプロダクトを作ることです。また、「ファクション」という言葉には“新しい潮流”という意味も込めています。大きな川から新しい流れが生まれるよう。「オン」や「オフ-ホワイト」とのコラボでは、これまでにないデザインを提案し、そこから新しい可能性を創り出すことを意識しました。

日本と韓国のファッションについて

WWD:日本のファッションシーンについてはどう見ていますか。韓国との違いなどで感じることがあれば教えてください。

ドンジュン:自分も「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」や「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」が好きで、ブランドを立ち上げる際にも多くの日本のブランドを参考にしました。日本のデザイナーは私にとってファッションの先生たちのような存在です。

韓国ではここ10年でようやくデザイナーズブランドが増え始め、特にこの5年ほどで盛り上がってきたと感じます。「ナインティナイン パーセント イズ(99%IS-)」や「ヘインソ(HYEIN SEO)」といったブランドも注目されていますが、多くは日本のブランドに影響を受けていると思います。

最近は少し面白い状況で、日本の若い人が韓国のカルチャーを、韓国の若い人が日本のカルチャーを好きになっています。これはファッションでも同じで、10年前までは韓国の人が日本のファッションに片思いしているような状況でしたが、今はお互いに影響を与え合っていると感じます。

WWD:日本でも「ポスト アーカイブ ファクション」は人気だが、手応えは感じている? 

ドンジュン:本当に光栄です。日本のお客さんは基準が高いので、そんな方々に支持されるのはとてもうれしいですし、感謝しています。韓国のお店でも1日のうち約30%が日本から来たお客さんです。それもあって、直接お話しできるように今年3月から日本語を勉強しています。

もともとアニメが好きだったので、聞き取ることは少しできましたが、話すことは難しかったです。ただ、日本の文化が好きなので、いつか日本でもお店をオープンできたらいいなと思い、勉強をがんばっています。

WWD:今回のインタビューも日本語で行っていて、とても今年から日本語を勉強したばかりとは思えないレベルです。日本語は毎日勉強してるんですか。

ドンジュン:はい。毎日勉強しています。このインタビュー中も少し成長していると思います(笑)。

WWD:日本に限らず好きなファッションブランドやデザイナーがいれば教えてください。

ドンジュン:先ほど言った「コム デ ギャルソン」「ヨウジヤマモト」「イッセイ ミヤケ」はもちろん、ラフ・シモンズ(Raf Simons)やヘルムート・ラング(Helmut Lang)、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の高橋盾さんなど、好きなデザイナーはたくさんいます。

最近は、日本の「オーラリー(AURALEE)」やスウェーデンの「アワーレガシー(OUR LEGACY)」も好きです。「オーラリー」は素材使いがすばらしく、「アワーレガシー」はその独自の世界観が参考になりますね。

WWD:ファッション以外で興味があることは?

ドンジュン:最近はランニングや水泳、サイクリングなど運動に興味があります。アートも好きで、ずっとやりたいと思っています。高橋盾さんが最近ペインティングの作品を発表しているのを見て、自分も機会があれば挑戦したいと思っています。

WWD:21年にはLVMH プライズのファイナリストにノミネートされたが、そこから大きな変化はあった?

ドンジュン:確かにノミネートされて、グローバルでの知名度は高まりました。

WWD:ブランドスタートから6年ほど経ち、ブランドは当初思い描いてた感じになっているか?

ドンジュン:先ほども話しましたが、最初はここまでブランドとしてやっていくとは思わなかったので、目標とかは特にありませんでした。今はサーフィンみたいに波が来たらそれに乗っていこうという感覚でいます。

WWD:今度のブランドが目指す未来について教えてください。

ドンジュン:未来に向けていろいろな準備を進めています。新しいブランドやウィメンズ展開の可能性もありますが、まずは「今」に集中して、目の前のことを全力でがんばろうと思っています。

WWD:ランウエイショーを開催する予定は?

ドンジュン:あります。まず来年1月にパリで開催される25年秋冬パリメンズコレでプレゼンテーションをして、来年の6月の26年春夏パリメンズコレではランウエイショーをやりたいと思っています。

PHOTOS:MASASHI URA

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NEWS 02

ミズノの隠れたヒット商品ドライビングシューズ スポーツギアのノウハウ生かし開発

ミズノは12月20日、ソールに自動車の運転操作をサポートする機能を搭載したレザーシューズ“ベアクラッチ エル(BARECLUTCH L)”を、公式ECと一部の「ミズノ(MIZUNO)」取扱店で発売する。野球やサッカー、ランニングなどのイメージが強いミズノだが、2022年に初めてドライビングシューズを発売。その結果、初年度年間販売目標数を4カ月で達成し、隠れたヒット商品となっている。公式ECでの販売価格は1万9800円。

一般的なドライビングシューズのソールは薄くて硬いケースが多く、「歩行などの日常的な使用が難しいという課題があった」と広報担当者。そこで、自動車運転時にペダルの感覚が分かりやすく、同時に街を軽く歩く際などにも適したソールを追求。ヒントとなったのは、アスリートが筋トレなどのトレーニング時に履く、繊細な足裏感覚を伝えるミズノのトレーニングシューズだ。

ミッドソールの凹凸がカギ

トレーニングシューズと同様に、足裏と接するミッドソールの上面にアウトソールの凹凸と連動する凹凸構造を配している。それにより、アウトソールで得た感触をより正確に足裏に伝える。今モデルでは初めてアッパーにレザーを使用し、より上質なイメージを打ち出している。

ドライビングシューズをはじめ、ミズノは祖業であるスポーツギアやスポーツアパレル向けの商品開発でつちかった知見を他分野に生かす事業開発を進めている。1997年から機能性を生かした企業ユニホームを企画・販売する専門部署を持ち、これまで1200社以上に納品。また、建設業や運輸業、製造業などに向けたワークシューズやワークアパレルなども手掛け、19年にはワークビジネス事業部を新設した。ワークビジネスを強化し、28年3月期にワークビジネスで売上高180億円を目指している。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。