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東コレやってます

日本最大のファッションの祭典「楽天 ファッション ウィーク東京」が絶賛開催中です。今シーズンは、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)が参加ブランドの審査基準を高く設定したというだけあり、実力のある若手・中堅ブランドが各日程をきっちり締めてくれている印象です。

中でも、「シンヤコヅカ」「コウタ グシケン」など「東京ファッションアワード」2023年受賞組の発表が、どれもブランドらしい趣向を凝らしていて面白い。「コウタ グシケン」はコント形式での発表で型数の少なさをカバーし、会場にはゲストがぎっしり700人も集まって熱気を感じました。一方で、この熱気をメディアやJFWOがどう伝えるかは引き続きの課題だな、ともすでに思い始めています。東コレの会期は16日まで。ファッション業界からの興味関心が東コレ成功の鍵を握っています。まずは、取材班の臨場感あるリポートをぜひご覧ください。

大塚 千践
NEWS 01

「コウタ グシケン」初のショーは予想外の演出 又吉直樹のコントとバンド演奏

具志堅幸太デザイナーによるニットウエアブランド「コウタ グシケン(KOTA GUSHIKEN)」は12日、「楽天 ファッション ウイーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2024-25年秋冬コレクションを披露した。東京都と日本ファッションウィーク・推進機構(JFWO)が共催するファッションアワード「東京ファッションアワード 2024(TOKYO FASHION AWARD 2024)」の受賞特典として、渋谷ヒカリエで開催した。公式インスタグラムで一般参加を受け付けたところ、約700人のゲストが集まった。

又吉直樹と好井まさおが
展示会コントで新作紹介

同ブランドにとって初のショーは、コントとバンド演奏がメインという意外性のある内容だった。舞台には、「コウタ グシケン」のニットを着用したお笑い芸人の又吉直樹と好井まさおが登場し、最新コレクションの展示会に行くという設定のコントを開始。又吉が新作13型を次々と試着する間、好井はそれに対して冷静にツッコミを入れる。果てには大型スクリーンを使用して「『コウタ グシケン』のニットか否か」クイズゲームを繰り広げ、会場の笑いを誘った。ショー後半には、展示会のゲスト役を演じた2ピースバンドの酩酊麻痺(めいていまひ)が登場。1月にリリースしたEP「光」から「朝のはなし」を演奏した。コントから一新して組まれたセットには、ブランドのアーカイブを多数吊り下げた。

具志堅デザイナーが4人を選んだのは、元々知人であったことに加え、個人的なシンパシーを感じていたからだという。「生きていると楽しさや悲しさ、幸せや絶望を感じるもの。そういった気持ちの過程をショーで表現したいと考えたとき、彼らも同じ思想を持っているのではないかと思い、一緒に舞台を作りたくなった」。ダメ元で連絡したところ4人全員が参加を即答し、実現した。

アーカイブややりたいことを“整理整頓”

最新コレクションのテーマは“orgnaseid well”で、具志堅デザイナーいわく、故意に誤ったスペルでつづり、「整理整頓(organised)したつもりだが自信がない」という意味を込めた。通常のシーズン発表後は、余暇を過ごしたり、展示会巡りをしたりしながら翌シーズンの準備をしてきた。しかし、昨シーズン終了後から、「東京ファッションアワード 2024」を受賞し、1月のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中に現地で展示会を初開催するまでの期間は、仕事やプライベートを含めて唯一できたことがアトリエの片付けだったという。パリでブランドの自己紹介をしようと、自身の学生時代のデザインを振り返った結果、今回の新作が生まれた。

全13型というコンパクトなコレクションには、具志堅デザイナーのやりたかったことを詰め込んでいる。例えば、学生時代の卒業コレクションで発表し、今では定番となったモナリザを編んだニットを、線描画のモナリザにアレンジしたほか、スコットランドのニットウエアファクトリー「ジャミーソンズ(JAMIESON’S)」とコラボした23-24年秋冬シーズンのセーターを、ベスト仕様に変えた。また、1940年代のスーツをベースにしたダブルジャケットや同柄のパンツ、ショルダーバッグ、ケープなどを全てニットで作った。

具志堅デザイナーが今シーズンの大きなチャレンジとしてあげたのは、リバーシブルのスカジャンだ。ほかのアイテムには日本製の糸を使用する中、スカジャンは光沢にこだわり、イタリア製のレーヨンとシルク混紡の糸を使った。

今回の演出については、「せっかくショーをするなら、ゲストに『楽しくていい時間だった』と思ってほしかった」とコメント。「今回のショーはあくまでアワード受賞の条件で開催しただけ。実はファッションショーよりも演劇やライブを観る方が好きなので」と述べ、今後は展示会のみでの発表に戻ることを明かした。1月のパリの展示会では海外の卸先も数件決まったといい、今後のブランドの知名度向上を目指すという。

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NEWS 02

「チカ キサダ」は、デイウエアもスポットライトがあたるプリマドンナのように

「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」の2024-25年秋冬コレクションは、雑談しながらトゥシューズを履き、入念にストレッチを繰り返す、3人のプリマドンナを目指す小さなバレリーナたちで幕を開けた。元バレエダンサーという幾左田千佳デザイナーのクリエイションは近年、バレエダンサーと舞台芸術に携わる人々への愛とリスペクトを表現しながら、バレエのエレガンスとパンクの生命力にフォーカスしてきた。その姿勢は、今回も変わらない。

洋服は、レオタードのようにボディコンシャスなハイゲージのニットから、フローラルモチーフの生地をたっぷり使ったドレス、MA-1やスタンドカラーのダウンブルゾンまで、その多くがまるでヴェールのように薄い一枚のチュールで覆われた。一枚のチュールは、レオタード姿でストレッチに励む少女たちが憧れる、プリマドンナたちの衣装に欠かせない存在。まるで少女のようにピュアな気持ちで、デイウエアさえチュールを被せてドラマチックに昇華するあたりに、幾左田デザイナーのバレエやダンサーへのリスペクトがうかがえる。チュールは、今シーズンも多用したキー素材だ。ドレスやスカートはレトロなカラーパレットに染めたチュールを横にはヒダを寄せ、縦にはカスケード状に重ねることでボリュームたっぷりに仕上げた。潔いチュール使いは、エレガンスを増幅するのみならず、大胆でパンキッシュなマインドを垣間見せる。

さらにファーストルックのジャケットは、丁寧に忍ばせたダーツを露わにしたインサイドアウト(裏返し)の一着。淑女なムードが漂うブラックドレスは、その上にクリノリン(スカートを膨らませるために忍ばせた骨組み)を重ねたり、背中のファスナーを開けることでブラジャーをチラ見せしたり。細く切り出したデニムを格子状につなげたホルターネックのトップスは下に着たドレスの存在を詳らかにするし、そもそも多用したチュールはモデルの肌を露わにする。普段見えないものを表にしたり、隠すものを露わにしたりの発想は、舞台芸術に携わる裏方へのリスペクトなのだろう。

スタイルをドラマティックに仕上げるチュールやクリノリン使いはそのままに、ストリートなカジュアルウエアにも挑んだのは、今シーズンのハイライトだ。代表例は、上述したチュールで覆ったMA-1やダウンのみならず、背中のスナップボタンで閉じると裾に美しいペプラムが生まれるGジャンなど。やはり一枚のチュールで覆った「イーストパック(EASTPAK)」とのコラボ・ボディバッグは、バッグを背中に回して、チュールをたっぷり外に出すと、まるでドレスのバッスルのようにモデルの背面を美しくドラマチックに飾る。デイウエアにも“らしさ”を忘れず丁寧に仕上げ、些細な日常さえスポットライトを浴びる舞台のようにドラマチックな一日に押し上げようとするデザイナーの心意気が読み取れる。アイデンティティとこだわりを持ち、モノづくりという本質をどこまでも追求する、今シーズンの東京コレクション開幕日のハイライトだ。

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最新号の読みどころ

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。