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「楽天 ファッション ウィーク東京」は正々堂々
今シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京」は、多くのブランドが力強いコレクションを発表しました。一言で言えば、正々堂々。そんなムードは、同じシーズンのパリやミラノのファッション・ウイークとも重なります。
そして重要なのは、そんな「正々堂々」とした雰囲気が、来場者を大いに刺激しているところです。フェイスブックからインスタグラムに至るまで、つまり我々世代から若い世代までが、そんな「正々堂々」を素直に受け入れている印象があります。このムード、盛り上がっていきそうです。
「シュタイン」の静けさの中に見た情熱 東コレで初のショー
浅川喜一朗デザイナーの「シュタイン(STEIN)」は17日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2023-24年秋冬コレクションをショー形式で発表した。22-23年秋冬は動画配信でコレクションを発表したが、リアルショーで披露するのは初めて。ブランドらしいミニマルで静謐(ひつ)なムードの中に、浅川デザイナーの新たなクリエイションへの情熱と進化が見えたショーだった。
初めてのリアルショー
奇はてらわず「ブランドのムードを表現したい」
会場に選んだのは東京・青海にあるテレコムセンタービル。中央の吹き抜けを囲む円形の通路をランウエイに見立てた。無機質でしんと静まった空間は「ブランドの雰囲気にぴったりだった」と浅川デザイナー。直前のリハーサルでは、モデルが歩を進めるたび揺れ動く服のシルエットを確かめるように、じっとランウエイを見つめていた。初めてのリアルショーをするに当たり、「奇をてらったことはしたくない。みなさんにブランドらしさを感じてもらいたい」と話していた。
その言葉通り、ショーはブランド本来のムードが前面に出た。全43体のルックでは、得意とするウールコートをバリエーション豊かに見せた。ウエストベルトで縛るローブコートに始まり、フルジップ、ステンカラー、ピークドラベルなど。黒、グレー、ネイビーはどれも吸い込まれるように暗く、深い。そこにオーバーサイズのダウンジャケットやボアベスト、スイングトップなどをレイヤードする。丈や素材が違うアウター同士を重ねた違和感が新鮮に映った。
ブランドらしい静謐さに
確かな「強さ」が付加
ショーミュージックはピアニスト中野公揮とチェロ奏者ヴァンサン・セガール(Vincent Sega)による“Supposed to Be a Mistake”。会場のぴんと張り詰めた緊張感は、ピアノとチェロの重厚な低音が演出していた部分もあったが、そればかりではない。「シュタイン」の表現自体にも、これまでにない力強さが感じられた。
今回発表した23-24年秋冬コレクションのテーマは“further(付加する)”。一点一点の制作において、まず「やりすぎ」なほどに過剰にデザインしてみる。それを少しずつリアルクローズに近づけながら、尖ったエッセンスは残す。例えば今回のコレクションを象徴するピークドラペルのロングコートは、一度は靴につくほど超長丈で作り、そこから2cmほど丈を詰めた。合わせたワイドパンツも、地面に引きずるほどのレングスから最終的には8cmも短くした。ボトムスで多用したジーンズは、1990年代のジーンズと60年代のジーンズをドッキングしたデザイン。それぞれパーツごとに織り方や部材を変えるなど、ディテールの再現に徹底的にこだわった。
2016年のブランドスタート当初と変わらぬ、ミニマルな面構えの服。だがそこには浅川デザイナーの新たなクリエイションへの情熱が宿り、ブランドが着実に前に進んでいることを示した。
海外挑戦と映像
新しい刺激を進化の糧に
卸先はすでに国内外50アカウント以上に広がり、23-24年秋冬はパリでバイヤー向け展示会を実施するなど、海外展開にも本腰を入れ始めている。近年のコレクションでは色彩豊かなグラデーションのニットなど、その意識を強く感じるピースも見られるようになった。また今回のショーでは、会場を取り囲む15台以上のカメラとドローンによる撮影を行った。浅川デザイナーは映像を通じて見る「シュタイン」の服に、新しい表現の可能性を見出している。
初めてのショーを終えた浅川デザイナーはほっとした表情で、「半年後か、1年後かは分からないが、またショーという形で発表ができたら」と語った。映像の分野や海外で新しい挑戦が待つ。その先で、また一回り大きくなった「シュタイン」のクリエイションが見られることだろう。
「ヨーク」最後の東コレ 謙虚なデザイナーが野心に燃えるとき
寺田典夫デザイナーの「ヨーク(YOKE)」は15日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2023-24年秋冬コレクションをショー形式で披露した。東コレへの参加は2回目で、1年前の初参加時はファッションコンペ「東京ファッションアワード 2022(TOKYO FASHION AWARD 2022)」受賞によるイベントだった。同コンペの支援によって、1月のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中に現地で展示会を開催し、コレクションの受注はすでに終了している状況である。それでもショーを行う決意をした寺田デザイナーには、この日にかける特別な思いがあった。
初のショーは賛否両論
その悔しさをバネに
昨年3月の東コレを終えた時点で、ショーは最後だと考えていた。初めてのランウエイの熱気が後押しして賞賛の声が届く一方で、「『ヨーク』らしくない」「リアルな提案が見たい」「ショーは向いてない」という冷静な意見もあった。寺田デザイナー自身も、ショーには不向きなブランドだと当時は考えていた。「仕方ないと納得する部分もありましたけど、正直悔しさも感じました」。ただ、その時点で次のランウエイショーで見返すという選択肢はなかった。
大きな転機は二つ。まずは、パリでの展示会で手応えを得たことだ。1月の展示会で海外の卸先は14店舗から20店舗に増え、売り上げは昨年比約140%増という結果だった。年間売上高も4億円に届きそうな勢いで、海外での商機を感じている。「ピックアップされる点数も明らかに増えて、自信につながりました。今までは作らなかったような強いアイテムを海外用に制作し、それらの評価も上々だったんです」。そして、さらに大きかったのはパリで「ダブレット(DOUBLET)」のスタッフとしてショー会場のサポートに入り、「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の華やかなショーを会場で目の当たりにしたことだった。「自分もパリでショーをしてみたいという思いが、心の中で徐々に高まっていくのを感じたんです」。
とはいえ、リアルクローズに軸足を置いた「ヨーク」の服は“ショー映え”するものではないし、強引に“映え”させるものでもない。「今すぐというよりも、もっともっと実力をつけてパリのショーに挑戦したい。それが1年後かもしれないし、さらに先かもしれない。だからまずは、東京でブランドに関わってくれた方々に感謝を込めて、最後のショーをやろうと決めました」。後輩デザイナーからも「寺田さん、東京のファッションを一緒に盛り上げましょう」と声をかけられて発奮し、東コレに自己資金で参加する決意を固めた。「前回は、ブランドらしい世界観を美術館風のセットで表現しました。でも今回は、『ヨーク』は海外でも通用すると少しでも感じてもらいたくて、王道のショーをやりかった。スタイリングも、演出も、モデルも採算度外視で、清水の舞台から飛び降りる覚悟です。まあ、その後輩デザイナーは今回は参加しないと聞いて『えっ!』ってなったんですけど」。笑いながら穏やかに話す寺田デザイナーだが、その野心は今までに感じたことのない熱量だった。モデルオーディションにはキャスティング・ディレクターの畔柳康佑が約160人を集め、スタイリスト山口翔太郎とヘア担当のナカカズヒロらと共に夜遅くまでオーディションを行い、最終的に43人のモデルで60体のルックを組むという、海外メゾンクラスのボリューム感に膨れ上がった。「みなさんの想像を絶対に超えてみせますよ」。
いよいよショー当日、会場の国際フォーラムには巨大なセットを組んだ。1月下旬にショーをやると決めてから、実質1カ月半とは思えないほどの規模感である。東京からパリに飛び立つ“滑走路”をショーのテーマに掲げ、照明やBGM、スタッフパス、パスポート風のインビテーションなどを、最後だという思いで前日深夜まで妥協なく作り込んだ。リハーサルを終えると寺田デザイナーは「すごい。自分の想像を遥かに超えていました」と興奮気味に語り、ゲストを驚かせる前に自分自身が一番驚いていた。バックステージには「シュタイン(STEIN)」の浅川喜一朗デザイナーや「ティー(TTT_MSW)」の玉田翔太デザイナー、「ダイリク(DAIRIKU)」の岡本大陸デザイナーら、多くのデザイナーや関係者がサポートにかけつけ、落ち着かない様子の寺田デザイナーの背中を押した。前回のショーで、「存在感が薄いからバックステージで見つけられない」という声があり、自分用のスタッフTシャツの背中には“I AM A DESIGNER”と大きくプリント。しかし、本番直前には真っ白なTシャツ姿になっていた。「動画サイトのロゴをオマージュしたんですけど、そのデザインが引っかかってショー動画がバンされる危険性があるので、脱ぎました」。いつも通りの寺田典夫だった。
予想以上に大入りの“滑走路”
多くが見届けた飛躍への決意
会場には、想定の倍以上となる600人以上のゲストが訪れ、立ち見席用のお立ち台を急きょ設置した。ショーが開幕すると、3部構成の序章“東京での挑戦”が始まった。23-24年秋冬シーズンは、イギリスの抽象画家ベン・ニコルソン(Ben Nicholson)の作品がインスピレーション源だ。作品から“重ねる”“陰影”“線”“幾何学”というキーワードを連想し、ユニセックスのコレクションに重ねていく。ジャカードで抽象画を表現したコートやパンツをはじめ、表情豊かなツイードで生地に陰影をつけたセットアップ、デニムジャケットの“1st”“2nd”“3rd”と称されるモデルを1着に重ねたものや、大胆なペイントで表情を加えたレザーのカーコートなど、アイテム単品の強さをシンプルなスタイリングで押していく。前回のショーでは、攻めのレイヤードでアイテムの個性を引き出す手法を選んだが、今シーズンは「服の強さをシンプルに伝えたい」とスタイリストの山口にリクエストした。それぐらい自信があった。
中盤は、滑走路を飛び立つ飛行機内でリラックスするスタイル。ペールトーンがランダムに重なる柔らかな色彩と、シアリングニットの優しい素材感が、寺田デザイナーの物腰柔らかな一面を想起させる。そして、パリに降り立ち、強さを主張する最終章へ続いていく。ここからが圧巻だった。体を包み込むキルティングアイテムには、幾何学柄のステッチを複数のパターンで何重にも重ね、裂き織りでカモフラージュ柄を作り、パーツごとに解体して別色と組み合わせられるダウンジャケットなど、デザイナーのふつふつと湧き上がる野心が乗り移ったような強い服で、終盤にかけて畳み掛ける。正々堂々と王道に挑んだランウエイは、以前の「ヨーク」を知る者にとっては驚くほどアグレッシブに感じたかもしれない。しかし、海外での発表を考えると、まだまだ攻め込める伸び代はある。それは決して“映え”させることではなく、今季見せたような強弱を意識したアプローチをさらに深めていけば、強豪ぞろいの海外でも十分戦える。さらに高く、遠くへと飛び立てる――「ヨーク」の何よりの強みは、そう信じているファンや仲間を多数抱えていることかもしれない。謙虚なデザイナーの野心は、クリエイションに間違いなくプラスに作用している。
フィナーレに登場した寺田デザイナーは、長いランウエイを一周する間の約30秒間で、30回頭を下げて感謝を示した。その先には、来場したゲストだけでなく、卸先や工場、生地屋、付属屋、物流倉庫、そして配信を見たファンや知人の姿が浮かんでいたのだろうか。最後には、誰もいない方向にまで頭を下げていた。
「ソウシオオツキ」10年間の集大成 突き詰めた日本とテーラードの融合
大月壮士デザイナーによる「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」が、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2023-24年秋冬コレクションを披露した。
7年ぶり2度目の東コレ
デビューと同じテーマに挑む
大月デザイナーは1990年生まれ。文化服装学院メンズウェア学科卒業後、2015年に同ブランドを立ち上げた。日本人の精神性とテーラーのテクニックを駆使したメンズウエアを作る。16-17秋冬シーズンには、東コレで「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」らとともに、合同ショー“東京ニューエイジ”でコレクションを披露。16年にはLVMHプライズのショートリストにノミネートされ、19年には東京新人デザイナーファッション大賞を受賞した。
今シーズンのテーマは、2013年の学生時代に制作した“FINAL HOMME”。大月デザイナーは「当時はまだ消化不良だったから、もう一度やりたくて」と語る。7年ぶりに東コレに参加し、ショーを決意したのは「(デザインの)筆が進んだから」だという。
会場は東京・麹町のTOKYO FMホール。ずらりと並んだ赤い椅子と中央にかかった大型ライトが独特な雰囲気を醸していた。ライトがゆっくりと降下し、暗がりの中で警報のような音が響くと、会場が明転してショーが開幕した。
緊張感漂う日本のモチーフで
西洋のテーラードをアレンジ
ファーストルックからブランドの世界観が凝縮されていた。ブラックスーツに白い手袋、数珠のアクセサリー、ブランドロゴを家紋のようにあしらったネクタイを合わせたスタイルは、喪服を彷彿とさせる。同時に、裏地を拡張した襟のデザインやカットアウトしたカマーバンド付きパンツとのレイヤードなど、絶妙な足し算でファッションの表現に落とし込んだ。その後も白と黒をベースカラーにしながら、シャツを白装束のような前立てにアレンジしたり、レザーバッグを日本軍の水筒入れに着想したり、コートにしめ縄のようなトグルをつけたりと、日本の歴史や宗教、思想を感じさせるディテールとアクセサリー使いで、西洋由来のテーラードを無二のスタイルに変えていく。重さを感じる黒のサテン、粗野な風合いのファーアイテムなど、迫力のある素材も目立った。
中盤には、ダウンのオーバーコートやフィールドジャケットなどのテクニカルなウエアも差し込んだ。また、奥田浩太による「コウタ オクダ(KOTA OKUDA)」とコラボとした、1ドル札と旧百円札をモチーフにしたニットやバッグも登場した。
フィナーレでは、ハイテンポなBGMとともに、モデルたちが鋭い目つきで足早にランウエイを歩いた。大月デザイナーが10年間突き詰めてきたクリエイションを一度で体験するようなショーだった。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。