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みなさん、ミケーレ不在の「グッチ」は、どうご覧になりましたか?私は、「ミケーレの良きところも踏襲し、かなり上手にまとめたな」と思いました。忖度なしです。 「ミケーレの良きところ」は、2023-24年秋冬メンズで目立っている”男性の肌見せ”にも通じるジェンダーレスなムードを、Vゾーンの大きなハイゲージニットなどで表現しているところ。一方、柔らかなジャケットやパンツでシンプルにまとめ、振り返れば、今なお評価の高いミケーレ初のメンズ・コレクション(当時彼はまだデザインチームのトップという立ち位置でしたが)を思わせる、ソフトシンプリシティは新鮮でした。「ミュウミュウ」のように、ベーシックアイテムのスタイリングで上手に今っぽさも表現しています。 物足りなかったのは、やはり多少一本調子だったところ。このあたり、次のデザイナーがトップに立つことで、バリエーションを増してくるのかな?そんな風に捉えています。 「グッチ(GUCCI)」は、ミラノ・メンズ・ファッション・ウイークに参加し、2023-24年秋冬メンズ・コレクションを現地時間13日に披露した。昨年11月に、クリエイティブ・ディレクターを7年務めたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が退任して初めてのショーとなるため、クリエイションは前任の世界観を継承するのかどうか、後任発表はあるのかなど、さまざまな角度から注目が集まった。 円形のランウエイに囲まれたステージ中央には、バンドセットを設置。アメリカ人ギタリストのマーク・リボー(Marc Ribot)率いるトリオ、セラミック・ドッグ(CERAMIC DOG)の演奏と共に「グッチ」の新章が幕を開けると、ファーストルックから変化は明らかだった。白いTシャツとタックを大きくとったワイドトラウザーに、ビーニーを身に着けたリアルクローズには、会場にいた多くの観客が驚いただろう。その後もたっぷりとしたシルエットのクラシックなチェスターコートや、パステルカラーのフレッシュなテーラリング、紺のブレザー、ジーンズ、MA-1といった普遍的な無地のメンズ服が、シンプルなスタイリングで連続する。ミケーレの幻想的な世界観をリセットするようなこのリアルなコレクションは、“即興性”がテーマだ。ステージでノイジーなロックを演奏を続けるトリオのように、技術とアイデアを衝突させて、男性服をさまざまな解釈で再定義する考えがベースだという。 クラシックな男性服を高度な職人技術で仕立て、ジャケットの袖やパンツのパーツをデタッチャブルにしたり、1980年代のアーカイブに着想したスポーツウエアをきらびやかなダンスウエアと組み合わせたり、2000年代初期のライダースジャケットにクラシックなオーバーコートのシルエットを融合したり。アイテムやスタイリングで対極にあるものを融合し、あらゆる時代で打ち出してきた「グッチ」の男性像をなじませる。ミケーレ時代に確立したジェンダーを超越する官能性は、シアー素材のトップスやパンツに大きく入ったスリット、デコラティブな装飾のジャケットに感じさせた。 フィナーレでモデルたちが去ると、暗転してショーはそのまま幕を閉じた。今回のショーで後任の発表はなかったが、これまでの世界観と大きく異なる方向転換は、賛否両論が起こるだろう。個々のアイテムに面白さはあるが、スマートフォンでコレクション画像を眺めるだけでは伝わりづらい服でもある。今後はこのスタイルをベースにしていくのか、もしくは新たなデザイナーを迎えるための準備なのか。いずれにせよ、新生「グッチ」の方向性をどう発信していくかが課題だろう。次のウィメンズ・コレクションはさらに注目を集めそうだ。 2023-24年秋冬コレクションサーキットが開幕しました。イタリア・フィレンツェの「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」を皮切りに、ミラノ、パリへと続くメンズからスタート。「WWDJAPAN」は現地で連日ほぼ丸一日取材をし、コレクションの情報はもちろん、現場のリアルな空気感をお伝えします。担当は、前シーズンのメンズと同様に大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリのコンビ。まずは、いきなり注目度の高い「グッチ(GUCCI)」からスタートするミラノ初日からリポートします。 朝早くにフィレンツェからミラノに電車で約2時間かけて移動し、ホテルで招待状を受け取り、荷物を整理してそのまますぐにショーの取材に出発するといういきなりのタイトスケジュールで体力が削られます。でも、そんなことはどうだっていいんです。だって、「グッチ」の歴史的瞬間を見られるかもしれないのだから。約3年ぶりのメンズ単独ショーは、前クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が退任して初めてのショーとなりました。どんなコレクションなのか、後任の発表はあるのかなど、高まる気持ちを抑えながら足取り軽く会場に向かうと、現地で再会したフォトグラファーから一言――「大丈夫ですか?顔、疲れてますよ」。自分では意気揚々なつもりでも、足取りは重く、顔面は白かったそうです。体は正直ですね。 そんなことはどうでもいいとして、「グッチ」はコレクション・リポートで報じた通りリアルクローズに近いアプローチで、ミケーレの世界観を一度リセットするのかもしれません。アーカイブに着想したアプローチを随所に効かせてはいたものの、前任が得意だったデコラティブな装飾や柄はほとんどなし。現地でも、驚きと戸惑いの意見が多かった印象です。ただ、変化に賛否両論が起こるのは当たり前ですし、今回はミケーレの退任発表から約2カ月しか経っていないコレクションです。次へのつなぎなのか、この路線で貫くのかは、2月のウィメンズ・コレクションに答えがあるのかもしれません。 続けて、ミラノ発ブランド「ファミリー ファースト(FAMILY FIRST)」のショーに向かいます。ブランド名の響きから、“〇〇ファースト”といえばあの知事の顔が頭をちらつきますが、もちろん何の関連性もなく、ブランド名の由来は「血統だけなく、家族や友人との絆の中で個人が表現する独自のスタイル」だと公式サイトでは説明しています。 ショーは、「家族や友人とは限らない。君には本能を再び目覚めさせてくれる誰かが必要」と男性が語りかける音声とともにスタート。コレクションはテーラリングを軸に、男女のスクールユニホームやストリート、スポーツウエアをドッギングさせたスタイルです。二人のモデルが並んでランウエイを歩いた中盤以降は、アメリカンフットボールや乗馬のヘルメット、テニスラケットがルックに強引に溶け込ませており、スポーツの要素を主張します。ジャケットにフーディー、シャツやカーディガンなど、各アイテムは日常着っぽく記憶には深く残らずとも、ひねりを利かせたコレクションを見せたいという意思は伝わってきました。 1923年創業のイタリアのアウトドアメーカー「コルマー(COLMAR)」が、「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」の相澤陽介デザイナーと協業したメンズ・ウィメンズのコレクション“コルマー レボリューション(COLMAR REVOLUTION)”を披露しました。ダウンアウターを中心に、デザイン性の高い多彩なバリエーションのアウターがそろいます。 「コルマー」と「ホワイトマウンテニアリング」は2020-21年秋冬シーズンにコラボレーションしており、ファッション市場のさらなる開拓を狙い、相澤デザイナーにオファーが届いたそうです。“レボリューション”という火の玉ストレートなネーミングの通り、いい意味でどれもダウンアイテムっぽくなく、デザインの幅が決して広くない重厚なダウンジャケットに対し、パネル使いや曲線を描くステッチなどで快活な印象に仕上げられたのは、「『コルマー』のファクトリーの高い技術があったから」と相澤デザイナー。ミリタリーやアウトドアのファッション的要素を取り入れるバランス感はさすがです。価格帯は既存のコレクションより20〜30%ほど上がる予定。海外がメインの取り扱いではありますが、日本上陸を楽しみに待ちましょう。 「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のショー会場は、アートスペース「スパッツィオ・マイオッキ(Spazio Maiocchi)」です。ここは2018年に、今は亡きヴァージル・アヴロー(Virgil Abloh)がアートインスタレーションを行った場所でもあります。会場には、アメリカ・ヒューストンを拠点にするコンテンポラリーアーティスト、マーク・フラッド(Mark Flood)の作品を飾り、彼とのコラボレーションによるコレクションの中では、ペイントの装飾が特に存在感を放っていました。 コレクションは、かつて評価を得ていたテーラリングは、マシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)にとって過去の産物のようです。アウトドアとスポーツウエアで構成したルックが続くと、途中で何のブランドのショーを見ているのか分からなってきました。封印したバックルに取って代わる、シグネチャーのアイテムやスタイルも生まれていません。ブランド自身が「1017 アリックス 9SM」“らしさ”を見失いかけているような印象を抱きました。原点回帰で地盤を固め、ブランドの概念を再び示してほしいです。 初日最後は、中心地から離れた場所にあるイベントスペースにて「ディースクエアード(DSQUARED2)」のショーです。今季は“Temptation(誘惑)”をテーマに、男性版Y2Kを強く押し出します。女性用のキャミソールやシースルーの肌着、サテンのネグリジェ風トップスを、これでもかと腰を落としたジーンズに合わせます。筋肉質なモデルの腕の筋や割れた腹筋は、まるでアクセサリーのように、魅惑的なルックに欠かせない重要な役割を果たしていました。 「ディースクエアード」らしいウエスタン調のレザージャケットやウエスタンブーツが登場すると、ブランドが注目を集めるきっかけとなった、マドンナの2000年の楽曲“Don’t Tell Me”のPV衣装を彷彿とさせました。その頃に一世を風靡していた浜崎あゆみさんの衣装が脳裏に蘇り、平成元年生まれの私にとっては懐かしく映るスタイルでした。特に、腰やバッグにつけた毛皮のしっぽのようなキーホルダー!当時も今も、なぜそれがこんなにかわいく感じるのか理由は分かりませんが、モフモフした感触に癒されたり、筋肉質な体にフェロモンを感じたりするのは、生物学的に本能なのかも。「ディースクエアード」が仕掛けた誘惑に、まんまと乗せられた初日の夜となりました。
「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。
ミケーレ不在の「グッチ」、あなたはどう捉えますか?
「グッチ」新章の幕開け ミケーレ退任後初のショーは大胆な路線変更
2023-24年秋冬メンズコレ取材24時Vol.1 新生「グッチ」に驚き「ディースクエアード」で“あゆ”を思い出す
14:00 「グッチ」
16:00 「ファミリー ファースト」
17:00 「コルマー」×相澤陽介
19:00 「1017 アリックス 9SM」
21:00 「ディースクエアード」