サステナビリティ

生産者・ロースター・生活者をつなぐ 「ティピカ」が目指すコーヒーの循環コミュニティー

 コーヒー生豆のダイレクトトレードを行うオンラインプラットフォーム「ティピカ(TYPICA)」が注目を集めている。2019年に創業以降急成長を遂げ、現在32カ国2000以上の生産者と、日本や韓国、台湾、ヨーロッパなど39カ国3500以上のロースターがサービスを利用。生産者の経済基盤を守りながら、“透明性の高いサステナブルなコーヒー”の世界規模での流通を目指す。山田彩音「ティピカ」共同創業者が、コーヒーを通じて実現したい社会とは。

頑張っておいしく作ったものが
正当に評価される社会へ

WWDJAPAN(以下、WWD):「ティピカ」を立ち上げた経緯は?

山田彩音「ティピカ」共同創業者(以下、山田):大学卒業後にロースターとして働いていた頃、豆の品質から入れ方まで全工程にこだわる“サードウェーブコーヒー”が流行していた。でも日本では地理的な条件や取引量などを理由に、生産者と直接関係性を築くのが難しい現状を目の当たりにした。“〇〇さんが作ったコーヒー”として販売しつつも、ロースター側は実際には生産者のことを何も知らない。さらに、ダイレクトトレードは基本的に約18tの海上コンテナ単位で行われており、スタートアップのロースターが1カ月に消費できる生豆はせいぜい500kgのため、生産者から直接購入するには費用対効果が合わない。もっと気軽にダイレクトトレードできるプラットフォームを作りたいと、「ティピカ」を創業した。

WWD:オランダ・アムステルダムで創業した理由は?

山田:まずは、コーヒー生豆の主な原産地であるアフリカへのアクセスが良いこと。そして、グローバル展開を視野に入れていたので、コーヒーの流通量が多いヨーロッパで創業したかった。

WWD:海外と日本でコーヒーに対する価値観の違いは感じる?

山田:日本のロースターは職人かたぎで技術が高く、自身の手が届く小規模な範囲で、自分の世界観を表現している焙煎所が多い。コーヒー生豆を選ぶポイントも、品質にフォーカスしている傾向だ。一方で、ヨーロッパは事業の規模が大きくビジネス的。品質も重要だが、自分がそのコーヒー生豆を取り扱うことへのソーシャルインパクトを意識しているロースターが多い。背景にあるストーリーや生産者の考え方が好きという理由で選んでいるように見受けられる。

小規模生産者の品質と価値を守る

WWD:「ティピカ」は麻袋1袋(60kg)から生豆をダイレクトトレードできる。生産者へのメリットは?

山田:コーヒー生産量の67%は、小規模生産者によるものといわれている。小規模でこれまで輸出が難しく、地元のマーケットに安く売るしかなかった生産者もダイレクトトレードが可能になった。また、生産者は自ら価格を決定でき、ロースターは購入前に価格の内訳を確認できる。価格の透明性を確保しながら、誰にどの生豆が届いたかが分かる点が喜ばれている。

WWD:どのような生産者にオファーしている?

山田:高品質でおいしいことはもちろん、コーヒーを通じてサステナビリティや社会貢献を目指している生産者には、積極的にオファーしている。例えば、CO2排出量や水の使用量を抑えた、栽培方法を取り入れているなど。また、小規模農家は貧しく、子どもが学校に通えない家庭も多い。「ティピカ」の最初のキュレーターであるエチオピアのモプラコ社は、農園近くの学校に教科書や学用品を供給して、産地のコミュニティーに貢献している。

生産者と生活者をつなぐ取り組み


WWD:来年には世界各地のコーヒーが毎月届くサブスク「ティピカ クラブ」を立ち上げる。

山田:「ティピカ」はコーヒー焙煎業者だけでなく、一般生活者にもメッセージを発信している。生活者からも「コーヒー生産者に興味はあるが、彼らにどうアプローチしたらいいか分からない」という声が多く届くようになり、それなら今「ティピカ」に登録しているロースターとパートナーシップを結びながら、生産者の顔が見える旬のコーヒーが毎月届くサービスを作ろうと立ち上げた。

WWD:生産者にチップを送ることができるアイデアが斬新だ。

山田:「ティピカ」の目的は「おいしいコーヒーのサステナビリティを高めること」。そのために、生産者・ロースター・生活者が循環するコミュニティーとなってこれを実現できたらと考えた。チップがコーヒーの乾燥棚や、エチオピアの山奥の子どもたちの教科書のために使われ、直接インパクトを与えられる取り組みは業界としても新しい。

WWD:ほかにはどのような取り組みを?

山田:世界中のロースターが、コーヒー生産者を訪ねる様子を映像に収めたドキュメンタリー「ティピカ ラボ(TYPICA LAB)」や、日本の優れたロースターを紹介する「ティピカ ガイド(TYPICA GUIDE)」など。さらに、年明けにはコーヒー生産地にシェードツリーを植樹する「オカゲサマ(OKAGESAMA)」もスタートする。緑が増えることで地球温暖化防止につながるし、コーヒーチェリーを摘むピッカーを暑さから守ることもできる。ほかにも地盤が頑丈になり、水害からコーヒーの木を守ることができるなど、多くのメリットがある。これも、ロースターと生活者が一丸となったプロジェクトだ。

WWD:今後の目標は?

山田:来春ニューヨークでサービスをローンチする。マンハッタンの中心で、ダイレクトトレードされた新鮮な豆を適正価格で販売するシーンを作れば、「ティピカ」が次のウェーブを起こすきっかけになることができるかもしれない。また、高品質なものへの需要が高まり、超高額なコーヒーが取引され始めている中国にも進出予定だ。世界中に拠点を持って流通量を増やし、生産者に貢献し、頑張っておいしく作ったものが正当に評価される社会を目指したい。

高品質なコーヒーが毎月届き、
社会貢献もできる「ティピカ クラブ」

 「ティピカ クラブ」は、生産者の顔が見えるコーヒーが毎月届く、焙煎豆のサブスクリプションサービスだ。ダイレクトトレードによって輸入されたコーヒー生豆を日本各地のロースターが焙煎する。豆と粉は100〜1000gの4種類で価格は月額2400〜8000円、ドリップバッグは8、15、30袋で価格は月額1600〜4800円。会員は生産者にメッセージを送ったり、チップを払ったりすることも可能だ。チップは、コーヒーを通じたサステナビリティの取り組みに使用される。2023年1月31日まで会員を募集中で、4月始動予定。

問い合わせ先
ティピカ
https://typica.jp/contact/