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フォーマルで多様性にフォーカス
「ニューヨーク。ここは自分を探しにくる街」。そんなフレーズから始まった「トム ブラウン」のコレクションは、多様性にフォーカスしたフォーマルだそうです。パッチワークをパッチワークしたPコートや、さまざまなレジメンタルストライプのネクタイを挟んだスカートなどが、物語っていますね。
フォーマルに再度注目する業界は、「在宅勤務やオフィスのカジュアル化に伴い、スーツは必要不可欠な存在ではなくなりつつある」としながら、「だからこそ、時々楽しむならフォーマルにも個性を求めるのでは?」と考えています。結果、これまでにない色、シルエット、そしてスタイリングのテーラードは、バイヤーにも高評価です。さぁ、どうなるか?この春夏、そして次の秋冬が楽しみです。
「トム ブラウン」がニューヨークでファッションショー テディベアが見つめる多様性を表現

ランウエイには、小さなグレーの椅子と、その上に行儀よく座るテディベアたちが何百も並べられた。グレーのスーツにタイという「トム ブラウン(THOM BROWNE)」スタイルのテディベアの視線の先には、ベアの顔が付いた帽子を被ったモデルが、まるで講師のようにテディベアに語りかけている。“WELCOME TO MY TEDDY TALK”というサブタイトルが付いているから、テディベアは彼の話に耳を傾けているのだろう。
「ニューヨーク。ここは自分を探しにくる街。人生でいちばんの疑問を解きに。今日は、私のお気に入りのニューヨーカーたちを紹介します。自分探しという難題を抱えて、このおもちゃ屋にやってきた彼らは、ここで本当の自分を見つけました」というメッセージとともにショーはスタートした。
前半は、比較的ウエアラブルなデザインで構成された。「トム ブラウン」のシグニチャーであるグレーのスーツルックをベースにしながらも、チェックやストライプをさまざまに重ねて見せていく。赤や青、緑、紺、そしてウクライナの国旗を思わせる黄色と青のコンビネーションも登場。ベストとジャケット、その上からコートのレイヤードのほか、スカートの下から白いシャツを覗かせたスタイルも。左右非対称は当たり前、飽きることないパターンを次々と提案する。足元は、20cmはあると思われるプラットフォームシューズ。靴やバッグ、パイピングに至るまで多色づかいだ。ジェンダーの境界線も、ルールもない、ルックが次々に登場した。カラフルな円形メイクやお団子ヘアなど、おもちゃ箱の中を想像させる。
後半は、おもちゃのテーマをストレートに取り入れつつも、実験的とも言えるシルエットだ。ワイヤー使いで球形のニットトップス、アルファベットのブロックで作ったプラットフォームシューズやバッグ、ラグビーボールのようなオブジェが全身にいくつも付いているルック、ザリガニの爪がジャケットの袖から出ているジャケット、平面的なジャケットにボリュームのあるスカートなど、体の立体感からさらに自由に大きくクリエイトしたコレクションに仕上がった。
「ニューヨークには、本当の自分を探しにやってくる。自分の個性を見つけ、それを大事にしていくことがなによりも大切」。それぞれの個性を祝おう。そんなメッセージが込められていた。
LVMHのアルノー会長兼CEO、80歳まで続投可能に
LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼最高経営責任者(CEO、73歳)のCEO年齢制限を80歳まで延長する。株主総会で81.6%の賛成多数で決議された。同社の内規ではCEOは75歳までと定められていた。
総会で議長を務めたアルノー会長兼CEOは、「2021年度の営業利益172億ユーロ(約2兆3392億円)は、他のラグジュアリーグループの売上高に匹敵する」と業績を誇り、「高級品は四半期ごとの競争ではなく、長期的な戦いであり、(株主も含めた)ファミリーによって運営されるのが最善である」と強調した。
アルノー会長兼CEOは1949年3月5日生まれ。71年にパリ理工科大学を卒業し、ニューヨークで父親の建設会社で経営に携わった。84年にパリに帰国し、投資会社フィナンシエール・アガッシュを再構築する中で、倒産して売りに出されていたテキスタイル会社で「クリスチャン ディオール(CHRISTIAN DIOR)」を保有するブサック・サンフレールを買収。89年にLVMHの筆頭株主になり、現在に至る。
5人の子どもがおり、それぞれグループの要職に就いている。「ルイ・ヴィトン」エグゼクティブ バイス プレジデントなどを務める長女のデルフィーヌ、LVMHのコミュニケーション&イメージなどを取り仕切る長男のアントワーヌ、ティファニーの取締役副社長を務める次男のアレクサンドル、「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」CEOで三男のフレデリック、「ルイ・ヴィトン」ウオッチ部門ディレクターで四男のジャン。年齢制限延長に伴い、後継者選びも先送りとなりそうだ。
ジェンダーレスファッション、“男性にドレスを着せる”の先にある世界とは
フェアチャイルド・メディア(FAIRCHILD MEDIA)はこのほど、「ダイバーシティー・フォーラム(Diversity Forum)」を開催した。フォーラムでは、ファッションとジェンダー・アイデンティティーのつながりや、今日のジェンダーの流動性の概念がファッション業界に与える影響などに関するディスカッションが行われた。ジェンダーレスファッションといえば、「ユニセックス」と称した商品は長きにわたって市場に浸透している。“メンズから借りた”ファッションをウィメンズでも展開して「ユニセックス」として提案されることが多い中、近年は「ジェンダーレス」「ジェンダーニュートラル」と呼ばれる新製品も多く登場している。これからのジェンダーレスなアプローチとは。
フォーラムで対談したのは、ジェンダーの流動性がまだファッション業界や社会で浸透していない頃からLGBTQ+コミュニティー内におけるジェンダー・ポジティブ運動の先駆者的存在として活躍しているデザイナーのルドヴィック・デ・サン・サーナン(Ludovic de Saint Sernin)と、モデルのテディ・クインリバン(Teddy Quinlivan)。自身の名を冠したブランドを持つデ・サン・サーナンは、色気やジェンダーの区別のない官能性(センシュアリティー)がファッション業界でトレンドとして復活するきっかけとなったと言われている。「本当の自分を表現しただけだったが、そこに確かな需要があることに気がついた。洋服を着る人が従来の選択肢に縛られてなくていいブランドを作ってみたところ、業界の反響は驚くべきものだった。私は一人ではないし、心を開いてこうしたコミュニティーの一員になりたいと願う人は世界中にいる」と語る。
デ・サン・サーナンは最新のコレクションで自身もモデルとして登場し、“自分のミューズになる(be your own muse)”というテーマを体現した。2022年春夏コレクションの広告キャンペーンでも、商品を全く使用しないセンシュアルで斬新な手法を披露。スペインの新進気鋭のランウエイモデル、フェルナンド・リンデス(Fernando Lindez)を起用してインターネット上で大きな話題を集めた。センシュアリティーといえば、トム・フォード(Tom Ford)がデザイナーを務めた時代の「グッチ(GUCCI)」の挑発的で性的な広告や、ケイト・モス(Kate Moss)を起用した「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のアイコニックなキャンペーンなど、官能的な魅力で大衆の心を掴んだケースは多く、ファッション業界にとって新しい概念ではない。しかし、デ・サン・サーナンはこれまでにない新しい側面に光を当ててインパクトの強いビジュアルを作るだけでなく、それが受け入れられるよう推進することを使命としている。
「過去5年間に制作したキャンペーンでは、ファッションにおけるクィア(性的マイノリティーや、既存の性のカテゴリーに当てはまらない人々の総称)らしさやゲイ(同性愛、同性愛者)らしさ、セックスの表象を新たな面から可視化したため、大きな反響を呼んだ。私はゲイの男性だが、自分らしくあることや、このコミュニティーで私が私らしくあることの意味などを発見していった時に参照した資料が(広告制作などの際に)とても役立った。これまで、ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)やマドンナ(Madonna)といったポップアーティストなど、世界のクィア・アイコンに影響を受けた。彼らの多くは性とユニークな関係を持っていて、そうして性を堂々と表現する姿勢にインスパイアされてきた。だからこそ、洋服だけじゃなくて、ライフスタイル体験を提供しなければと考えた。現代のブランドとして、ただ服を作るだけではなく、メッセージ性を持ち、コミュニティーにとって意味のある何かを構築し、自分の意志を表現し、可視化する必要がある」。
ジェンダー規範を問い直すことは、ファッション業界で今や当たり前になりつつあり、より“挑発的”になるために“型破り”なモデルのキャスティングをすることが増えてきている。トランスジェンダーモデルとして活躍するクインリバンは、「幸いなことに、業界ではジェンダーに関する多様な表現があり、従来のジェンダー規範が壊される場となっている。単に男性がスカートやドレスを着るのではなく、新しいクリエイティビティーが生まれている。ファッションはアートであり、デザイナーは自由にキャスティングできる。一方で、当事者の起用は搾取につながり、企業に利益をもたらすためだけにこれらの人々を利用するようになってしまう恐れがある。6月のプライド月間の商業化を見るに、残念ながらファッション業界のモデルたちも商業的に利用されていくのではないかと感じる」と意見を述べた。
ジェンダー平等の世界的な動きは、コミュニティーのメンバーが恐れることなく自由にセクシュアリティーを表現し、楽しむことができる社会の構築に向けて、これまで以上に大きく前進している。「変化の中でたくさんの新しい声が聞こえていることに感激している。私たちが開けたドアもあるが、これまで道をつなげてきてくれた人たちのおかげで今がある」とデ・サン・サーナン。
ファッション業界はさまざまな形で個人を肯定し、クリエイティビティーの発展に貢献してきたが、今度はより平等な世界の実現に向けてゆっくりと動き出している。自己表現におけるセックスアピールの役割を問い直し、ボディーシェイミング(人の見た目に意見を言ったり批判したりすること)を終わらせ、自己肯定心を育み、それぞれの方法で自身を受け入れることを導くような灯台となれるだろうか。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。