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言葉選びの妙

 新連載開始です。私も翻訳に携わっていますが、「先輩K」さんは翻訳のプロフェッショナルで正確かつ的確、「後輩M」さんはインターナショナル感覚とZ世代ならではの感性に優れ、2人と話していると学ぶことがとても多いです。馴染みのある言葉がお題に上がっているので構えずに読めますし、翻訳チームでのミーティングを垣間見るような感じで、皆さんにも楽しんでもらえると思います。

 初回は「メンタルヘルス」。オリンピック開催でちょうど選手の「メンタルヘルス」に関心が集まっていますね。カタカナを使わなかった理由と共に、言葉選びの妙を感じてもらえたらうれしいです。

 

「WWDJAPAN」副編集長
小田島 千春
NEWS 01

大坂なおみ選手のニュースから考えるカタカナ言葉の使い方 新連載!翻訳日記:今を読み解くキーワード第1回

 「WWDJAPAN」の翻訳担当が送る新連載「翻訳日記:イマを読み解くキーワード」では、米国版「WWD」から翻訳したニュースを引用し、その言葉が日本語や英語でどのように使われているかなどを考察。注目のニュースから英語的な感覚を養い、物事を新たな角度から見るきっかけを提供する。連載を担当するのは、「WWDJAPAN」で翻訳を主に手掛ける先輩Kと後輩M。気づけば翻訳の道に入ってはや四半世紀の先輩Kと、入社2年目でミレニアルとZ世代の狭間を生きる日英バイリンガルの後輩Mが交換日記を交わすように話を深めていく。

 初回のテーマは「メンタルヘルス」など、日本語にするときは意味の違いを考えるべき翻訳のケース。プロテニスの大坂なおみ選手が心の健康などを理由に全仏オープンを棄権したことを受け、ナイキ(NIKE)など複数のスポンサーが同選手を支持する声明を発表したニュースを起点に考える。東京オリンピックではアメリカ体操代表のシモーン・バイルス(Simone Biles)選手が同じく心の健康を理由に途中棄権した。多くのスポーツ選手たちが「メンタルヘルス」の重要性について対話を始めている。

後輩M:初回の今回は、K先輩が訳された大坂選手のニュースを皮切りに、翻訳や言葉遣いの裏話を伺いたいと思います。K先輩は長年の翻訳者としての腕前はもちろん、LGBTQ+アライであることも公表していて、ジェンダーや人種にまつわるニュースを翻訳するときの言葉選びにはいつも感嘆しています。

先輩K:いきなり褒められてくすぐったいですが、大変いい気分です(笑)。大人になると、なかなか褒めてもらえないですもんね。こちらこそ、Mさんのグローバルかつフレッシュな視点に教えられることが多いです。

後輩M:このニュースでは、「We support her and recognize her courage in sharing her own mental health experience」というナイキのステートメントを、「われわれの思いはなおみと共にある。当社は彼女を支持し、心の健康に関する自身の経験を共有してくれた彼女の勇気を称えたい」と訳していますね。「メンタルヘルス」を“心の健康”と訳されているのが気になりました。

先輩K:この場合はカタカナで「メンタルヘルス」でもいいと思うんですけど、日本ではネガティブなイメージがついて回る言葉なので使用は控えました。

後輩M:確かに、“メンヘラ”と略されて普及していますね。「病んでいる」「精神が安定していない」、それゆえ「自己肯定心が低く恋人に依存しがちな人」と揶揄する言葉という印象があります。

先輩K:カタカナ語の場合、英語と日本語で意味合いに乖離があるケースには注意が必要です。ほかにも最近社内で話題に上がったものには、「ホットスポット」という言葉があります。英語圏では一般に「人気の場所」や「何かが集まっている箇所」を指しますが、日本では放射線量の高い地域などと結び付けられることも多いですよね。意味が合っているかはもちろん、実際の使われ方や、その言葉が与えるイメージを意識した言葉の選択が重要になります。

後輩M:生活の中での言葉の使われ方を考慮して、情報の届き方に気を配ることが大切なんですね。一方、冒頭の大坂選手のコメントでは、「メンタルヘルス」と使っていますね。

先輩K:冒頭では、「選手のことを考えるのであれば、試合の外で過度なプレッシャーを与えるのは良くないのではないか」という発言の趣旨をストレートに伝えるために、「メンタルヘルス」とそのまま使っています。とはいえ、精神的な病へのスティグマ(恥や不名誉などのネガティブなイメージ)が強い国もまだまだあるので、悩ましい部分でした。

後輩M:私が大学時代を過ごしたオランダでは、カウンセリングに行くことや心の状態について話すことは一般的でした。友人が「風邪が悪化する前に病院にかかるのと同じで、心がつらくなる前に専門医を訪れるのは大切」と言っていたのが心に残っています。日本では、メンタルや精神的な健康についてカジュアルに話をするムードはあまりないですよね。

先輩K:このニュースに関しても、日本では当初、大坂選手を非難する意見が多かったんですよね。「スポンサーに迷惑だ」「嫌ならやめれば良い」という論調が多かった。記者会見をしないということも、“わがまま”だと受け取られかねないですし。

後輩M:アスリートや芸能人は、特に政治的な発言をすると、試合の成績や活躍と結び付けられて批判される印象があります。大坂選手は、BLM運動などについても自身の黒人としてのアイデンティティーを持って発信を繰り返し、立場をはっきりと表明してきた人物ですが、こういった社会の圧力も存在しますよね。

先輩K:「本業に関係のないところでチャラチャラしている」と言われることも多いですよね。そこでナイキという世界的な大企業が登場し、支持を表明したというのは大きなニュースでした。

後輩M:大坂選手は9月に開催する、ファッションの祭典「メットガラ(MET GALA)」2021のホストに、ティモシー・シャラメ(Timothee Chalamet)、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)、詩人のアマンダ・ゴーマン(Amanda Gorman)と並んで選ばれています。ファッションシーンとのつながりにも注目です。

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NEWS 02

ラルフ ローレン 銀座にスケートボードランプが登場 キッズ向けの期間限定スクールを開校

 ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)はこのほど、日本初のスケートボードランプを東京・銀座の期間限定店「ラルフ ローレン 銀座」内のガーデンテラスに設置した。アクティブウエアライン「ポロ スポーツ(POLO SPORT)」の世界観を表現した、ラージとスモールの2種類が並ぶ。

 スケートボードランプは、プロスケーターらが指導するスクール「RL SKATEBOARD SCHOOL for Kids」のために、8月6〜31日の金〜日曜日に開放する。スクールは5歳から小学生までが対象。ラルフ ローレン 銀座の専用公式LINEアカウントを通じて、各回先着10人限定で予約を受け付ける。

 また期間中は、アーティストのリュウジ カミヤマ(RYUJI KAMIYAMA)がデザインしたスケートボードデッキを展示するほか、ラルフ ローレン 銀座のARコンテンツ“ポロベア イン ザ ハウス”に新ポロベアが期間限定で登場。同店での商品購入者を対象に、スケートボードを楽しむポロベアのステッカーをプレゼントする。さらに、店内のラルフズ コーヒーではキッズ向けに“ストロベリーシェイク”(税込990円)を期間限定メニューとして提供する。

 ラルフ ローレン 銀座は、7月2日から1年間の期間限定で東京・銀座の中央通りにオープンした世界初のコンセプトショップ。地上2階建てで、アイテムをカスタムできる「CYOカスタムショップ」や日本最大級のカフェ「ラルフズ コーヒー」を併設する。

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最新号の読みどころ

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。