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コロナなんてどこ吹く風な富裕層×現代アート市場

 投機的な面を多分に含んで、現代アート市場がここ数年ぐんぐん盛り上がっていますね。2013年以降のアベノミクスによって日本の富裕層は拡大しており、彼らにとってはコロナ禍なんてどこ吹く風なんでしょう。そうした世相を背景に、現代アートに特化したプラットフォームを提供する企業、マグアスがこの3月にスタートしたそうです。

 具体的には富裕層に向けてアート情報のメディアや美術館のプライベートビューイングなどを企画し、同時に対企業の商売として、アートを活用したブランディング支援、富裕層マーケティングなどを提供していくとのこと。NFT(ブロックチェーン技術を活用し、デジタルアートや限定商品などを扱う市場)も米国を中心にバブル化しており、現代アート界隈×富裕層のビジネスは今後もいろいろとニュースが出てきそうです。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

三菱地所など大企業が出資するアートのプラットフォームが始動 勝算を代表に聞く

 3月に設立されたマグアス(MAGUS)は、現代アートに特化したプラットフォームを提供する合弁企業だ。出資企業は、寺田倉庫、三菱地所、TSIホールディングス、東急の4社。これら錚々たる企業を説得したのは、マグアスを率いる上坂真人・代表だ。同社を立ち上げた経緯や目的、活動内容、そして、なぜアートがビジネスになるのかを聞いた。

WWD:このタイミングでマグアスを立ち上げた理由と目的は?

上坂真人マグアス代表(以下、上坂):もう少し早く立ち上げる予定が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年遅れた。前職のビジュアルコミュニケーション企業アマナで、アートフォトのプロジェクトを世界巡回させた際、アートに関する世界と日本の大きな差に気付いた。海外におけるアートとは、見て、語る、気楽な楽しみ。企業がアートに投資していることも強く感じた。日本で、個人にはアートの楽しみを、企業にはアートを戦略に取り入れるメリットを提供できないかと考えた。約2年前から本物のアート関連のコンテンツを提供するプラットフォームとして、50社以上にアプローチした。この活動を通して、日本でアートの存在を日常的にしたい。

WWD:日本以外でのアートの存在とはどのようなものか?

上坂:世界におけるアートとは、知的資産であり、信用、文化を支えるという意味での社会貢献のほかに、ブランディングや富裕層獲得などの意味を持つ。だから、アートとはファッションと同様の消費対象だ。富裕層マネジメント企業の調査によると、プライベートジェットで富裕層が訪れる年間イベントトップ12のうち3つが「アートバーゼル(ART BASEL)」「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(ART BASEL MIAMI BEACH)」「フリーズ・ロンドン(FRIEZE LONDON)」。「フォーブス(FORBES)」誌の「世界富裕層トップ100」のほとんどがアートコレクター。アートフェアに銀行や企業が協賛するのは、富裕層ビジネスとして成立しているからだ。

WWD:マグアスの構想はいつ頃から?名前の意味は?

上坂:約3年前から。富裕層にアプローチするいいメディアがないと感じていたし、世界と日本のアートシーン、アーティストと個人、企業とアートの橋渡しをしたいと感じていた。マグアスという名前は紀元前500年前の古代イランにあったメディア王国の祭祀階級の呼称を意味する。

WWD:マグアスの企業・個人に向けての具体的な活動内容とその仕組みは?

上坂:個人に対しては、世界基準のニュースレターやウェブマガジンの配信、アートスクール開催など。また、美術館やギャラリーなどのプライベートビューイングなどを行う。企業に関しては、国際的ブランディング、富裕層および文化的消費者へ対するマーケティング、社会的文化貢献など、コンサルテーションから運営までを行う。

WWD:現代アートに特化したプラットフォームにした意図は?

上坂:日常的にアートを購入する場合、必然的に現代アートになる。なぜなら、現存しているアーティストの作品は往々にして手に届きやすい価格だから。しかし、セミナーやスクール事業などに関しては現代アートに限らず、西洋美術や日本美術、アートの歴史、アートの相続方法や保存、修繕方法など幅広く紹介するつもりだ。

WWD:どのように、寺田倉庫、三菱地所、TSIホールディングス、東急の出資を得られたか?また、各企業の役割は?

上坂:寺田倉庫は既にアートをビジネスとしているし、三菱地所はレジデンスの会員を、東急も東急文化村の会員を持っている。TSIは個人へ向けてライフスタイル提案をしようとしている。彼らには資金以外に、会員、不動産(場所)を提供してもらう。そうすることで、新たな富裕層とのつながりや新たなビジネスチャンスになるという点で魅力を感じてもらえた。

富裕層マーケティングとブランディングに欠かせないアート

WWD:今後の具体的な戦略は?

上坂:出資企業とほかの企業をつなげ、銀行の顧客に向けたスクールの開催、ラグジュアリー企業のVIPルームでコレクターに向けて世界的なアートスペシャリストによるセミナーを開催するなど、さまざまな取り組みを考えている。また、個人宅のアートのキュレーションなども行う予定だ。

WWD:アーティストの支援はどのように行うか?

上坂:日本人アーティストとアートをブランディングの一環と考える企業とつなぐことにより、世界に飛び立たせることができると思う。

WWD:ギャラリーやオークションハウス、美術館などとの協業は?

上坂:積極的に協業していくつもりだ。日本には大型のギャラリーがない。だから、企業の持っている空間を利用して新たに大型のギャラリーを作り、作品のキュレーションはギャラリーなどと協業してマグアスが行う。アートコレクターや富裕層が集まる場所にしたい。そして内覧会では、協賛企業とともにVIPの食事会などを開催する。また、美術館に関しては、世界の美術館を視野に入れており、ブライベートビューイングなどで協業するつもりだ。サザビーズ(SOTHEBY’S)やクリスティーズ(CHRISTIE’S)、フィリップス(PHILIPPS)などのオークションハウスからは、セミナーやスクールの講師として登壇してもらうことなどで協業していきたい。

WWD:ビジネスにおけるアートの役割は?

上坂:富裕層マーケティングとブランディング。その結果としてCSRが付いてくる。ファッションや音楽、スポーツ同様にアートが切り札になるはずだ。企業が10年後を考えたとき、次のマーケティング方法としてアートを取り入れて、富裕層ビジネスとして生かすべきだ。

WWD:アート後進国の日本で、どのようにアートを広めていくか?

上坂:世界のアートマーケットが拡大したのは2006年以降。世の中はどんどん変化している。日本では、アートの楽しさを教えてこなかったのが一番の問題。だが、消費者はファッションやグルメに飽き始めている。企業が資産形成や差別化を計る意味で、アートの時代が来るはずだ。アートとファッションの提案など、アートを通して新たなライフスタイルの提案をすることで、日本で日常的にアートを楽しめるようにしていきたい。

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NEWS 02

東レ日覚社長「世界経済は2022年にコロナ前の水準に」

 東レの日覚昭廣社長は、「ワクチンの摂取が進み、コロナ禍は年内を目途に収束に向かう。2022年には世界経済はコロナ前の水準にまで戻すだろう」との見方を示した。昨年5月に発表した中期経営計画では2023年3月期に売上収益2兆6000億円、事業利益1800億円を掲げているが、「変更はない。むしろ22年3月期の期中に、上方修正の可能性すら期待している」という。都内で25日に開催した記者会見で明らかにした。

 2022年3月期(国際会計基準)の見通しは、売上収益が前期比17.4%増の2兆1200億円、事業利益は同32.9%増の1200億円、純利益は同74.7%増の800億円。「中計の数字達成のカギを握るのは繊維部門と炭素繊維部門」と日覚社長。ボーイングなどの大手航空機の主要部材である炭素繊維は、コロナ禍で大打撃を受け、低迷しているが、風力発電のブレードなどで需要が拡大しているという。繊維では、米国の大手アパレルからの足元の受注はコロナ前の水準に戻っているという。繊維事業のトップである三木憲一郎常務執行役員は、「地域やアイテムによって差はあるが、全般的に今年1年をかけてコロナ前の水準にまで戻っていくだろう」という。

 22年3月期の繊維部門の売上高は前期比13.4%増の8150億円、事業利益が同50.3%増の550億円の見通し。23年3月期の繊維事業は売上収益が1兆300億円、事業収益が760億円を計画しており、売上高と営業利益は過去最高だった19年3月期の(売上高9743億円、営業利益729億円)を、それぞれ上回る計画になる。

 繊維の拡大の柱になるのが、リサイクルポリエステル「アンドプラス」などを柱としたサステナブル素材。「すでに縫い糸などではかなりの量を供給しており、グローバルに拡大できる余地がある。トレーサビリティー(追跡可能性)などがますます求められる中でも、こうしたリサイクルポリエステルや、植物由来のバイオポリエステルの開発を強化する。原料分野でのこうした差別化が、トレーサビリティーにもつながる」という。

 一方、ウイグル問題などを始め、人権と政治の問題が経済にどう影響を与えるかという質問に対し、日覚社長は「我々としても非常に注視している。人権問題などは最終的には話し合って解決していくことになるだろう。ただ、米中間の貿易額を見ても、実際には伸びている。中国が現在も生産大国であることは現実で、一方米国も市場としての中国を注目している。大きな流れで見ると、マイナスにはならない」という見方を示した。

 新疆綿の調達に関しては、三木常務執行役員が「当社は合繊メーカーなので綿を使った製品を製造する場合は、綿花は購入しているが、原材料の調達はCSR調達基準に則って行っている」と語るにとどまった。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。