Fashion. Beauty. Business.
2回目のパリメンズは最適・最善化の兆し
2回目となるデジタル上でのパリメンズも終了しました。さすがに皆、慣れてきたようで、今回は複数のモデルを起用し、コレクションの隅から隅までをしっかり見せるブランドが多くなりました。6月のパリメンズはストーリー重視で、ちゃんと見えたスタイルは2、3なんてブランドも少なくありませんでしたからね。「冗長」とも思える長尺すぎる発表も減り、感動はそのままに複数のブランドをネットサーフィンのように楽しみやすくもなりました。こうして半年おきにアップデートを繰り返し、最適・最善を目指すのでしょうね。
「LV」や「オム プリッセ」、国内ショー初開催の「カラー」まで常連ブランドに感動 編集長&若手記者2人のパリメンズ10選
川井康平「WWDJAPAN.com」記者(以下、川井):ミラノ・メンズ・ファッション・ウィークに続き、パリメンズがスタートしました。70以上のブランドが新作を発表します。今回は、2、3日目の厳選10ブランドを振り返ります。僕は、初めての対談です。お手柔らかにお願い致します。
村上要「WWDJAPAN.com」編集長(以下、村上):川井さん、ようこそ!!リアルにパリメンズを取材していた時は、旅費などの都合もあって2人体制でした。それがデジタルシフトして前回は4人、そして今回は川井さんも加わって5人。着実に広がっていますね。みんなが参加できるのは、改めてデジタルの魅力なんだと感じます。
式典のような豪華な演出
川井:台湾人デザイナーのアンガス・ジャンが2015年に開始したブランド「アンガス ジャン(ANGUS CHIANG)」は、映画祭のようにファンやメディアが取り囲むレッドカーペットを舞台にショーを開催。それをデジタル配信しましたね。モデルは台湾の俳優やアーティストで、イベント感満載でした。中国語は分かりませんが、インタビュアーはセレブにルックの感想を聞いていたのでしょうか。計30分は、ちょっと長かったですね(笑)。
村上:確かに言葉の壁は大きかったけれど、アイデア賞!ってカンジ。もちろん英語の字幕があればベターでしたが、僕は案外、楽しく見続けることができました。映画祭の華やかさはファッションにも通じるし、「台湾では、こんな芸能人が活躍しているんだ」っていう発見も面白かった。とはいえ、舞台をレッドカーペットに設定しちゃうと、メンズはスーツ、ウィメンズはドレスばかりになっちゃうね。いつもはパーカやショートパンツ、スニーカーとかいっぱい出てくるのに(笑)。ネオンカラーのピカピカスーツにパールを加えたアクセサリー一辺倒になっちゃったのは、勿体無い。フィナーレに登場したデザイナーはGジャンにデニムだったけど、レッドカーペットの上でも違和感ありませんでした。音楽関係のセレブには、カジュアルウエアを着せちゃえばよかったのに。
デザイナー本人によるコレクション解説
川井:ジョナサン・アンダーソン本人がコレクションを手に取り、解説してくれました。デザイナー本人がインスピレーション源やディテール、新型コロナウイルスが世界的に蔓延している中での制作過程など、なかなか知る機会がないことを話してくれるのは嬉しいですね。ファッションフォトグラファーのユルゲン・テラー(Juergen Teller )が撮影した写真をポスターにしているのも印象的でした。
村上:ジェンダーの境界はほとんど消滅、タイムレスなジャケットやコートも増え、ジョナサンが目指す「普遍的なアイテムを、いろんな人間が着ることで、個性を表現する」というゴールに近づいている印象です。大昔、ロンドンメンズで“ちょうちんブルマー”のメンズを見た時は、衝撃的すぎて記憶に深く深く刻み込んだけれど、21-22年秋冬でパフスリーブのコットンジャージードレスを着たメンズモデルを見ても驚かなくなっている(笑)。自分の感覚も大きく変化しているんだな、って思いました。気になったキーワードは、「Reinforce Wardrobe」。直訳すれば「ワードローブを豊かにする」って意味かな?「自分の手持ちに最新コレクションを加えて、少しずつ自分らしいワードローブを作る」という感覚は、サステナブルという価値観が台頭する今、すごく共感できます。「ちょっとだけイマドキ」な洋服をプラスし続ける消費、は、今シーズンのキーワードになりそうです。
世界を目指す意気込みとエネルギーを体現
川井:「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」は、日本文化の美的理念の1つ“幽玄”がテーマでした。ショー会場は、国会議事堂など、日本を象徴する建築物の家具や室内装飾を手掛ける三越製作所。ファーストルックを飾ったモデルはTikTokで人気に火が付いた19歳の大平修蔵さんですね。ちなみに現在、フォロワーは300万人を超えています。音楽はDJのリカックス(Licaxxx)が手掛けていて、日本のブランドが世界を目指す意気込みやエネルギーを感じました。
村上:着物風なパターンで侘び寂びさえ感じさせるウエアと、リカックスさんの打ち込み系テクノ、モノづくりの現場という融合が「ヨシオ クボ」っぽいですね。トレンチコートの後ろに「MODERNITYSTIC&BLENDING YUGEN」っていうメッセージがありました。「幽玄にこだわりつつ、融合するのがモダニティ」って意味でしょうか?作務衣風のアウターをナイロンポケットや止水ファスナーなどでアップデートするなど、言葉通り、良さを活かしつつ少しだけ手を加えて今の時代に馴染むものに仕上げるというのは、三越製作所などが行ってきたモノづくりの理想形ですね。
「強さ」が滲み出るプリーツウエア
川井:個人的に「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」は大好きなブランドですが、ルックはもちろん、映像も素晴らしかったです。冒頭に登場するプリーツ加工マシンの機械音をBGMにモノトーンのルックが交錯しながら歩いたり、躍動感たっぷりに踊りだったり、空気を含ませるとアイテムが映えますね。「Never Change, Ever Change(変わらないもの、変わるもの)」のテーマ通り、クラシックな装いの中に、プリーツ加工の短めのベストやジャケットなどひねりのあるアイテムを加えており、めちゃくちゃタイプでした。
村上:側から見る限り「この子のワードローブは、4割くらい『オム プリッセ』なんじゃないか?」と思わずにはいられない川井さんとしては、随分あっさりまとめましたね(笑)。もっと愛を語れば良いのに。簡潔にまとめるのが「オム プリッセ」らしいとも言えるけれど(笑)。「Never Change, Ever Change」というテーマは、プリーツそのもののハナシなんじゃないか?って思いました。あらゆる意味で機能的だからプリーツを探求する姿勢は「Never Change」だけれど、プリーツの入れ方とかは「Ever Change」みたいな。最近は全面プリーツ、じゃないアイテムも増えているしね。パリでのリアルの頃から、「オム プリッセ」の得意技と言えばカラフルなプリーツウエアをまとったモデルが表現する躍動感でしたが、今シーズンは見せ方を大きく変えてきましたね。「ポップ」な印象は薄れたけれど、「強さ」が滲みます。正直、洋服自体はそんなに大変身したワケじゃないのにね。改めて「オム プリッセ」やプリーツウエアの多面性を感じました。この服、本当に誰もが、自分らしく着られますよね。余談ですが、月刊誌「WWDビューティ」の2020年10月号の表紙を飾ってくれた「レコ」の内田聡一郎さんが、撮影の時「オム プリッセ」を着ていたんです。ご本人のほんわかした雰囲気とすごくマッチしていたのが印象的でした。なんとなく若い世代は、川井さんのように「オム プリッセ」のミニマルな感じを引き出すコーディネートが多い印象だったので、さすが内田さんって思ったのです。川井さんもたまには、モノトーン以外の「オム プリッセ」に挑戦すれば良いのに。
「コンバース」とのコラボスニーカー登場
川井:「リック・オウエンス(RICK OWENS)」は、ゴシックな会場と時折映る湖畔がダークかつリアルさを演出、さらにBGMのGOHSTMANE(ゴーストメイン)の“HELLRAP”が雰囲気を盛り上げていましたね。ルックの足元は「リック・オウエンス」のセカンドライン「ダークシャドウ(DRKSHDW)」と「コンバース(CONVERSE)」のコラボスニーカーが登場。「ダークシャドウ」だとキャンバススニーカーの“ラモーンズ (RAMONES)”が有名ですが、厚底にスクエアトーとトレンドの要素も取り入れた今作は、ブランドのファンではない僕も「欲しい!」と思いました。
村上:意地悪なくらい、横向きと背面しか見せてくれませんね(笑)。他のブランドは“ド正面”からクローズアップしてくれるのに、リック様のど正面ルックはまぁまぁ「引き」の画面で、何度か別のモデルに遮られてしまいます。でも、良きコレクションでした。いつも通りの迫力は損ねず、川井さんの欲しいモノリストに食い込んだスニーカーやサーマル風のニットタンク、リアルなレザー&ムートンと、ボリュームあるダウンは、みんなが「カッコいい」って感じそう。
民族衣装を取り入れて世界の文化を表現
川井:雪山でシンガーソングライターのソール・ウィリアムズ(Saul Williams)がまるで語り掛けるように、詩を朗読しながら歩いてくるシーンから始まった「ルイ・ヴィトン」。語勢は徐々に熱を帯び、それと同時に次々ルックが登場する演出でした。後半にはラッパーのヤシーンベイ(YASIIN BEY)が踊りながらラップを熱唱。音楽的視点で見てもただただ格好良くて、ドゥーラグを巻いたダンサーなどヒップホップの要素も強かったです。メゾンブランドのアプローチの手数や規模が顕著に表れますね。食い入るように見てしまいました。
村上:結構ギリギリまで「リアルショーを検討していた」と伝えられていますが、「構想数カ月」レベルの壮大な映像作品に仕上げましたね。規模感にも関わらずの、スピード感。さすがは「仕事が早い」、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)です。ここ数年、ヴァージルはフォーマルウエアを極めようとシフトチェンジしている印象ですが、今シーズンが一番スキかも。ドゥーラグを思わせるストール風リボンのハットやシンプルなスニーカーとのコーディネート、ちょっぴりキャッチーなストライプのシャツ&タイ、時折加えるプリーツスカートなど、王道のフォーマルにストリートの遊び心をちょっぴり加えた感じ。革命的な新しさではないけれど、誰もが頑張り過ぎずに楽しめる感じがします。2021年秋冬プレのテーマ、「ニューノーマル時代の適合性」を今シーズンも大切にしています。映像の主役が、クリアチェーン付きのモノグラムのトランクケースなのは、ヴァージルとメゾンの良好な関係を物語っているようでした。ショーピースでしょうがエンパイヤステートビルや凱旋門が“そのまんま”洋服になっていましたね(笑)。今シーズンの招待状は木製の飛行機で、それを収めた箱には「COCKPIT VOICE RECORDER」の言葉が記されていたのですが、納得です(笑)。こういうご時世だから着陸はできなかったかもしれないけれど、空から世界を一周して目に飛び込んでくる風景、湧き上がる感情をコレクションに詰め込んだのかな?チルデンニット風のファーのプルオーバーからデニムのセットアップ、カウボーイ風のゴツいベルトとウエスタンブーツ、サリーのように体に巻きつけたロングストールまで、今シーズンは世界の民族衣装的なスタイルも見え隠れしていました。個人的には、“モノグラム”の飛行機バッグに目が釘付けでした(笑)。
日常の中に感じる希望
川井:「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」はスマートフォンで視聴することを想定してか、縦長で動画を制作。動画自体はルックを見せるための動画内容はいたってシンプルでしたが、足元に溜まるワイドパンツやサックスブルーのオーバーサイズシャツ、ジャケットと同素材のニットのショート丈のパンツなど、アイテムの色味やレイヤードのバランス感がとても美しかったです。
村上:カメラがモデルを下からあおる場所に置かれていたせいか、全体のプロポーションバランスがちょっぴり分かりづらくて損している気がするね。その分、上半身のボリューム感と、ハイウエストパンツのスラッとした感じは印象に残ります。特に気に入ったのは、シャツかな。スエットを重ね着したシャツドレスや、スカーフをトロンプルイユしたオーバーサイズは、気負わずに楽しめそう。ドリスでは比較的珍しいパステルカラーのプルオーバーは、可愛らしい。背景は、朝から昼、夜に変わって、また朝を迎えてエンディング。こんな時代でも、新しい一日はやってくるのは変わらない。日常を感じさせつつ、希望も抱かせる、壮大ではないものの心地よいドリスらしい演出でした。
海洋汚染問題をコレクションを通して発信
川井:「ボッター(BOTTER)」は今回、海洋汚染問題に対する主張とカリブ海のサンゴ礁の保全活動からショーを始めました。ルアーを全体にあしらったコートや、フィッシングベストの要素を取り入れたジャケット、サンゴを模したネックレス、ブイ(浮き輪)のバッグなど随所に海に関するアイテムを盛り込んでいます。ファッション業界においてもサステナビリティは最重要課題の一つですが、コレクションを通じて社会問題を提起するのは、素晴らしい姿勢で姿勢ですよね。
村上:ルアー付きのジャケットは、なんだか“釣られちゃってる”感じで居心地が悪そうな気がします(苦笑)。それ以外を除くと、今シーズンは標榜していたクチュール的プレタポルテ感が薄れたかな?立ち位置の模索は続く、っていう感じかな?
初の国内ショーは持ち味を十二分に発揮
川井:「カラー(KOLOR)」がランウエイショーを行うのは、パリで開催した2017-18年秋冬コレクション以来、約4年振りです。今回のショーは日本国内での発表、しかも「カラー」にとって国内でのランウエイショーは初の試みです。僕はライブ配信を見ていましたが、かなりのルック数でした。要さんは現地でご覧になったんですよね?いかがでしたか?
村上:いやぁ〜、サイコー。今シーズンも欲しいものいっぱい(笑)。メンズは、生来の渋さと心地よさ、モード感が今シーズンもちょうど良いバランス。パリメンズでの発表会を展示会形式に改めた頃に“吹っ切れて、手に入れた”印象の迷いなきパッチワーク&ハイブリッドは今シーズンも潔く、ランウエイショーの迫力という意味ではパリメンズ時代より何倍もパワーアップしている印象です。ウィメンズなんか、ほとんど工作。DIYですよ(笑)。「阿部さんの頭の中は、こんな風にいろんなことが渦巻いているんだろうなぁ」なんて感じてしまいます。潔く、大胆な感じは、ここ数年の継続路線。だから去年や半年前の洋服も自然に加えることができそうです。ジョナサンが話していた「Reinforce Wardrobe」という言葉を思い出しました。来週の「カラー」の展示会で、僕も自分の「Reinforce Wardrobe」を考えたいと思います!
音楽的要素を感じるスタッズやベルト使い
川井:「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)は前回同様、モデルがランウエイを歩く様子をメインに、所々に商品説明の画像を差し込んだ映像でした。スタッズをあしらったレザージャケットやピタッとしたパンツ、たくさんのベルトを施したコートなど、どこか音楽的なムードを感じました。
「キディル」や「ターク」などパリ公式初参加の日本勢が奮闘 先輩&後輩記者2人のミラノ・パリメンズ8選
大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):本日も2021-22年秋冬メンズ・コレクションレポート第2弾やっていきましょう。前回の「ドタバタ対談」では全ブランドをリアルタイムでリポートし、かなり苦戦を強いられましたが、今回はミラノ最終日、パリ初日で印象的だった8ブランドに厳選して振り返ります。大塚さん、よろしくお願いします。
大塚千践「WWDジャパン」デスク(以下、大塚):よろしく!リアルタイム縛りはなくしたものの、公開時間になるとなんだかんだとソワソワしない(笑)?真面目か!
急激なUターンにびっくり!
大塚:さて、まずは「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL)」辺りからいきましょうか。ロンドンからミラノに発表の場を移した当時は意外だったけど、服もイタリアンモードみたいな装いにシフトしてきたね。クラシックかつスポーティーで、ミニマルな雰囲気。となると、「ここの個性や強みって何だっけ?」と動画見ながら考えちゃった。
大澤:当初のストリートスタイルから大きくシフトチェンジしてきましたね。最初は別のブランドを見ているかと思うぐらい、落ち着いていてびっくりしました。元々のファンにはパンチが少ないかもしれないですね。僕は「某ラグジュアリーブランドに似ている気がする」と思いながら見てしまいました(笑)。バケットハットやニットのチャームの付け方、洋服のシルエットなど……。
大塚:分かる!イタリアのあそことあそこが混ざった感じ。僕の経験上、急にクリーン路線やテーラリングを始めたデザイナーはラグジュアリーブランドへのアピールをしている説があるんだよね。サミュエル・ロス(Samuel Ross)も、もしかするとそういう座を狙っているのかも。個人的にはロンドンで発表していたころのインダストリアルなストリートウエアが好きだったので、もう少しその路線で振り切ってほしかった。
地上波完全アウトのハラハラドキドキムービー
大澤:「マリアーノ(MAGLIANO)」は、ルカ・マリアーノ(Luca Magliano)・デザイナーの25歳という若さ溢れるさまざまな要素が詰まったムービーでしたね。肝心の洋服が入ってこず、ドアップで股間を握るシーンや、白いブリーフをはいた謎の天使もツボでした。宮殿ではあまり見かけないようなメンツが勢揃いで、昭和の角刈りヤンキー風モデルがセンターを陣取り、タバコをふかしていましたね。
大塚:あの股間をまさぐる描写は地上波のテレビなら完全アウトだよ(笑)。最後は、ブリ天(ブリーフ天使)から「だめだこりゃ」って聞こえてきそうだった。1回目はコントを見ているようで服が全く入って来なかったけど、2回目を見ると服のクオリティーは着実に上がっているなと思った。一歩間違えるとコミカルに転びかねないテーラリングを、素材感やギリギリのシルエットでクラシックさを残しつつ、エロく仕立てている。コアな若いファン層がいるのも少し分かった気がする。
ミラノを走る!馬に乗った日本兵「ジエダ」見参
大澤:「ジエダ(JIEDA)」は、アメリカ人アーティストのリチャード・プリンス(Richard Prince)の写真集“カウボーイ(COWBOY)”がインスピレーション源でした。1970年代のアメリカで流行したブーツカットパンツやウエスタン調のテーラード、襟を大きめにしたシャツなどをタイトなシルエットにアップデート。若い世代に人気の同ブランドですが、今回の古着っぽいスタイルに新しさを加えて表現するセンスに、人気の要因がありそうです。
大塚:前シーズンのチンピラVシネマ風な映像からラグジュアリーブランドみたいな映像作品にガラリと変わっていて、一瞬ページを間違えたのかと思った(笑)。カウボーイのウエスタンの土っぽさを色や素材感でにじませつつ、きれいなジャケットやセットアップの提案も多くて、新しい方向にも目を向けていこうという感じ?こういう強いコンセプトの世界観が作れるのは意外だったから、日本代表としてもっともっと磨きをかけていってほしいよね。
ベテラン感漂う“さすが”の一言
大澤:続いての「ベルルッティ(BERLUTI)」は1分間のムービーで発表。前回の陶芸家のブライアン・ロシュフォール(Brian Rochefort)との対談形式も面白かったですが、今回は尺が短くシンプルで見やすかったです。モデルは3人でしたが、同ブランドらしい無骨さと、クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)の鮮やかな色使いのミックスで、良いところが凝縮していました。でもあまりにあっさりしすぎで、もしかしてこれはティーザー映像ですか?(笑)
大塚:正解。今回は3月の本発表に向けたティーザー映像なんだって。ビビッドカラーを差し込んだテーラリングと、染色技法“パティーヌ”を用いたアクセサリーという得意技のオンパレードだったね。前シーズンはアーティストとのコラボレーションでシーズン性を打ち出してきたけど、今季もアートのようなグラフィックが映ったよね?きれいな服とアートという好相性な組み合わせだから、どんな発表をしてくれるのか早くも楽しみになりました。
素材の魔術師「ターク」に驚愕

大塚:「ターク(TAAKK)」は今回からパリ・メンズの公式スケジュールに入ったんです。やはりデザイナーにとって公式に入るか否かはモチベーションが全然違うみたいで、本人もかなり気合いが入っていたよ。その証拠に、今回のキーファブリックの生地サンプルが入ったボックスが直前に届きました。今回もデザイナーからのメッセージ付きで、無機質なデジタルでいかにエモーショナルを届けるかで工夫しているのが分かるよね。
大澤:前回の東京で発表したコレクションも素晴らしかったですが、日本代表としてパリの舞台で戦うブランドが増えるのはうれしいですね。また手書きのメッセージや、生地サンプルを送る辺りも気合いの入り方が伝わってきますね!
大塚:その素材がヘンタイすぎて驚いた!ヘリンボーンがコットンのシャツ生地に変化したり、リップストップがナイロンツイルに変化したり、とにかく意味が分かんない。でも「ターク」は「素材で世界と戦うんだ」という明確な意志を最近は特に強く感じるし、正解だと思う。だからなおさらどんな映像か楽しみにしていて、日本時間0時スタートだったけど、リアルタイムで見ちゃったよ。
大澤:映像はバスに揺られて物件探しから始まり、学校や公園など、これまで当たり前に過ごしていた事柄が描かれたドラマ仕立てのストーリーでした。自分が名古屋から東京に出てきたときをなんとなく思い出した〜(涙)。個人的には背中にテーラードの型押しがされているグリーンのジャケットと、シースルーのアウターが気になりましたね。
大塚:その辺はキャッチーだったね。映像はムード重視で、スタッフも2021年春夏のムービー“UNPOSTED”とほぼ同じ。前シーズンはすれ違う男女の話だったから、もしかして続編?月9みたいにハッピーエンドくる?なんて期待してしまった。結局ストーリーはつながっていないように感じたけど、実は“UNPOSTED”の前の話だったということがデザイナー本人からの連絡により判明して、映像を見直したよね。服はこれまでの自慢の加工素材のオンパレードで、強いピースばかり。ただそれをきれいなスタイルで見せようとしているのが以前との違いで、世界を意識しているんだと思う。
メガシャキムービーに心はズタボロ
大塚:当初は参加予定だった「ファセッタズム(FACETASM)」が緊急事態宣言発令の影響で参加辞退になったので、別のブランドいきましょう。服はさておき、「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」のリアル&CG背景ミックスの映像はかなりキテたね。深夜に目が覚める感じで。背景の情報量多すぎて、服に全然目がいかなかった(笑)。ゴタ混ぜのストリートウエアということは理解したけど、一本調子でちょっとしんどかったなあ。
大澤:同ブランドは、デザイナーのアンソニー・アルバレス(Anthony Alvarez)が2017年に設立。18年に「ブルーマーブル」に改名し活動を続ける仏の気鋭ブランドだそうです。洋服をきちんと見せようしている点は自分の立場を理解してコレクション発表をしていて良かったと思います。単なるロゴ使いや奇抜な柄、オーバーサイズのシルエットというクリエイションだけではライバルが多すぎる。自分たちの強みを見つけ、そこを伸ばさないことにはパリの場では余計に悪目立ちしてしまいそうですよね。これからの活躍に期待したいです!
進化が止まらない「キディル」登場
大塚:次の「キディル(KIDILL)」の公開時間は、日本時間深夜3時30分。いったん休憩して、5分前にアラームかけたわ。起きるのがマジで辛かった。でも起きた価値はあって、めちゃかっこよかった。ムービーカメラを8台使って撮影しているからアングルがバンバン変わり、5分間があっという間。実は1月15日にリアルのショーを開催してそれを撮影・編集したものなのだけど、シンプルなショーをドラマティックに見せるテクニックには素直に感心した。
大澤:今、日本の中でもかなり勢いのあるブランドだと個人的に注目しているのですが、今回も攻め攻めのグラフィックやディテールが詰まっていてかっこよかったです!ドメスティックブランドは守りに入るブランドが多い中、「キディル」は良い意味で日本のブランドらしくないところが若い世代の人気を集めている要因かと思います。いわゆる見ていて楽しい洋服。「なんじゃこれ」「どこに着ていくんだ」と思わせてくれる。そこがオシャレさんたちに刺さり「なら着こなしてやろうじゃないか」と奮起させているのではないでしょうか。世の中の皆さん、ファッションはまだまだ生きていますよ〜。夜露死苦(笑)。
大塚:出たよ、元ヤンキー魂。でも「キディル」はパンク魂で、“Desire(欲望)”をテーマに強いクリエイションにこだわったらしく、柄もディテールもいつも以上に盛り盛り。時折テーラリングも挟むんだけど、それもストロングな総柄。勢いに乗っている気持ちがそのまま服に反映されたハイテンションなコレクションだった。世界で戦うにはまだまだ引き出しは必要だと思うけど、個人やブランドとのコラボレーションを上手く活用しながら成長しているよね。今後がますます楽しみになりました。
エンスト続きで発進はまだ?
大塚:さあ、本日最後は「ルード(RHUDE)」でございます。まず15分がマジで長い。♪ニュ〜ヒ〜マハハナ〜フヒ〜ていう呪文のようなBGMが延々と流れて辛かったわ。しかも出てくるのは終始普通の服ばかりで。あ、でも大澤さんは車好きだから、セットにあったレースカーは気になったんじゃない?
大澤:セットにあったのは「マクラーレン・メルセデス」のF1ですね!サーキットにF1のセットで「おっ!何か面白いことが起きるのかな?」と期待したのですが、フォーミュラーカーは最後まで動かず……。洋服は変わらず普通の服で、音楽も不気味なものではなくF1にまつわる音楽などにして欲しかったですね。「マクラーレン(MCLAREN)」とのコラボアイテムも発表していましたが、単にロゴをプリントしたアイテムのみ。洋服、車共に好きな僕ですら興奮できませんでした。どうせなら、レーシングスーツ・シューズなどをベースにアレンジした、バチバチにストリート色の強いアイテムを発表してほしかったです。
大塚:さすが車好き。期待を裏切られたときの厳しさ半端ない。品質は良さそうだったけど、会話するポイントがあまりないというのも致命的だね。そしてデジタルでのコレクション発表も2シーズン目となると全体的にクオリティーは上がってくるものの、単調すぎても、奇をてらいすぎてもダメで、バランスが難しい。ルックを見れば服は分かるんだけど、導入として動画は十分機能しているのだなと改めて実感した。パリはまだまだ始まったばかりだけど、あと5日間、楽しんで取材しましょう。
メラニア・トランプ前米大統領夫人のスタイリストが明かす 4年間の思い出あれこれ
長年にわたり「キャロリーナ ヘレラ(CAROLINA HERRERA)」のクリエイティブ・ディレクターを務めた後、メラニア・トランプ(Melania Trump)前米大統領夫人のスタイリストを担ったエルヴェ・ピエール(Herve Pierre)にインタビューを実施した。ピエールはヒートアップした米大統領選をはじめとする政治的な話題には一切言及せず、純粋なスタイリストとしての経験を熱心に語った。
初仕事はトランプ前大統領の就任式で着用するドレスのデザインだった。「夫人と初めて会った4日後にドレスのデザインを依頼された。納品まで12日ほどしかなく、細かい要望は教えてもらえなかったために完全に手探りの状態で制作した」。
4年間を振り返り、「ファーストレディーのスタイリストは予想外だったが、とても光栄だった。大統領夫人のスタイリストはジェームズ・ボンド(James Bond)のようにとてもミステリアスで秘密主義的な役割だ。スタイリストはメディアがまだ知らない州訪問の予定なども把握しているから、情報を漏らさないことが重要だ。常に訪問先の文化や国に適した衣装を選ぶことを心がけていたし、それが難しい場合にはTPOに見合う服装や見栄えのよさに気を遣っていた」と語った。
スタイリストの経験がデザイナーの仕事にどのような影響を与えたかを問うと、「トランプ政権でのスタイリスト経験とデザイナーの仕事は分けて考えてきた。18年にパンタナーのニコラ・カイト(Nicolas Caito)と『アトリエ カイト フォー エルヴェ ピエール(Atelier Caito for Herve Pierre)』も立ち上げたこともあり、なおさらだ」と、明確なコメントは避けるにとどまった。
またピエールは、政治的な思想とファッションを別個に考える姿勢を絶賛してもいる。「前ファースト・レディーのミシェル・オバマ(Michelle Obama)は14年に、当時のフランソワ・オランド(Francois Hollande)仏大統領との夕食会で私がデザインした『キャロリーナ へレラ』のドレスを着用した。政治的なメッセージをドレスで表現することもあるとは思うが、コレクションやブランドの場合はどうだろうか?例えばマイケル・コースは、カマラ・ハリス(Kamala Harris)副大統領が米『ヴォーグ(VOGUE)』2月号のデジタル版の表紙で着用したパウダーブルーのスーツをデザインしているが、メラニア夫人も『マイケル・コース(MICHAEL KORS)』が好きで何度も着用している。米『WWD』の読者にも民主党支持者と共和党支持者の両方がいるだろう。結局のところ、読者が求めているのは情報やリポートであって、“特定のブランドを買わないように”などと言うことはできないだろう?それは私たちも同じだ」と語った。
ファーストレディーのスタイリストの心得とは?
後任のスタイリストには“有意義な”情報を提供したいと話すピエールは、「大統領夫人とはいえ、華やかな日もあれば通院の日もある。単にセミフォーマルやカクテルパーティー向けの衣装を探せばいいというわけではない。ファースト・レディーのワードローブは多岐に渡る。とてもクリエイティブな仕事だ。デザイナーの私にとってスタイリングは未知の領域であったため、その都度学びが必要だった。メラニア夫人に『私はスタイリストではない』と伝えると彼女は、『私もファーストレディーじゃないわ。これから一緒に学んでいきましょう』と言ったんだ」と回想した。
また、大統領夫人のスタイリストは時に間違いを犯すこともあるという。「ジル・バイデン(Jill Biden)米大統領夫人のスタイリストは、彼女がスピーチをする際に『背景は何色ですか?』と聞かなければならないだろう。ドレスが綺麗なだけでは不十分で、カメラ越しの美しさも考慮する必要がある。公人の写真は永遠に残るため、写真映りをよくすることが重要だ。この件に関して、私は毎回上出来だったとは言えない」とコメントした。
衣装選びはメラニア夫人と一緒に行っていたといい、「夫人のセンスはとても素晴らしい。日頃からさまざまな服装のカメラ映りについて話し合っていた。写真はインスタグラムなどで一人歩きするため、とても大事なことだ」と語った。
メラニア夫人は普段は「マイケル・コース」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」、重要なシーンでは「ディオール(DIOR)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」といったブランドを着用していた。
メラニア夫人といえば、2018年にテキサス州の移民児童収容施設を訪問した際に、「私は全然気にしないけど、あなたは?(I really don’t care, do u?)」の文字がプリントされた「ザラ(ZARA)」の39.99ドル(約4100円)のジャケットを着用して公の場に姿を現したことで大きな波紋を呼んだ。不法移民に対するトランプ政権の強硬策で親と引き離された子どもたちがいたこともあり、こうした夫人の行動は大々的な批判を浴びたが、スタイリストのピエールはこの件に関しては無関係であったという。「最初に見た時はフォトショップで加工されたものかと思った」。
インスタグラム(INSTAGRAM)上での政治への関心は、オバマ政権下で勢いを増した。トランプ政権下でもその勢いが衰えることはなく、こうした状況はジル夫人と彼女のスタイリストに引き継がれることになる。ピエールはこの4年間で議論されてきた問題についてのコメントは拒否しながらも、「新しいスタイリストは民族性や象徴性、人びとが特定のスタイルをどのように受け取るか、などについて慎重に検討する必要があることを知っておくべきだ」とコメントした。
またピエールは、19年にバッキンガム宮殿で行われたエリザベス女王(Queen Elizabeth II)主催の晩餐会でメラニア夫人が着用した「ディオール」の白いノースリーブのドレスなど、公式の場で着用された衣装を適切に整理して保管するための手伝いも行った。保存にあたってのボックスやガイドラインはスミソニアン博物館が提供したという。
メラニア夫人のライフスタイルはこれから大きく変わることになるが、ピエールは今後も夫人と仕事をしつつ、「アトリエ カイト フォー エルヴェ ピエール」でもフルタイムで働く予定だという。
ピエールは政治的な話題にこそ触れなかったが、お気に入りのルックをたずねると、「ネイビーのアクセントが印象的な『ドルチェ&ガッバーナ』の白いドレスに、私がデザインした白い大きなつば付きハットを着用した夫人はとても美しかった」とコメントした。
また、17年の就任式で着用した「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」のパウダーブルーのカスタムスーツや、11月の大統領選で着用した「グッチ(GUCCI)」のプリントドレスに小さなケリーバッグを合わせたスタイルも非常にシックであったし、最後の演説で着用した「ドルチェ&ガッバーナ」のスーツは、暴力を糾弾し、自身の考えを述べる場に相応しいものであったと述懐する。
ソーシャルメディアで反発が起きた際の対処法については、「私はもう50歳を超えているから、ツイッター(TWITTER)もフェイズブック(FACEBOOK)もやっていない。SNSにとらわれて心配したり、時間を無駄にすることもないから大いに助かっている。私が利用しているのはインスタグラムだけで、9月以降は投稿していない。正直なところ、SNSがあまり得意ではないんだ。誰かから『ツイッターがあなたの話題で持ちきりだ』と言われても、『そうか(笑)』と返して終わりさ」と語った。
スタイリスト就任当初にケネディ政権下でホワイトハウス報道官を務めたピエール・サリンジャー(Pierre Salinger)の回顧録を読んだという。自身の体験について出版の予定があるかを尋ねると、「今のところ予定はない。もしかしたらいつか、80歳になった頃に書くかもしれないがね」と笑いながら答えた。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。