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啓蒙しようとする私たちの声は、消費者に届くか?
最近サステナブルの話になると、「消費者を啓蒙」という話につながる機会が多いように思います。とっても必要なことです。しかし、啓蒙しようと思う私たちのメッセージに、消費者は耳を傾けてくれるでしょうか?伊勢丹のアクションは、もっと耳を傾けてもらうための一歩のように思えます。「サステナブル」と言わないのは、それを目指さないからじゃない。安易に使わないことによって、いざ使うときに説得力を持たせたい。私には、そんな風に思えます。
ちなみに「WWDJAPAN」のサステナビリティ・ディレクターを務める向はこの記事よりもちょっと前、私たちに「『WWDJAPAN』も、『サステナブル』を安易に使わないようにしよう」とメッセージを投げかけました。私たちの「サステナブル」もまた、説得力が生まれたらと願います。
三越伊勢丹 店頭販促などで“サステナブルな服”や“地球に優しい化粧品”などの表現見直し その意図とは
今年の春頃から、三越伊勢丹に出店するブランドの関係者から「店頭ポップなどで“サステナブルな服”や“地球に優しい化粧品”などの表現を使用できず、言葉の使い方を見直している」という話を聞くようになった。同社にその理由を聞けば、エビデンスを示さないまま“サステナブル”“地球に優しい”といった言葉だけが先行すると、顧客に誤解を与える可能性があるから、だという。言わずもがな、同社の方針は業界に大きな影響を与える。田口裕基三越伊勢丹ホールディングス執行役常務CAO兼CRO兼CHROにその意図や背景、サステナビリティの方針を聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):三越伊勢丹ではサステナビリティをどう定義しているか?
田口裕基三越伊勢丹ホールディングス執行役常務CAO兼CRO兼CHRO(以下、田口):商品を仕入れて販売するのが我々の商売の基本的な形態であり、その中で社会にちゃんと還元できるか、豊かで平和な社会が続くことに貢献できるかの企業責任が問われる。そして企業責任はボランティアではなく経済活動として成立すること。1万7000人の社員にしっかり給料を支払い、お客さまとお取組先さま、地域の方々、株主のすべてが豊かになることが大前提だ。
WWD:それはこれまでも行ってきたことでもある。
田口:来年は三越創業350周年で、百貨店事業そのものも100年超える。戦中、戦後も百貨店をやめず長い歴史がある。今言われるところのサステナビリティは企業の理念として当たり前のようにやってきたことではある。
WWD:同時にファッションビジネス全体がこれまで社会や地球に与えてきたネガティブなインパクトがあると思う。その視点では改善してゆく点はあるか。
田口:あると思う。弊社としては「人・地域をつなぐ」「持続可能な社会・時代をつなぐ」「従業員満足度の向上」の3つを重点にこれまでの商売を見返しており、時代の変化に応じて見直す必要があると考えている。
顧客は「商品の品質・安全の確保・正確な表示」を求めている
WWD:消費者にはサステナビリティの価値観は浸透していると思うか?
田口:2月に三越伊勢丹ウエブ・アプリ会員の方を対象に10回目となるサステナビリティに関するアンケートを実施し5900名から回答を得た。「さまざまな社会課題のうち、今後、三越伊勢丹グループが特に重点的に取り組むべき活動」の問いに対する回答の第1位は突出して、「商品の品質・安全の確保・正確な表示」だった。続くのが「食品廃棄物・食品ロスの削減」、「プラスチック、紙容器などのすべての包装材の削減」となり、お客さまがサステナブルに対して強く考えを持っていることがうかがえた。これは毎年高まる傾向にある。
WWD:以下は主にファッション&ビューティ業界関係者に向けて話してほしい。環境と社会の両面に関して、取引先とは現在のサステナビリティ方針をどう共有しているのか。
田口:三越伊勢丹には12項目の調達方針がある。それは取引先と私たちの約束とも言えるもので、2018年にはホームページに掲出し2021年に見直した。内容は、法令順守・公正取式、品質管理、生物多様性対応、環境負荷軽減と汚染防止などであり、実は8項目は今で言うところのサステナビリティに関連することである。取り引きを始める前には必ず共有し、年に一度は説明会を開催。常にここを順守しましょう、と約束しながら進めている。
WWD:方針を決めるにあたって2018年に「サステナビリティ調達に関する」アンケートを対取引先に実施し、51%の292社が回答したと聞く。
田口:環境や人権に関しても、まずは我々が現状を知ることが大切だから実施した。センシティブな内容であり、丁寧に進めた。お取組先に「間違ったことを書いたらペナルティーがある」などと受け取られてはいけない。進んでいる企業では、サプライチェーンマネジメントの観点から、お取組先に足を延ばし、事件事故がなくても普段から現地調査をしているところもあると聞いているが、弊社はまだそには達していない。方針を配り、アンケートを回収し、これからその次のステップへ進んでいく段階だ。
WWD:アンケート結果は「品質管理への対応が積極的に取り組まれている一方で、環境や人権のサプライチェーン全体のマネージメントは難易度高い」とある。
田口:後者の、環境・人権問題については業界全体での取り組みが必要。官公庁や業界団体への提案・働きかけを進めていくとともに人権デューデリジェンスについても検討を進めたい。
“サステナブル”を商品の形容詞としては使わない
WWD:消費者はサステナビリティという言葉の使われ方、同時にグリーンウォッシュという言葉に対しても敏感だ。店頭ポップや販促物での言葉の使いに取り決めはあるか。
田口:表示マニュアルを作り、バイヤー、お取組先と共有している。元からある、景品表示法ガイドライに乗っ取った適正な販売表現マニュアルの中に、サステナビリティの項目を加えたもの。最新は昨年末に改正した。
内容は、「根拠が不明確なことは言わない」が基本。たとえば“サステナブルな〇〇”のように商品に対して、サステナブルを形容詞としては使わない。考え方の前提として、お客さまにわかりやすく伝える訴求表現を目指している。「サステナビリティ」や「サステナブル」は一般的に、持続可能な繁栄をめざすための取り組み全体を指す表現であるため、 個々の商品の特徴を説明する場合の使用には適さないと考える。優良誤認を招く可能性もあるため、商品やサービスなど訴求物には形容詞としてこれらの表現を使用しないことを原則としている。
WWD:同じ理由から「地球に優しい〇〇」といった商品説明も控えるとしている。これは独自のルール?
田口:環境省による「環境表示ガイドライン」の内容であり、当社独自ルールではない。たとえば、環境保全効果を示す表示を行う場合、対象が商品の一部なのか全体なのかその範囲を表示すること。また、「環境保全に配慮した素材の使用 」と表示する場合は「リサイクルポリエステル〇%使用」など、その使用割合を表示する。
WWD:確かにサステナビリティを語る際には具体的に、エビデンスをもって、が重要になっている。
田口:商品の成分が環境保全に何らかの効果を持っていることを表示する場合は、効果があることを示す専門機関等による公正な方法による調査・検査結果の証拠を用意する。また、リサイクル、リユース、アップサイクルなどの表現は、表示内容と事実に相違がないことを示す根拠資料を用意すること、などを原則としている。
WWD:なぜここまで定義・言葉の整理をしているのか。
田口:サステナビリティに関連する言葉との出会いを通じて、理解ある方を一人でも多く増やし、よりよい社会づくりに貢献したい。お客さまは、われわれに高い「信頼」をお持ちいただいており、さらに信頼されるよう、しっかりと裏付けがあることはもちろん、理解・共感を得られるよう、誰もがわかりやすい表現が大切だ。
WWD: 言葉が、商売にこれほど重きを置いたことは過去にないのでは。サステナビリティ推進担当だけではなく、仕入れに関わるすべての社員がそれをすると。
田口:心配だとこちらに相談が来る。なんでも聞いてくれ、と言っている。お取組先は大切なパートナー。そしてサステナビリティは1社で取り組むものではなく、地球全体で取り組んでこそ効果のある取り組みだから、ともに推進していく観点も含まれている。また、従業員も言葉の意味をきちんと把握しておく必要がある。
まだ“正”を模索している段階。輪の拡大を目指す
WWD:接客を仕事にする人にとって、今まで知らなかった、接客で使ってこなかったサステナビリティ関連の言葉がたくさんある。業界全体でブラッシュアップするときだ。
田口:私たちもパーフェクトではなく、極めて謙虚にありたい。物事、すべて、100%が“正”なのかと言えばそうじゃない。まだ当社も“正”を模索している段階。“正”と言えない部分も、まずはそれを認識して、その上で持続可能な社会の寄与するものなのか、を考えてゆきたい。
例えば9月から始まる“think good”キャンペーンは、企画段階で担当者が「これは本当に“think good”なのか自主チェックをしてきた。4回目の開催となる同キャンペーンでは、昨年までの新宿、日本橋、銀座に立川、浦和も加えて5店舗で展開し、企画の数は数百にのぼる。そのひとつひとつを確認するから大変だし、バイヤーもお取組先も苦労していると思うがここは切磋琢磨し進めたい。お客さまにサステナビリティを考えていただく機会をご提供するだけでなく、そのために、お取組先と当社グループが互いに考え方を伝え合うことで、ともに改善を図り、理解を深める機会になっている。今後も継続していくことで、サステナビリティを推進する人の輪の拡大を目指す。
フランスの老舗百貨店プランタンがニューヨーク進出 ウォールストリートの歴史的なビルに
フランスの百貨店プランタン(PRINTEMPS)は7日、グローバル展開を強化する取り組みの一環として、ニューヨークに初の店舗をオープンすると発表した。同店は2024年春に開業の予定。金融街として知られるウォールストリートとブロードウェイが交差する角に立つ50階建ての歴史的な高層ビル、ワン・ウォールストリート(One Wall Street)の2層分を使用する。売り場面積は約5000平方メートル、ブロードウェイに面するファサードは約100メートルだという。
ジャン・マーク・ベラーチェ(Jean-Marc Bellaiche)=プランタングループ最高経営責任者(CEO)は、「インターナショナルにグループを発展させていく上で、アメリカは重要な役割を担う。ニューヨークへの進出により、知名度のさらなる向上や成長の機会が期待できる。地元住民と観光客の双方にユニークな体験を提供できるだろう。また、同店はラグジュアリーやファッション、ホーム、ビューティの戦略的なEC機能なども持つ」と語った。
プランタンのアメリカ進出に伴い、ローラ・レンドラム(Laura Lendrum)がプランタン アメリカのCEOに就任。同氏はこれまで、「サンローラン(SAINT LAURENT)」「グッチ(GUCCI)」「ラルフ・ローレン(RALPH LAUREN)」の北米事業プレジデントなどを務めている。プランタンでは、オリジナル性の高いブランドキュレーションやパーソナライズドサービスの充実、シームレスなオムニチャンネルの提供などに取り組む。
プランタングループは、2013年にルクセンブルクの投資会社ディヴァイン・インベストメンツ(DIVINE INVESTMENTS)に買収された。19年には、30年までに売り上げを約40億ドル(約5600億円)に倍増させる成長戦略を策定したものの、コロナ禍の影響などにより、これを3〜4年以内に20億ユーロ(約2700億円)を目指すと修正した。現在はフランス国内でアウトレットなどを含む20店を運営している。
「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹底特集します。