バイヤーは“買う”から“創り出す”仕事へ、三越伊勢丹バイヤーが語る

2017/03/13

中北晋史/三越伊勢丹 婦人・子供統括部仕入構造改革商品部部長
1997年伊勢丹(現三越伊勢丹)入社、伊勢丹新宿本店婦人服リ・スタイル配属、「カリスマバイヤー」と呼ばれた藤巻幸大氏の下で新人時代を過ごす。2000年、リ・スタイルのアシスタント・バイヤーに。04年バイヤーとしてリ・スタイル プラス、リ・スタイル スポーツを立ち上げ。06年、リ・スタイル セールスマネージャー。08年、インターナショナルデザイナーズ バイヤー。09年、リ・スタイル バイヤー。伊勢丹新宿本店の再開発や、仏メルシーのポップアップなどを手掛ける。14年から婦人・子供統括部仕入構造改革担当。モノ作りのバックアップや環境作りを行う。16年から現職、セレクトバイヤーと開発バイヤーのマネジメントを担当

 リード エグジビション ジャパンは4月5〜7日、日本最大のファッション見本市「第4回ファッション ワールド 東京 春」を東京ビッグサイトで開催する。同展は「アパレル」「バッグ」「シューズ」「アクセサリー」「メンズ ファッション」「OEM」「テキスタイル」の7展で構成される商品発掘・商談のための展示会で、3万人の来場を見込む。

 コレクションシーズンなどファッションシステムの変動や時代に沿った消費者ニーズの変化にともない、売り場を作るバイヤーの業務内容も大幅に変わったことで、合同展示会への期待も高まりつつあるという。そもそも、今の時代にあったバイヤーのあり方とは何なのか。三越伊勢丹でバイヤーのマネジメントを行う中北晋史・婦人・子供統括部仕入構造改革商品部部長に聞いた。

WWD:マネジメントする立場として、バイヤーにどういったことを教えていますか?

中北:インプットを怠るなと言っています。インプットには色んなパターンがありますが、まずはお客さまが最優先です。単に自分がやりたいことではなく、自らのお買い場の対象となるお客さま起点で考えないと、“ワクワク”は作れない。やはりプロである以上、何の気なしにバイイングをしてお金をもらうのは間違っているし、日々の努力はしなければいけません。そのインプットがあって初めて、アウトプットの精度が上がると思います。

WWD:新人時代、伝説のバイヤー・藤巻氏についていたと伺いましたが?

中北:私はもともと百貨店志望ではなく、ファッションにも詳しくなかったんです。ご縁があって、藤巻さんの下で働くことになりました。当時「世界一のバイヤー」だった藤巻さんを見て「宇宙一のバイヤー」になりたいと思いました。でも、そのためにどうすればいいか分からなかった。藤巻さんからは「入社してから3年が勝負だ」と言われ、展示会や美術館、映画などを可能な限り見に行きました。藤巻さんの出張に自費でついて行ったり、どこかのブランドで春物が出たと聞けば、昼休みを使って見に行ったりしていました。その経験が今に活きていますし、コミュニケーションする上での引き出しになりました。

時代に合わせて
バイヤーの業務は変わったか?

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4月5~7日に開催する『ファッションワールド東京 春2017』は、世界38カ国から890社が出展する日本最大のファッション展。全国のセレクトショップや百貨店、メーカーから約3万人が来場する

WWD:昔と比べて、バイヤーの業務は変わりましたか?

中北:今のバイヤーの方が間違いなく大変だと思います。私がバイヤーになりたての時には、まだSNSはありませんでした。展示会に行って、“初登場のモノ”や“ワクワクするモノ”を探し出せば、純粋にお客さまが喜んでくれました。しかし今はお客さまが情報を持っているし、私たちより先に情報を持っている場合もあります。社内の話をすると、私は伊勢丹新宿本店しか担当していませんでしたが、今のバイヤーは幅広い店舗を担当していて、ECのバイイングもしています。

WWD:店舗とEC商材でバイイング内容は大きく異なりますか?

中北:リアル店舗では、お客さまが来店した瞬間に“ドキドキ”、“ワクワク”してもらう必要があります。ECですぐ何でも買えてしまう分、店舗に足を運ぶ価値を作らなければならないです。一方でECは、どれだけ品ぞろえできるかが勝負です。一つのお店を作るのと同じように、「見やすく」「買いやすく」「わかりやすく」するのが重要です。バイヤーにはリアル店舗とECを融合して、何か生み出さなければ次の時代で生きていけないと言っています。リアル店舗でもECでも、オリジナリティーを出すのが難しい時代になっているから、両者を掛け算して新しいモノを生み出したい。その中で百貨店のバイヤーとして、「本物」「本質」で「安全」「安心」なモノを選びたいと考えています。

WWD:コレクション発表シーズンが大きく変化しています。買い付けスケジュールにも影響していますか?

中北:本質的な流れやスケジュールに変わりはないです。コレクションシーズンよりも、お客さまの価値観の変化が私たちの仕事に影響しています。昔に比べて、消費が実需型になっているだけでなく、時間の使い方が変化している。コレクションシーズンの変化に合わせるというよりも、お客さまの変化に合わせることが重要だと考えています。

WWD:買い付けの場として合同展示会は欠かせないと思いますが、今のバイヤーが合同展示会に求めることは?

中北:合同展示会に行くことは「宝探し」。ショールームに行く時は、自分のショップの柱となるようなブランドを見に行きますが、合同展の時には、将来「宝」になりそうな“卵”を探します。多忙な中でまとめて見られるということもメリットだし、ショールームやショーで個別に見ていた時に感じていたトレンドの“点”が、合同展で“線”に繋がることが多いです。
また、ドキドキ、ワクワクを探すのも目的の1つ。ECですぐ何でも買えてしまう今、お客さまが来店した瞬間に“ドキドキ”、“ワクワク”していただくような提案を行うことが求められます。合同展示会を歩いていると「この出展商品とアレをコラボさせたら面白いな」とか「このブースをそのまま店頭に持ってきたらお客さんがワクワクしてくれるんじゃないか」とかいったアイディアが浮かんでくる。そうした要素を吸収できる場として、合同展示会に行くことは重要だと思っています。

WWD:日本の合同展では「ファッション ワールド 東京」の出展社数や来場者数が伸びていますが、魅力は何ですか?

中北:「ファッション ワールド」は、世界38カ国890社が参加する規模の大きい合同展であり、あらゆるものを比較検討できることが魅力です。特に『コト』企画がすごい。今回もセミナーのラインアップ(計23本)には圧倒され、みんなが話を聞きたいと思う方々が講師として参加していると感じます。普段は既存のブランドを見て回るので精一杯ですが、「ファッション ワールド 東京」のようにコト企画に魅力のあるDMが届くと、規模の大きい展示会にも忙しくても足を運びたくなります。

バイヤーはクリエイティビティーを
求められる時代

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WWD:これからの時代に求められるバイヤー像とは?

中北:一番大事だと思うのは、ハングリー精神とやる気。その次に、インプット力です。バイヤーの好き嫌いはお客さまには関係のないので、様々なことをインプットすべきです。3つ目はコミュニケーション能力。デザイナーの方々や工場の方々などとお話することだったり、店頭の販売員さんと一緒に頑張る雰囲気を醸成したりしないと上手くいかないと思います。もともと、私はファッションについて詳しくなかったんです。それでもハングリー精神を持ち、インプットを重ね続け、さまざまな方と、コミュニケーションを大事に取り続けることが、何より成果につながる一番の道であると実感しております。

WWD:もはやバイヤーという仕事は買い付けだけではないわけでしょうか?

中北:「バイヤー」という言葉に縛られないことが必要です。社内では、「もう私たちはバイヤーではない」と言っています。なぜかと言うと、ただ“買う”のはもはや特別なことではなくて、今はお客さまがバイヤーになれる時代。ゼロから掛け合わせてイベントをやるとか、ECと繋げて新しいサービスを出せるとか、クリエイティブな要素をアウトプットして“創りだす”ことが次の時代のバイヤーに求められます。