書家・中塚翠涛の 「一期一会」

2022/12/12

SHISEIDO連載「時めく瞬間、日本の美」メインビジュアル

「時めく瞬間。日本の美」

創業150年の資生堂が唯一そのまま社名を掲げ、独自の日本的美意識を体現し続けているグローバルプレステージブランド「SHISEIDO」。その代表的なプロダクトを入り口に、日本の伝統文化やルーツと接点を持つさまざまな表現者たちへのインタビューを通して、「日本の美」の共通項を見出していく。

第2回に登場する中塚翠涛は、日本を代表する書家のひとり。型にはまらない独自の感性で、書とアートワークの間を自由に行き来しながら、世界を舞台に活躍している。待ち合わせは東京湾を臨むホテルの一室。旅先で制作するように、実際に書を書いてもらいながら話を聞いた。

書家・中塚翠涛

書家・中塚翠涛の
「一期一会」

中塚翠涛(なかつか・すいとう)岡山県生まれ。大東文化大学文学部中国文学科卒業。瀬戸内の穏やかな気候で育ち、翠涛の雅号はそこに由来する。2016年パリ・ルーブル美術館展示会場で開催されたフランスの美術団体Societe Nationale des Beaux-Arts 2016の招待作家に選出され、インスタレーション部門で金賞と審査員賞金賞をW受賞。空間カリグラフィー、プロダクトデザインなど幅広く活動し、これまで手がけた題字やロゴ制作も多数。著書「30日できれいな字が書けるペン字練習帳」(宝島社)はシリーズ累計430万部を突破

私の心が動く、瞬間の書

私の心が動く、瞬間の書
今回の取材テーマを踏まえ、中塚さん自身が
アーカイブから選ん
だ作品「ラ ダンス」(2019)。
西洋と東洋の融合を心象で捉えたイメージが、
ブランド
「SHISEIDO」の “ICHIGOICHIE”
(一期一会)の精神と共振する
今日はアートワークを1点持参いただきました。ゴールドをベースに、赤、白、黒のアクリル絵の具が弾けるような躍動感。書の世界とは一線を画す自由なムードを感じます。
東京のアトリエで、パリへの思いを描いた「La danse 〜踊(ラ ダンス)」という作品です。心のバブルが沸々と湧き上がるようなイメージで、何カ月もの間、金箔の上に様々なテクスチャを重ね続けました。完成後、2019年にパリの「ル ムーリス」(パリの5つ星老舗パラスホテル)での個展のため展示をしましたが、もしこの作品をパリの現地で制作していたとしたら全く違う仕上がりになっていたと思います。
派手なゴールドには、日本の美も感じます。
そうですよね。派手といえば、私が題字で携わった大河ドラマ『麒麟がくる』の衣装は、歴代に比べてとても華やかだと注目が集まっていましたが、安土桃山時代は本当にそうだったんです。秀吉の黄金の茶室や美術品なども、本当に力強いものが多い。生きるか死ぬかの戦国の世だったからでしょうか。江戸時代になって世情が落ち着くと、美術品も穏やかになっていきますから。いつの時代も人によって好き嫌いもある中をかいくぐって、歴史に名が残るというのは一体どういうことなんだろうと、私自身、制作に取り組むほどどんどん興味が湧いてきます。その背景を自分の肌で感じるための旅に出るのが好きなんです。そして行く先々で本物のアートに触れるたびに考えさせられるのは、私は今どこに立っているのかということ。つまり、今ここで私が感じている空気感をどう表現するのかということです。
尊敬する書家、そこからご自身が受け継いでいるものはありますか?
例えばお習字では、黒い墨でお手本通りに書きましょうと教わりますよね。とても大事なことですが、同時にもっと自由であっていいと思っています。空海や王鐸(おうたく)、黄庭堅(こうていけん)など、日本だけでなく中国古典も学生時代にたくさん学びましたが、私は書家だけでなくアーティストから学ぶことのほうが多い気がします。1950年代のアメリカ抽象表現主義が好きなのですが、音楽やその時代の文化が反映されていると思います。ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock)やウィレム・デ・クーニング(Willem de Kooning)、マーク・ロスコ(Mark Rothko)にバーネット・ニューマン(Barnett Newman)。彼らが表現していたように時代を感じ、今まで学んできたことをどのように自分の線で表現していけるかは常に課題であり、発見の連続です。自分の個展で発表する作品においては、技術面のこと以上にその時々の心の動きを大切にしていきたいです。

書と絵はつながっている

書と絵はつながっている
書の基礎はどのように培われたのでしょうか。初めて筆を持ったのが4歳、大学でも書道を学んだと聞きました。
大学は中国文学科です。もともと、書が活発な大学なのですが、私の学科は実技よりも中国古典や理論などの座学が予想外に多く、入学前の理想と違いました。正直、離れたくなる気持ちもありながらの大学生活でした。でも振り返ればこの時に得たさまざまな学びが、アートへの好奇心をさらに広げていくベースにもなりましたし、無駄な経験などないと教わった気がします。
アートにはもともと興味があったのですか?
アート好きの母親に連れられて、休みになると美術館を巡るような幼少期を過ごしました。その記憶がずっと残っていて、大人になってからいろんなことがつながっていったんです。例えばジョアン・ミロ(Joan Miró)の絵を「色を使った書みたい」だと感じていたこと。大人になってスペインのミロ美術館に行ったとき、ミロは日本に来たことがあり、書にも触れていたことを知って驚きました。ということは、私が小さい頃に惹かれたミロの作品は、もしかしたら本当に書から影響を受けていたのかもしれない。晩年はカリグラフィーに打ち込んでいたという話も、後日パリの画廊を訪ねた時に知りました。思えば書自体が、篆書体や象形文字など、絵から始まっています。書と絵に境界線はないんです。
日本では書家と呼ばれますが、海外だとアーティストの枠になるのでしょうか?
そうですね。まず、海外では「道」のつく世界のことが分からない人が多いので、その国の文化に寄り添って伝え方を考える必要があります。展示前には必ずその街を訪れ、その土地の空気に触れてきました。ギャラリーの雰囲気や街のエリアによってもカラーが違いますし、心地いい距離感で溶け込めたらいいなという気持ちで発表しています。展示方法も自由ですし、特にフランスはアートとの距離が近く、アーティストに対して寛容だと感じます。そして、自分の可能性を広げてくれる場所でもあります。生活の一部にアートがあり、足を運ぶたびに文化や教育の違いを感じます。
どのくらいのペースで海外へ?
多い時は毎月、長い時は3カ月にわたる滞在を繰り返し、世界中を巡っていました。この2年間はずっと東京にいますが、旅の記憶を辿りながら想像力が逆に掻き立てられ、新たな想いが湧いているように感じます。私が海外に出始めた頃はSNSなどの頼れる情報源がなく、いろいろなことが手探りでしたが、今は簡単になんでも情報が手に入ります。それはそれでとても便利なので過去に戻りたいとは思わないですが(笑)、若いうちに見るもの触れるもの全て好奇心のままに行動できたのは、何ものにも変えられない財産だと思います。そして海外で刺激を受けると同時に、改めて今まで気づかなかった日本の良さも認識できるようになりました。
書は毎日書いているのですか?
アトリエワークと呼んでいますが、心を整えるために書いているものがあります。そういうメディテーションとしては、書じゃなくてもいいんだなと最近気づいたりもして。書と料理って似てるんです。調味料を合わせていく過程が、墨と紙と水の相性を考える時と同じだなと。
一回性であるというのも、書の特徴であり魅力ですね。
心の動きを瞬間的に表すものなので、技術だけでなく心のトレーニングが必要な部分は非常に魅力的です。いくら形が整っていても魅力を感じないものより、余白の空気感が心地よいものに魅力を感じます。アトリエワークで続けているひとつに「円相」があります。「円相」の書は心が表れやすいため、散漫で乱れていると円にならないといわれています。以前、ある番組での放送をきっかけに「翠涛さんは円が得意だね」といろいろな方に褒められたことがありました。でも実はそれ以来、円が歪み出してしまったことがあって。「こうしなきゃ」とか「こう思われたい」とか、おそらく欲が出たのだと思います。心が整っている状態であることがいかに大切かを実感しました。

なじんだ先から
抜けていくように心地いい
“フューチャー
ソリューション LX”

なじんだ先から抜けていくように心地いい“フューチャーソリューション LX”
資生堂フューチャーソリューションLX
トータルRクリームe
今回の取材のために書いてもらった3つの「一期一会」
今回の取材のために書いてもらった3つの「一期一会」。

虹、飛行機雲、月
など、自然のモチーフが
それぞれの書に息づく
今日は、3つの「一期一会」を書いていただきました。
明るい未来へと向かう “フューチャーソリューション LX” をイメージして、ひとつは大きな虹を書きました。もうひとつは、瞬間ごとに表情を変えていく飛行機雲のイメージ。静かな印象の書は、私が大好きな月の変化を表現しています。そういえば「一期一会」の中にも「月」が入っていますね。3つに共通するのは、自然とのつながりです。自然の景色からはいつもインスピレーションを受けています。
「一期一会」はもともと茶道の心得といわれています。昔から日本に息づく姿勢ですね。
はじめましての方、仲良しの友人でも、同じ瞬間は二度訪れません。書もそうだと思います。硯と墨、墨と紙、紙と水。その日の天気や湿度によっても、滲み方は全く変わってきます。何より自分の心持ちが一番変わりやすいので、日々の1枚それぞれに一期一会があります。
今回お試しいただいた “フューチャーソリューション LX” はその名の通り、未来まで続く美しさを目指す「SHISEIDO」の先進テクノロジーを搭載した最高峰ラインです。同時に、包み込むような仕草を誘うパッケージデザイン、繊細で奥ゆかしい香りなど、日本的な美意識が同居しています。
まず、クリームのコロンとした形が、お茶のお道具のようで手になじみますね。リッチな佇まいなので、使用感もしっかりしているのかなと思ったら、想像以上にサラリとしていて。なじんだ先から抜けていくような、肌と一体化する心地よさがあっていいなと思いました。
洗顔料や保湿液は、その使用感から若い層にもリピーターが多いようです。
洗顔フォームは確かにすごくいいと思いました。泡立ちがしやすくて、きめの細かい泡がとても気持ちいい。洗った後の肌に、保湿液がスーッと入っていて、気持ちまで整うようです。
使うツールのこだわりはありますか? 書に限らず、日々のことでも。
自分の作品に限らず、好きなアート作品や食器、書籍など、視界に入るものの据え方には気をつけています。愛着のあるものに囲まれていると、心豊かでいられる気がします。
最後に、中塚さんが日常の中で「日本の美」を感じる瞬間は?
街の香り、季節の移り変わりに余韻を感じるとき。今日書いた「一期一会」にも入れていますが、月や雲が大好きなんです。好みの空の表情に遭遇すると、心がふわぁーと軽やかになります。二度と同じ景色には出合えない。まさに一期一会です。
「思った以上に弾力があって、使いやすそう。赤いブラシというのも斬新で気持ちが上がります」(中塚)
SHISEIDODAIYAFUDEフェイスデュオを手に。
「思った以上に弾力があって、使いやすそう。赤いブラシというのも斬新で
気持ちが上がります」(中塚)
商品詳細はこちら

OTHER STORIES

  • PHOTOS:KOUTAROU WASHIZAKI (HANNAH)
  • STYLING:KYOKO FUJII
  • HAIR & MAKEUP:KATSUTOSHI SAKAGUCHI(SUI)
  • EDIT & TEXT: MIWA GOROKU
  • DESIGN:ANICECOMPANY INC.
問い合わせ先
SHISEIDOお客さま窓口
0120-587-289

※価格は参考小売価格です。店舗によって異なる場合があります