華道家・池坊専宗と「寄り添う美」

2022/12/02

SHISEIDO連載「時めく瞬間、日本の美」メインビジュアル

「時めく瞬間。日本の美」

創業150年の資生堂が唯一そのまま社名を掲げ、独自の日本的美意識を体現し続けているグローバルプレステージブランド「SHISEIDO」。その代表的なプロダクトを入り口に、日本の伝統文化やルーツと接点を持つさまざまな表現者たちへのインタビューを通して、「日本の美」の共通項を見出していく。

第1回は、華道家であり写真家としても活動する池坊専宗。日本で初めていけばなの理論を唱えた日本最古の流派・華道家元池坊に生まれながら、本格的に花を生け始めたのは大学卒業後だという。独自の感性でありのままの草花の姿と向き合う彼が、日々見出している美の瞬間とは。資生堂のロゴマーク「花椿」をフックに、生命感をめぐる話を聞いた。

華道家・池坊専宗

華道家・池坊専宗と
「寄り添う美」

池坊専宗(いけのぼう・せんしゅう)京都生まれ。華道家元池坊の四十五世家元池坊専永の孫、次期家元の池坊専好を母に持つ。慶應大学理工学部入学後、東京大学法学部入学。京都現代写真作家展で新鋭賞を受賞するなど写真家の顔も持つ。講師を務める「いけばなの補助線」は、花を生けるだけにとどまらないユニークな内容で、10〜70代までの男女が集う人気講座。東京と京都を拠点に、講座やデモンストレーション、メディア出演などさまざまな形で、花を生ける意味を伝え続けている

水があって、生命がめぐる

水があって、生命がめぐる
「SHISEIDO」のロゴ「花椿」に着想を得て、池坊専宗が生けた椿。
葉は虫食いがあり、枝は途中で止まり、そこから若い枝が伸びて、次の生命をめぐらせる
「SHISEIDO」のマーク「花椿」を着想に、椿を生けた空間でのおもてなしをありがとうございます。こちらのいけばなの見立てについて教えてください。
椿は冬から出始める花なので、今回は全国の椿農家から早咲きのものを取り寄せました。その中から2本を選んで削ぎ落とし、洗練させています。
池坊の様式を踏まえた生け方でしょうか?
様式としては「生花(しょうか)」になりますが、決まった型にのっとるのではなく、省略の美を生かした生け方をしています。通常の「生花」は何本も挿しますが、今回は2本だけ。さらに葉や花数も少なく。池坊の本筋は受け継いでいるつもりですが、僕は細かいところは守らないこともありますし、表面的な見映えはあまり気にしないようにしています。今日の椿は自然の中で風を受けてこすれたような黒ずみがあり、葉は虫に食われていて、幹には年季や歪みがあります。
「SHISEIDO」の「花椿」マークも2枝ですね、花は2輪。上を向いた花は「向上心」を、頭を垂れた花はお辞儀の姿に似て「感謝の心」を表すと伝えられています。
2枝を意匠的にグラフィックとしたのが興味深いですね。特にそれぞれの枝が、かたや立ち上り、かたやなびくという対照的な姿を呈しているところに東洋的な自然観を感じます。葉を飾りではなく、ロゴの中に大切に配置されている点も、因果の“因” に当たる葉を花よりも尊重する私たちの姿勢と通底するようです。人や時代がどんどん移り変わっていく世の中で、その原型やエッセンスを維持したまま受け継がれていくというのは本当にすごいことだと感じます。
池坊さんが生けてくださった椿の花や葉の上には、水滴が残っていますね。
例えば寒い日の明け方、夜の間に溜まった露を転がしている草花を見ることがありますよね。いけばなは、水をとても大事にします。葉や幹に残った露もそうですし、器の水もまた満々と張られています。
水を張らないことはありますか?
ない。といいますか、もし形がいけばなであっても、そこに水がなければ本質的にいけばなではなくなってくるのでしょうね。いけばなは、中身や生命と共感していくプロセスですから。水は生命の象徴です。
椿はどんな花だと思いますか?
印象的な花だと思います。冬は花の数が減りますし、椿が咲いている実家の生垣や、雪の上に落ちている椿の姿など、日本の冬の景色と昔から結びついている感じがありますね。椿がボトっと落ちる理由をご存知ですか。固まった状態でいることで、鳥が蜜を吸いづらくしているようです。
どのくらいの時間をかけて生けるのですか?
今日は2時間ほどです。数ある花の中から選び、それに合う器、敷板、又木(またぎ・花を留める枝)を選び、軸を決めて生けます。掛け軸は、「SHISEIDO」の “アルティミューン”※ を実際に使ってみて感じたイメージから連想して選んでいます。※    “アルティミューン™ パワライジング コンセントレートⅢ”

自分と目の前にあるものが
溶け合うとき
美は発露する

自分と目の前にあるものが溶け合うとき美は発露する
池坊専宗
日本最古のいけばなを伝承する池坊は、日本に数ある流派の中でもとりわけ様式が研ぎ澄まされていて、本質的な印象があります。
造形的ではないということですよね。生きるというのは地味ですから、そこに派手さがなくてもまた見てみたいな、もう一度見てみようかな、そばでお茶でも飲んでみようかな、とか、そういう方向性だと思います。
池坊の家元に生まれ、受け継いでいるのはどんな精神ですか?
いけばなの歴史を簡単にたどりますと、始まりは室町時代の後期。京都で応仁の乱があり、世相が乱れて人の心も生活も荒廃していた頃です。池坊の先祖は六角堂の住職で、仏教と結びついた暮らしをしていました。その中で栄えては衰えるような植物の生命のあり方と、人の生命を重ねるところに精神性を見出したのが池坊専応という先祖で、彼によって初めて道としてのいけばなが見出されました。 江戸時代に入るといけばな人口が増え、明治以降は西洋の思想と融合しながら、より立派な格のあるような花を生ける風潮が高まっていきました。戦後は前衛芸術のダリやピカソなどの影響から、植物由来のものを使わずに生けるなど、いけばなの形はどんどん変わっています。そのような進化の中にあっても変わらず池坊の芯にあり続けているのが「花の命と自分の命を重ねる」ことであり、この精神性を僕も守ってます。
学生時代は野球少年。大学は理工学部と法学部。華道家元に生まれながら、ご自身がいけばなを始めたのは遅かったとか。
何かの道に入るのは、出会いやご縁だと思いますから。僕の場合、いけばなと向き合うきっかけとなったのは、飾らず、嘘をつかず、よく見せようともしない先生との出会いでした。現代の都会に生まれ育った自分にとって、そういう生き方が新鮮だったんです。長い時間を共に過ごす中で、僕の心は溶けていきました。人との出会いや歳を重ねていく過程で初めて感じることがありますよね。うまくなることで、いい花が生けられるわけではありません。今の時代を生きながら生ける意味、いけばなが社会の中でどういう存在かということについては、ずっと考え続けなければいけません。
ご自身のいけばなは、どんなこだわりや特徴がありますか?
どちらかというと、我を殺す方向性だと思います。自分自身が消えていくような。
仏教でいうところの無我の境地?
そうですね。理想は “池坊専宗が触りました” というのが存在しないようないけばなです。本当に触らずにできたらいいですが、そういうわけにもいきませんから、僕は手を添えるくらいの感覚で生けています。自分と目の前の草木が、別々のものではなくて、溶け込んでいくような方向性を心がけています。
写真家としても活動なさっていますが、きっかけはいけばなの写真ですか?
はい。生けた花の記録のために撮り始めました。花は生けると愛着が湧きますから、今でも必ず撮っています。他に僕が撮るのは当たり前の日常ですが、いろいろ撮るようになったのは、同じ被写体でも撮る人によって全く違う写真になることに気づいた時から。そこに自分が写っていなくても自分がいますし、写真には関係性が常に写ってきます。
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人それぞれの状態に寄り添
う“アルティミューン”に共感

人それぞれの状態に寄り添う“アルティミューン”に共感
SHISEIDOアルティミューン™パワライジングコンセントレートⅢ
いつもスキンケアはしていますか?
化粧水と乳液のシンプルなケアです。美容液を使ったのは “アルティミューン” が初めてだったのですが、数日で自分自身がすごくフラットな印象になりました。気分が落ち着かないときも “アルティミューン”を使うと、ムラなく落ち着いた状態に。とてもナチュラルでありながら、しっとりと穏やかに落ち着くようです。
“アルティミューン” は、「めぐり」がひとつのコンセプトになっています。
「めぐり」と聞くと、東洋の思想も感じますね。たとえば今日の床の間の選んだ「円相」の掛け軸は、いろんな存在が関係性でできているという概念が込められています。他者と調和し、環境と折り合いをつけていくという精神です。
“アルティミューン” のプロダクトとしての印象は?
無理に輝かせようというのではなく、その人の状態に寄り添っていく。そんな印象を受けました。肌とともに心まで穏やかな方向に持っていくようなプロダクトだと思いました。女性が化粧品に夢中になる気持ちも理解できた気がします(笑)。使用感がみずみずしくて気持ちよく、男性の僕でも取り入れやすいです。
人に寄り添うというのは、いけばなとも通じる感覚がありそうですね。
そうですね。花それぞれに時期があり1本ずつの姿があるように、肌もまたその人ごとに日々変わる状態がありますよね。今、手に取っている1本の椿の姿に心を寄せながら、どうしたらその生命の美しさが発露するか。いけばなはそういう営みです。型に押し込めようとか、デザイン先行で寄せていくものではないですから、その点で “アルティミューン” もまたとても自然なアプローチを持っていて、人それぞれに寄り添う姿勢であることを率直に感じています。
「花」つながりで、「花椿」のフォルムを持つ “HANATSUBAKI HAKE ポリッシング フェイスブラシ” もお試しいただきました。
ファンデーションを使わないので、そのまま肌に当てたり撫でたりしてみました。質がいいなというのを実感します。いいモノというと僕の場合、万年筆とか古いカメラのレンズを思い浮かべますが、全てに共通するのは普遍的な感触の良さです。“HANATSUBAKI” のブラシもまた繊細でありながら、肌なじみがとてもいいと感じました。
最後に、池坊さんが日常の中で「日本の美」を感じる瞬間は?
やはり自分と美の対象が溶け合うとき、でしょうか。探しに行くのではなく、いろんなことを受け入れたりする心持ちで過ごす中で、美しいものに触れる瞬間が訪れます。これはとても東洋的な考え方。西洋では自分と美の対象が根本的には分かれていますから。毎日を過ごす時間の中で会ったり触れたりする関係において、美しさを含むいろんな面が見えるかどうかは、自分の姿勢や態度次第なのだと思います。
椿のいけばな。その生命の「循環」と呼応する「円相」の掛け軸は「しっとりとめぐる “アルティミューン” のイメージを重ねて選びました」(池坊)
椿のいけばな。その生命の「循環」と呼応する「円相」の掛け軸は
「しっとりとめぐるアルティミューンのイメージを重ねて選びました」
(池坊)

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  • PHOTOS:KOUTAROU WASHIZAKI (HANNAH)
  • EDIT & TEXT: MIWA GOROKU
  • DESIGN:ANICECOMPANY INC.
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