樋口昌樹「花椿」編集長
資生堂は「花椿」は2015年12月号で月刊誌を廃止した。6月1日から全面リニューアルしたウェブサイトをスタートした。海外の最先端のファッションやビューティ、カルチャー、アート、写真、文芸などを取り上げ、現在のファッション誌やカルチャー誌の原型として、また企業が発行するオウンドメディアの先駆けでもあった「花椿」はデジタル化でどう変わるのか。これまで資生堂ギャラリーを手掛けてきた樋口昌樹・新編集長に、リニューアルのいきさつや今後の目標について聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):あらためて、これまでの「花椿」の変遷とは?
樋口昌樹「花椿」編集長(以下、樋口):「花椿」は顧客に配布する会報誌のような形で1937年に創刊した。前身の「資生堂月報」も含めると、約90年以上の歴史を持っている。60年代後半のピーク時には680万部を発行していた。しかし、70年代の女性ファッション誌ブームをさかいに徐々に低迷し、2010年には発行部数3万部を切っていた。そこで、12年に一度、大規模なリニューアルを実施し、これまで化粧品の販売事業所に買い取ってもらっていた仕組みを変え、フリーマガジンとして、発行部数は10万部まで回復した。
WWD:では、なぜ今回のリニューアルに至ったのか?
樋口:部数自体は増やしたものの、店頭であまり役に立っていないのが実情だった。「花椿」の持つ世界観と、雑誌を置いてある専門店の顧客層が一致しなかったためだ。資生堂のお客さまの多くが「花椿」の内容に興味がなく、逆に「花椿」を目的に店舗に来る読者は、資生堂の製品を買わずに帰るということが非常に多かった。
WWD:デジタル化にシフトした理由は?
樋口:実は今回の見直しの際には、社内で“廃刊”も含めて検討した。雑誌を見る人は確実に減り、情報のタッチポイントがスマホへとシフトしている中で、今回紙での月刊発行をやめなければ、本当に廃刊してしまうかもしれないという危機感があった。社内の反対も根強かったが、残すべきものは「月刊誌」ではなく、「花椿」だと押し切った。もちろんクオリティーの高いビジュアルや長いコラムなど、紙でしか表現できないこともある。紙版「花椿」も9月末にパイロット版として“ゼロ号”を発行予定だ。
次ページ:新コンテンツは“ランチ”“豪華ランチ”“フルコース”!? ▶
リニューアル後のサイトトップ
WWD:リニューアル後のターゲットは?
樋口:メーンターゲットは20代だ。当社の調査によると、「資生堂ギャラリー」などの当社の企業文化活動の中で、「花椿」の知名度はダントツに高い。だが内訳を見ると、50代以上は「花椿」を知ってはいても、最後に読んだのは1年以上前だった。一方、20代は4%以下だったものの、そのほとんどの人がつい最近読んでいた。資生堂全体の戦略としても、20代への訴求を強めている。コンテンツや取り上げるテーマは、彼女たちを想定して企画する。
WWD:新サイトの具体的なコンテンツは?
樋口:10のカテゴリを用意しているが、大まかに分けて編集部では“ランチ”“豪華ランチ”“フルコース”と、読みやすさで3つに分けている。メイク術やかわいらしいGIFアニメなど、誰もが気軽に関心を持って見てもらえるのが“ランチ”。1000字程度のちょっと長めの対談記事が “豪華ランチ””「銀座時空散歩」「美をめぐる旅」といった長編コラムが“フルコース”だ。
“フルコース”にあたる「銀座時空散歩」ページ
WWD:編集の作業フローはどう変わったか?
樋口:これまでもウェブサイトはあったが、あくまで紙媒体が優先で、それらのリライトした受け皿のようなものだった。今回からはウェブ・ファーストに意識を変え、コンテンツの更新作業に関しても、CMS(ブログシステム)を内製化し、頻度とスピード感を早めることにした。コンテンツや編集部は変わっていないが、まずは概念・全体のフレームワークを刷新した形だ。
WWD:リニューアルにあたって、編集部の混乱は?
樋口:編集部は現在5人だが、それほどの混乱はなかった。しかし、それはきちんとウェブ・ファーストにシフトしきれていないのかもしれない。今後、同時並行で紙媒体の編集も入ってくることは未知の体験だが、時間軸の違う編集作業は編集者にとってはいい経験になると感じている。
WWD:リニューアル後の手応えと今後の目標は?
樋口:まだ半月も経っていないが、1万2000〜1万3000ユニークユーザー(UU)で4万ページビュー(PV)という結果。特筆すべきは滞在時間も2分以上もあることだ。“フルコース”と位置づけている重めの記事のPVが良いことは意外だった。 コンテンツは、「日めくり花椿」と銘打っていて、ほぼ毎日の記事更新を目指している。まずは、月間5万UU、10万PVが年内の目標。
WWD:9月に発刊予定の紙版の“ゼロ号”は?
樋口:紙版の最終ゴールは、営業部への買い取り方式を確立すること。これまで、「花椿」の位置付けがあまりにもあいまいだったことへの反省もある。営業部やその先にある店舗とお客さまに必要とされていれば、廃刊になることはないはずだ。