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「ビルケン」の強さ
「一度履いたらほかのブランドは履けなくなる」というのは展示会などでよく聞く宣伝文句で、翌日に当事者が全く別のブランドを履いているなんて光景は日常茶飯事なのですが、個人的に元祖「一度履いたら〜」は9月に米国証券取引委員会にIPOの申請を行った「ビルケンシュトック」です。
同ブランドは何度かのブームを経て、ここ最近は記事にもある通り話題性のあるコラボレーションで知名度をさらに広げていました。しかし、申請で明らかになった好調な業績は、ファッション性強化のプロモーション効果だけではないのでしょう。街での着用率の高さは、コラボ戦略以前からじわじわと広がっていた印象で、私物として選んだ目利きのバイヤーやプレスはやっぱり「一度履いたら〜」と話していました。表面を飾るプロモーションの裏側には、品質を磨く地道な努力があるのでしょう。
「ビルケンシュトック」がIPO申請 評価額は1兆円以上の可能性も
ドイツのシューズブランド「ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)」は9月12日、米国証券取引委員会(SEC)にIPO(新規上場)の申請を行なった。7月ごろからIPOを検討しているとの臆測が広まっていた。現時点では公開株式数や価格などの詳細は未決定だが、業界関係者によれば、評価額は80億ドル(約1兆1680億円)強になる可能性もあるという。
今回、申請とともに提出された財務諸表によって初めて同社の業績が明らかになった。それによれば、2022年9月通期決算の売上高は12億ユーロ(約1884億円)、調整後EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は4億3460万ユーロ(約682億円)、純利益は1億8700万ユーロ(約293億円)だった。同社の主力市場は南北アメリカと欧州で、前者は22年度の売上高の54%を、後者は36%を占めている。D2Cも好調で、18年から22年にかけて42%の成長率となった。
「ビルケンシュトック」は、1774年にヨハン・アダム・ビルケンシュトック(Johann Adam Birkenstock)が教会の公文書に「臣民の靴職人」と登録されたことを起源とする、250年近い歴史を持つシューズブランド。1896年には柔軟性のあるインソールを発売し、その後も医療用サンダルなど足の健康を守る機能性や履きやすさを重視した商品を主力としている。一方で、ここ数年は「リック・オウエンス(RICK OWENS)」や「ヴァレンティノ(VALENTINO)」とコラボレーションをしたり、パリ・ファッション・ウイークでコレクションイベントを開催したり、キャンペーンのモデルに“シューズ界の王様”と呼ばれるマノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)を起用したりとファッション性を強めている。2021年2月には、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)系の投資会社Lキャタルトン(L CATTERTON)と、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者の一族の投資会社フィナンシエール アガシュ(FINANCIERE AGACHE)に過半数株式を売却した。当時、「ビルケンシュトック」の評価額は明らかにされなかったが、40億ユーロ(約6280億円)程度だったといわれている。
「ユニクロ:シー」会見に柳井会長が急遽登壇 「+J」に並ぶプロジェクトへ期待の表れ
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、英国人デザイナー、クレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)による「ユニクロ」のウィメンズ新ライン、「ユニクロ:シー(UNIQLO : C)」の発売記者会見に急遽登壇した。元々予定はなかったが、「昨日彼女に2回目に会い、あまりにもすばらしかったので、僕が会見に出ることで(メディアの注目などの点で)多少でもプラスになれば」(柳井会長)と、当日朝に登壇を決めたのだという。
「ユニクロ:シー」は、9月15日にファーストコレクションである2023年秋冬物を発売予定だ。それに先立ち、13日にクレアと俳優の白石麻衣が登壇する芸能系など一般メディアに向けた記者会見と、クレアとユニクロのR&D責任者である勝田幸宏ファーストリテイリンググループ上席執行役員が登壇するファッション媒体向けの会見、インフルエンサーらを招いたパーティーの3つを企画。柳井会長が突然登壇したのは、一般メディア向けの会見だ。
近年、有力ブランドやデザイナーと次々に協業している「ユニクロ」だが、こうした会見に柳井会長が登壇するのは実はまれ。ただし、09年にジル・サンダー(Jil Sander)氏と組んで「+J」を立ち上げたときには、サンダー氏と共に登壇し、笑顔で握手をする写真と共に大きく報道された。「+J」は、「ユニクロ」がグローバルで認知を得るきっかけとなった大プロジェクト。柳井会長は「ユニクロ:シー」も「+J」と同様に、世界一のファッションブランドへの重要なステップアップの機会になり得ると、かなり期待を寄せているようだ。
同社は12日には全世界からユニクロの幹部約4500人が東京に集まるコンベンションを開催しており、そこにクレアが登壇したのだという。柳井会長は「コンベンションで、ロンドンに住んで子どもを3人育てていると語った彼女は非常に自然体だった。私は普段はそういうことがほぼないが、彼女の話を聞いてファンになった。すごくワイズ(聡明)で自然体であり、こういうデザイナーはほとんどいない。“LifeWear”の最高峰を作る上で、彼女は絶対にふさわしい」「デザインとは、自分を注ぎ込みながら、同時にそれを客観的に見るということ。彼女はそれを自然体なまま、最高水準でできる人」とクレアを絶賛。柳井会長はこれまでも、優れたデザイナーの条件として、聡明さや客観的視点を持って普遍性と時代性の調和が取れるといった要素を、会見や取材の場で何度かあげている。
柳井会長の言葉に対し、クレアは「そのような過大な言葉をいただき恐縮だ。昨日のコンベンションでは私も柳井会長の話を聞き、その聡明さに学ばせてもらうことが多かった」と応えた。
「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。