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カレーだけじゃない「無印良品」の食

 先日、登山帰りに長野の安曇野を通ったら、地場のスーパーマーケットであるツルヤ(本題とずれますがツルヤのPB食品群はとても魅力的なんですよ)の横で「無印良品」の大型店が開店準備中でした(11月25日にオープン済み)。毎日のように買い物に行く人も多いスーパー横へ出店することで、地域住民の日常に溶け込むという「無印」の作戦は着々と進行していますね。

 その「無印」ですが、地場の農産物などを使った加工食品の開発にも注力しているそうです。生産量が減っていた特産ネギをアヒージョにして販売することで、地域の農業従事者をサポートする。消費者は美味しいものが食べられ、「無印」は売り上げにつながる。小売業であることを生かしたこうした仕組み作りが、「無印」は本当にうまいですね。

「WWDJAPAN」編集委員
五十君 花実
NEWS 01

「無印良品」 アヒージョやピザを通じた“地域土着化”

 「無印良品」を運営する良品計画は、食品の地産地消に本腰を入れる。出店するエリアで名産品だけでなく、十分に良さが広まってない農産物や海産物などを使った新商品を開発。地域内での“ローカルサプライチェーン”の構築を目指す。世界中に供給網を広げることで大量生産と低価格を実現してきた「無印良品」にとって新機軸になる。

 関西限定で11月11日に発売された加工食品は、「無印良品」のローカルサプライチェーンを象徴するものだ。「街かどあぐりにしなり よろしい茸工房」(大阪市西成区)のきのこを使ったアヒージョ、スープ、醤油糀だれ、きのこごはん。よろしい茸工房は、高齢者の健康や障害者の就労訓練、雇用の場として農業と福祉の連携プロジェクトを推進する福祉農園である。地元の食品加工業の幸南食糧(大阪府松原市)と、糀製造販売の糀屋雨風(大阪市堺市)との協業で商品化にこぎつけた。

 地域開発商品担当マネージャーの藤林亮氏は、よろしい茸工房で最初に目にした光景が忘れられない。「コロナ禍で食材の大量廃棄が問題になっていた頃。在庫の山となっていたしいたけを目の当たりにし、なんとかしないといけないと使命感にかられた。まずは当社が運営するレストラン『カフェ&ミールMUJI』の食材として仕入れ、2年がかりで加工食品にすることができた」

地域の課題解決に貢献する

 良品計画は、2024年8月期を最終年度とした中期経営計画のなかで「無印良品の生活圏構想」を掲げる。日常生活の基本を支える存在となり、地域課題の解決や町づくりに貢献することで「地域への土着化」を2030年に実現するというものだ。

 そのために地域と連携して生活圏への出店を加速し、店舗をコミュニティセンターと位置付ける地域密着型事業モデルの構築に取り組んでいる。その役割を担うのが、21年9月に開設された「地域事業部」だ。

 現在、北海道、信越、群馬、茨城、千葉、北陸、横浜南、岐阜、近畿、広島の国内10地域に地域事業部を設置。自ら手を上げて名乗り出た人が各事業部の責任者となり、出店計画から限定・独自商品の開発までを行う。食の専門売り場を備える大型店1号で、18年の開業当時、世界最大だったイオンモール堺北花田店(大阪府堺市)は近畿事業部が担当する。近畿事業部は京都、滋賀、奈良、南大阪、和歌山に現在34店舗を展開する。今後は地元で信頼されている食品スーパーの横など生活圏に600坪超で出店し、2年後50店舗をめざす。

 近畿事業部長で執行役員の松枝展弘氏が、堺北花田店の開業当時を振り返る。

 「当時、すでに従来型の都市型ライフスタイルに少し違和感を感じていた。人と人の関係が分断され、距離感が難しくなってきているのではと。そこで、地域と一体となった『無印良品』のモデル店舗を堺北花田に出店した。狙いはあたり、毎年成長を続けている」

 人と人をつなぐことをめざした堺北花田店では、地元の生産者と生活者をつなぎ、顔の見える関係づくりに尽力してきた。マルシェ型イベント「つながる市」を開くだけでなく、店舗スタッフ自ら産地を訪ね、ストーリーをまとめた取材レポートを発行。生産者と生活者が一緒に考えたり、試食しておいしさを共有したりするイベントも行なっている。

 「地域とつながるには、食が一番大事になってくる。食の周りには着るものも暮らしもあり、そのなかから『無印良品』が今後考えるべきテーマが見えてくるはず」と、松枝氏は話す。

 堺北花田店と京都山科店では、地域の老舗や事業者と協業し、店舗内テナントの開発にも挑戦した。さらに昨今は、生産者とともに農業や漁業、林業など一次産業の課題に取り組み、商品化に注力してきた。近畿事業部では、南大阪と京都を中心に地域と共同開発した35アイテムを既に販売。2年後には100アイテムまで増やす考えだ。

生産量が減っていた特産ネギを使う

 2年前に発売してヒットしたのは、難波ネギを使ったアヒージョだった。なにわの伝統野菜である難波ネギは独特の強いぬめりがあり、加工用機械を通らないため、近年生産量が減少していた。流通量を増やしてほしいという難波ネギ普及委員会からの依頼を受け、食品加工業の幸南食糧と共同開発した。また近畿事業部で一番人気の共同開発商品は、京都府京田辺市の杉田農園で栽培されたトマトを使ったピッツァマルゲリータ。1枚850円で、月間約1800枚も売れるという。

 地域事業部が最終的にめざすのは、地域内でローカルサプライチェーンを構築することだ。グローバルサプライチェーンとして店舗拡大する「無印良品」だが、今後の日本社会を考えると、食だけでなくあらゆるものが分散型にならざるを得ないという。

 松枝氏は「本部の支援を受けながら地域で商品開発できる態勢を作っていく。ようやくその一歩を踏み出せた」は言う。事業部でローカルサプライチェーンを組み立てるなかで、いずれは生産にも関わりたいという個人的な夢も抱いている。

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NEWS 02

花王からZ世代の男性向けコスメ メンズメイクを当たり前に 

 花王は、Z世代(10代〜20代前半)の男性に向けた化粧品ブランド「アンリクス(UNLICS)」をスタートする。ラインアップはスキンケアとベースメイクの計4製品。12月1日に化粧水とメイクアップベースを、来年1月12日に美容液とタオルマスクを発売する。若い男性の「水分が少なく蒸散しやすい」「肌色が赤暗く見える」といった特有の性質や悩みにアプローチする処方を施した。ブランド公式EC、楽天市場、アマゾンで取り扱う。

 化粧水の“アクアハグウオーター”(180mL、税込3080円)は、保湿成分のヒアルロン酸Na、豆乳発酵液、ビターオレンジピール、クレソンエキスが、ごわつきがちな男性の肌に潤いと透明感を与える。乳液兼美容液の“セラム ミー”(40mL、各税込3850円)は、ニキビやシミ・ソバカスなど肌悩みに合わせて5種をラインアップ。油分と水溶性成分をバランスよく配合し、ベタつくことなく肌を滑らかに整える。あらかじめ蒸気で肌をほぐし、スキンケアのなじみをよくするタオルマスク“ホグフォグマスク”(税込2750円)も用意する。

 メイクアップベースの“インプレス カラーウェア”(全4色、各22g、税込各3080円)はブルー、ベージュ、グリーン、オレンジを扱う。均一に伸び広がり、メイクに不慣れな男性でもムラなくカバーできるほか、顔のパーツごとに違う色を使い分けることで立体的な印象を作り出す。

 デジタルコミュニケーションを軸とした発信にも注力する。車谷セナ、USUKE、翔貴の男性インフルエンサー3人をブランドパートナーとして起用し、SNSでの発信やライブイベントなどを通じて認知・共感を広げる。併せて開発したウェブツール「ビューティ ディグショナリー」では、20種類のルックからなりたい顔を選び、それに至るまでのメイクの手法を学ぶことができる。

社員の声を聞き、
ブランドの個性を磨く

 化粧品事業の再構築を進める同社は、昨年1月にはカネボウ化粧品と化粧品事業を統合。グローバル重点11ブランド、国内重点8ブランドに集約した。「それぞれの個性を磨き、パーパスドリブンなブランドの集合体としての化粧品事業作りを進めていく」と村上由泰・常務執行役員 化粧品事業部門長。

 個性あるブランドを作る上では、社員一人一人の意思を尊重することもカギになる。「アンリクス」の立ち上げも「なぜ男子が堂々と化粧をしてはいけないのか」という男性新入社員の声がきっかけだった。ブランド運営においても、製品開発やマーケティング、PRなどそれぞれのセクションで20代の若手男性社員がリードする。

 今後はアジアを中心に海外展開を視野に入れ、ブランド単体で年商50億円を見据える。

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最新号の読みどころ

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反した性質はどんな文脈から生まれているのでしょうか。