Paris,Tokyo,Now.

　秋になると思いだすことがいろいろとある。それは過去の出来事だったり、誰かと交わした会話だったり、分厚いセーターを着てどこまでも歩いたいつかの道だったりするのだけれど、今日のわたしの頭のなかには1枚の絵が浮かびあがる。それはミレー作「オフィーリア」。「ハムレット」に登場する、仰向けになったままその体を沈めてしまうひとりの女性を描いたもの。

　季節の異なる花が描かれているから絵の中の本当の季節はわからない。花をつかもうとして川に落ちたオフィーリアの手にあるのは、さまざまな意味がこめられたスミレ、ケシ、ヒナギクといった花らしく、辺りには白くて小さな野ばらが咲いている。オフィーリアは元祖悲劇のヒロインで、女性幻想そのままを一手に引き受けたような想像上の人物だけれど、この絵を見たり思いだしたりするたびに、オフィーリアの手がつかんでいるのが花ではなくてハイジュエリーだったらな、と夢想するのだ。

　すべての指に大小さまざまの輝く宝石。オフィーリアはたしかに散々な目に遭ったけど、本当のところはそんなこと大したことないと思っている。タフなのだ。美しいものが大好きで、とくにハイジュエリーを見ると目つきが変わり、アドレナリンがみるみる湧き出てしまう。この日も手にいっぱいにつけた宝石をうっとり見つめながら歩いていると、うっかり足を滑らせて川に落ちた。けれど、「あ、水のなかで見るのもきれい、この角度、このきらめき、この子もこの子もみんな最高」なんて言って、そんな感じで楽しんでいるだけ。そしてひとしきり指についた輝きを堪能したあと、髪とドレスのみずを適当にしぼって、自分の部屋に帰ってゆく。
秋になると、そうだったかもしれない「ハイジュエリーを着けたオフィーリア」を思い浮かべて、いつか書いてみたいなとそんなことを思ったりする。