アバンギャルドなスタイリストとして、パリのファッション界で異彩を放つオマイマ。フランス人の母とエジプト人の父をもつ彼女は、パリ、エジプト、マドリード、ニューヨークとインターナショナルに活動の場を移し、どの地でもその独特のセンスで雑誌の編集者やデザイナーたちから厚い信頼を得てきた。パリに拠点を戻し、30歳を迎えた彼女の仕事、ジュエリー、そしてファッションについて聞いた。
大学ではファイナンスを専攻したものの、ファッションが好きで仏「ヴォーグ(VOGUE)」でインターンを経験し、ファッション界へ入ることを決意したオマイマ・サレム(Omaima Salem)。スタイリストのアシスタントとして5年、独立してからさらに5年、現在はウクライナ「ヴォーグ(VOGUE)」や「エム ル モンド(M Le Monde)」の他、創刊から関わるイギリスの雑誌「マーファ ジャーナル(MARFA JOURNAL)」など、さまざまな雑誌や広告のスタイリングを手がける売れっ子スタイリストだ。
「大学に入学した当初はやりたいことが分からなかったのですが、次第にファッションが好きだということに気付きました。最初はファッションジャーナリストに興味があり仏『ヴォーグ(VOGUE)』で研修しましたが、1人で独立した作業をするよりもチームワークの仕事に興味があり、スタイリストの道を選びました。スタイリストの仕事は1つとしてルーティーンがなく、毎回違うメンバーと違うことに挑戦することがとても刺激的です。意見の異なるクリエイターたちと、今までにない考え方や表現方法でページをつくっていくこと、そしてその点に全員が集中するという仕事の仕方がとても楽しいのです。
他人と同じにならず、トレンドに左右されない、いかにオリジナリティーを出すのかがスタイリストとしての私の課題で、常に頭を柔軟にして新しい考え方を探っています。クリエイターたちと意見を交わすことは、最も楽しい時間ですね」
スタイリストとして活躍する他、フォトグラファーの友人からの依頼でモデルになることも多く、パリ・ファッション・ウイークでは「ヴェトモン(VETEMENTS)」などのランウエイモデルを務めたこともあるというオマイマ。洋服が似合う彼女のスタイルと独特のセンスはまさにファッション上級者のお手本とも言える。そんな彼女のファッションのこだわりとは?
「私のスタイルは、まず必ずビンテージを1点、クリエーターの服を1点、そしてあまり高価でない服をミックスするのが基本です。比率はさまざまですが、ルックをそのまま着たり、全身を1つのブランドだけでまとめるということはしませんね。ちなみに今日は3つのクリエイターブランドと父のシャツ(つまりビンテージ!)をコーディネートしました。
ビンテージを取り入れるということは、エコロジーという点でも重要だと考えています。この世界には服があふれていて、ファッションの製造と消費の構造を考えると、必然的に皆がエコへ向かうべきだと思うのです。
そんなわけでパリでは好きなビンテージショップがいくつかあるのですが、中でも私の住む17区にある『ミス・シュガー・ケーン』はお気に入りで、洋服はもちろん、靴やアクセサリー、ストールまで常にいいセレクトがそろっているので定期的に通っています。オーナーもすてきな人で、撮影の仕事用に探しに行ったついでに、ついつい毎回新しいものを発見して自分用に買ってしまうんです。私にとっては危険なお店ですね(笑)」
スタイリングの中でもジュエリーへのこだわりが強いオマイマは、素材や石のもつ力を熟知している。自らもリングを一時も手放したことがないというほど、彼女のスタイルの中でジュエリーは重要な役割を担っている。スタイリストとして活躍するオマイマのジュエリーのこだわり、そしてパリ、東京について聞くと —— 。
「ジュエリーは私にとってとても重要で、特にゴールドや石は悪いエネルギーを浄化してくれ、ポジティブな方向へと導いてくれるお守りだと信じています。祖母や母から譲り受けたものも多く、またビンテージのジュエリーを買うことが多いのですが、ジュエリーはその他のファッションアイテムと比べて時代を超越した価値がありますよね。パリにはたくさんのジュエラーがありますが、『ブシュロン』は私の最もお気に入りのブランドのひとつ。長い歴史のあるクラシックなブランドですが、タイムレスで決して色あせないところが好きです。特にこの時計は、エレガントでありながらルックに取り入れるだけで主役になってしまう力がありますよね。
パリは他の街に比べて大きすぎず、ヒューマンサイズなところが気に入っています。この街にはクオリティー・オブ・ライフがある。日曜にはほとんどの店が閉まり、仕事の時と休む時のリズムが心地いいのです。東京にはまだ行ったことがありませんが、眠らぬ街という印象が強いです。全ての物事が早く動き、文化と伝統を大切にしながらモダンであり続けるという点で、東京は今最も行ってみたい都市の1つです。」
1940年代から80年代の洋服やアクセサリー、靴からランジェリー、刺しゅうの手袋、ベルトなどの小物まで幅広いセレクションで、状態の良いアイテムがそろう話題のビンテージショップ。パリジェンヌのシックさと、ハリウッドの魅力にインスパイアされたラインアップがそろい、雑誌などのファッション撮影のための貸し出しにも利用されている
Miss Sugar Cane
43 Rue des Dames, 75017 Paris France
3代目ジェラール・ブシュロンが飼っていた黒猫ウラジミールは、ヴァンドーム広場のブティックにいつも姿を見せ、まるで自分の庭のように宝石やジュエリーの間を歩き回っていたという。ブティックを訪れる顧客を友人に接するような温かさで迎えていた主人・ジェラールのように、ウラジミールは人によく懐き、「幸福を招く猫」としてメゾンの顧客にかわいがられていたという伝説が残っている
オマイマ・サレム(Omaima Salem):スタイリスト。フランス人の母とエジプト人の父の間に生まれる。ウクライナ「ヴォーグ」「エム ル モンド」など数多くの雑誌やショー、広告のスタイリングを務める他、その容姿の美しさからモデルとして被写体となることも多い。パリのビンテージショップに詳しい
photographs : Yusuke Kinaka
text & coordination : Keiko Suyama
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