Paris,Tokyo,Now.

　わたしが初めてパリに行ったのは、ずいぶん大人になってから。「今度、初めて行くんですよ」と年上の友人にメールをしたら、パリでは女の子たちのスカートの揺れかたがどことなく特別な感じがするんです、と返事をくれた。その話を聞くだけで、ありありと情景が目に浮かぶ。雑誌や映画で見てきたパリの女の子たちの軽やかな足どりに、ふわりと小さな風がやってくる。

　しかし、じっさいにパリに行ってみるとスカートをはいている女の子はほとんどおらず（！）、みんなぴったりとしたレギンスパンツにスニーカーという格好。そして驚いたのはその足の長さ。「パリの女の子って、おしゃれで、みんなきれい」と人がため息をつきながら言うのをこれまで散々聞いてきて、そのたびに「いや、パリの女の子もいろいろでしょう」と内心で思ってきたのだが、それはわたしの間違いだった。パリの女の子はみんなきれいだった。どんなファッションをしている女の子も一人残らずおしゃれだった。どうしてこんなことが起きるのだろうと、それはなんだか不安になるほど。

　カフェにいると、ティーシャツにパンツ姿の女の子がいた。顔をあげたときにきらりと光った薄い黄色のピアスと、ネックレス。完璧、とわたしは思わず呟いてしまった。彼女の白い髪、そして薄い水色の瞳と、淡いオレンジ色の飲み物と、身につけたシトリンのジュエリーがひとつの場所で、瞬きを忘れるくらいの美しい調和を作りあげ、夏のはじまりを告げていた。

　パリは夜もきれいだった。場所はアルルだけれど、ゴッホが「夜のカフェテラス」に写しとった光が、そのまま街にあふれていた。ここにも、あそこにも。たくさんの夜の光のなかに、昼間の女の子の彩りがかすかに点滅する。美しさに目がにじむ。それはまるで、パリが呼吸するのをじっと見つめているようだった。