ビューティ

百貨店不在&ファッション不況で生まれたエアポケット 「アットコスメ」が原宿に路面店を出す“必然”

 アイスタイルは12月下旬に、「アットコスメ」の旗艦店「アットコスメ トーキョー」を東京・原宿にオープンする。原宿駅を出て目の前のビル1棟を丸ごと使い、店舗総面積約1983平方メートル、売り場面積約1322平方メートル、全3フロアで展開する。同社の「アットコスメ ストア」は国内外に33店舗を構えているが、どれも商業施設内のテナントであり、路面店は初となる。原宿は長年“ファッションのトレンド発信拠点”といわれ、多くのブランドがこの地から成長していったが、ビューティ系の大型ショップが今、この地に降り立つことは“必然”ともいえる。

 原宿エリアには修学旅行客や10〜20代が多く訪れるため化粧品も若年層が手軽に買える価格帯のブランドが多く、原宿駅から明治通り沿いまでのエリアから抽出すると、「スタイルナンダ(STYLENANDA)」「イニスフリー(INNISFREE)」「ラリン(LALINE)」「ラッシュ(LUSH)」「ボタニスト(BOTANIST)」の路面店があるほか、ドラッグストアは「マツモトキヨシ」が2店舗、原宿クエストには「アインズ&トルペ」などの店舗が存在する。

 また2010年代からは、 “高感度な消費者”にアプローチする中〜高価格帯ブランドの出店も増えており、ビューティを強化するラフォーレ原宿には「コスメキッチン」「レ・メルヴェイユーズ ラデュレ(LES MERVEILLEUSES LADUREE)」などが、12年にオープンした東急プラザ原宿表参道には「イセタンミラー」「ジルスチュアート ビューティアンドパーティ(JILL STUART BEAUTY & PARTY)」「ニックス プロフェッショナル メイクアップ(NYX PROFESSIONAL MAKEUP)」などが出店している。

 「アットコスメ ストア」はドラッグストアやバラエティーストアのコスメから百貨店ブランドまで“チャネル横断型”の品ぞろえに注力しており、既存店にはドラック&バラエティーストアでおなじみのブランドのほか、「SHISEIDO」「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)」「アルビオン(ALBION)」「ランコム(LANCOME)」「クリニーク(CLINIQUE)」「ジョルジオ アルマーニ ビューティ(GIORGIO ARMANI BEAUTY)」「シュウ ウエムラ(SHU UEMURA)」「M・A・C」「ボビイ ブラウン(BOBBI BROWN)」などの百貨店ブランドを取り扱っている店舗もある。

 このチャネル横断施策でネックになるのがエリア競合で、周辺に百貨店があると出店計画の都合で取り組みを見合わせるラグジュアリーブランドが出てくる。しかし原宿には、大型商業施設はあるものの百貨店はないためブランド側も参加しやすく、今回の旗艦店でも「ディオール(DIOR)」「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」「トゥー フェイスド(TOO FACED)」「KANEBO」「アユーラ(AYURA)」「ルナソル(LUNASOL)」「アディクション(ADDICTION)」といったこれまでも取り組みがあった人気ブランドのほか、「クラランス(CLARINS)」「ジバンシイ(GIVENCHY)」「トム フォード ビューティ(TOM FORD BEAUTY)」など多数の百貨店ブランドを初めて取り扱うことになった。

 ビューティ業界が好調であることも原宿出店への大きな弾みとなっている。同旗艦店は今年5月7日に閉店した「ギャップ(GAP)」の旗艦店「ギャップフラッグシップ原宿」があった建物だ。「ギャップ」閉店の前日には神宮前交差点付近の「ウィゴー(WEGO)」原宿本店も15年の歴史に幕を下ろした。2008年9月に華々しくオープンし、開店当日には1200人が列を作った「フォーエバー21(FOREVER 21)」も業績悪化に伴い17年5月に閉店している。

 オンラインショッピングの隆盛や価値観の変化などにより、ファッション業界、特に若年層向けのブランドが苦戦を強いられている今、大型であればあるほど店舗の維持が難しい。その一方で、ビューティ業界はSNSで製品や使い方紹介を行う“ビューティインフルエンサー”によるクチコミ人気やリップやアイシャドウなどのカラーメイクブーム、百貨店ブランドを多数セレクトしているセミセルフ業態店の浸透などもあり、若年層のラグジュアリーブランドファンが増えている状況がある。

 セミセルフ業態でラグジュアリーブランドからプチプラコスメまで取り扱う「アットコスメ ストア」は、幅広い世代が気軽に訪れやすい。また、台湾や香港、タイなどにも出店しているためアジアのコスメファンにも知られた存在である上に、欧米では保湿を重視するスキンケアが見直されており、良質なスキンケアブランドが多い“Jビューティ”への関心も高いため、「ヴィセ(VISEE)」「キュレル(CUREL)」「雪肌精」「コスメデコルテ(DECORTE)」「ファンケル(FANCL)」などのインバウンド需要の高いブランドも豊富にそろっていることも、訪日客が多い原宿にはプラスに働くだろう。

 また、アイスタイルにとっては原宿への出店のみならず、路面店を出すことにも大きな意味がある。吉松徹郎アイスタイル社長は「新しい決済のテクノロジーやネットワークされた什器など、実現していきたいことはあったが、商業施設の一テナントでは難しかった。路面店ならば実現してみたい“新しいリテールテック”の挑戦もできる。ブランドが試してみたかったデジタルサイネージやバーチャルメイク、肌診断などのビューティテックにも、什器ごとに柔軟に対応が可能だ」と、旗艦店のメリットについて語る。ブランドなどと連動した実店舗でのイベント企画なども提供できるイベントフロアも設けるほか、2階の外壁面は全面にデジタルサイネージを施してブランドのプロモーションも行う予定だ。

 20年にはいよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催され、世界各国から多くのツーリストが訪れる。国内外のブランドが多数そろうビューティの大型店が駅前にオープンすることは、ビューティ業界にとっても大きな意味があるはずだ。ファッション業界が元気のない今、ビューティが原宿を盛り上げることを期待したい。

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