ファッション

EC化率6割のANAPから見た「リアルなOMO」

 1992年に創業し、90〜00年代にコギャルやギャルをターゲットに元祖ファストファッションとも言える“安カワ(安くてカワイイ)服”旋風を巻き起こしたANAPだが、現在は“ネット通販先進企業”として知られる。全社の売上高に占めるネット通販売り上げの割合(EC化率)は6割に達しているためだ。家髙利康社長の掛け声の下、不採算店舗を閉鎖する一方、ネット通販を徹底強化してきた。だがそのANAPが今年から針路を少し変更し、再びリアル店舗の出店に舵を切る。ネット通販発ブランドがリアル店舗を出店し、OMO(=Online Merges with Offline、ネットとリアルの融合型業態)化するブランドは少なくないが、リアル店舗からスタートし、それと同等の売り上げを稼ぎ、ネットとリアルを有機的に結合する、逆パターンのアパレルはほとんどない。アパレル業界では非常にユニークな“逆OMO”のANAPは、一つの答えを見出しつつあるようだ。ネット通販の担当役員である門倉清隆・取締役兼デジタル営業部長に話を聞いた。

 ANAPの2018年8月期の売上高は66億円、そのうちオンラインの売上高は36億円で、EC化率は58%。門倉取締役は「在庫の一元化やリアルとデジタルに分断されていた顧客情報の統合など、ネット通販でやるべきことはだいたいやった」という。ANAPがオンライン通販に本格的に取り組み始めた11年以降、ECとリアル店舗の在庫データの連携、ネット通販モール間での在庫のデータ連携、リアル店舗とEC在庫の一元管理、リアル店舗とネット通販の売り上げデータの連携、顧客データの一元管理まで、ファッションECで必要なことを一つ一つ完成させてきた。

 原動力になっているのは、家髙社長が “ITオタク”を自認するほど、ITシステムに詳しかったこと。ANAPはグループにシステム会社こそ抱えてはいないものの、家髙社長のネットワークで「システム関係はグループ会社のような形で開発したり、いじったりできる体制になっている」。ネット通販に関しては東証一部上場のアイルとタッグを組み、先進的なサービスを積極的に取り入れてきたが、社内にシステム関係の知見があるのが大きいようだ。

 ANAPは現在、公式通販ストア「ANAPオンラインストア」のほか「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」「ショップリスト(SHOPLIST)」「楽天市場」など14のネット通販モールに出店している。ネット通販モールだけで14店舗という出店数は異例の多さだが、「在庫を一元化しているだけでなく、管理も同様に一元管理できる仕組みを整えており、出店するモールを増やしてもコストや手間はほとんど変わらない。なので基本的には出せるところには全部出すというスタンス」という。

 公式通販ストアとネット通販モールの売り上げの割合はほぼ半々だが、ネット通販モール経由の売り上げは、「ゾゾタウン」「ショップリスト」「楽天市場」の上位3社でその8割を占めるという。「ブランドとの相性もあるが、売れるモールは顧客データやトラフィックの共有ができたり、一緒に販促イベントを立てられたりするところ。いずれにしろモールは(売り上げの)数字を稼ぐ場所と位置づけている」という。

 そもそもANAPがECを強化した背景には、08年に「H&M」、09年に「フォーエバー21」が日本に上陸し、ファストファッションが猛烈に勢力を伸ばしていたことがある。ピーク時には路面店やファッションビル、ショッピングセンターなどに約100店舗を出店していた元祖“安カワ”ブランドだったANAPだが、ファストファッション旋風のアオリを受け苦戦。2011年以降はネット通販を強化する一方で、不採算店舗の整理を進めてきた。直近の18年8月末には32店舗まで減らしている。

 そうしたANAPにとって、ブランドの世界観を伝えるのは公式通販サイト「ANAPオンラインストア」とリアル店舗。両者の売り上げと顧客情報を統合したことで、重要なポイントに気づいたという。「情報を分析すると、公式通販サイトの売り上げの8割はリピーターだが、リアル店舗だと7割が新規のお客だった。CPA(Cost Per Action=一人あたりの顧客獲得単価)的に考えると、実はリアル店舗は非常に効率がいい。リアル店舗はリピーターが3割しかないこともむしろチャンスで、6月末からアプリやメルマガを通じて、リアル店舗やECに誘導する新しい仕組みをスタートしている」という。

 出店再開も、こうしたリアル店舗とネット通販の双方のシナジーが数字で見られるようになったことが大きい。「店舗がないエリアは、ネット通販も伸びない。これまで店舗の採算性は売り上げと利益だけを見てきたが、それはナンセンス。そもそもリアル店舗を減らす一方で、ECを伸ばしてきたが、その一方で販促費の額はほとんど変わっていない。雑誌への出稿はほとんどなくなったが、その代りにリスティング広告などのネット広告費やコミュニケーションにかかる費用を同じくらい使っている。つまりECは思っているほど利益率はよくない。今後はそのエリアの新規顧客の獲得単価や顧客1人あたりの売上高の伸長率などを、リアルとECの2つの合算で見ていく。こんなことを言うと難しくも聞こえるが、分かりやすく言えば、出店のハードルはかなり低くなり、一方この数年でリアル店舗自体もかなり強くなった。そのことが数字で細かく把握できるようになったということ」。

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