ファッション
特集 サステナブルアパレルの作り方

「ザ・イノウエ・ブラザーズ」が琉球藍染めの新たな価値創造に注力 「儲からないとやりたくないは格好悪い」

「ザ・イノウエ・ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS...)」はこのほど、琉球藍研究所と協働で余剰在庫を琉球藍で染めた製品の販売を始めた。同ブランドは自らをアパレルブランドではなく、ソーシャルデザインスタジオとうたい、デザインの力で社会課題の解決に取り組む。これまでボリビアやペルー、パレスチナなどでプロジェクトを行ってきた。なぜ今、琉球藍染めなのか。2022年にデンマークから沖縄に移住した兄の聡にオンラインで話を聞いた。

WWD:琉球藍染めとの出合いは?

井上聡(以下、聡):沖縄のルーツや独自のカルチャーに興味があり、沖縄の人々に共感するところが多かった。沖縄の人は琉球人と日本人、2つのアイデンティティを持っている。僕自身、日系二世のデンマーク人だけど、デンマークでは外国人扱いされていたこともあり、近しいところがあった。沖縄は第二次世界大戦で沖縄線という大変な歴史があり、今もなおアメリカとの関係など複雑なところがある。そこにもシンパシーを感じた。そして、移住後すぐにやさしくて温かい沖縄の人々が大好きになり、沖縄に貢献したいという気持ちが強くなった。

沖縄独自の文化を広げる一助になれないかと模索する中で、取引先の方に紹介されたのが琉球藍研究所だった。名前の印象が固くて伝統的な藍染めの研究所だと感じていたので興味を持てなかった。というのも僕は伝統工芸に偏見を持っていた。過去のものをそのまま今に適用させようとしていると感じていたし、その方法は持続性がないし、そもそも自分のフィールドではないと思っていたから。

WWD:でも違った、と。

聡:超パンク。ぶっ飛ばされた気分だった(笑)。琉球藍の伝統やルールは守りながら、スニーカーやスケートボード、テーブルやいのししの頭蓋骨などを藍染めしていて、伝統工芸なのに表現がヒップホップ。“ストリート藍染め”という印象だった。彼らは「琉球藍は最高だ。その伝統を守り、文化を広げたい。それを自分たちの方法でやるんだ」と、染め方だけではなく、藍の育て方や発酵プロセスを含めて研究していて、その表現方法がモダンだった。クリエイティブなエネルギーを感じて、一緒に何かしたいと思いすぐにプロジェクトが始まった。そもそも琉球藍は国際通りのお土産屋さんで、ハンカチやふろしきなど安価に販売されていて、価値を評価されていない。これを変えたいと思った。

WWD:琉球藍が他の藍と異なる点は?

聡:琉球藍は他とは異なり“柔らかい”色合いで染まるので何度も染めを重ねて藍を深くしていくイメージかな。

WWD:琉球藍研究所のメンバーはどんな人?

聡:チームは30代が中心で、リゾートウェアブランド「レキオ」の嘉数義成デザイナーが始めた研究所。嘉数さんは高級リゾートのユニフォームのデザインを手掛けたりもしていて沖縄のスターデザイナーの一人。でも彼は今、長靴を履いて藍畑で過ごす時間が長くなっている。そもそも仕事を通じて貢献したいという気持ちが強く、自分がデザインした服の縫製は沖縄で行い、染色も沖縄でやりたくてブランドを始めた。けれど、琉球藍の染め場が残っていないことを知って取り組み始めた。それを徳島の藍のように産業化しようとしている。ビジネスとしては何も見えないうえ、お金はかかるし、坂道を上る感じだけど、格好良いよね。僕たち「ザ・イノウエ・ブラザーズ」は“格好良さは大量生産できない”をスローガンにビジネスしていて、琉球藍研究所がやっていることはトータルで「格好いい」と感じてファンになった。一般論だけど、最初から儲かる前提でないと取り組まない人は多いけど、成功した人は真逆だよね。スティーブ・ジョブスもビル・ゲイツもみんなゼロからパッションだけで始めて世界一のビジネスになった。「儲からないとやりたくない」は格好悪いと思う。

WWD:染め方で注力した点は?

聡:伝統的に使用されてきた沖縄の琉球藍を用い、天然素材や自然由来の発酵菌を利用するなど、ナチュラルにこだわったプロセスを大切にしている。藍染めは染めれば染めるほど濃くなり、このアイテムも何度も絞り染めを行っているので、普通のタイダイ柄とは異なる深みがある仕上がりになっている。土壌作りから染色までを一貫して沖縄で行っている。

WWD:藍染めをはじめとした手染めは個体差が生まれる。そこが魅力でもあるが、イメージしたものと異なるなどそれぞれの人の感性に委ねられるところがある。現在の課題と検討している解決策などがあれば

聡:今、まさにチャレンジしているところ。現在のアパレル製品は個体差があるとよくないというフォーマットだけど、そのフォーマットを超えるチャレンジは、藍染めではなく、売る側が取り組み解決しなければいけない。消費社会のフォーマットをどう変えるかにも通ずるところだとも感じている。それは昔の商売の方法に戻すのではなく、最新テクノロジーによるプレゼンの方法の問題だと考えている。藍染めは他の染色法にはない魅力があるし、藍染めの製品は他とは違うという気持ちにさせてくれる。こうした藍染めの魅力をどうプレゼンしていくか模索しているところだ。

沖縄移住の背景

WWD:2022年7月にデンマークから沖縄に移住した。なぜ?

聡:きっかけは2018年頃に長女が日本の高校に通ってみたいと興味を持ったこと。妻に相談すると教育に関しては、日本よりもデンマークの方がよいのではとなりいったん保留になった。

新型コロナウイルスの影響でロックダウンになった20年、生き方を考え直す時間ができ、改めて移住について考え始めた。気候変動の影響の一つにウィルスの脅威があると専門家も以前から指摘していたし、今回のコロナが1回切りのことではないとも感じていた。これが何かの始まりで今がチャンスだと考えた。とはいえ、妻は引き続き子どもを育てる環境として日本はふさわしいかと反対していた。そのとき思い出したのは沖縄で見かけた幸せそうだった子どもの姿。釣り竿をリュックにさしてビーサンでチャリに乗ってニコニコしていた。妻に沖縄を提案すると賛成してくれ、家族全員が「行きたい」となった。

WWD:教育について議論になったポイントは?

聡:僕個人の考えだけど、デンマークは緩すぎて日本は硬すぎる。両方のコンビネーションがいいと思っている。デンマークは個人にフォーカスしている。例えば低学年の頃から自分の意見を伝える訓練をするし、ディベートの仕方を学ぶ。情報に疑問を持つことを徹底的に教える教育を行う。また、教師と児童・生徒と立場はあるが、平等だし先輩後輩もない。他方、子どもにプレッシャーがかかるからと成績を付けるのをやめるなど緩いところもある。成績は僕自身子どもの頃にモチベーションにもなっていたから、この判断がいいかは疑問だった。日本では先輩後輩の関係を大切にする。先輩を尊敬し年配者は後輩の面倒を見る。一方、日本の教育は子どもが子どもらしくいられない、大人のような振る舞いを求めるところがある。周りに迷惑をかけないことや礼儀正しい態度など、社会人になるために準備をする側面が強いと感じていた。子どもはたまにけんかしたり、ちょっとくらいけがしてもいいと思うから。

僕自身人生の後半に入り、時間を無駄にしたくないと強く感じていて、もっとできることがあるのではと気づきを求めて来たところもある。実際デンマークにいた時よりもいろんなプロジェクトを進めている。

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