ファッション
連載 進化する幸せ産業

ウィズコロナで進化する幸せ産業 「オン」が開始した100%リサイクル可能なシューズのサブスクって?

 2021年のキーワードは「共感」「共存」「共栄」になると思っている。所有する代わりに一定額を払って最新モデルをリースできる服やバッグのサブスクリプションサービスはすでにあったが、このコロナ禍で無制限に利用できる動画配信や雑誌購読、自由に受講できるオンラインレッスンのヨガなどのサブスクは急増した。在宅時間が増えたことで需要が高まったのだろう。

 月額1000円で毎日1個、好きな味のマカロンを選べるという「ダロワイヨ(DALLOYAU)」のサブスク「マイ マカ(MY MACA)」にもはっとした。お得という以上に日々の小さな幸せと、その都度の支払いが不要という気軽さがうれしい。体重を気にしなければ、すぐにでも申し込みたいくらいだ。ドリンクが飲み放題になるサブスクを導入した飲食店も増えている。客はなじみの店を応援する気分になれ、店にとっては一定の顧客をキープできるメリットがある。

 そんな中、ランニング業界初のシューズのサブスクも登場した。しかもそのシューズは機能に優れているだけでなく、100%リサイクル可能だというのだ。スイスのスポーツブランド「オン(ON)」が開発した持続可能なモデル“サイクロン(CYCLON)”が1カ月3380円で継続的に送られるサービスで、履きつぶしたシューズは焼却されず、常に循環していく。新しいシューズが届いたその箱で今まで履いたものを返却すると、その素材を使った新たな1足が製造され、誰かへと発送される。このモデルは常に自分の傍らにあるけれど、永遠に所有することはできないシューズなのだ。

 ランニングシューズ“サイクロン”は種子が食用油として活用されているトウゴマから得たバイオベース素材で、ソールは軽量かつ耐久性に優れている。幾何学模様の編み目のあるアッパー素材はオーガニックな無染色。かつ一枚の生地で作られているため縫製にも無駄がない。柔軟性や通気性など、ランニングシューズとしての機能性はもちろん、シンプルを極めた無駄のないデザインもまた、コーディネート自在でタウンユースしやすい。

 さらには「オン」は既存の流通が抱える問題にも挑んでいる。製造技術だけでなく流通でもサステナブルな循環を目指し、このサブスクでは基準を満たすまでは配送されないこともあると明記している。シューズの製造過程で発生する二酸化炭素(CO2)総排出量の2~5%が配送過程にあることから、最小需要量を満たす地域のみに発送し、コンテナの中にシューズが数足のみという事態を避ける。つまり、一定の需要がないと発送しないという選択に踏み切った。自分たちが住むエリアに賛同者が集まらないとスムーズな配送は見込めないのだ。

 かつ、21年秋のサブスクサービスのスタートに向けて、賛同者には進捗がシェアされる。このサービスを利用する人は消費者ではなく、このプロジェクトを共に推進させる協働者となる。サイトを見るとその迫力あるメッセージに、「共に改革を起こそうぞ!」という気概のようなものを感じる。

 2010年に「ランニングの世界を変える」という大きな目標を掲げ、スイス・チューリヒの一角でスタートしたスポーツブランド「オン」は、その成長も革新的だった。トップアスリートやエンジニア、それぞれの視点をもつ3人の共同創業者により開発されたシューズはトライアスリートやトレイルランナーなど、ハードな競技に挑むアスリートに支持され、16年のリオ五輪ではトライアスロン女子銀メダリストが着用。10年後の今では55カ国を超えるエリアで、700万人以上のランナーに愛されている。20年にはテニス選手、ロジャー・フェデラー(Roger Federer)も新製品の開発に参画した。

 15年にオン・ジャパンが設立され、ランナー仲間の間で浸透し始めたとき、私自身は、すぐにでも走り出せ、街でも浮かないモデル“クラウド(CLOUD)”をヘビロテするようになった。ブランドマークが目立つシューズしかなかった当時、全てブラックで統一し、小さな「オン」のロゴマークと5ミリ角くらいの小さなスイスの国旗だけが入ったミニマルなデザインは画期的だったのだ。

 裸足のような感覚で足の裏を自在に動かせる「オン」の“クラウド”は、なぜか空手や総合格闘技など格闘系アスリートにも支持されている。体と向き合う機会の多い層に響くのだろう。ちなみに駒田博紀オン・ジャパン代表もアイアンマンレースを完走するトライアスリートであり空手家だ。

 「共感」し、つながっていないけれど、緩やかにつながる誰かと「共存」し、共に「共栄」を目指す。リサイクル可能な循環を築く“サイクロン”のサブスクはそんなコミュニティーとなるのだろう。履くとスイッチが入るようなシューズ、というブランド名のごとく、共に一歩踏み出すことで、新しい世界へのスイッチが「オン」になることを願ってやまない。

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