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きっかけは“有害なコットン” パタゴニアは90年代にサステナビリティを本格化

 サステナブルな企業への第一歩は自社の現状を知ることから始まる。例えば、アパレル製品を扱うあなたはそのコットンがどこでどのように栽培されているかご存じだろうか。綿花栽培には環境への悪影響や、生産者や自社スタッフの健康被害などのリスクがある。とはいえ、分業化が進むサプライチェーンの一工程を担いながらそれに気付くことは難しい。それはサステナビリティ先進企業、パタゴニア(PATAGONIA)でも同じだった。

 「1990年代初期に、ある店舗の倉庫に保管されていたコットン製品から揮発した有害物質によってスタッフが体調を崩したことがきっかけでした」――パタゴニアが環境負荷の計測を始めた理由を、日本支社の篠健司・環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネジャーはこう語る。パタゴニアはこれを機に本格的に自社とサプライチェーンの環境負荷を測り始めることになる。今では独自の環境負荷削減を目的とする「サプライチェーン環境責任プログラム」があり、サステナブル・アパレル連合のヒグ・インデックス(HIGG INDEX)などの業界共有ツールを利用しサプライヤーに対しても計測を実施している。

 話を戻そう。環境負荷の計測でパタゴニアがまず取り組んだのはコットンのライフサイクルアセスメント(LCA:製品やサービスのライフサイクル全体〈資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル〉の環境負荷を定量的に評価する手法)だ。「それまでコットンは“ピュア”で“ナチュラル”な植物繊維だと思い込んでいました。しかし米国の農薬使用量の10%が農地全体の1%にすぎない綿花栽培に使用されていた。広範囲に化学肥料、土壌調整剤、枯葉剤、そのほかの化学物質が散布されて土や水、空気を汚染し、数多くの生物に対して多大な害を及ぼしていることを知りました」。

 96年春にパタゴニアは、100%オーガニック農法で栽培されたコットンの使用を決めた。「有毒な化学物質を使わずにコットンを栽培する農家は、大規模な農薬会社への依存を減らし、潜在的に有毒で発がん性のある化合物への危険性を削減することになります。オーガニックコットンは害虫を管理し、健全な土壌を作るために合成農薬、除草剤、脱脂剤、化学肥料、遺伝子組み替え種子を使用せず、天然由来の解決方法を用いています。これらは生物多様性と健全な生態系をサポートし、土壌の質を向上させ、水の使用量が少ない方法です。そして慣行農法に比べ、CO2e(二酸化炭素以外にも、メタン、一酸化窒素、パーフルオロカーボンなど複数ある温室効果ガスを統一的に扱うためにCO2に換算した数値)を45%削減し、水使用量を87%削減します」。

 その後コットンは“進化”し、2020年からパタゴニアはリジェネラティブ(環境再生型)オーガニック認証の移行段階のコットンを加えた。同認証は、パタゴニアと米国ブランドが作った最高水準のオーガニック基準だ。健康な土壌は多くの炭素を吸収するため、この農法が温室効果ガスを削減し、気候変動の抑制を助ける重要な手段になるという。それだけでなく、「収穫高も工業型農業と比較して6~8倍にもなり得る」とイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)=パタゴニア創業者は取り組みを紹介する動画の中で語っている。そしてこの農法は、世界規模で増加する人口を支えるための食料対策にもなる。

 このように私たちに身近なコットンも生産背景や農法を知り選択することで、環境や人への悪い影響を軽減することができる。(「WWDジャパン」からの9月21日号の抜粋です)

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